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これからのエネルギーとの関わり方

なぜ電力の需給ひっ迫が起こっているのか?

世界的な「エネルギーショック」の余波

近年、報じられる頻度が増えてきた電力の需給ひっ迫。加えて2022~2023年の冬にはエネルギー資源価格の高騰が一般家庭の電気料金に直接大きな影響を与えるなど、電力の安定的な供給は切実な社会課題となっている。その背景としては、度々ロシアによるウクライナ侵攻が挙げられてきたが、株式会社ユニバーサルエネルギー研究所の金田武司氏は加えて、“世界的なエネルギーショック”の発生を指摘する。一体何が起こっているのか、金田氏に話を聞いた。

2020年秋に始まった、エネルギーショックへの布石

現在、日本の電力不足の要因として一般的に挙げられているのは、災害や急激な気候変動だ。2022年3月の電力需給ひっ迫警報は、地震により複数の発電所が停止したこと、そして気温低下による暖房設備の電力需要増などが重なった結果だとされている。また2022年6月には、猛暑に対する冷房設備の需要増加などが懸念され、電力需給ひっ迫注意報が発令された。

ただし、疑問も残る。日本は2022年以前にも多くの災害や寒波・猛暑に見舞われてきた。それでも電力の需給ひっ迫のリスクを疑う動きはなかった。ユニバーサルエネルギー研究所の金田武司氏は、「現在の日本社会の電力状況を理解するためには、まず世界のエネルギー事情を俯瞰する視点が必要だ」と指摘する。

「世界では、オイルショックならぬ“エネルギーショック”が起きているというのが私の認識です。欧州から始まったエネルギーショックは、日本の電力事情にも甚大な影響を及ぼしています」

金田氏は現在の日本の電力の需給ひっ迫には「複合的な要因がある」と前置きしつつも、2020年秋頃から始まった欧州のエネルギー事情の変化が、一つのターニングポイントになったと言う。当時、欧州では何が起きていたのか。

欧州の脱炭素のリスクとウクライナ侵攻、中国の思惑

「環境に優しい電力供給方法や社会システムづくりを志向してきた欧州では、風力発電を多くの電力を賄うための基幹電源として認めてきました。しかし2020年9月頃から年末にかけて欧州各国で急に風が吹かず発電ができなくなり、十分な電力を確保できなくなってしまったのです」

欧州の風況が日本にも影響を及ぼした(写真はイメージ)

脱炭素を推し進めていた欧州各国では、風力発電で賄えなくなった電力の“穴”を、火力発電の中では比較的CO2の排出量が抑えられる天然ガス火力による発電で埋めようとする。そうして欧州各国では天然ガスの需要が一気に膨れ上がった。

「欧州の天然ガス供給にはロシアが欠かせない」(金田氏)という状況の中、2022年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まると、欧州各国とロシアの政治的対立は深まっていく。欧州のエネルギー事情を把握していたロシアがけん制を強めることで、天然ガスの高騰が始まる。脱炭素を推し進めるため石炭火力を使った発電施設を縮小したり、原子力発電所の稼働停止を進めたりしていたことも欧州にとって追い打ちとなった。

「2020年頃、翌々年に北京五輪が控えていた中国政府は、自国をアピールするためにきれいな空を求めていました。排出される噴煙を抑えようと、炭鉱を閉山するなど石炭火力発電からの脱却を目指します。ただ中国はそれまで、電力の約半分を石炭火力で賄っていました。社会を支える基幹電源システムを、無理に再構築しようとすればひずみが生じる。結果、電力不足が起きます。中国にはいざとなればロシアから天然ガスを買ってくればよいという打算もありましたが、欧州の事情がそれを許しませんでした」

日本もこの天然ガス獲得競争とは無縁ではいられない。というのも東日本大震災以降、原子力発電所の稼働を停止していた日本は、世界最大のLNG(液化天然ガス)輸入国となっているからだ。世界のエネルギー価格急騰が起き、燃料費が高騰すればするほど日本が発電に使用するLNG購入価格が高騰し、電気料金が跳ね上がるという悪循環に陥っている。

輸入燃料の不当価格と、電力自由化も要因に

金田氏はエネルギーショックで燃料費が高騰したことに加え、日本において電力の安定供給が難しくなってきた構造的な理由が幾つかあると指摘する。まず、最大の要因として挙げるのは原子力発電所の稼働停止だ。

「100万kWの原子力発電所は1日で2400万kWhの電力量を供給することができます。1kWhの電気が約20円とすると1日約5億円になる。東日本大震災の前に日本では60基の原子力発電所が稼働していました。仮に単純計算すると、1日に生み出していた経済的利益は約300億円です。それら全てを停止してしまったため、その分のLNG輸入を余儀なくされています。原子力発電所の稼働停止は、電力の安定供給を難しくするばかりか、日本経済停滞の要因の一つになっています」

電力自由化(電気事業において市場参入規制を緩和し、市場競争を導入すること)を極端に進めることも、「電力の安定供給を難しくする要因になるだろう」と金田氏は言う。

世界で初めて電力自由化に踏み切ったのは英国で、米国もテキサス州などが自由化の先進州となっている。欧米が電力自由化を志向した理由は至ってシンプルだ。

再エネを導入すると、地域ごとの発電量は異なる。季節ごとに豊かな太陽光や潤沢な風力が得られる所で電気をつくり、需要家はそれを買えばいい。必要なときに必要な量の電気を安い会社からスポットで買う。そのような効率性を求めて欧米では自由化が進んでいった。

日本では2016年に電気の小売業への参入が全面自由化された(写真はイメージ)

「自由化した結果、事業者同士の競争が生まれ、メーカーは効率の良い発電機を売り込もうとします。そうして欧州では再エネ産業が普及しました。しかし自由化を進め過ぎた結果、再エネが十分に供給できなかったときに天然ガス代が高くなるという問題が生じました。自由化が進むと、選択肢があるときは安く電気を買えますが、選択肢がなくなると高くても購入しなければならないというリスクが発生します。そこがライフラインの自由化における問題です。選択肢がなくなったとき、売り手は値段を上げる可能性が高いということが今回のエネルギーショックで証明されました。日本は島国で、さらに事情が特殊です。行き過ぎた自由化が安定供給を阻害するという事実を欧米の失敗から学ぶべきです」

一辺倒な脱炭素対策が非効率な発電に

金田氏が次に安定供給を難しくする要因として挙げるのが、「脱炭素への偏った理解と対応」だ。中でも、天然ガス火力発電所の運転方法には大きな課題があると指摘する。

「現在、日本では政府が掲げる脱炭素目標を実現するため、再エネで電力供給する際に天然ガス火力発電所の出力を抑えています。大型施設である天然ガス火力発電所は、定格出力(最も良好な特性を発揮しながら連続発生する出力)で安定的に稼働させた方が最も発電効率が良い。しかし再エネに遠慮するあまり控えめな運転となり、効率が悪化しているのです」

しかも、「比較的CO2の排出量を抑えながら発電する天然ガス火力発電所の効率を悪くすることで、より多くのCO2を排出している実態がある」と金田氏は付け加える。再エネの有効活用が意味をなさず、むしろ“CO2プラス”という本末転倒な状況になっているという。

「脱炭素と安定供給の両立は日本独自の観点で考えるべき」と金田氏

「日本の電力会社はCO2を削減する方法を数多く保有していますが、国は現在、CO2排出をゼロにできる再エネへの支援に力を入れています。政府が再エネに投じる同じ金額を、天然ガス火力発電所に投資すればより多くのCO2が削減できるのではないか。確かに再エネで全ての電力を賄うことができればCO2排出量をゼロにすることができるかもしれません。しかし再エネのみで日本中の電力を賄えないことは現実的に明らかです。ゼロ目標といった欧州の議論に引きずられず、日本の現状を踏まえた段階的な脱炭素政策や安定供給との兼ね合いを模索する必要があります」

金田氏は「脱炭素を世界的な潮流にしようと熱心に仕掛けてきた欧州が、その実、気候変動や環境を甘く見ていたのではないか」と指摘する。自然は制御が不可能であり、風車や太陽光パネルは気候変動によって役に立たなくなる可能性がある。それは2020年の欧州が証明してきたことだ。

「安定供給を前提とした際、再エネを活用するためには化石燃料が絶対的に必要だということが今回のエネルギーショックで明らかになりました。そして世界の共通課題であるCO2削減と経済的な効果を両方実現していくためには、再エネや化石燃料に加えて原子力との組み合わせが必要です。極端な理想主義に引きずられることなく、バランスの取れたエネルギーミックスを実現していくことこそ、電力の安定供給と脱炭素を解決する唯一の手段だというのが私の考えです」

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