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産総研と京大がCO2を材料とする新型レドックスフロー電池を開発

CO2と触媒を活用し、エネルギー貯蔵技術の実用化へ

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下、産総研)は、京都大学との共同研究で二酸化炭素(CO2)とギ酸塩(ギ酸イオンを含む化合物)のレドックス反応※1を駆使した新しいレドックスフロー電池を開発したと2023年10月に発表した。排出ガスとして扱われてきたCO2の活物質化を実現させ、持続可能なエネルギー源へと役割を一新させる、革新的な研究について紹介する。
※1…化学反応において原子やイオン、化合物間で電子が受け取り、または受け入れ(接受)される反応。酸化還元反応とも呼ばれる
(<C>カルーセル画像:metamorworks / PIXTA<ピクスタ>)

コスト・エネルギー密度改善の余地が残るレドックスフロー電池

地球温暖化、気候変動への懸念が高まる中、化石燃料の燃焼によるCO2などの温室効果ガス排出を削減し、環境負荷を減らすためにも、世界規模で再生可能エネルギー(以下、再エネ)の活用、そのための研究が進んでいる。

しかし、太陽光や風力などの再エネ由来電源の電力は、気象変化の影響を受けやすく発電量が変動する。安定供給の実現には、高容量、高効率な二次電池(充電池・蓄電池)の開発・普及が必須である。その一つが、レドックスフロー電池※2の技術革新だ。

※2…化学電池の一種。電極と負極の溶液を循環させ、正負極溶液中の化学物質の酸化還元反応を利用して充放電する電池

新型レドックスフロー電池の外観

画像提供:国立研究開発法人 産業技術総合研究所

レドックスフロー電池は、電解液中のイオンの酸化還元反応を利用しエネルギーを蓄える二次電池である。出力部と容量部が独立し、大きさや性能が用途に合わせて調整しやすく、工場や発電施設の定置用大型蓄電池として選ばれている。

一方で、充電と放電の際に化学反応を繰り返し行う金属イオンや有機分子(活物質)の電池コスト、どれだけのエネルギーを一定の空間に蓄えられるか(エネルギー密度)の観点では、まだまだ改善の余地があった。

触媒に基づいた新しいレドックスフロー電池の概要

資料提供:国立研究開発法人 産業技術総合研究所

そこで、産総研省エネルギー研究部門 エネルギー貯蔵システムグループの兼賀(かねが)量一主任研究員、大平昭博研究グループ長らは、京都大学人間・環境学研究科の山本 旭助教らと共同で、触媒に用い、安定かつシンプルな化合物の代表であるCO2を活物質として利用可能であることを実証した。

これらの成果は、触媒技術の応用であり活物質の選択肢を広げ、レドックスフロー電池の性能向上に向けた新しい活物質開発につながっている。

触媒技術を生かした活物質の活用でエネルギー貯蔵技術の実用化へ

今回の研究では、イリジウム(Ir)を用いた特殊触媒でCO2とギ酸塩の化学反応を利用した新型のレドックスフロー電池を作製し、検証の結果、充電と放電を繰り返すことが可能になった。

レドックスフロー電池の充放電曲線(左)。安定した充放電を繰り返していることが見て取れる。右はサイクル特性を表したデータ

資料提供:国立研究開発法人 産業技術総合研究所

充電時に電池の負極ではCO2がギ酸塩に還元され、正極ではマンガンが酸化。放電時には、ギ酸塩がCO2に酸化され、マンガンは還元される。

研究チームは、この電池が少なくとも50回は充放電できることを確認。さらに、電池の効率を示すクーロン効率は90%以上で安定し、比放電容量は最大で1.5Ah/L(アンペア時/リットル)に達することが判明した。

また、充放電中に触媒の電子の状態をリアルタイムで観察可能なX線吸収分光測定技術で触媒の働きを確認したところ、充放電時には触媒が特定の高い酸化状態で活動していることが確認された。

充放電時の錯体触媒の作用イメージ。ギ酸塩からCO2へ、その逆の反応が効率よく進む

資料提供:国立研究開発法人 産業技術総合研究所

今回の成果は、これまで活物質に利用できなかった化合物でも、触媒を応用して活物質化できる可能性を示した。

このような触媒技術をさまざまな化合物へ適用し、レドックスフロー電池の性能向上に向けた新しい活物質開発が期待される。

再エネの変動にも対応可能な安定したエネルギー供給システムへの応用も見込まれ、エネルギー貯蔵技術の実用化へ向けた研究開発のさらなる前進に期待したい。

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