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ペットと生きる、未来。~テクノロジーが犬・猫との暮らしにもたらす変化~

ペットテック市場に成長の兆し?独自手法で進化するベンチャーがカギに

ビッグデータで変わるペットの飼い方。市場動向から見るペットテックの今

日本では15歳未満の子どもの数(1533万人)を犬や猫の飼育頭数(1857万5000頭/共に2019年時点)が上回るほど、ペットを家族に迎える需要が高まっている。その一方で、殺処分や多頭飼育崩壊など、多くの問題は依然として横たわったまま。人と動物のよりよい共生のために、そうした問題にテクノロジーで挑むのが「ペットテック」の分野だ。まずは市場全体の動向を見ていこう。

市場規模は右肩上がり!?ペットテックの今と注目サービス

市場調査を行う英・ユーロモニターによる世界市場調査データベース「Passport」のレポート「THE WORLD MARKET FOR PET CARE」によれば、ペット市場は今、全世界で1250億ドル(13兆円ほど)規模にまで成長している。中でも飼い犬・飼い猫とその飼い主をサポートする「ペットテック」が、世界各地で続々と登場し注目を集めている。

ペットテックとは、先端デジタル技術を使ったペット向けのテクノロジーやサービス、商品の総称だ。例えば米国では、ペットテック市場規模が2018年に45億ドル(約4800億円)だったのに対し、2025年には200億ドル(約2兆1000億円)にまで成長すると予測されている(Global Market Insights, Inc.調べ)。

世界の市場に関する調査などを実施するGlobal Market Insights, Inc.が発表した米国ペットテック市場の動向。農場での牛のヘルスモニタリングなども含んでいるものの、その市場規模はかなり大きい

出典:Global Market Insights, Inc.ニュースリリースより

先をいく米国に比べれば規模は小さいながらも、日本も右肩上がりの傾向にあるのは同じだ。2017年度に2億3000万円、2018年度には7億4000万円だった国内市場規模は、2023年度までに50億3000万円まで拡大するとの予測もある(出典:株式会社矢野経済研究所、2019年9月発表)。

国内のペットテック市場規模推移と2019年度以降の予測

出典:株式会社矢野経済研究所「ペットテック市場に関する調査」(2019年)を参考に作成

では、日本のペットテック市場は具体的にどのように変遷し、成長を遂げようとしているのか。国内のペットテック市場の調査を行った民間調査機関・矢野経済研究所 フードグループ上級研究員の泉尾尚紀氏をはじめ、業界関係者に話を聞いた。

「ペットテックが日本で本格的に盛り上がり始めたのは、2016年ごろからです。大手電機メーカーが参入すると同時に、ベンチャー企業の参入も増加し始めました。ベンチャー企業が増加した背景には、ベンチャーキャピタル(VC)やクラウドファンディングなど資金調達手段の多様化があります。新たなアイデアを飼育者、賛同者、投資家に直接投げかけることで、商品・サービス開発の機会を得ることに成功しています」(泉尾氏)

ペットテック関連の商品として最もポピュラーなものの一つに、「見守りカメラ」がある。飼い主の留守中にペットが「安全か」「いたずらしていないか」「コミュニケーションを必要としていないか」などを遠隔で確認することができ、カメラの映像を見ることができないときにもアラート通知を受けることができるというものだ。

昨今の動向としては、その見守りカメラにAI(人工知能)を搭載した商品も増えている。AIを搭載した見守りカメラはペットの動きを精密に認識。飼い主に、より多くの情報を正確に伝えることができる。

例えば、「Furbo(ファーボ)」というAI搭載型ドッグカメラは、留守番をしている犬が近付いてきたり、何らかのアクションをしたりすると、Furboがその動作を認識して自動撮影。飼い主のスマートフォンに通知され、常に画面を見ていなくても、コミュニケーションを取りたいタイミングが分かるようにAIがサポートしてくれる。メディアなどにも広く取り上げられ、業界を代表するヒット商品となった。

ペットテックの中で現在唯一の“キラー商品”とも言われる「Furbo」。今後、どんな商品が追随していくのだろうか

画像出典:Furbo公式HPより

他にも、対象物に設定した犬や猫の映像だけを認識・識別するAI技術も実現している。そう聞いただけでは普通のことにも思えるが、これは技術的にとても大きな可能性を秘めたものだ。

というのも、従来の見守りカメラ(他の監視系カメラも含む)は、「風で動くカーテン」や「カメラの前を通り過ぎる人」など、得たいデータとは無関係の映像も全て録画し、それを識別するのはあくまで人間の役割だった。録画時間や量が増えると、結局は人間の目視による確認作業が発生する。最終的に、面倒になって使わなくなるという悪循環に陥りやすかった。

しかし、飼い主が知りたいペットの動きだけをAIが自動的に選別してくれるとすればどうか。飼い主の労力を省エネできるのみならず、ペットの状態をより正確に把握することにつながるだろう。

「犬や猫の行動を映像で記録し、解析のためにAIを活用していく先に、ヘルスケアと結びつけようという目標もあるようです。すなわち、犬の動きやクセなど行動に関するビッグデータを集め、最終的に疾患との関連性を導き出すという構想です」(泉尾氏)

ペットテックが愛犬・愛猫たちの体調管理を変える

ペットとの暮らしにおいて、飼い主が最も気になるのが、愛犬や愛猫などの体調管理だろう。そういったニーズから、「ペットテック×ヘルスケア」という文脈では、言葉を交わせない動物たちに代わって、彼らの体調を飼い主に知らせる技術に期待が高まっている。例えば、主要な領域となり始めている分野に「尿」の分析がある。代表的な商品としては、猫用スマートトイレ「toletta(トレッタ)」が話題だ。

猫は泌尿器疾患にかかりやすいが、猫の体重や尿の量・回数を客観的に記録していくことで、その健康状態を可視化するというのがtolettaの機能であり、特徴だ。

猫の場合、多頭飼いしている飼い主も多く、初めにどの猫がおしっこをしたかを正確に識別する必要がある。そこで、tolettaを開発するトレッタキャッツ(旧社名:ハチたま)では、スマートトイレのみならず、AIを使った猫の顔認証技術も開発した。

「toletta」。収集したデータをもとに、いずれは獣医療との連携が可能になるかもしれない

画像出典:toletta公式HPより

動物たちの体調管理という視点で見ると、装着の義務化が決まった「マイクロチップ」についても、いずれなんらかの形で活用できるのではないかと期待してしまう。

マイクロチップは、ペットの個体情報を記録しておき、外部から読み取れるようにする装置で、2019年6月には飼育されている犬・猫にその装着を義務付けることを柱とする改正動物愛護法が成立している。

米国では、失踪したペットの捜索などGPSを使った商品も普及している。日本でも行政との連携が可能となるならば、マイクロチップもさまざまな活用ができるかもしれない。ペットテックに関心を示すエンジニアからは、「チャレンジしたいデジタルプレイヤーも多いだろう」という声も聞こえてくる。

しかし一方で、別の関係者からは「現状としては、ペットの体に埋め込むという特性上、機能としては限られたことしかできないのではないか」との指摘もある。マイクロチップは「Suica」などのICカードのように、特定の端末に近付けると電気が発生し、データを送信するという仕組みだ。その際、微弱な電気を一瞬発生させる程度のため、大きなデータを送信することは難しい。マイクロチップの活用については、これから模索が始まる、といったところだろう。

ペットテック市場の現在から見る成長筋

ペットテック市場は順調に成長を遂げているものの、「ビジネス的な難しさも多そうだ」と泉尾氏は言う。

実際、市場が黎明期であるが故に、ペットテック関連商品の流通経路が限られるといった環境要因は否定できず、ビジネス的な課題として浮上している。

そんな中、成功しているベンチャー企業の商品・サービスには一定の共通点も見えてきた。「Furbo」や「toletta」は、SNSの利活用、メディアを通じた話題づくり、コミュニティへの訴求、クラウドファンディングを利用した投資家・ユーザーとのコミュニケーションなど、独自のマーケティング手法で販売を伸ばしている。

常に新しいことを仕掛け、ユーザーから支持を獲得しつつ、サービスを充実させていくというサイクルがそこにある。今後、小回りが利くベンチャー企業が市場の担い手の一角になるというシナリオは充分あり得るはずだ。

一方で、テクノロジーが使いにくいとユーザーの絶対数は増えない。いかに使いやすく商品に技術を落とし込むかが競争力のカギになる。同時に、米国など海外各国と日本のペットに対する認識の差も考慮に入れるべきだろう。

例えば、ペットテックの需要が大きい米国の飼い主は、ペットを「パートナー」として対等に捉える文化があるが、日本の飼い主は「子ども」のように扱う風潮がある。

日本では「安全やいたずらを見張るため」に購入される見守りカメラも、米国では「ペットを孤独にさせている自分の罪悪感を払拭するため」に購入されるなど、用途は同じでも、需要が微妙に違うのだ。こうしたペットに対する飼い主の文化を深く理解できたときこそ、日本のペットテック産業は成長にドライブがかかるだろう。

なお、日本では法律が変わり認可制になって以降、安易にブリーダーとして生体を販売することができなくなった。そのため新規で売買されるペットの数は限定され、価格が高騰している。10年前に10万円程度だった生体が、現在では20~30万円で取り引きされている。

「犬と猫で違いはありますが、“ペットフード業界”では飼育頭数の伸び悩みや、小型犬の人気によりフード消費量が減少する中、高付加価値戦略を採用することで売上を伸ばすメーカーも存在しています。現在のペット市場には、以前よりも高額な生体を手に入れることができ、高付加価値商品を購入したい飼育者層が一定数存在する。このことは、ペットテックの市場を考える上でも見過ごせないかもしれません」(泉尾氏)

業界外部のリサーチャーから見た現在のペットテックという産業は、新たな技術が続々と投入されて発展途上ではあるものの、比較的限られたマーケットのようだ。一方、日本の代表的なペットテックベンチャー・SYRUP(シロップ)のCEO・大久保泰介氏は、「世界的に、ペットに関する情報やアイテムの取得がオンライン化している流れがあり、日本でもそうした動きが強まるでしょう」と言及する。

本特集第2回では、SYRUPが仕掛ける新たなデジタルサービスから、トラッキング技術、ライフログ技術が増加しているというペットテック業界の今に迫る。

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