1. TOP
  2. トピックス
  3. ペロブスカイト太陽電池の実用化に前進! シリコン系太陽電池に匹敵する耐久性を実証
トピックス

ペロブスカイト太陽電池の実用化に前進! シリコン系太陽電池に匹敵する耐久性を実証

兵庫県立大学らの研究グループが、光照射によってペロブスカイト太陽電池の性能が回復することを解明

再生可能エネルギーの利用促進が叫ばれている中、その主軸として期待が高まる太陽光発電において、世界中で研究が進められているのがペロブスカイト太陽電池だ。シリコン系太陽電池に比べて多くのメリットを有する半面、耐久性の低さがネックとされていたが、日本の研究グループが世界初となる高い耐久性の実証に成功した。ペロブスカイト太陽電池の実用化を目指す最新研究をご紹介する。

メリットの多いペロブスカイト太陽電池──。実用化への障壁は耐久性

2021年10月22日に日本政府は、再生可能エネルギーを主力電源とする新たなエネルギー基本計画を閣議決定。従来22~24%となっていた2030年度の総エネルギーに対する再生可能エネルギー比を36~38%に引き上げると共に、今後は普及に向けて最優先で取り組むことが明記された。

ますます重要度が増す再生可能エネルギーの中でも、特に大きな期待を寄せられているのが太陽光発電だ。しかし、既に日本は国土面積当たりの太陽光発電導入量が世界主要国でトップであり、さらなる導入促進にはいかに簡易設置できるかが鍵となる。そのため、現在主流のシリコン系太陽電池に代わる次世代太陽電池の開発が待ち望まれている。

注目されているのが有機金属ハライドペロブスカイトを材料に用いるペロブスカイト太陽電池だ。シリコン系太陽電池と比べて電力変換効率のポテンシャルが高く、材料も安価で製造コストを抑えられる。また、シリコン系太陽電池の約300分の1の薄膜で発電できることから軽量化も容易とメリットは多い。

一方でデメリットとなるのが、約1~5年程度と短い寿命(耐久性の低さ)。実用化に向けては、この改善がマストの課題となっていた。

屋外環境20年相当にまで耐久性を改善

そうした中、2021年11月に兵庫県立大学、紀州技研工業(紀州技研)、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)からなる研究グループは、屋外環境においてペロブスカイト太陽電池の寿命を20年相当にまで引き上げられることを実証したと発表した。

研究グループでは耐久性に優れたペロブスカイト太陽電池の実現に向けて、炭素電極を備えたペロブスカイト太陽電池の開発に着手。炭素は耐食性に富むと同時に高い電気伝導性を持つことが特徴で、電極素材としてさまざまに用いられている材料だ。

完成したペロブスカイト太陽電池は、あらかじめ多孔質構造の酸化チタン、酸化ジルコニウム、カーボン電極の3層をインクジェットプリンター技術で形成。その下部まで染み込ませたペロブスカイトインクにポストアニール処理(加熱で溶媒を蒸発させること)を施してペロブスカイト層を結晶化させ、太陽電池として機能させる仕組みになっている。

炭素電極を備えたペロブスカイト太陽電池の構造(左図)と、光照射により生じるイオン移動と電荷蓄積の概略(右図)

この太陽電池に疑似太陽光(100MW/cm2)を照射すると、太陽電池の出力パラメータである開放電圧と曲線因子(導電性に関係する特性値)に改善した。

研究グループによれば、これは、光照射の開始に伴いイオン移動が活性化して電荷の蓄積が起こり、電子の導電性が向上しているため、と考えられる。

炭素電極を備えたペロブスカイト太陽電池に疑似太陽光を照射した際の発電出力特性の変化(光照射前の初期値を1として規格化)を示す図(B)と、電気化学インピーダンス分光によるイオンが関連する低周波数領域におけるキャパシタンスの光照射中および光照射前後の変化図(C)

そして、ダンプヒート試験および熱サイクル試験による加速劣化試験を行ったところ、発電出力が初期値の90%(T90)に下がるまでに要した時間は3260時間。

これは屋外環境における20年の耐久性(寿命)に相当する数値だという。

炭素電極を備えたペロブスカイト太陽電池における耐候性加速試験の結果。左図が85℃/85%相対湿度環境下でのダンプヒート試験、右図は-40~85℃での熱サイクル試験の結果を示している

ペロブスカイト太陽電池として、シリコン系太陽電池に匹敵し得る耐久性が初めて実証された今回の発表。

研究グループは炭素電極を備えたペロブスカイト太陽電池について、(1)真空プロセスを必要とせず、炭素電極は金属電極に比べて安価(製造コスト削減)、(2)完全塗布型工程での軽量基板の利用と軽量性の確保が容易である、(3)主要材料の炭素電極(グラファイト)とヨウ素の生産量は日本が世界シェア20~30%を占める、以上のことから、高い競争力にも期待できるとしている。

本実験における電力変換効率は12%ほどだが、これが多結晶シリコン太陽電池に匹敵する16%以上のモジュール変換効率になれば本格的な実用化が視野に入ってくるに違いない。

次世代型太陽電池の実用化に向けて、今後のさらなる技術革新に期待したい。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. トピックス
  3. ペロブスカイト太陽電池の実用化に前進! シリコン系太陽電池に匹敵する耐久性を実証