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未来シティ予想図

日建ハウジングシステムが挑む「竹造建築」による家造りプロジェクト

国内初の竹集成材構造による性能評価書の取得で、厄介者の“竹”が救世主に

集合住宅を軸に、少子高齢化や働き方改革などその時々のニーズの変化に寄り添い、さまざまな建築事業に取り組んできた株式会社 日建ハウジングシステム。同社は今、建築に竹を取り入れるプロジェクトに挑んでいる。プロジェクトを担う同社理事大阪代表、lid(life innovative design)研究所L3・I3デザイン室 室長の古山明義氏にその詳細を伺った。

暮らしを支え続けた設計会社の新たな挑戦

日建ハウジングシステムは大手設計事務所の株式会社 日建設計のグループ会社で、集合住宅に特化し、全国ひいては海外の集合住宅の設計を数多く手掛けてきた。その他にも再開発コンサルタント、シニア向け住環境づくり、外観などデザイン監修も行っている。

同社大阪オフィスの代表を務める古山氏は自ら設計士として活躍。デザインを手掛けた「ローレルコート上本町石ヶ辻公園」(大阪市天王寺区)は2019年にグッドデザイン賞を受賞している。また、“住空間の未来”へ向けた取り組みを推進するべく社内に設立されたlid研究所のデザイン室の室長も兼務。一流の設計力を持ちながらも未来を見据えた新たな挑戦、研究を行っている。

「弊社は長らく集合住宅に特化していましたが、少子高齢化や人口減少、働き方改革など時代ごとの社会課題の変化に合わせて、暮らしに求められるものも変わってきました。その変化に集合住宅という枠組みで対応できること、一方で集合住宅の枠を超えてできることの両軸を研究、実現するため、2016年にlid研究所を立ち上げました」

日建ハウジングシステム大阪オフィスのエントランス。鹿児島県薩摩川内市の真竹を120本使用してデザインし、自社のオフィス空間を竹の魅力に触れられるモデルケースとした

画像提供:日建ハウジングシステム

lid研究所は同社が培ってきた設計・建築ノウハウと技術を基に新規分野へ挑戦するR&Dセンターとしての機能を持つ。リビング、オフィスなど屋内の環境デザインの他、ウエアの企画設計といった暮らしをテーマにさまざまな試みに挑戦。

その一つが、建築資材としての竹の活用だ。建築物の構造物に用いる「竹造建築」の実現である。

※Research and Developmentの略。自社事業の関連技術を開発、革新的なサービスを創出する取り組みを指す

時代の変化で見失われた、竹の魅力と有用性

平安時代に記された「竹取物語」にも登場し、日本人の暮らしになじみ深い竹。成長が早く柔軟性や強度も高く、古来より小物や家具など工芸品の資材として重宝されてきたが、日本では建築物の構造材として用いられた例はない。

「海外ではリゾート地の建物で見かけることもありますし、建築作業の足場として用いられるケースがありますが、日本では建築構造材としては用いられません。理由の一つは法的な壁です。竹はイネ科に属する植物で“草”として扱われています。そのため、建築基準法に規定されている指定建築材料に含まれていないので建築構造材として使用できないのが実情です」

現在、竹は中国をはじめ海外から安価で輸入されることに加え、プラスチック技術の進化により資材としての需要が減少した。

この結果、国内で竹の流通網は失われ、古山氏は「竹を資材として活用するには、竹を切り、運び、加工する環境の確保から取り組む必要があります」と、企業が竹を活用する上でのハードルが高まったことを指摘。加えて、新たな社会問題も起きているという。

「日本はかやぶき屋根のように身近な資材を定期的に交換して使い続ける文化があり、竹の工芸品も同様でした。それが耐用年数の長い材料が広まり“交換する・作り替える”感覚が薄れたことも竹の流通が失われた要因だと思います」(古山氏)

「各地の竹林が手入れされず放置状態になり、無秩序に増え続ける竹が周囲の植生の成長を妨げ枯らせる竹害を引き起こしています。放置竹林は自然災害で竹が折れ、人が入れなくなり、野生動物がすみつき獣害の拠点となる場合もあります。また、地下茎を横に広げて増える竹の性質から、竹林の周囲、住居の床下から竹が床を突き破る事例もあります」

野生化した竹が無秩序に山を侵食した放置竹林

画像提供:日建ハウジングシステム

放置竹林の問題に、全国1位の竹林面積を持つ鹿児島県に位置する薩摩川内市はいち早く着目。「竹バイオマス産業都市構想」を打ち立て、地方創生の一環として竹の管理、消費、流通網の整備を進めた。2016年、日建ハウジングシステムは同市の真竹を用い大阪オフィスのエントランスを改装。さらに竹の活用方法の研究を同市と協力して行う「竹でイエを建てちゃおう!プロジェクト」を発足させた。

「竹は現在、建築基準法の定めで建築の構造材には使えません。ですが構造材として扱った場合、木材に負けない利点があります。このプロジェクトでは一軒の家を竹で建てるために求められるであろう、竹の特性を生かす工法をさまざまな試作、試験を行い見いだしていきました。豊富な竹の消費と部材としての商品化までを見据え、SDGsを強く意識し取り組みました」

材料を曲げる試験で、変形しにくさを表すヤング係数と、材料が砕けるまでの最大荷重から算出した曲げ強さの計測データ。竹の強度は杉材より高く、集成材にすることでより高い強度になる

資料提供:日建ハウジングシステム

日建ハウジングシステムは建築資材としての竹の活用方法を試行錯誤する中で、小さく切断した竹を張り合わせた集成材として用いる有用性を見いだした。その一方で解消すべき問題も見えてきた。

「軽いイメージが先行する竹ですが、集成材にして同サイズの木材と比較すると非常に重くなります。竹は内部の密度が高く重量があるため、運搬や施工時の荷重の問題が発生します。この問題には、強度を生かし部品を小型化することで解決を目指しました」

この他、養分や糖分を多く含む竹はカビが生じやすく、資材の保管方法の工夫が必要であることなど「課題や可能性を見いだしながら研究、実験を重ねている段階です」と古山氏は話す。

課題を着実にクリアし、実現が近づく竹造建築

「竹でイエを建てちゃおう!プロジェクト」で進めてきた取り組み、その蓄積を基に、日建ハウジングシステムは2019年より竹集成材による建材の開発・展開を進めている。

2020年に東京ビッグサイトで催された企業向けイベントでは、竹集成材を構造材としたブースを展示。ブース内では薩摩川内の竹を用いた工芸品や竹紙を展示した

画像提供:日建ハウジングシステム

竹集成材を用いた構造物をイベントで展示し、オフィス向けなど普段使いできる家具を制作することで「少し遠い存在になってしまった竹の魅力を感じられるよう工夫を凝らした取り組みを行っています」と、古山氏は思いを語る。

薩摩川内市で実施された「竹集成材パーティションテーブル」制作動画

2021年には新たに「竹集成材構造モデルプロジェクト」を発足。竹集成材を使用した構造システムの設計、接合部の強度試験などの研究を進め、2023年3月に竹集成材構造モデルで日本建築センターの性能評価書を取得した。

「建築基準法に該当しない範囲で、例えば高さ60m以上の超高層建築物は安全性を証明し、審査を重ね評定を取得し建築可能になります。それと同様の評定を竹集成材構造で取得しました。研究開始から取得まで2年を要しましたが、ついにこの段階まで到達できました。評定を取得した建築は床面積70m2の平屋店舗で、薩摩川内市内での建設を想定し設計しています。この取り組みは鹿児島大学とHafnium architects(ハフニアム アーキテクツ)との共同研究で実現し、薩摩川内市にも協力いただく産学官連携のスタイルで進めてきました。竹で家を建て、その先の竹造建築を生かした街づくりの実現に、着実に近づけていると感じます」

日建ハウジングシステムは2021年、「竹集成材構造モデルプロジェクト」を発足。竹の小さな部材を組み合わせることで建築物を作り出すシステムを発案している

資料提供:日建ハウジングシステム

「竹集成材構造モデルプロジェクト」竹造建築のイメージ動画

実際の建築には土地や予算の確保など実務的な課題もあり、まだ先の取り組みになるが、古山氏は「建築の依頼があれば、国土交通大臣認定を取得しすぐに建築が出来るので、竹の建築を社会にアピールして、依頼者を探していきたい」と目を輝かす。

「以前、ラジオ番組で取り組みを紹介させていただいた際、司会の方が『日本は資源がないと教わってきたが、実はたくさん使える資源があるのではないか』とおっしゃっていました。竹もそんな使える資材の一つだと考えています。まずは竹の魅力を知って、興味を持ってもらいたいです。『竹でイエを建てちゃおう!プロジェクト』はそれが可能な取り組みだと考えています」

潜在能力の高い竹の活用、そして近い将来の竹造建築の実現に向けて、日建ハウジングシステムは歩みを加速させる。

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