1. TOP
  2. トピックス
  3. 再エネ普及の調整力にも! 重要性増す“揚水発電”とは
トピックス

再エネ普及の調整力にも! 重要性増す“揚水発電”とは

電力需給ひっ迫を乗り切るための“最後の砦”に託される新たな役割

2022年3月21日、東京電力サービスエリア内で「電力需給ひっ迫警報」が2012年の運用以来、初めて発出された。このとき、節電とともに大規模停電の回避に大きく貢献したのが、揚水式水力発電(揚水発電)だ。昨今、再生可能エネルギーによる電力供給が拡大する中で、安定供給を担う“調整力”としても重要視される揚水発電とはどういったものなのか。今回は、揚水式発電所の保守・管理を担う東京電力リニューアブルパワー株式会社 那須野事業所総括グループの阿部貴之氏と古谷菜南子氏に話しを伺った。

揚水発電は“巨大な蓄電池”

現在、東京電力リニューアブルパワー株式会社(以下、東京電力RP)では9つの揚水式水力発電所の保守・管理を担っている。

今回訪れた栃木県那須塩原市の塩原発電所は、1994年より運用を開始。出力30万kWの発電機3台により最大出力90万kWの発電を行う、上部と下部の調整池(ダム)間の水の有効落差338mの揚水式水力発電所だ。

日光国立公園内に自然環境との調和を重視しつつ建てられた塩原発電所。上部の八汐ダム(左)と下部の蛇尾川ダム間の地下に、水路と3基の発電機が備えられている

画像提供:東京電力RP

揚水発電は、水の有効落差で発電機を回す水力発電の一種だが、その特徴について東京電力RP那須野事業所総括グループでマネージャーを務める阿部氏は「電気使用量の少ない時間帯や発電量が多い時間帯に下部調整池からポンプで水を上部調整池に汲み上げておき(揚水運転)、その水を使って電気が多く必要とされる時間帯に発電運転を行います」と話し、その背景を解説する。

揚水発電の概要図。上部調整池と下部調整池を地下水路で結び、電気を使って水車を回転させる揚水運転、ピーク需要に対応した発電運転の役割を1基で担う

資料提供:東京電力RP

幅28m、高さ52.1m、長さ163mの広大な地下発電所は、東京電力RPの制御・取引センターより遠隔で運転・監視され、設備の維持管理を那須野事業所が担当。手前の赤い装置は発電機の頭頂部。背後のパイプには多数の送電ケーブルが組み込まれ、ここから電気が供給される

「揚水発電は、電力需要に対し発電量に余剰が生じる時間帯の電力を活用して水を汲み上げて、その水を“エネルギー”として貯めておいて、逆に電力が必要となる時間帯には、その水を利用して発電する仕組みです。かつては、24時間一定の電気を発電できる原子力発電所の稼働が多かったこともあり、需要が少ない深夜に揚水運転をし、工場などが稼働する日中の時間帯に発電していました」(阿部氏)

一日の電気使用量は、企業や工場が稼働する昼帯は増加し、夜帯は減少する。電気はそのままではためておくことができないため、この増減を予測し発電量を調整するが、それでも生じる余剰電力が揚水運転の動力に当てられる。実際、昨年3月22日はピーク時の供給量が当初の見通し基準で107%に達し、このオーバー分を揚水発電のフル稼働で補い、まさに大ピンチを救う“最後の砦”となった。

一日の電力需要量(赤い曲線)と電力源の割合(※原子力発電所稼働時)。供給量は主に火力と水力で調整するが、夜~早朝の需要を超えた電力(赤い線より上)を揚水運転に活用していた

資料提供:東京電力RP

余剰電力を“位置エネルギー”に変換し発電力を蓄えることから、“巨大な蓄電池”とも例えられる揚水発電。その運用について、阿部氏と共に塩原発電所の保守を担う古谷氏は「最近は、再生可能エネルギーによる発電が増えたことでその使われ方が変化しています」と話す。

「太陽光発電はその日の天候により発電量が左右されますが、晴天の日などに需要以上の電力がつくられた際に揚水運転を行います。余剰電力が日中に生じるので揚水運転の時間帯にも幅が生まれました」(古谷氏)

一日の電力需要量と現在の電力源の割合。主に太陽光発電による電力の余剰を揚水動力に利用。太陽光発電が行われる日中に水を汲み上げ、太陽光発電ができない夕方以降に発電が行われる

資料提供:東京電力RP

太陽光発電は、揚水発電などによる需給バランスの調整が行われることで、発電量を抑制することなく発電することができる。その意味でも、揚水発電は再生可能エネルギーの安定した利用促進の後ろ盾にもなっていると言える。

揚水発電が支える“調整力”の必要性

揚水運転・発電運転では、基本的に発電機(揚水時は電動機)は一定の速度で回転する。だが塩原発電所では3号機に“可変速揚水発電システム”が採用されている。

一体どういった役割を担うシステムなのだろうか。

「揚水運転の際、回転速度を調整しポンプ運転で消費する電力の量を調整できるのが大きな特徴です。この機能により、揚水運転中でも瞬時に電力の使用量を増減し、需要と供給のバランスを保つことができるため、塩原発電所では3号機から優先的に使用しています。弊社の揚水式発電所では、わずか2台しかない重要な役割をもった設備です」(阿部氏)

揚水発電における水車・発電機の断面。発電時は水圧で下部の水車“ランナ”を回転させ、主軸を通して回転子を回し電力を発生させ、揚水時は回転子がモーターとして逆回転、ランナがポンプとなり水を一気に汲み上げる

資料提供:東京電力RP

ポンプ水車の心臓部“ランナ”の縮尺レプリカ。「逆回転させることで水車とポンプという2つの用途に用いられます。揚水運転ではランナの回転により水を300m以上の高さまで一気に汲み上げます」(阿部氏)

こうしたシステムを活用して塩原発電所が電力量を調整する背景には、揚水発電でしかできない“需要と供給のバランス”を保つ使命があるからだ。

「私たちが供給する電気には、“商用電源周波数(周波数)”という波長が定められています。これは電圧とともに電気の品質を左右する重要なもので、この値が変動すると電気の質も変わってしまい、特に産業用機器の使用に際し不具合が起きる可能性が高まります。この周波数を一定に保つためには、電気の需要と供給のバランスを常に取り続ける必要があります。

この“同時同量”と呼んでいる需給バランス維持のため、電力系統には電力需要と同じ量の発電量を常に確保しておく必要があり、これには緻密な需要予測と瞬時の発電量調整力が鍵となります。揚水発電は発電にとどまらず、揚水運転によって電力を消費側でも調整でき、消費した電力を再び発電に使える点で、“調整力”に秀でているわけです」(阿部氏)

常に変化する電気の使用量(需要)と発電機の出力量(供給)のバランスが崩れると、電力系統の周波数が変動するため、需要と供給のバランスを取ることが必要となる

資料提供:東京電力パワーグリッド株式会社

地下発電所内で揚水発電について解説する阿部氏。「塩原発電所では、揚水運転に用いた電力の75%程度の電力を発電できます。ロスは生じていますが、必要な時に大出力を即座に生み出せる点で十分相殺しています。同時同量を保ち無駄なく電力を有効活用する上で欠かせない技術と言えるでしょう」

今こそ求められる揚水発電のポテンシャル

火力発電の燃料高騰、太陽光発電の拡大など発電を取り巻く環境の変化、さらに猛暑や寒波など急激な気候変動などの要因から同時同量の調整は以前より難しくなり、揚水発電の調整力はさらに重要性を増すだろう。古谷氏もそのことを普段の業務から強く感じているという。

「以前は今ほど頻繁に稼働していなかったのですが、2021年の稼働は2020年の約1.5倍になりました。2022年は2~3月、7~8月は稼働率が高く、1日1回は揚水運転が稼働しています。事業所の先輩も『最近になって、3基の発電機がフル稼働することも珍しくなくなった』と話していて、普段は無人の発電所へ、緊急時に備え待機する頻度が増え、以前より緊張感が増しました」(古谷氏)

「地下発電所はフロアが5階層になっていて、大きな設備や主機(発電機)を回すための補機が多いのも特徴です」と古谷氏

塩原発電所の高機能な設備はまもなく30歳を迎えるが、周辺設備は大掛かりかつ複雑で、通常の水力発電よりも細やかな保守を要するという。

「那須野事業所には35名が在籍し、市街の事業所から塩原発電所や他の一般水力発電所まで定期的に出動し、パトロールやメンテナンスを行っています。私はまだまだ勉強の日々ですが、点検した装置を再起動させるたび、自分が発電に役立っていると実感できつつあります」(古谷氏)

入社当初に揚水式発電所の保守に携わり、昨秋より再び現場へ戻ってきたという阿部氏は「揚水発電はもちろん、水力発電を健全に保ち、水のエネルギーを最大限に活用することがわれわれの使命」と、その思いを話す。

くらしに欠かすことのできない、あって当たり前の電気。

それは需要に対する十分な発電力を常に確保しているからこそ成り立っている。

カーボンニュートラル社会の実現においても、自然の恵みを最大限に活用し、安定的に電力を供給するうえで“水を電気として蓄える”揚水式発電所は、需要と供給のバランスをフラットに近づけるための唯一無二な設備として認知されていくはずだ。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. トピックス
  3. 再エネ普及の調整力にも! 重要性増す“揚水発電”とは