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2021.03.09
世界初! 商船三井が取り組む洋上での冷熱発電とは?
LNG再ガス化で生じる冷熱エネルギーを海の上で活用
冷熱エネルギーとは、雪や地下水など自然がもたらすものに限らない。例えば液化天然ガス(LNG)を再ガス化する際にも冷熱は発生している。国内外のLNG輸送を担う株式会社商船三井は今、その冷熱を海上で利用する発電システムの開発を進めているという。シンガポールと東京にいる同プロジェクトメンバーをオンラインでつなぎ、その取り組みと冷熱エネルギーの可能性について話を聞いた。
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高まるFSRUの需要に応えるために
2020年2月、商船三井は韓国の大宇造船海洋(Daewoo Shipbuilding & Marine Engineering、以下、DSME)と共同で、開発中のFSRU(Floating Storage and Regasification Unit:浮体式LNG貯蔵再ガス化設備)向け「Cyro-Powered Regas(再ガス冷熱発電)」システムについて、世界で初めてフランスの船級協会から設計基本承認(AIP)を取得した。
FSRUとは、洋上でLNGを受け入れてタンクに貯蔵し、必要に応じてLNGを温めて再ガス化した高圧ガスを陸上パイプラインに送出する浮体式設備を指す。そして最近耳にすることも多いLNGは、日本では火力発電所をはじめとした発電用や都市ガス用に使われる燃料のこと。もとは天然ガスだが体積を縮小させるためマイナス162℃以下に冷やすことで液体化している。
商船三井はそのLNG輸送の多くを担ってきた海運会社であり、日本で唯一LNG船とFSRUの操業実績を持つ企業でもある。2017年には世界最大のFSRU「MOL FSRU Challenger」が竣工している。
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LNGを貯蔵するFSRU(写真左)と、輸送を担うLNG船(写真右)
画像提供:株式会社商船三井
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FSRUは、海洋上に浮かぶLNGの貯蔵基地のようなもので、諸外国のLNGバリューチェーンで重要な役割を担っている
画像提供:株式会社商船三井
しかし、LNGのほとんどを輸入に頼る日本では、古くからLNG基地を臨海部に建設してきた。北は北海道から南は沖縄まで、全国37カ所(2021年度には新居浜LNG基地も開業予定)で陸上LNG基地が稼働しており(The LNG industry, GIIGNL Annual Report 2019より)、先述したMOL FSRU Challengerも日本で使われるものではなく、海外の洋上LNG受入基地として建造されたものだ。
「FSRUは、基地といっても構造は船そのものなので、陸上にLNG受入基地を建設するよりも比較的低コストかつ短期間に導入することが可能です。許認可にかかる期間も短いため、エネルギー需要の拡大と並行して、2010年代後半からFSRUを導入する新興国が増えてきました。現在では世界で40隻ほどが稼働しており、われわれも操業実績のあるトルコに加え、今後はインドネシア、香港などでもFSRUを操業する予定です。FSRUを待っているのは、そうした諸外国なのです」
そう話すのは、商船三井海洋技術部 副部長の近藤良和氏。さらに、同社執行役員 ガス・海洋事業部長の新田恭哉氏が続ける。
「そもそも、ガス需要が増えているアジアの国々は遠浅であることが多く、港湾整備が容易ではありません。FSRUであれば沖に設置できるため、そうした課題もクリアできます。とはいえ、いくら低コスト・短期間での導入が可能といっても、新興国にとってその負担は決して小さくはありません。『再ガス冷熱発電システム』を使うと操業のコストを下げることができます」
LNGから生まれる冷熱エネルギーのポテンシャル
さらなるコスト削減を模索する中、商船三井の子会社でアジア・中東・大洋州を管轄するMOL (ASIA OCEANIA) PTE.LTD.の中山真実氏が注目したのが、LNGを再ガス化する際に大量に発生する冷熱エネルギーだった。
「2011年のIMO/MEPC(国際海事機関/海洋環境保護委員会)によって、船舶の二酸化炭素(CO2)排出量に制限を設けるための条約が採択されました。それをきっかけに海運業界全体で消費燃料の削減、つまりCO2排出量の削減への取り組みが加速しています。2015年ごろからCO2排出削減の技術の一つとして、主エンジンの掃気冷却で発生する排熱を利用した『船用バイナリー発電』を導入する機運が高まり、『LNGの冷熱エネルギーも再利用できれば、CO2排出削減が期待できるのではないか』と考えたのが開発に乗り出したきっかけです」
※船用バイナリー発電について詳しくはこちら
『技術の応用で光明が射す再エネ関連ビジネス』
LNGには、冷熱エネルギーというポテンシャルがある。しかし、FSRUではこれまで特に利用実績がなく、その冷熱エネルギーは海水や大気に放出されていた。
「調べてみると、標準サイズのFSRUでLNGの再ガス化によって発生する冷熱エネルギーから期待できる発電量は約4~5MW(メガワット)にも達することが分かり、そのポテンシャルは非常に高い。LNGの陸上受入基地でも昔から冷熱発電が行われていることを知り、FSRUにも応用できないかと試行錯誤を始めたのです」(中山氏)
実はこうした冷熱エネルギーによる発電は、陸上のLNG受入基地では40年以上の実績がある。マイナス162℃という超低温の液体であるLNGは、およそ180℃も温度が高い海水で温められて気化し、天然ガスに戻される。その際に発生する冷熱エネルギーを別の熱媒体に移し、発生する蒸気でタービンを回して発電するという仕組みが取られてきた。これを、「有機ランキンサイクル」と呼ぶ。
しかし、FSRUは洋上に設置されるため、当然、波による“揺れ”がつきものだ。この揺れによってタービンを安定的に回すことが難しいため、いくつかのメーカーにFSRU用のタービン発電機の製造を依頼したが、「陸上の技術を海上に転用するのは容易ではない」と、断られ続けたという。
「ようやく開発を承諾してくれたのは、三菱重工マリンマシナリさんでした。同社はもともと舶用蒸気タービン発電機を生産しており、それを冷熱発電に応用できるかもしれない、と提案してくれたのです」(中山氏)
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三菱重工マリンマシナリが開発中の冷熱発電用タービン発電機の3Dイメージ
画像提供:三菱重工マリンマシナリ株式会社
再ガス冷熱発電システムを導入するFSRUの造船は、FSRU「MOL FSRU Challenger」も納入していた韓国の造船会社・DSMEに依頼。システムの肝となるタービン発電機の開発パートナーも見つかったことで、中山氏の構想は実現に近づいていった。
「ただFSRU向けのシステム開発だけではなく、発電システムとしての精度も上げたいと考えました。有機ランキンサイクルの課題は、再ガス化するLNGの量が少ないと発電できる量も減ってしまうという点です。加えて、追加機器の導入にはコストがかかるため、採算性も伴わなければ導入の動機は上がりません。導入ハードルを下げるために、システムをコンパクトなサイズにし、採算を合わせていきました。そうしてフランスの第三者機関、船級協会・ビューローベリタス(※)から基本設計承認(AIP)を取得し、安全性を承認されたことで、いよいよ販売に向けて動きだしたところです」
※世界最初の第三者機関船級協会として発足。船舶の船体・艤装・機関について、その構造や現状が良好な状態にあると認め、船級の登録に関する規則を定め、その検査を行う。
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商船三井とDSMEが共同で開発を進める「再ガス冷熱発電システム」のイメージ
画像提供:株式会社商船三井
燃料費を年間約3億円削減するコストメリット
この再ガス冷熱発電システムが実用化されれば、「最大定格流量で稼働させた場合、再ガス化プロセスにおける電力消費を約70%分回収し、CO2を最大約50%削減することができると予測している」(中山氏)という。では、当初の目的でもあったコストメリットについては、どのように考えられているのだろうか。
「FSRUに搭載されている再ガス化装置を動かすためには、当然電気が必要です。その電気は、FSRUのエンジンルームに設置されたディーゼル発電機によって賄われています。従来のFSRUでは、自然に気化したLNG(BOG/ボイルオフガス)をディーゼル発電機で燃やして発電してきました。一方、再ガス冷熱発電システムを導入すれば、冷熱で発電した電気を活用し、ディーゼル発電機で燃やすLNGを削減できます。LNGの価格にもよりますが、再ガスの最大定格流量で試算すると年間約3億円の燃料費削減につながるのです」(中山氏)
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FSRUはLNG船に再ガス化装置を載せたもの。LNG船としても使用可能だ
画像提供:株式会社商船三井
2021年5月には、いよいよ小型のデモ実証機で検証を行う商船三井。今後、各国のFSRUの新規プロジェクトにこのシステムを売り込んでいく計画だ。
「実は、LNG火力発電所の新設に合わせてFSRUを導入したいという需要が近年高まっています。しかし、FSRUが止まれば発電所も停止してしまうため、極めて高い信頼性と安全性が求められるのです。その中で、日本の技術力はアジアのお客様から高く評価していただいています。日本の電力会社さんなどと手を組み、FSRU×発電所のようなプロジェクトを“オールジャパン”で取り組んでいければ、新たなビジネスチャンスが広がっていくのではないかと考えています」(前出・新田氏)
さらに同社海洋技術部長の山口誠氏が、発電以外にも期待される冷熱のポテンシャルについて言及する。
「地球温暖化防止の観点から、CO2を直接空気中から回収する『ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)』、さらには次世代燃料として水素やアンモニアが注目されています。LNGの冷熱エネルギーを、CO2や水素、アンモニアの液化や冷却保存のために使うといったことも、今後できるのではないかと考えています。FSRUに限らず、LNGの冷熱を小規模でも身近なところに活用していくことで、CO2の排出量削減にもさらに貢献していけたらと思っています」
LNG貯蔵基地内のエネルギー循環だけでなく、次世代エネルギー源のバックアップにも利用価値が出てきた冷熱エネルギー。海運会社の枠を超え、その活用の未来を見据える商船三井の今後の取り組みに注目したい。
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