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エッセンシャルワーカーを支える新技術

入店者数をAIで制御! スーパーマーケットを助けるデジタルテクノロジー

【小売】店内の混雑をAI&サイネージでコントロール

ことし4月、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が発令され、世の中が密集・密接・密閉の「3密」を避ける新しい生活様式を少しずつ取り込み始めた。その中でもスーパーマーケットに代表される小売業界はレジ回りや接客、そして店内の混雑などをいかに改善・軽減するかという課題を突き付けられ、従業員にも負担と不安がつきまとっている。特集1回目の今回は、そんな小売業界のエッセンシャルワーカーをサポートするべく、入店者数をAIで制御する案内ディスプレイを開発した株式会社ビズライト・テクノロジーの三島康弘氏に話を伺った。

事業の先行きが不透明な中から生まれたアイデア

IoTやAIなど、最新のIT技術を用いたソフトウェア開発で、広告業界などで実績を上げてきたビズライト・テクノロジー。そんな時代の最先端を行く開発者集団だが、このコロナ禍において事業は決して順風満帆ではなかった。

“AIで利用客の混雑状況を把握し、入店者数を制御するデジタルサイネージシステムをスーパーに提供”するアイデアは、そんな逆境の中から生まれたのだとか。

「弊社がもともと行っていた『埼玉高速鉄道の電車内にカメラとディスプレイを設置し、AIで人々の行動や性別、年齢層を解析してそれに見合った広告を流す』といった事業が、コロナ禍でストップしてしまったのです。外出自粛要請によって、電車に乗る人の数が極端に減少しましたからね。

そこでこの“カメラで映した画像をAIで分析する”というテクノロジーを用いた新しい事業ができないかと考えました。すると、弊社のスタッフから『スーパーに買い物に行ったときの混雑状況が気になる』という意見が。それなら、電車内ビジョンに用いているシステムを活用できるのではないかということで、急遽ゴールデンウィーク前から開発に着手したのです」

「現在は他店のスーパーをはじめ、イベント業者や図書館、温泉施設といった"密"になりやすい業態からの問い合わせが多いですね」と三島氏(※オンラインアプリ「Zoom」を介し取材)

システム自体を要約すると、こうだ。

まず、店舗入り口に設置されたカメラが入店者をとらえる(その間、デジタルサイネージには「マスクの着用」「手の消毒」を促す画面が映されている)。やがて、AIが“密”となる人数と判断した利用客数に達すると、画面は「入場制限中」へと切り替わる。これによって入店者数を制御することができ、小売店舗での3密を防ぐことが可能になるというものだ。

このシステムに興味を示したのが、千葉県を中心に「フードランドレオ」などのスーパーマーケットを運営する宍倉株式会社だった。

店舗入り口に設置されたカメラが来客人数や動向を分析する

「コロナウイルス感染拡大から社員やパートを含めた従業員、お客さまを守り、安心して働き、来店していただくということは大前提。その上で、コロナショックが落ち着いた後の将来的なことまで含めて、先を見据えたシステムを作ってほしいとリクエストされました。

そこで、単純に人数をカウントするだけではなく、お客さまはどんな属性で、どんな行動パターンを取るのかといったことを解析できるAIカメラとディスプレイの開発を進めたのです」

三島氏は「ディスプレイの設置は『きちんと3密の対策をしている』という世間に対するメッセージ効果もあると考えます」と語る

都心部とは異なる小売環境を知り、展望を再考へ

店内の混雑状況を入り口のディスプレイにリアルタイム表示、またwebなどで来店前にチェックすることも可能なこのシステムは、来店客が混雑時を事前に避けることで人の動きを制御できるため、エネルギー効率の観点から見ても画期的で非常に便利だ。

しかし三島氏は、都心のスーパーでは考えられない、郊外型店舗ならではのある光景を目の当たりにする。

「もともとは、AIで人数を制御して『これ以上入店すると人口密度が高くなるので入らないでください』といったメッセージをディスプレイに映せばいいだけだと思っていたのです。しかし、千葉市緑区誉田町という地方都市(千葉駅から南東方向に電車で15分ほど)、郊外独自の深い人間関係まで考慮できていませんでした。入場制限待ちで並んでいるお客さまと店舗スタッフが顔見知りで会話をしたり、店長がわざわざあいさつをしに行ったりするんですよ(笑)。都心のスーパーではまず考えられない光景でしたね。だからこそわれわれも“最新技術”プラス、エッセンシャルワーカーとお客さまとの関係性も考慮した“人情”を併せ持ったサービスを提供しなければならないと考えを改めました。

現在、お店側と協力して行おうとしているのは、例えば、手作りのお総菜コーナーにおいてどのタイミングでお弁当を作り出すのが効率がいいのか、鮮魚コーナーにおいてどのタイミングで刺身を切って並べるのが最も手に取ってもらいやすいのかなどをAIでアナライズするというものです。それによって売り上げの向上が見込めることはもちろんですが、売れ残り食材の廃棄量(食品ロス)の減少にもつながると信じています」

ディスプレイ裏側に設置されたシステム。「機材の費用はどんどん安価になってきているものの、設置工事にどうしても人件費がかかってしまいます。工事費用をどうやって下げるかというのが今後の課題の一つですね」(三島氏)

また、郊外型の店舗においては高齢の利用者が多いことも顕著だ。

「山間に住んでいる高齢者の方などは、店舗に出向くのも一苦労なはず。実際、移動販売車での買い物を利用される方も多いのですが、雨天の中、到着を外で待つおじいちゃんやおばあちゃんもいらっしゃるそうです。それを回避するために、移動販売車は何分後に到着予定だという情報をwebで見られるようにすれば、それまで家で待機していられますよね。高齢の方にwebの扱いに慣れていただくという高いハードルもありますが…。店側やお客さまとコミュニケーションを取っていく中で、われわれの果たすべき役割というのが都会と地方都市とでは全く異なるということを改めて考えさせられました」

コロナ禍におけるこれからの最新テクノロジーの可能性

入り口にディスプレイを設置したことで、来店客からうれしい言葉をかけられることもあったそうだ。

「まず、その取り組みに関して素直に高評価をいただきました。混雑状況が見えるのは『単純にありがたい』という言葉と共に、『安全に買い物ができるようにお店側が工夫してくれているのがうれしい』という声が多かったですね。また、スマートフォンでリアルタイムの混雑状況が確認できる仕組みは特に若い主婦層から支持されました。ただ、やはり高齢者の方からは操作方法への厳しい意見もありました。ここはこれからの課題ですね」

7月17日に、東京都では1日として過去最多となる293人の感染者を出した新型コロナウイルス。第二波、第三波の襲来も懸念される中、新たなワクチンの開発などすぐに明るいニュースが飛び込んでくる気配は見られない。日常スーパーを利用するわれわれがこういったサービスを活用すれば、エッセンシャルワーカーの不安や負担を軽減することにもつながるはず。

最後に、これからも予断を許さないコロナ禍における最新テクノロジーの可能性と、今後エッセンシャルワーカーをどのようにサポートし、活用していくのかを三島氏に尋ねた。

「AIの果たす役割がどんどん広く、多様化してきていると感じていますし、AIの導入を検討していたあらゆる業界の動向・スピードが速くなってきていますね。例えば、3密の回避に関してもAIカメラで計測する方法が用いられると思いますし、それを急速に進める動きも見て取れます。それに伴い、最新テクノロジーも以前と比べると驚くようなコストで作ることができるようになっています。

また、スーパーなどにおいても、これまでは“密”を作ることで売り上げを伸ばして、経営が成り立っていた側面があると思います。毎週特定の曜日の特売日であったり、毎日特定の時間帯のセールであったり…そういったことがもう難しくなってくるわけですよね。だからこそ、密にならないようお客さまを分散させていく中で、どのようなマーケティングを行っていくのかが焦点になるはずです。お客さまがどのような行動をとるのか、何を望んで来店するのかといったニーズなどの分析は、AIが大いに助けられると思っています。そのことで、エッセンシャルワーカーの皆さんの働き方もサポートできるまでになれば、とてもうれしいですね」

エッセンシャルワーカーを助けるためのソリューション提供・開発は、今がまさにターニングポイントだといえる。

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