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空想未来研究所2.0

300t超ものパワーでクッパを振り回すマリオのエネルギー/スーパーマリオ64

『スーパーマリオ64』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「スーパーマリオ」。この春劇場版が公開されるゲーム「スーパーマリオ」シリーズから、初の3D版となった『スーパーマリオ64』で描かれたマリオのアクションについて、エネルギーの観点から考察してみました。

初めて3Dとなったスーパーマリオ

『スーパーマリオ64』は衝撃的だった。マリオシリーズ初の3Dゲーム。それまでは2Dだったから、次元が1つ上がったのだ。

これはスゴイことである。従来の2D世界では、マリオはジャンプ、潜水、地下探索などの上下の運動を織り交ぜながら、ひたすら右へ右へと進むしかなかった。それが3Dになって、進む方向は「前」となり、「右へ行くか左へ行くか」の選択肢が加わった。これによって、世界が大きく広がり、動きのバリエーションも増えたのだ。

このパラダイムシフトが起きたのはいつなのか。『スーパーマリオ64』の発売年を調べてみると……ギョギョッ1996年! なんと27年前! そのころ筆者は本を書きながら、学習塾の講師もやっていて、生徒たちにも自分にもゲームを禁じていた。その間にゲームの世界は革命的に進歩して、いつしかそれも常識となっていた。今ごろ3Dゲームに大騒ぎするとは、完全無欠の浦島太郎……。

がくぜんとしていないで考えよう。我々の住む世界は3Dだから、マリオの動きは現実に近くなったということだ。ゲームを楽しむ人も、マリオの世界に入り込みやすくなったのではないだろうか。その世界で、マリオはどんな活躍を見せてきたのか、エネルギーの観点から分析してみよう。

3Dならではのトラップ

いきなり、ラスボスのクッパが登場する最終コース「てんくうのたたかい!」の話になってしまうが、ここに3Dならではのシーンがある。

急斜面を駆け上がるマリオ。分度器で測ると、その傾斜は80度!

こんな急斜面、駆け上がれるものなのか。人間が斜面を上れるのは、体の重心から真下(重力の向き)に下ろした直線が、接地点(後方の足)より前を通過するときだけだ。そうでないと、体が後ろにひっくり返ってしまう。また、これがクリアされていても、斜面と足の摩擦力が不十分だと、斜面をズルズル滑り落ちてしまう。

ところが、マリオの体の重心から真下に下ろした直線は、接地点のはるか後方を通過している。なぜひっくり返らないのか、非常に不思議である。

もちろん、相当なスピードがあれば、それまで走ってきた勢いで上っていけるケースもあるが……などと思っていたら、同様の斜面にまた差し掛かる。すると、マリオの進路を遮るように、左から右へ長い炎が噴き出す! これにマリオは、ちょっと立ち止まって火が収まるのを待つ。走ってきた勢いも関係ない!

これが可能になるのは、斜面の密度が猛烈に高く、斜面に向かって地球の重力に匹敵する重力が働くときだけ。斜面の厚さが1mだとすると、それが可能な密度は1L当たり2万3000t。地上で最も密度の高いオスミウム(金属の一種)の100万倍! こんな斜面を作ったクッパの科学力および技術力には脱帽だ。

しかしこの場面、マリオを真横から捉える2D画面だったら、炎は画面の奥から手前へ噴き出すことになり、炎の長さも迫力も伝わらなかっただろう。ここにも3Dが生きている!

恐怖の回転岩盤

2つ目の斜面に至る直前にも、マリオは3Dならではの窮地を切り抜けている。レコードのように回転する多角形(おそらく十角形)の岩盤である。こうした水平方向の回転は2Dでは描きようがないから、まさに3Dならではだ。

右から走ってきたマリオは、この回転岩盤を通過して、左へと駆け抜けた。これはキケンだ!

回転する面の上では、重力以外に3つの力が働く。「足と岩盤の間の摩擦力」「体に働く遠心力」「体に働くコリオリ力」だ。

「摩擦力」は、岩盤の回転方向に働く。岩盤は上から見て反時計回りに回っていたから、マリオから見ると、初めは右向き、中間地点で前向き、最後は左向きだ。

「遠心力」は、常に回転の外向きに働くから、初めは後ろ向き、中間地点では右向き、最後は後ろ向き。

「コリオリ力」とは、回転面の上で動く物体に働く力だ。低気圧の渦や、腕を伸ばしてゆっくりスピンしていたフィギュアスケーターが、腕を体に引き付けると回転が速くなる現象などを起こす。反時計回りの場合は、常に進行方向に対して右向きに働く。

このように、3つもの力が時々刻々といろいろな向きに働くのだ。

このうち、遠心力とコリオリ力は強さが計算できる。岩盤の直径(最長対角線)は、155cmと設定されているマリオの身長のほぼ10倍で、15.5m。その一辺に等しい4.8mを走る間にマリオは向こうの橋へと走り抜けた。詳細は省くがコリオリ力は体重の2.5倍、すなわち2.5G。遠心力は最大で5G!

こんな力であっちへ引かれ、こっちへ押されたりしながら、岩盤を走り抜けたマリオはスゴ過ぎる。筆者ならよくて転倒、悪ければ岩盤から振り落とされて、ゲームオーバーとなっていただろう。

大砲で発射!


しかし、人間を大砲で撃ち出して、大丈夫なのか。全体像が映らないのでハッキリしないが、とりでの高さは10m、距離は20mほどあるようだ。

ここに到達するには最小でも秒速17.8m=時速64.1kmの速度が必要で、そのとき要求される射角(地面からの角度)は31.7度。これより大きくても小さくても、飛距離が足りずに城壁に激突する。時速64.1kmに近い速度(上昇する分だけ速度が落ちる)で! どうか皆さん、マリオの安全のために狙いをしっかり定めてください。

さらに心配なのは、発射の瞬間にマリオの体にかかる力である。前述したG(体重の何倍か)で求めるなら、次の式で計算できる。

【発射の瞬間のG=1/2×速度2÷砲身の長さ÷重力加速度】

重力加速度とは重力の強さを表す数値で、地表の場合は9.8[m/秒2]。単位は速度が[m/秒]、長さが[m]だ。この式から分かるように、砲身が長いほど発射のGは小さくて済む。

ゲームの画面を見ると、砲身の長さは2mほどのようだ。すると、マリオが受けるGは……

1/2×17.82÷2÷9.8=8.08G

人間は体軸方向(頭から足にかけて)に7G以上の力を受けると失神するといわれるから、マリオは失神した状態で撃ち出される! そして狙いが不正確なら、城壁に頭をぶつけて、さらに深く失神!

やはり人間というものは、大砲で発射されるようには、できていないのだなあ。

マグマでジャンプ

「灼熱!溶岩地獄」というコースでも、マリオは大窮地。床の一部がスライドして、溶岩の海に落ちる!

それでも尻から煙を上げながら高々とジャンプして、着地すると何事もなかったかのように先を急ぐ。あまりのタフガイだ。

赤々と溶けた溶岩の温度は800~1200℃。この灼熱の海に落ちて、尻から煙を上げるだけで済むのだろうか。

唯一の救いは、熱が伝わるには時間がかかることだ。例えば、都市ガスの青い炎の燃焼温度は1700~1900℃で、木材は300℃で発火する。しかし、割り箸をガスの炎に通過させても、火はつかない。時間が短ければ、割り箸が300℃に達するだけの熱は伝わらないということだ。

以前、豚肉をガスの炎に通過させる実験をしたことがある。結果は、炎に触れている時間が0.1秒以下なら豚肉に変化なし。ここからマリオも、溶岩に尻もちをついてから0.1秒以内にジャンプすれば、尻にも足にもやけどを負わずに済むのでは……と期待される。

身長155cmのマリオが、尻もちをついた状態から離陸するには、体の重心を80cm(身長の半分をやや上回る)ほど上昇させる必要がある。これを0.1秒でやると、平均速度は秒速8m。

だが、このように静止した状態からの運動では、最高速度=離陸速度は平均速度の2倍になる。すなわち秒速16m=時速57.6km。この速度なら、ジャンプ高度は13mに達する。ゲームの画面を見ると、確かにそのくらいは跳び上がっていそうだ。

ここで筆者は別の心配をしてしまうのである。体の重心を80cm上昇させて跳び上がるのは、砲身の長さが80cmの大砲で撃ち出されるのと同じである。その瞬間にかかるGを前述の式で計算すると、1/2×162÷0.8÷9.8=16.3G。またしても失神! そして失神したまま溶岩の海へ……。いくらタフガイでも、これはマズイかもしれない。

クッパを振り回すマリオのエネルギー

そして、再び最終コース「てんくうのたたかい!」。そのクライマックスで、マリオはオドロキのパワーを見せた。クッパの尻尾をつかんでぐるぐる振り回し、遠くへ投げ捨てたのだ! これも水平な回転で、3Dでしか見られないが、あの巨大なクッパをハンマー投げするとは!

画面でマリオと比較すると、クッパは頭胴長(頭の先端から尻尾までの長さ)7.5m、体高4mもある。これはくしくも、アフリカゾウの最大個体と同じぐらいだ。すると体重もその最大個体と同じ10tはあるだろう。これをマリオは、0.7秒で1回転させている!

こういうことをすると、強烈な遠心力が発生する。当然、マリオが同じ力で引っ張らないと、回転は維持できない。それを[G]の単位で求める式は次の通りだ。

【遠心力[G]=(2×円周率÷回転周期)2×重心の回転半径÷重力加速度】

画面で測ると、重心の回転半径は4mほど。すると、遠心力は……

(2×3.14÷0.7)2×4÷9.8=32.9G

クッパも失神! そして、マリオが出した力は10t×32.9=329t! ハンマー投げで重要な背筋力が329tあるということだ。室伏広治選手の全盛期:389kgの846倍!

クッパが飛んだ距離も、半端ではないはずだ。重心の回転速度は秒速35.9m=時速129kmにも及び、最も飛距離の出る射角45度でリリースした場合、飛距離は131m。ハンマー(7.26kg)の1400倍も重い物を投げて、室伏選手の最高記録(84.86m)を軽く上回っている! なんと恐れ多いことだろう。

この猛烈な運動によってマリオの体内では7200kcalが消費されたはずだ。やや小太りな彼の体重を80kgとすると、これは90km走らないと消費できないエネルギーだ。それを数秒で消費してしまえるのも、マリオ神話の一つとして語り伝えられるべきだろう。

次元が1つ上がるとは、大変なことだ。その大きく変貌した世界の特性を存分に生かし、それまでにない活躍を見せてくれた主人公。世界中の人に、長く愛され続けるのも納得だ。次は我々をどんな異次元に誘(いざな)ってくれるのだろう。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

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