2019.4.10
変換効率180倍!わずかな温度差でも発電できる熱電発電の新素材が登場
独自の温度勾配によって熱電材料性能の大幅なアップデートに成功
熱から電気を生み出す熱電発電。省エネ社会を構築する基盤技術として、長年にわたり研究が行われているが、現状の熱電材料(熱エネルギーを電気エネルギーに変換する、熱電発電の核となる材料)では幅広い利用を可能にするほどの性能を実現できていなかった。しかしことし1月、日本の研究グループが従来比180倍という飛躍的な高性能化に成功したと発表。熱電発電の可能性を広げる最新技術の詳細をお届けする。
INDEX
熱電材料開発における新基準が誕生
廃熱や未使用熱から電力エネルギーを直接回収する技術である熱電発電。可動部がないので、振動などが発生せず長寿命化でき、設置も省スペースで済むという利点がある。
これらの特徴から、維持作業が困難な人工衛星、熱を発生する変圧器から野球場の小さな照明まで、さまざまな場所での活用が期待され、世界中で研究開発が進められている発電方法だ。
しかし、未使用熱を有効活用できる一方で、現状では熱電材料の性能が追い付いておらず、幅広い産業での利用が可能になるにはまだまだ時間が掛かると考えられていた。
そうした中、豊田工業大学の竹内恒博教授らのグループは住友電気工業との共同研究で、銅とカメラの露出計やガラスの着色剤などに用いられているセレンを掛け合わせて、発電効率を大幅に向上させる新たな熱電材料を開発したと発表した。
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開発された熱電材料の性能を測定する様子
そもそも金属や半導体など電気を通しやすい物質(導体)に温度差を与えると、物質の両端には電圧(熱起電力)が発生する。この熱エネルギーと電気エネルギーが相互に影響し合うのが熱電効果で、そのうちの一つに「ゼーベック効果」と呼ばれる物体の温度差が直接電圧に変換される現象がある。この仕組みを用いて発電するのが熱電発電だ。
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温度差がない場合の電子量は一定だが、加熱や冷却によって温度勾配を与えると加熱側付近にある電子が活性化(活性化電子)し、低温側へと移動。移動した電子は冷却されて熱エネルギーを失うと低温側で再び不活性電子となり、電圧が生じる
熱電発電によって熱から電気を効率的に生み出すポイントは2つ。
まず、一定の温度差で大きな出力が得られること。そして、熱エネルギーをできるだけ逃さないことだ。
熱電材料は出力因子(1℃の温度差で得られる電力)や無次元性能指数(エネルギー変換効率を決定する要素)で性能が左右され、無次元性能指数の数値が大きい熱電材料ほど熱から電気へのエネルギー変換効率が高くなる。
つまり熱電発電においては、熱電材料の電気の流れやすさ(電気伝導度)と熱の流れやすさ(熱伝導度)が重要なファクターといえる。
今回開発された銅とセレンからなる熱電材料は、一定の温度領域において最大無次元性能指数が約470になることが確認された。これはセレン化スズが記録していた従来の最高数値2.6の約180倍に相当する圧倒的なものだという。
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今回開発された熱電材料を測定した結果。無次元性能指数の最大値は従来値の180倍となる470に到達していることが分かる
では、一体なぜこのような大幅な数値向上をいきなり達成できたのか。
その秘密は、独自の温度勾配方法にあった。
銅とセレンの化合物は電圧が上がりやすいという特徴を備えている。一方で電圧の発生方向にのみ温度勾配を与える従来の手法では、熱電材料に電圧の上がりやすい低温結晶相と電気抵抗の低い高温結晶相を共存させることは難しく、十分な性能を得ることができていなかった。
そこで今回、電圧方向に加えて直角に交わる方向から温度に変化を与える温度勾配方法を試したところ、電圧が上がりやすくかつ電気抵抗の低い特徴を備えた熱電材料の開発に成功。これは高温と低温の結晶相が共存していることを意味する。これにより、異なる2つの結晶相間においてイオンや電子の活発な移動が可能になったことで熱電材料の高性能化へとつながった。
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開発された熱電材料の構造。2つの相が共存することで一般的な材料の500~1000倍という巨大な出力因子を実現している
現状では、今回開発された熱電材料の応用は超高感度センサーや微小温度差発電の利用などに限られると研究グループは見ている。これは高性能を発揮する温度領域の拡大や表面から逃げる熱対策など越えるべきハードルがまだ存在しているためだ。
しかし、わずかな温度差からも発電できる熱電材料の開発とその実体が明らかになった意義は大きく、今後、関連研究の活性化と熱電発電技術の飛躍的な進展に期待できそうだ。
クリーン社会の実現に向けて、さらなる研究の加速に期待したい。
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text:安藤康之