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ソーラーエネルギーの利用を促進! 北海道大学が全太陽光を利用できるナノ材料を開発

水中結晶光合成(SPsC)により光学的臨界相を有するナノ材料の開発に成功

数ある再生可能エネルギーの中でも身近な太陽光。最近は一般家庭でも家の屋根などにソーラーパネルを設置し、自家発電する光景が珍しくない。すっかりおなじみとなった太陽光活用だが、実は現状の技術では、降り注ぐ太陽光の一部しかエネルギー利用できていないのだとか。今後の発展には太陽光の利用効率アップが課題となる中、2023年8月、北海道大学が太陽光を漏れなく利用できる、新たなナノ材料の開発に成功したと発表した。

太陽光のエネルギー利用の現状

近年SDGsへの意識の高まりもあり、太陽電池や光触媒など、太陽光を念頭に置いた持続可能なエネルギー利用や光工学は日々進化している。そしてそれらの応用には、光応答性ナノ粒子を均一に分散させた材料が役立てられている。

しかし、従来の材料と方法で利用できる太陽光の光波長は、紫外線と可視光まで。実のところ、残り約40%以上を占める赤外領域はまだ利用できていない。これからさらに光電変換効率を高めるには、太陽光を漏れなく利用できる、新たな材料の開発が必要なのだ。

そうした中で2023年8月、北海道大学大学院工学研究院附属エネルギー・マテリアル融合領域研究センターの渡辺精一教授および張麗華准教授らの研究グループは、光学的臨界相を有するナノ材料の開発に成功したと発表した。この新たな材料は、従来は難しかった赤外領域を含め、全ての太陽光波長域を利用できるというもの。この新材料を用いれば、これまでにない光熱変換特性などが得られるとされている。

新たな手法を用いて新材料の開発に成功

新たな材料の開発に当たり、まず研究グループは、水と光のみを用いてナノ結晶を合成する、環境への負荷が低いナノ材料合成法「水中結晶光合成(SPsC)」を開発した。

この手法を用い、銅と酸素の空孔(結晶格子上にあるべき原子が欠けている状態、点欠陥の一つ)を戦略的に添加ドーピング(結晶の物性を変化させるために少量の不純物を添加すること)することで、非化学量論的タングステン酸(WO3・H2O)から、光学臨界相を誘導することに成功。これにより、ナノ結晶の合成過程における欠陥の調整を行い、光波長0.8~2.5㎛の赤外領域を含む、広範囲の太陽光波長域を利用することが可能になった。そのため、新材料は前例にない優れた光熱変換特性を示し、太陽光水蒸発や光電気化学の高効率特性が現れることも確認された。

ワンポットの「水中結晶光合成(SPsC)」法により合成されたナノ結晶

各種の光機能特性調査で成果を実証

開発における具体的なステップは以下の通り。

まず、過酸化水素に溶かしたタングステン溶液中で、銅元素の濃度を変えながらドーピング。これにより、非化学量論的タングステン酸(WO3・H2O)の半導体ナノ構造を作り出すことに成功した。

そして、作製した材料を用いたデバイスが持つ、優れた光熱変換特性、光アシスト水蒸発特性、および光電気化学特性(光電子変換特性)を実証した。

次に、透過型電子顕微鏡を用いて、原子構造解析(HRTEM)と電子線損失分光(EELS)による誘電率、光吸収(係数)の評価を実施。さらに、密度汎関数理論に基づく第一原理計算と紫外線-可視光-近赤外分光分析による吸光度の実測と比較検討を行った。

これにより、本研究でカギとなる銅添加元素と酸素空孔の欠陥形成機構が明らかになり、光熱変換特性や光電気化学特性(光電子変換特性)といった、当該現象の光機能発現効果を解明することができたのだ。

疑似太陽光で照射されたCux%-WO3・H2O(x = 0-5.8)の光熱変換特性調査。銅元素1%と5%の添加で光学的臨界相になり、強い光吸収が起こっている

ステンレスメッシュ上のWO3・H2O、Cu1%-WO3・H2O、Cu3%-WO3・H2OのIRランプによる赤外光水蒸発試験。Cu1%-WO3・H2Oで水蒸発が最も速い

Cu1%-WO3・H2Oおよび純WO3・H2O粉末試料の光電気化学性能試験(光電子変換特性調査)。Cu1%-WO3・H2Oでは、下向き矢印の光電流の増加が示された

今回作製した材料を用いた半導体デバイスは、特に近・中赤外光域で優れた光電流や光吸収などの光特性を示した。今後研究チームは、全太陽光域で駆動可能な光機能材料デバイスの開発を目指すという。未来へ向けて、ソーラーエネルギーの持続可能な利用技術としての進展に寄与することが期待される。

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