1. TOP
  2. 特集
  3. 地球上にあふれる「ゴミ」について考える
  4. 世界中で50兆個! 海面に漂う“マイクロプラスチック”が地球に及ぼす影響とは
特集
地球上にあふれる「ゴミ」について考える

世界中で50兆個! 海面に漂う“マイクロプラスチック”が地球に及ぼす影響とは

地球温暖化にもつながる海洋プラスチック汚染

ことし8月、タイで感染症を起こし死亡したジュゴンの赤ちゃんの胃袋からおよそ20cmのプラスチックが見つかり、10月には米フロリダ州で病死したウミガメの赤ちゃんの体内から大量のプラスチック片が発見されたというショッキングなニュースが報じられた。また、昨年6月には「ナショナルジオグラフィック」が、衰弱死したクジラの体内からビニール袋が80枚見つかったとも伝えている──。なぜ、海の生物の体内からプラスチックが見つかるのか? この事態には海洋ゴミの世界的な問題が関係しているようだ。プラスチックゴミを巡り、今、海で何が起きているのか。東京農工大学・高田秀重教授の話から考えていく。

マイクロプラスチックとは何か?

私たちが日々排出するプラスチックゴミ(レジ袋やストロー、ペットボトルのふたなど)が、適切に処理されず海に捨てられてしまうケースがある。

これらは海上をそのまま漂い続けるわけではない。紫外線や波のエネルギーにさらされボロボロに劣化し、5mm以下の粒子、“マイクロプラスチック”に形を変える。

気象庁が日本から約1000km離れた太平洋上から回収したマイクロプラスチック

画像提供:高田秀重教授

「海中を漂うマイクロプラスチックは小魚や二枚貝など小さな生物に誤飲され、体内に取り込まれ、その小さな生物をさらに大きな生物が捕食する。大きい生物はそもそも大きなプラスチックも誤飲しているし、世界中の海鳥のおよそ90%がプラスチックを摂食してしまっているという推定も報告されています」

海中を漂うのはマイクロプラスチックだけではない。化粧品や洗顔剤に含まれる“マイクロビーズ”(1mm未満のポリエチレン製の粒子)、プラスチック製品の原料“レジンペレット”(粒状の樹脂)、フリースなどから抜け落ちる微小な“繊維マイクロプラスチック”なども廃棄されている。

世界中で景観にも生態系にもダメージを与えているプラスチック類は“海洋プラスチック”と総称され、マイクロプラスチックがその大半を占めるという。

日本近海を泳ぐカタクチイワシの体内から見つかったプラスチックの内訳を解説する高田教授。「マイクロプラスチックが約80%と圧倒的な割合を占め、マイクロビーズは約10%、マイクロファイバーが5~10%だという。マイクロビーズは2016年の樹脂規制以降、自然由来のものに置き換える企業も出てきました」と語る

「海洋プラスチックは“物理的異物としての影響(粒子毒性)”が懸念され、各国の学会でもリスクが議論されていますが、『今はまだ問題ない』という認識で語られています。しかし、これはとても甘いですね」と高田教授は一石を投じる。

「それは、問題に対するアクションが先送りにされることはもちろん、特にマイクロプラスチックが抱えるもう一つの影響“化学物質のエネルギーによる影響”が注目されていないからです」

マイクロプラスチックが及ぼす影響

「プラスチックには劣化を少しでも抑えるための紫外線吸収剤、日常での酸化を抑える酸化防止剤など、さまざまな薬剤が加えられています。例えば、ペットボトルのふたにはノニルフェノールという物質が酸化防止剤として添加されています。ノニルフェノールは環境ホルモンでもあり、体内に入るとホルモンの動きをかく乱し、性や生殖に関わる部分での異常を引き起こすと言われています」

添加された薬剤は水に溶けにくい“疎水性”を有するものが使用され、私たちがペットボトルで飲料を飲む際に取り込む恐れはないという。

しかし、「海へ捨てられたペットボトルのふたが劣化し、マイクロプラスチックになって生物が取り込んでからが問題」だと高田教授は語る。

海洋プラスチックの海洋生物による摂食、および生態系内でプラスチックがいかに化学物質を運ぶかの解説図。生物の消化液には少なからず油分が含まれており、疎水性を持つ化学物質が溶け出してしまう

画像提供:高田秀重教授

「化学物質は水に溶け出しにくいため、劣化しても海水へ溶け出さずマイクロプラスチックの中に残ります。それが生物の体内に入ると、油分を持った消化液によって溶け出し脂肪や肝臓に移行してしまいます。プラスチックは排泄されても、有害な化学物質は生物に吸着されることがマイクロプラスチックの一番の問題だと考えられます」

このとき、生物に取り込まれるマイクロプラスチックは「海中に溶けている有害な化学物質までも吸着して体内へ運び込んでしまう」のだという。

「海中にはPCB(ポリ塩化ビフェニル)や、過去に使われていたDDT(有機塩素系の殺虫剤や農薬)が低濃度ではあるものの漂っています。これらも疎水性を有し、同じ特徴を持つプラスチックにくっついてしまい、世界中へ、または生物の体内へと運ばれてしまいます」

マイクロプラスチックを介して生物に取り込まれた化学物質は、さらに大きな生物に取り込まれ濃縮される。こうした食物連鎖によって濃度を増したものが、最終的に私たちの体内へと取り込まれることもないとは言い切れない。

フィリピンのマニラ湾に漂着した海洋プラスチックゴミ(その1)

画像提供:高田秀重教授

フィリピンのマニラ湾に漂着した海洋プラスチックゴミ(その2)。「国内でも海流と風の影響でプラスチックが大量に漂着する場所に生息する二枚貝やヤドカリから、マイクロプラスチックや有害な化学物質が検出されています」

画像提供:高田秀重教授

ことし、オーストラリアの研究者からは、海鳥が摂食し、血球のカルシウム濃度が下がり、コレステロール値が高くなっているという報告もされている。体内でプラスチックから化学物質が溶け出し、異常が起きていると考えられている。

現在、私たちの体内における影響は報告されていないが、「その一歩手前であると考えるべき」と、高田教授は警鐘を鳴らす。

海洋プラスチック削減への研究と取り組み

世界中でおよそ50兆個もの粒子が海を漂っていると推定されるマイクロプラスチック。

「添加剤や海水中の化学物質までをも体内へと届けてしまう、まさに“有害物質の運び屋”」と高田教授は例え、こう諭す。

「使い捨てではなく、長持ちするものでも20年、30年と使用すればボロボロになってしまいますよね。未来永劫(えいごう)安定した素材だという幻想を捨てて、劣化するものとしてプラスチックと付き合う必要があります。その上で、日常生活ではなるべくプラスチック以外の素材を選んで用いるべきです」

「農工大プラスチック削減5Rキャンパス」活動の概要。5RはReduce(削減)、Reuse(再利用)、Recycle(再生利用)、Renewable(再生可能資源への代替)、Research(研究)の頭文字に由来する

東京農工大学では、ことし8月「農工大プラスチック削減5Rキャンパス」活動を宣言。その一環として、石油ベースのプラスチックに代わる新素材の研究推進に取り組んでいる。

「プラスチックの利点は加工のしやすさ、柔軟性、透明性、そして水を通さないこと。そういう素材をバイオマス(有機物)エネルギーから作る技術の開発を進めています」

現在はセルロースやシルクなどの代替プラスチック開発を模索中。「シルクからプラスチックはできるものの、熱が加わると固くなるなどの課題を、化学的な細工で熱が加わっても成形できるよう考えています」と話す。

ある企業が開発したバイオマス(デンプン)由来のプラスチック。シート状に加工し「レジ袋の代替品がこれで作れればと研究中ですが、方向によっては切れて破れてしまうのが難点。最終的にきちんと分解されるのかも含めて、改良を進めていきたい」と期待を寄せて語る

また、海中からのマイクロプラスチック回収は困難だが、マイクロプラスチックになる前のプラスチックゴミを減らすことが効果的で、「例えば、海岸に打ち上げられたレジ袋一枚を回収すれば、マイクロプラスチック数千個を回収したのと同じ効果が得られます」と言う。

「海岸線に沿ってプラスチックゴミを回収しようとすると、人がアクセスし難い断崖絶壁のような場所も多く、プラスチックゴミがたまりっ放しになっています。そういった場所のプラスチックゴミを回収するために、工学部の先生と一緒にドローン技術を活用した“プラスチック回収ロボット”の研究にも取り組み始めたところです」

海洋プラスチック削減、私たちにできること

「農工大プラスチック削減5Rキャンパス」活動では、ペットボトルの使用を長期的に減らすために、2020年4月に学内の自動販売機からペットボトルの飲料がゼロになる予定だ。全国の教育機関では初の試みとなる。

「10月から “マイボトル用の給水器”を設置し、大学生協のレジ袋は有料に、また大学オリジナルのボールペンを木製に…など、使い捨てプラスチックを減らす具体的な行動が大学を挙げてスタートしています」

「パリ協定によって、2050年以降の石油ベースのプラスチック焼却が禁止され、これからは石油ベースのプラスチックを減らし、最終的になくしていく取り組みが必要」と高田教授は語る

こうした取り組みは、私たちも一人一人が意識を持てばできること。買い物にはエコバッグを携帯し、ビニール傘の使用を控え、ペットボトルからマイボトルへ移行する…といったアクションの他にも、身近なところで心掛けるべきことはないのだろうか。

「海洋プラスチックの削減は、プラスチックがどう処理されるかを考えなくてはいけません。石油ベースのプラスチックを燃やせば地球温暖化が進むわけですから。

例えば、せっけんは液体ではなく従来の固形のものの使用を薦めます。液体は詰め替え用ではありますが、プラスチックの容器が必要ですよね。固形であれば紙の包装・箱で販売、購入できて、詰め替え容器のプラスチックを減らすことにつながります。また、あまり知られていませんが、最近では歯磨き粉でもタブレット状のものがあり、チューブタイプの使用を控えられます」

仮に集めてリサイクルしようとしても、詰め替え容器やチューブは複数のプラスチック素材を貼り合わせて作られているため、その分別・分解には多大なエネルギーやコスト、手間がかかり、リサイクルには不向きである。

「そうすると燃やすしかなくなりますが、石油ベースのプラスチックを燃やせば当然、地球温暖化が進んでしまいます。エネルギー資源という観点において、石油から作られたプラスチックを燃やすことは、石油そのものを燃やすよりもエネルギー効率の悪い行為です。有限な資源である石油頼りでプラスチックを使い続けるより、バイオマスを、またはバイオマス由来の代替素材を使うことが、これからの時代は求められるでしょう」

海洋プラスチックを減らすことは、エネルギー資源の有効活用、ひいては地球温暖化の抑制にもつながっていく。

このことを踏まえて、私たちができる取り組みを実践していこう。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. 特集
  3. 地球上にあふれる「ゴミ」について考える
  4. 世界中で50兆個! 海面に漂う“マイクロプラスチック”が地球に及ぼす影響とは