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ペロブスカイト太陽電池の発電効率を高める新材料を京都大学らの研究Gが開発!

23%の光電変換効率を達成し、2024年にも量産を始める太陽電池に技術を搭載

現在主流のシリコン系太陽電池に代わる次世代太陽電池として注目を集める“ペロブスカイト”と呼ばれる結晶構造を用いる「ペロブスカイト太陽電池」。従来型に比べて多くのメリットを有する半面、耐久性の低さがネックとされていたが、京都大学と千葉大学、九州大学、北海道大学の研究グループが、高性能化を可能にする三脚型の正孔回収単分子材料(Phosphonic acid functionalized triazatruxene 以下、PATAT)を新開発し、その研究成果は2023年3月に米国化学会誌「J. Am. Chem. Soc.」にオンライン掲載された。実用化に向けた最新研究を紹介する。

多脚型構造に着目

発電層のペロブスカイト半導体薄膜の高品質化により、光電変換効率が向上する一方で、光の吸収によりペロブスカイト層で生成した電荷(正孔<+>と電子<->)を選択的に取り出す電荷回収材料が必要とされている中、ペロブスカイト太陽電池の特性と耐久性を向上させるためには、添加剤フリーで機能する優れた正孔回収材料(ペロブスカイト層からの正孔を回収する材料)の開発が求められている。

近年の研究では、単分子膜を正孔回収層として用いることで、比較的良好な光電変換効率と高い安定性を示すペロブスカイト太陽電池が得られることが分かっており、単分子層として用いる材料の開発が注目されつつあった。

しかし、その研究ではπ(パイ)結合から形成される分子の骨格であるπ共役骨格に吸着基(アンカー基)を1つ導入した一脚型の分子に限られ、この場合、π共役平面は透明導電性基板に対して「立った」構造(垂直配向)になっている。

つまり、基板に分子が「寝た」構造(水平配向)で単分子膜を形成できれば、ペロブスカイト層と単分子膜材料との軌道の重なりが大きくなり、電荷の取り出し効率はさらに向上し、より高性能なペロブスカイト太陽電池が実現できると期待されている。

多脚型分子として合成した一連のモデル化合物(PATAT)

そこで、京都大学の若宮淳志教授、チョン ミンアン助教らが考案したのが、π共役骨格に複数個のアンカー基を導入するという分子設計だ。そのモデル化合物のπ共役骨格として着目したのが、ベンゼン環に3つのインドール骨格が縮環(π共役骨格同士がC=C結合を共有する形で平面構造で連結すること)した平面構造を有する、トリアザトリキセン骨格(TAT)だ。

まず、アンカーとしてアルキルホスホン酸基(PA)を3つ導入した三脚型の「3PATAT-C3」を設計、合成した。

また、この比較化合物としてアンカー基を1つ導入した一脚型の「1PATAT-C3」や2つ導入した二脚型の「2PATAT-C3」も合成、比較した実証を行った。

単分子膜で三脚型3PATAT-C3分子が水平に配向

合成したPATAT誘導体のDMF溶液(N,N-ジメチルホルムアミドの略称で有機溶媒の一種)を金属酸化物(ITO)上にスピンコートで塗布成膜し、PATAT 誘導体の薄膜を作製。水の接触角度の測定結果は、何も塗っていないITO基板では接触角は8度、PATATを塗った基板ではアンカー基の数にかかわらず、いずれも75度となった。

これは、ITO基板表面が疎水的に改質され、PATAT分子のホスホン酸基が基板に吸着していることを示唆している。

また、3PATAT-C3の粉末と金属酸化物に吸着した膜に対して赤外線反射吸収分光測定を実施したところ、粉末状態に比べ吸着膜ではP-O-H伸縮振動に対応するピーク(1157、1146および945cm–1)が大きく減少。3PATAT-C3のホスホン酸アンカー基は、ほぼ全てが金属酸化物表面に二座の様式で化学吸着していることが判明した。

さらに、サンプルの最表面のみの電子情報が得られる準安定原子電子分光法(MAES)スペクトルでは、数ナノメートル(nm)程度の膜自体の電子情報が得られるUPS(紫外光電子分光法)スペクトルに比べ、3PATAT-C3のπ軌道に由来するピークが顕著に観測され、一方、σ(シグマ)軌道に由来するピークの寄与が小さくなることも判明した。

つまり、単分子膜では三脚型3PATAT-C3 分子が水平に配向していることが明らかとなったわけだ。

三脚型分子の吸着量が一脚型や二脚型よりも多く、基板上により密に吸着していることが判明した

加えて、PATAT分子を吸着させたITO基板を作用電極に用い、サイクリックボルタンメトリー測定を実施すると、三脚型3PATAT-C3の吸着量(10.0×1012分子/cm–2)が一脚型1PATAT-C3の吸着量(6.6×1012分子/cm–2)および二脚型2PATAT-C3の吸着量(5.7×1012分子/cm-2)より多く、基板上により密に吸着していることも判明した。

実際に、一連のPATAT単分子膜を正孔回収層として用いてペロブスカイト太陽電池デバイスを作製して特性を評価したところ、いずれの場合も光電変換効率は21%以上。特に、水平配向の3PATAT-C3を用いたデバイスは、最高で23%の効率を示した。

作製した太陽電池は耐久性に優れ、不活性ガス雰囲気下で保管したデバイスは、2000時間後でも初期とほぼ同等の特性を保持。連続光照射条件下では100時間後でも95%の特性を保持している。

今回の研究結果はすでに、京都大学発のベンチャーである株式会社エネコートテクノロジーズにも技術移転し、高性能のペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた開発研究を展開。大面積均一塗工技術開発とデバイス構造の最適化を進めることで、連続光照射条件下での耐久性も1500時間を超え、フィルム型太陽電池モジュールでも世界最高値となる21%を超える光電変換効率が得られている。

京都大学とエネコートテクノロジーズが共同開発を進めるフィルム型太陽電池モジュール

高い光電変換効率と耐久性を併せ持つデバイスの開発は、ペロブスカイト太陽電池の開発分野に多大なインパクトをもたらし、その実用化を大きく加速できるものとなりそうだ。

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