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暮らしを変える蓄電技術

蓄電池ビジネスのチャンス到来!今後日本が狙うべきポジションとは

蓄電技術のこれからとビジネスの展望

電気自動車(EV)や再生可能エネルギーの本格普及に伴い、注目が高まる「蓄電技術」。本特集第1回では、蓄電池のさらなる普及のためには、既存技術の有効活用が重要となることを指摘した。第2回ではビジネスの観点から、PwCアドバイザリー合同会社のディレクター・岩崎裕典氏に日本の優位性や、今後狙うべきポジションについて話を聞いた。

2050年までに世界市場は100兆円規模に

主要国政府が蓄電池に対する大規模な政策支援を行う中、日本でも2022年8月に経済産業省が「蓄電池産業戦略」を策定。2050年カーボンニュートラル実現に向け、自動車の電動化や再生可能エネルギーの主力電源化を達成するための重要な技術として蓄電池を位置付け、戦略的に支援していくことを決定した。

住宅、産業、そして電力系統用とさまざまな分野での動向も気になるが、PwCアドバイザリー合同会社の岩崎裕典氏は、しばらくは車載用蓄電池の需要が圧倒的に増えていくだろうと話す。

「蓄電池産業戦略による見通しでは、蓄電池の世界市場は2019年に約5兆円規模であったものが、2030年には約40兆円、2050年に約100兆円へと伸びていくと予測しています。そのうち、圧倒的な割合を占めるのが車載用で、2030年には約33兆円、2050年には約53兆円と試算されています」

そうした中、真っ先に注目されるのが、現在最も普及している「リチウムイオン電池」だ。

「技術的、コスト的に利用可能な状況なのは、やはりリチウムイオン電池です。今後、性能的にもまだ伸びる余地があり期待も高まりますが、一層の低コスト化が求められているのも事実です。ウクライナ侵攻を機にした世界情勢が落ち着いていくこと、電気自動車(EV)が爆発的に普及することでリチウムの需要増加による鉱山開発など、より大きな規模での動きが活発になってくればコスト低下は見込まれます。しかし、日本は材料であるリチウムなどを特定の資源国に頼っている状況であり、経済安全保障上、国内にサプライチェーンを作っていくことや、資源国とより良い関係性を構築していくことなどの課題もあります」

世界的に車載用リチウムイオン電池のニーズはますます高まりを見せている(写真はイメージ)

用途の広がりを視野に、幅広い技術に注目を

量産の面では、中国や韓国にコスト面も含めて追い越されてしまっているのも事実だ。前述のとおり、主要国政府が蓄電池に対してさまざまな政策支援を行っており、当面は車載用の蓄電池が世界的な主戦場となっていくだろう。日本もこれに続いていく必要がある。

「蓄電池産業戦略では、日本企業が、2030年に国内で150GWh/年、海外で600GWh/年の蓄電池製造能力を実現するため、資源確保企業への出資比率引き上げや製造業への補助金強化、電動車普及支援などの国内市場創出、リサイクル技術の開発支援など、さまざまな支援を行っていく方針を固めています。これを車載用や定置用(電気料金の削減、停電時のバックアップ、再生可能エネルギーの利活用などを目的に住宅や商業施設、工場などに併設する蓄電池のこと)として用いていくことになるでしょう」

一方、日本の技術力を生かせる場面は他にもある。蓄電池といえば、もともとはノートパソコンやスマートフォン、VRゴーグルやイヤホン、補聴器など、さまざまな用途がある。そういった分野において、日本は世界をリードする技術力を持っていると岩崎氏は言う。

「ご存知のとおり、リチウムイオン電池は1991年に日本において世界で初めて実用化した電池で、現在まで進化を遂げながら、技術を積み重ねてきました。2007年頃には日本企業が世界シェアの50%程度を有するなど、高いアドバンテージを持っていました」

蓄電池開発の歴史や技術開発では日本に分があり、タッグを組みたいと考えている世界の企業は多いという。今後、ビジネスとしても期待できる技術は複数あると岩崎氏はみている。

「蓄電技術全体に目を向けることが鍵になる」と語る岩崎氏

「レアメタルなどの希少資源の必要性も低く資源量が豊富で長寿命な『ナトリウム硫黄電池』や『レドックスフロー電池』などは、コスト面でリチウムイオン電池を凌駕するケースもあります。多くの電気をためたいというニーズの広がりにしたがって今後市場導入も進むでしょう。また、理論上、蓄電容量が大幅に増えることから次世代電池として期待されているのが、『全固体電池』や『フッ化物電池』です。特に全固体電池はよく話題に上がりますが、電気自動車向けなど大型のものになればなるほど技術的な難しさがあるということは技術者の方々が共通して認識していること。一部実用化している小型のものから量産化が進み、EV向けの実用化を目指していくのが日本としてのロードマップになると考えています」

リユース蓄電池のニーズで市場に変化は起こるか

次世代の蓄電技術というと、人々の生活を大きく変えてくれるようなイメージがある。ただ、その変化は小さいところでも進んでいくと岩崎氏は予測する。

「エネルギー密度が高まると、より小型化がしやすくなります。全固体電池のような新しい電池が実現すれば、例えばノートパソコンを充電せずに一日中使えるようになるかもしれません。そういった一見小さなところでも、一般の方々が実感できるような変化が起こっていくはずです」

蓄電池の普及が進むと問題になるのが、役目を終えた蓄電池の行き先だ。特に、今後EVの普及とともに大量の蓄電池が世の中に出回ることが予想されるが、現在の技術では6〜7年で車載用としての役目を終えることとなる。しかし、定置用蓄電池としてならまだ使える性能が残っているため、再利用のニーズが生まれてきている。

使い道はさまざまだ。ソーラーパネルと組み合わせて夜間照明や踏切に使用したり、EVの急速充電サイトの負荷を減らす目的で設置したり。「ただし、これもコストの問題が根強く残ります」と岩崎氏。

「リユースの問題点は、回収や性能のチェックなどに手間が掛かること。車載用蓄電池を定置用蓄電池に再利用した場合、単純にリユース蓄電池を使えばコストが安くなるとは一概には言えないのです」

カーボンニュートラルの実現には蓄電池のリユースは欠かせない観点ではあるものの、ビジネスとして成立させることは、そう簡単ではないという。

「例えば自動車本体と蓄電池の所有権を分け、事業者側が蓄電池を管理できるようにするなど、エコシステム全体でシームレスに連携できる仕組みが必要になってきます。蓄電池を循環させようという動きが本格化していく中で、このような取り組みも進んでいくでしょう」

日本のメーカーが目指すべきポジションは

技術力に強みがあるという日本の蓄電池技術だが、コスト面などで劣るサプライチェーンの弱みをどう克服していくべきか。岩崎氏は、一定の量を確保しつつ質で戦っていくべきと提言する。

「もちろん、蓄電池産業戦略にも示されたように、国内の自動車メーカーとタッグを組み、日本の蓄電池シェアを高めていく取り組みは必要です。しかし、ここから中国を逆転するのは、なかなか難しい面があるのも事実。そこで日本が取るべき戦略として、品質の高い、ハイエンドな蓄電池を作っていくことも重要ではないかと考えています。性能や品質における評価が高いメード・イン・ジャパンのブランドを、蓄電池でも確立していく。それにより裾野が広がり、日本が競争力を持っている先端技術や品質といったところで戦っていく土壌が育つのです」

また、素材メーカーや電池の試作・検査を専門にする企業も日本の蓄電池産業における強みの一つだという。

「製品開発において、試作と検査を繰り返すことは重要なプロセスです。日本は古くから蓄電池の開発をリードしてきたことで、そうした企業の技術力に関しても秀でたものがあります。海外の会社からもM&Aのオファーがある分野なので、もっと日本の中で連携を高めて大きな産業にしていくことも必要でしょう」

もはや蓄電池は、世界情勢においても重要な役割を担う産業の一つ。長年培ってきた技術力をどう生かすかは、今後の立ち居振る舞い次第だ。

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