特集
加速するテレワーク ~アフターコロナ、ウィズコロナの働き方を見据える~

在宅勤務向け家具作ってます! テレワークがもたらす可能性・多様性【後編】

一般の人の声やeスポーツの潮流などを参考にテレワーク向けの家具を開発する株式会社イトーキ

新型コロナウイルス感染拡大以前からテレワークへの移行を加速させていた株式会社イトーキ。後編では、同社が研究・開発を進めているテレワーク向けの家具の実情をレポートする。

テレワーク主流の時代を見据えた“働くための家具”とは

前編では、いち早く2018年4月にテレワーク制度を導入したイトーキにおける社員の働き方の変化、取り組みについて、同社企画本部の2人(内田智之氏・阿志賀由香氏)に話を伺った。

その際、内田氏(企画本部経営企画統括部・部長)は、「テレワークで職場の境界が曖昧になったことで、何をしたか?何を作ったか?という成果・アウトプットが求められる環境になる」と、自身のテレワーク移行も通して考えていた。

生活・労働の境目がぼやける在宅環境を見据えて、実はイトーキでは既にテレワーク環境に適した、そして成果を上げるためのサポートとなるような言わば“働くための家具”であるテレワーク向けの家具の研究・開発を始めていた。

同社パーソナル環境事業統括部の藤本有希氏と平社直己氏に、その詳細と押し寄せるテレワーク移行の波を受けて感じることについて伺った。

働き方改革を支援する商品開発を行っているパーソナル環境事業統括部の藤本氏(左)と平社氏(右)

イトーキでは、2017年3月から東京大学、神奈川県鎌倉市、同市民と共同でテレワーク向けの家具を開発するプロジェクトを進めていた。

「これからさらに加速するであろう少子高齢化社会において、日本ではどのような仕組みで対処していくかを研究する過程で、例えば子育てをしながら、親を介護しながら働く人はますます増えるだろうと。そのような人たちがよりテレワークを活用できる環境作りも、少子高齢化社会に対して必要なテーマではないか?という考えからスタートしました」と藤本氏が説明する。

開発拠点の鎌倉市では、コワーキングスペースの活用も見据え「鎌倉テレワーク・ライフスタイル研究会」を設立するなどテレワークを推奨してきた。イトーキは産・官・学・民が共同で新しい価値・ビジネスを創出するオープン・イノベーションの拠点「鎌倉リビングラボ」で、“仕事”と“家具”について関心の高い地元の方々を募り、市・東京大学も交えてさまざまな意見やキーワードの収集を実施した

開発にあたり強く意識したのが、「家庭の家具と並べても違和感のない、親和性の高い家具にすること。自宅におけるテレワークで家族のストレスを軽減する上でも特に重要だと考えました」と平社氏は言う。

そして、このプロジェクトで生み出された「ONOFF(オノフ)」などのテレワーク向けの家具には、今、問い合わせが殺到しているそうだ。

鎌倉で住民と一緒に開発した折り畳みワークデスク「ONOFF」。「パーテーションの高さは、少し目線を落とせば周囲を気にせず作業できて、背筋を伸ばせば向こうで遊んでいる子どもの様子が確認できる高さになっています。あとはどんなに便利でも家族に受け入れられなければ…という意見もあり、木目を主体とし居住空間に溶け込むデザインを心掛けました」(藤本氏)

「ONOFF」を展開した状態(椅子は含まれず)。ノートパソコンや文具、書類なども収まったまま開閉できる。パステル調のツートンカラーも目に優しい

もう一つ、鎌倉での開発ラインアップとは別に「椅子」の販売数が急増しているという。

前編で話を伺った阿志賀氏(同経営企画課)も「家の椅子に座り続けるのが結構つらいです。仕事向きではないというか、いかに今まで恵まれた環境で仕事していたのかと感じています」と話していた。同社はテレワーク向けの椅子のヒントとして意外にも“ゲーミングチェア”に着目した。

「世界的なeスポーツ市場の拡大と共に、長時間座り続けても疲れないゲーミングチェアの需要は高まっています。仮に在宅で1日7~8時間座り続けることを考えると、オフィスチェアよりも快適性のあるものとして理にかなっているかと思いました。ただ、黒ベースで赤や青のアクセントカラーが施されたデザインは娯楽向けであって、暮らしの中の家具としては違和感があり、そこを家庭に溶け込むように工夫しました」と平社氏が解説する。

ゲーミングチェアをベースに昨年開発されたタスクチェア「X FOCUS CHAIR」。「家庭のソファなどに用いられる優しい色合いのファブリックの布地で、とても柔らかく通気性もよく仕上がっています。ネック(枕)、ランバー(腰当て)サポートによる体に沿う形状と、背もたれの角度調整が容易で、作業に適した体勢を作りやすく、足を床から離して横になれるリクライニング性も特徴です」(平社氏)

通常であれば椅子が最も販売数を伸ばすのは3月下旬なのだそう。

だが、藤本氏によれば「ことしに限っては、4月の1週目だけで3月の倍、2週目はさらにその倍の数が売れました。こんな売れ方は過去に前例がないのです。中でも女性の方からの問い合わせが多いです。やはり環境を整えて心身への負担を減らして効率よく…ということに敏感な方が多いのかもしれません」とのこと。

テレワーク環境を整える上では、最初はどうしても通信・デジタル環境に目がいきがち。しかし長期的に考えれば、体に負担のない環境を整えること、家事を掛け持ちしながら働くための自身のエネルギーを効率よく回し、働こうと思うのは当然の帰結であり、今求められているのも納得だ。

オフィス家具メーカーが考え始めたアフターコロナ

今、一気に押し寄せたテレワークという流れの下で、藤本氏は「多くの方が困っているのでは?」と分析する。

「例えば、皆さんが書斎や自分の部屋を所有しているわけではありませんし、子どもたちをほったらかしにするわけにもいかないでしょう。お子さんの学習机で仕事をしている方、ダイニングテーブルで作業されている方も多いと思います。ですが、サイズが合わない、長い時間座るのはちょっとつらいと感じているのが現状ではないでしょうか。そういった状況も踏まえてですが、これからの家庭の家具は、テレワークに適した機能を兼ね備えていくだろうと考えています」

平社氏も「仕事とくつろぎの空間がミックスされていく。そんな方向性を感じながら開発しています」と続ける。

「限られた空間で、同じリソースを使いながら違う機能に変容させる。そういった運用の仕方になるのかなと思います。生活空間と仕事空間がない交ぜになることへの解決策の提示がこれからのミッションですね」

「これからはテレワークを併用した働き方が普及し、今まで以上に家庭の中で働く環境が整備されていくでしょう。私たちはそこを生業にしていますので、皆さんの声を集めて、もっと深掘りりしてラインアップを増やしていけたらと思います」(藤本氏)

「『テレワークだからこそできるようになった』というプラスの面もよく耳にします。特に子育てをされているお母さんからですね。そういった方に、今あるものを少しアップデートできるような商品が届けられたら…というのが今後の方向性だと思っています」(平社氏)

しかし、テレワークが加速すればおのずと次は“オフィス”の機能の在り方が問われるはずだ。

前編で話を伺った2人も、経営企画を担う立場からオフィスの必要性・在り方について述懐した。

「『オフィスはなんで必要なのだろう?』という疑問と向き合っています。この疑問についてもっと深く考えなければいけないと、内田ともよく議論しています。“オフィスに通う意義”がなければ、弊社の事業を揺るがしかねませんので…」

内田氏も「テレワークを経験して『オフィスは無くてもよい』という感覚が、アフターコロナに広がるかもしれない」と危機感を示す。

2018年、イトーキはABWと“WELL Building StandardTM”(空気、水、食物、光、フィットネス、快適性、こころの7カテゴリにおいて快適、安全、健康への配慮度合いを測る国際的認証) に即した新本社オフィス「ITOKI TOKYO XORK」(中央区日本橋)へ新設。快適に働くことを追求し、企業やワーカーへ提案し続けている

「私たちが“ABW(Activity Based Working)”を通して働き方を見直してきたように、次は“オフィスの在り方”について思考をブラッシュアップしないと生き残れません。テレワークだからできることが見出せるのなら、オフィスだからこそできることがきっと再発見されるとも思います。今回のような事態は、何もしなければ脅威になりますが、逆に新しい価値を考えるチャンスになるとも思います」(内田氏)

イトーキは2018年に本社を移転し、新オフィスを「ITOKI TOKYO XORK」と名付けている。「XORK(ゾーク)」とは、これまでの働き方「WORK」の先への進化を、アルファベットの「W」に続く「X」と掛け合わせて表現した造語である。

困難な状況でも新しい働き方を見据え続ける同社はアフターコロナの世界で、私たちがまだ想像もできない「XORK」を提示してくれるかもしれない。

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