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タクシー、バス、工場内車両で自動運転が続々! 自動運転OS「Autoware」が示す自動車の未来

株式会社ティアフォー 取締役COO 田中大輔【前編】

一般ドライバーに向けた車両が市販化されるなど、いよいよ身近になってきた「自動運転」技術。世界中の自動車メーカーとテクノロジー企業が開発にしのぎを削る中、オープンソースの自動運転OS(オペレーティングシステム)「Autoware(オートウェア)※」で業界をリードするのが株式会社ティアフォーだ。同社取締役COO(最高執行責任者)の田中大輔氏に、自動運転を取り巻く現状を聞いた。

※「Autoware」は「The Autoware Foundation」の登録商標。

目指すのは社会問題を解決できる自動運転技術

自動運転の研究開発が始まったのは、1920年代からだと言われている。

遠隔操作で走る実物大のラジコンカーのようなものから始まった技術が、近い将来にテレビを見ながら目的地にたどり着くことも可能となりそうだ。この進化を支えるのが、人間の代わりに「交通状況の認知、判断、制御」を行う高度な自動運転システムである。

開発競争の熱が高まる中で、日本からオープンソース(ソースコードを無償で一般公開したソフトウェアの総称)として世界に発信された技術がある。国内外で数百社以上に採用され、30種類以上の自動運転車両に導入されている、名古屋大学発のスタートアップ、株式会社ティアフォーが手掛けた自動運転OS「Autoware」(以下、オートウェア)である。

自動運転を制御するために用いているのが、高精度な3次元地図(3Dマップ)を用いた手法だ。車両に取り付けられたセンサーがリアルタイムで取得する信号や位置などの情報を、3次元地図に重ね合わせて進むべき道を判断する。他にも車載の磁気センサーで地中に埋設された誘導線を感知しながら進む「電磁誘導方式」なども取り入れながら、より精度の高いシステムの構築を目指している。

高精度3次元地図は、自動車メーカー10社をはじめ計測や地図製作の企業などが一体となって開発を進めている次世代の地図。2023年度までに実用化される見込み

同社では、これまでに100以上の実証実験を行ってきた。タクシーやバス、ロボットなどを用い、都市部や離島、閉鎖空間、公道などシチュエーションは多岐にわたる。それは、オートウェアがどんな車両にも対応可能である柔軟性に特化しているからだ。ティアフォー 取締役COOの田中大輔氏は、数多くの実証実験を行ってきたのには、大きく2つの目的があると話す。

「一つは、トライアル&エラーを繰り返し、自動運転の技術や精度を高めること。そしてもう一つが、自動運転で解決すべき社会課題を見つけることです」

コンピューターエンジニア、米国でのMBA留学を経て、2018年にティアフォーに参画した田中氏

「過疎化が進む中山間地域で“新たな足”が必要だと叫ばれていますが、そうしたエリア以外にもモビリティの世界にはさまざまな課題が潜んでいます。それが地域のまちおこしにつながるものなのか、現状の交通網ではカバーしきれない移動ニーズに対応するものなのかは、実際にやってみなければ分からない部分が多い。そのための実証実験なのです」

成功が見えたロボタクシーとバスの実証実験

市販車から公共サービスまで、さまざまな自動運転車両が開発される中、ティアフォーがいま力を入れている取り組みの一つが、「ロボタクシー」と呼ばれる自動運転タクシーの分野だ。自動運転の花形とも呼ばれ、世界中で開発が進められている。

「現在は、バスのように決められたルートを走行するロボタクシーの実用化を目指しています。これまで愛知県や長野県、東京都などで公道実験を行ってきました。運転者を無人にした遠隔型自動走行と、運転者が乗車する非遠隔型自動走行の2パターンを実施し、そこに配車アプリを組み込んで、より商用サービスに近い環境下で実験しています」

米・シリコンバレーや中国の一部では既に商用化されており、田中氏は「日本でも2025年までには実現したい」と意気込む。

長野県塩尻市のJR塩尻駅と市役所をつなぐ約1kmのルートを走るロボタクシー。5G通信を用いて都内から遠隔操作した

10~15人ほどの乗客で、閉鎖空間をゆっくりと走る自動運転バスなら、より実用化に近いという。延べ床面積約67万m2で日本最大級を誇る物流拠点「GLP ALFALINK 相模原」では、無人運転のバスが敷地内を走り、従業員を運ぶサービスの実証実験が行われている。早ければ2022年中にも同所で商用サービス化される予定だ。

さまざまな実証実験から見えてきた現段階のニーズは、「近距離低速」での運用だという。

「特に過疎化などにより運転手不足が深刻化する地域では、バスが1時間に1本しかない地域も珍しくありません。自動運転のバスを使って10分に1本のように本数を増やせれば、ラストワンマイルの利便性が高められる。自動運転はそこに価値があると思っています」

最寄り駅から自宅などの最終目的地にたどり着くための最後の移動。交通業界におけるラストワンマイルは、都市部においても課題を感じることは往々にしてある。そこに自動運転を組み込むことができれば、生活スタイルや人の流れをより良い方向に導くことができるかもしれない。

「GLP ALFALINK 相模原」を走行する自動運転の小型EVバス。高精度3次元地図を基に、決められたルートを巡回する

その実現には、「レベル4」の自動運転システムを完成させる必要がある。自動運転は一般的に、運転の主体や自動運転の技術到達度、走行可能エリアなどの観点で、レベル0~5の6段階に分けられている。「高速道路など特定条件下での自動運転」が可能となるレベル3は、2020年4月から国内で車両の公道走行が解禁された。

一方、田中氏が欠かせないとするレベル4は「特定条件下における完全自動運転」。言葉は近いが、レベル3では万が一のときには乗車したドライバーがハンドルを握って運転することが求められているのに対し、レベル4では運転席を無人にすることも可能となる。

「ドライバーなしの自動運転車両が街中を自由に走り回るのは、技術的にもまだ難しいのが実情です。ただ、決められたルートでの走行であれば、ほぼ実現可能なところまできています。あとは実証を重ねながら、少しずつ走行の安全性と精度を高めていくのが今後注力していく部分です」

ゴールは見えていても、果てしなく遠い

タクシーやバスでの実用化はもはや目の前にも感じられるが、実現する日はいつになるのだろうか。現実には、まだまだ多くの障壁が立ちはだかっていると田中氏は話す。

「『自動運転モビリティによって、社会課題を解決していく』。それがわれわれの掲げるミッションです。それをできる限り効率よく、早く、そして広い範囲をカバーしていくため、戦略的に実証実験を重ねてきました。その中で改めて感じたのは、安全を担保するためのハードルが非常に高いということです」

自動運転といっても、走るのは自動車である。事故が発生すれば人命に直結する。99点の完成度では社会に送り出すことはできない。

そんな中、田中氏が「100点が見えてきた」という実証実験がある。ヤマハ発動機株式会社の工場内などで稼働している自動搬送車両だ。

ヤマハ発動機と共同で開発を進める自動運転EV搬送サービス「eve auto(イヴ オート)」。工場内の物流作業を無人化できる

「閉鎖空間を走るゴルフカート型の自動運転EV(電気自動車)です。これまで人間が行ってきた工場内の物流を無人化し、モノづくりや生産現場を効率的にサポートしています。熟練ドライバーが運転するフォークリフトのようにテキパキと走ることはできませんが、事前に設定されたルートをランダムに動く人間や他車両をよけながら巡回することが可能です。さらに改善を重ねながら、2022年夏には一般企業に向けたサービスを提供開始する予定です」

シャトルバスのようにルートがあらかじめ設定できる公共交通や、走行環境が比較的コントロール可能な工場内であれば、現段階の自動運転技術で十分に実用化の道筋が立っているようだ。では、自動運転と聞けば思い浮かべる、“自家用車が自動で走る未来”の実現はいつ訪れるのだろうか。

「世界中の全車両が自動運転になるのなら、恐らく今の技術でも実現可能でしょう。でも実際には、自動運転車両が縦横無尽に走り回れる世の中になるのに、あと20年ぐらいはかかると思います。それは、通信機能付きの信号機などの自動運転の安全を支える道路インフラをもっと整備していかなければならないですし、歩行者や自転車といったさまざまな登場人物と共存しなければならないからです。だからこそ、自動運転は難しいのです」

後編では、自動運転を普及させるためにティアフォーが取った世界初の戦略、そして夢に描いた未来社会を創るため、田中氏の続ける地道な働き掛けに迫る。

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