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2023.11.8
秒速123kmのパンチ!? プリキュアたちが放つ驚異のエネルギー/プリキュアシリーズ
『プリキュア』シリーズで描かれたエネルギーについて考えてみた
マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「プリキュア」。アニメのスタートから今年でちょうど20周年となった『プリキュア』シリーズから、主人公たちのアクションをエネルギーの観点から考察しました。
プリキュア20年の歴史
プリキュア20周年を記念して公開された『映画 プリキュアオールスターズF』。筆者も見に行って、人気の高さを実感した。
パンフレットは売り切れで、入荷も未定。これにも驚いたが、それだけではない。
プリキュアの映画では、プリキュアたちも持っている「ミラクルライト」が中学生以下の来場者に配布され、クライマックスではそれを点灯して振ることで、プリキュアたちにパワーを送るのが恒例になっている。
ところが今回は、70万個も作られたというミラクルライトが、筆者の行った劇場では品切れ。たくさんの子どもたちが、スマホを振って応援していた。
映画が始まると、その人気にも納得した。20年間に登場した全プリキュアが集結。その数たるや、実に78人!
敵はあまりにも強大で、一度は全員が倒された! それでも立ち上がり、宇宙空間に飛び出して、78人が4列の長方形に並び、地球をバックに、敵の前に立ちはだかる!
第1作『ふたりはプリキュア』のキュアブラックとキュアホワイトを先頭に、78人が鋭い三角形の陣形を組んで、敵に突進! このシーンに、筆者はプリキュアの歴史を見た!
20年の歴史の中で、プリキュアたちは、どれほどのエネルギーを放ってきたのだろう。
プリキュアの変身で世界の電力が賄える!
プリキュアといえば、まず思い浮かぶのがゴージャスな変身シーンである。
心浮き立つメロディーに乗って、全身がきらびやかな衣装に包まれ、イヤリングなどが装着されていく。髪が伸び、リボンが膨らみ、スカートにフリルが付く。自ら香水を振ったり、ネイルを塗ったりするプリキュアもいる。
大人の目には、とても戦いの準備をしているようには見えないが、これこそが少女たちの憧れを体現しているのだろう。
だが当然、時間がかかる。プリキュアの変身シーンには、いろいろなバージョンがあるが、筆者の測定によれば、フルバージョンの変身では、1人平均58秒! 4人チームの場合は全員で232秒。ほぼ4分!
すると心配になる。プリキュアに変身するのは、敵が出現したときのはず。変身している間に、敵に攻撃されたらどうするのか!?
その疑問には、第1作『ふたりはプリキュア』(2004年)の変身シーンが、既に答えている。
変身が始まると、地面から虹色の光の柱が立ち上り、主人公の美墨(みすみ)なぎさと雪城(ゆきしろ)ほのかを持ち上げる。2人の体は緑色の金属光沢を帯びており、そのまま天空へ運ばれて、そこでコスチュームを身にまとう。つまり2人は安全な場所で変身しており、敵が光の柱を攻撃しても、2人はそこにはいないのだ。
だが、光で人間を持ち上げることなど、できるのか。
理論的には可能である。光も当たった物を押す力を持つ。「光圧」や「放射圧」と呼ばれ、巨大なパラシュートで太陽光を受け、太陽と反対側に航行する「太陽帆船」の実験に、JAXAが2010年に成功している。
光圧は、次の式で求められる。
光圧=光の出力÷光速 ……①
光圧の単位は[N](ニュートン)で、我々が力の単位として使っている「kg重(多くの場合『重』は省略される)」に、地球の重力加速度=9.8[m/秒2]を掛ければ、[N]の単位になる。「出力」とは1秒間に放たれるエネルギーで、単位は[W](ワット)だ。
光速が3億[m/秒]という巨大な値なので、かなりの出力でも、光圧は驚くほど小さい。例えば真夏の太陽は、1㎡当たり850Wの出力を持つが、太陽光に垂直な1㎡の面に当たったとき、与える光圧は850÷3億=2.835×10-6[N]=2.835×10-6÷9.8=2.89×10-7[kg重]=0.289[mg重]。蚊の体重(3mg)の10分の1ほどでしかない。
逆に、光圧で人間を持ち上げるには、相当な出力が必要だ。式①を書き直すとこうなる。
物体を持ち上げる光の出力=質量×重力加速度×光速
2人の体重を50kgとすると、要求される出力は50×9.8×3億=1500億W=1億5000万kW。現在、日本で発電されている総電力(1億2000万kW)を超える!
しかも、1人の体に当たる分だけでこれなのだ。人体を真上あるいは真下から見た断面積は0.1㎡ほど。この狭い面積に、1億5000万kWが照射されるのだ。
これに対して光の柱は直径3mほどもあった。ここから光の柱全体の出力を計算すると、104億kW。全世界の総発電力(33億kW)を大きく上回る!
これほど強い光となると、敵もうかつに飛び込むのは危険である。0.1㎡に1億5000万kWが集中する光を受けた物は、温度が7万1000℃に上昇する!
なぎさとほのかの体は金属光沢を帯びているから光を反射するとみられるが、そうした備えのない敵が光の柱に飛び込むと、一瞬で焼け焦げ、蒸発する! 2人の変身は「天空で行われる」「邪魔する者を消滅させる」という二重の意味で安全なのだ。
プリキュア史上、この人が最強……か?
プリキュアの歴史の中で、最大のエネルギーを放ったのは、誰か?
筆者も全てのシーンを見たわけではないが、第5作『Yes!プリキュア5GoGo!』(2008年)に登場したミルキィローズが最有力候補ではないか……と、長く思ってきた。
彼女は、前作『Yes!プリキュア5』(2007年)からプリキュア5のマスコットだった妖精・ミルクが、人間に変身したプリキュア。普段は美々野(みみの)くるみと名乗っている。このミルキィローズが、『映画 プリキュアオールスターズDX みんなともだちっ☆奇跡の大集合!』(2009年)で恐るべきパンチを出した。
拳を固め、「はーッ!」と叫んで地面にパンチを打つと、瞬時に直径40mほどのクレーターが発生したのである! 深さは10mほどもあるように見えた。
パンチで地面にクレーターを発生させるには、次の2段階が必要になる。
(1)クレーターの内部の岩石を砕く
(2)発生した破片をクレーターの外部にたたき出す
球の一部を平面で切り取った図形を球冠(きゅうかん)という。クレーターが直径40m、高さ10mの球冠を逆さにした形だったとすれば、その内部にあった岩石の体積は2万5700㎥。標準的な岩石の密度(2.7t/㎥)から計算すると、重量は6万9300tとなる。岩石1tを破壊するには、10万Jのエネルギーが必要だから、ミルキィローズは(1)だけで69億3000万Jを放ったことになる。
さらに、破片をたたき出し、平均してクレーターの直径と同じ距離だけ飛ばしたとしたら、(2)で出したエネルギーは158億7000万J。なんと、こっちの方が大きい!
合計で228億J。これは、TNT爆薬5.3t分に等しい。驚くべきは、これをパンチでやったこと。ミルキィローズの体重を50kgとすると、パンチの速度は秒速123km。ここ、ご注意を。「時速」じゃありませんよ、「秒速」ですよ! 気温15℃のときの音速を基準にすれば、マッハ363!
もっとすごいプリキュアが!
ところが、前段落で「長く思ってきた」と書いたとおり、1年ほど前に驚異的なプリキュアが現れた。第19作『デリシャスパーティ♡プリキュア』(2022年)のキュアプレシャスだ。
普段は、おいしいものが大好きな和実(なごみ)ゆい。「おいしーなタウン」に住み、母親は定食屋さん「なごみ亭」を営んでいる。口癖は「ごはんは笑顔」で、おいしいものを食べると「デリシャスマイル~!」と満面の笑顔になる。プリキュアに変身するときの掛け声も、ポーズ(おにぎりを握るしぐさをする)も、衣装のデザインも、敵との戦い方も、全部お食事絡みだ。
戦いがお食事絡みとは、どういうことか。
プレシャスが構えに入ると、腕に「500」の数字が浮かび上がる。そこから「プリキュア500キロカロリーパンチ!」と叫んで相手を殴り飛ばすのだ!
このパンチは、2つの解釈が可能である。「パンチの威力が500kcal」「パンチを出す際に体内で消費されるエネルギーが500kcal」。しかし、パンチを出す度に、いちいち消費カロリーを紹介するとは考えにくいので、ここは前者の意味であり、相手にパンチの威力を宣言していると考えよう。
その場合、威力はどれほどになるのだろう。
ご存じのように、食べ物に含まれるエネルギーは[kcal]で表され、コンビニで売っている120gのおにぎりが180kcal。すると500キロカロリーパンチとは、おにぎり2~3個分。その程度で敵を倒せるのか、と思ってしまうが、[kcal]は極めて大きなエネルギーの単位で、1kcal=4184Jなのだ。
すると500kcal=209万J。プレシャスの体重を50kgとすると、拳のスピードは秒速1.18km=マッハ3.47!
いやいやそんなの、ミルキィローズに比べたら……とお思いの方に、新たな情報をお届けしよう。プレシャスのパンチはパワーアップするのだ。話が進むと1000kcalに! また進むと2000kcalに!
それでもミルキィローズには遠く及ばないが、最終的には驚異のパンチを出した。それは仲間のエネルギーをもらって放つ「プリキュアお腹いっぱいパンチ」。威力を表す数値は、もはや腕には現れず、拳の軌道に沿って「00000000」と、ゼロが8個並ぶ。つまり、最低でも1億キロカロリーパンチ!
それは4184億Jであり、プレシャスの体重を50kgとすると、拳の速度はマッハ1550! 破壊力はTNT爆薬105t分!
ところがここで、筆者は大事なことを思い出すのである。『ふたりはプリキュア』の光の柱について、「出力」は104億kWと計算したが、「エネルギー」は求めなかった。あれは、どけほどのエネルギーだったのか?
「出力=1秒当たりのエネルギー」だから、出力に秒数を掛ければエネルギーになる。改めて計ると、光の柱が立ち上っていたのは1分7秒。するとエネルギーは104億㎾×67秒=6960億kJ=696兆J! なんと、エネルギーだけに注目すれば、あの光の柱が最強だった!?
邪悪な者たちに、真っ向から立ち向かう少女たち。たった2人で始めた戦いが、気が付けば自分を含めて仲間は78人に。強い、優しい、かわいい、きれい、面白い、いろいろな個性が一つになった。その道のりに、幼い少女たちをはじめとして、どれほどの人が勇気づけられただろう。人間の想像力は、本当に素晴らしい!
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※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります
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イラスト:花小金井正幸
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