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日中に蓄えた熱を夜間に放出可能! 産総研が新たな蓄熱材料を開発

高温で蓄熱し、力を加えてその熱を取り出せる新たな合金

現在使用される蓄熱材料において、蓄えた熱を任意の温度で取り出すことは困難とされてきた。そうした中、国立研究開発法人 産業技術総合研究所が材料の蓄熱と放熱を外力で制御する技術を確立し、環境温度にかかわらずいつでも必要なときに熱を取り出すことができる新たな蓄熱材料を発表した。今回は廃熱利用の可能性を広げる最新研究の成果を紹介する。
TOP画像:産業技術総合研究所

蓄熱と放熱の温度を外力で制御できる新規材料

工場や機器が発生させる熱の利活用が注目される中で、蓄熱材料には廃熱を蓄えるだけではなく、必要なときに熱を取り出せることが求められている。

蓄熱材料として従来広く使用されているのは、液体と固体の相変化を利用する相変化材料だ。しかし、相変化材料は融解や凝固に伴う潜熱(水→氷、氷→水のように物質の相が変化するときに吸収・放出される熱エネルギー)を利用するため、周囲がある決まった温度にならないと材料の吸放熱を行うことができない。

また、吸熱と放熱温度に大きな違いがなく、高温で蓄熱しても直ちに放出してしまうため実際に利用したい低温まで保持することが困難という課題があった。

これに対して、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下、産総研)が着目したのが金属だ。金属による蓄熱材料が実現すれば、他の蓄熱材料と比べて成形が容易かつ熱応答のスピードで優れるという。

中でも産総研が研究を進めるTiNi系マルテンサイト合金(マルテンサイト変態と呼ばれる相変態を生じる合金)は、
■昇温すると固体のまま結晶構造が低温相から高温相に相変態する
■高温相の状態で人間の力程度の応力(数十kg程度の物体を持ち上げる力)を加えると低温相へ相変態可能
■相変態は潜熱による自発的な吸放熱を伴うため蓄熱に利用できる
という特徴を持っている。

マルテンサイト合金の「マルテンサイト変態」と呼ばれる相変態の模式図。高温相を冷却すると、原子が一定方向(この場合は横方向)に同時に動き低温相を生成。同様に矢印で示すような外力を与えることでも低温相が発生する ※産総研提供図を基に作図

一方でこれまでの研究では、TiNi系マルテンサイト合金が実用に要求される大きな潜熱を得ることはできなかった。加えて、温度差による吸熱と放熱の制御も実現できていなかったため、これらを克服するブレイクスルーが待ち望まれていた。

そうした中で今年3月、産総研・磁性粉末冶金研究センター エントロピクス材料チーム(中山博行主任研究員、藤田麻哉チーム長、杵鞭義明主任研究員)が、TiNi系相変態合金を用いて蓄熱と放熱の温度を外力で制御できる新規材料の開発に成功したことを発表した。

従来の蓄熱材料(左)と今回開発された新規合金を用いた開発材(右)が熱を取り出す際のイメージ。開発材では応力を活用することでアクティブな放熱が実現している

資料提供:産業技術総合研究所

吸放熱の温度差を20 ℃以上引き上げることに成功

研究チームでは新規材料開発において、組成を変えて合金の蓄熱能力の大幅向上を図るとともに、その合金内部の残留応力の利用による吸放熱温度の変化および温度差の調整を目指した。

その結果、従来の蓄熱材料が吸放熱温度にほとんど差がないのに対して、相変態型蓄熱合金を用いる新規材料では吸放熱の温度差を20℃以上に引き上げられ、この温度間における蓄熱が可能であることが確認された。

さらに、この合金に対して数百MPa程度の引張応力(直径1mm程度のワイヤーに数十kg程度の物体を持ち上げる力)を加えたところ、相変態による放熱が発生し合金内部の熱を取り出すことにも成功した。

続いて、吸放熱する温度を調節(400℃、1時間熱処理)した試料を、60℃程度まで昇温して蓄熱させた後、13℃まで降温させてから力を加えて熱を取り出すという実験を行った。

すると、荷重120N(直径1mm程度のワイヤーに12~13 kg程度の物体を持ち上げる力、150MPa程度に相当)に達した時点で、試料の温度は13℃から22℃まで上昇した。

なお、同実験では力を加える速度を遅くしており、外部要因(引張ジグや環境への熱逃げなど)を考慮して放熱開始時点(時間:0秒)における試料の温度上昇を見積もると約22℃となるという。

60℃まで昇温、吸熱した状態で13℃まで降温し、120Nの外力で熱を取り出す実験で実際に使用された試料。日中に蓄えた熱を気温の下がる夜間に利用するなど、工場や機器で生じる廃熱を有効利用するための技術として期待できる

画像提供:産業技術総合研究所

また、500℃、1時間で熱処理した試料を80℃まで昇温後、42℃まで降温させてから同様の実験を行ったところ、試料温度は48℃に上昇。放熱開始時点における試料の温度上昇は38℃と見積もられた。

これらの結果により今回開発した相変態型蓄熱合金に蓄えられた熱は、材料の温度が20℃以上も低下した低温環境下でも保持され、小さい力(120N)で効率的に熱を取り出せることが実証された。

この成果について研究チームは、「例えば、EV(電気自動車)において動作ピーク時におけるモーターの排熱を蓄えておき、停止時などの低温環境下における電池の始動など熱が必要とされる部分に蓄えていた熱を小さい力で放出して供給できることにつながる」とした。

今後は目的に合わせて動作温度調整できるよう合金設計と加工熱処理の最適化を進めるとともに、蓄熱部材としての可搬性やモジュール化、応力動作に有効となる形状への加工自由度を活用し、コイルや薄板などの種々の形状への加工による部材化を目指していくとのこと。

エネルギーは有限であり、これからの社会では限られたエネルギーをいかに有効活用できるかが求められる。

今回の研究がこれまで捨てられていた廃熱の活用拡大につながり、エネルギー課題解決の一助となることに期待したい。

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