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CO2の新活用法

CO2からメタンを合成! “メタネーション”とは?

日立造船株式会社が切り開くカーボンフリーなエネルギー社会

メタンガスは二酸化炭素(CO2)に次ぐ地球温暖化の原因物質で、2021年の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)でも取り上げられた。しかし、メタンそのものは天然ガスの主成分でもあり、発電のための燃料などに広く用いられている。日立造船株式会社では、排ガスなどに含まれるCO2を活用することでメタンを合成する“メタネーション”の研究を続け、昨今、実用可能な装置を開発した。その研究における道のりと共に、同社の“カーボンリサイクル”のビジョンを聞いた。

クリーンな水素と、回収した二酸化炭素でメタンを作る

メタンの分子は、1つの炭素原子「C」に4つの水素原子「H」が結合したもの(CH4)──。

ノーベル化学賞を受賞(1912年)したフランスの化学者ポール・サバティエが、CO2の分子1つに対して触媒上で4つの水素原子を反応させ、メタンと水を生成する技術“サバティエ反応”を20世紀初頭に発見したのが、メタネーション研究の始まりだ。

二酸化炭素と水素を触媒に通すことで、メタンと水が発生。反応器から水を抜けば高純度のメタンが得られる。日立造船では独自に高性能なメタン化触媒を開発している

画像提供:日立造船株式会社

「メタネーションとは“合成メタン”を生成する技術ですが、弊社のメタネーション研究の歴史は1993年から始まります」と語るのは、日立造船株式会社の安田俊彦氏。同氏は開発本部技術研究所長と、PtG(Power to Gas)事業推進室長を兼ね、メタネーション事業を束ねている。

1993年、東北大学の橋本功二名誉教授が、サバティエ反応によるメタン生成過程において排ガスなどから分離・回収したCO2を用いる「グローバルCO2リサイクル構想」を発表した。

「この構想は、太陽光、風力などの再生可能エネルギーのポテンシャルが高い国で水素生成とメタネーションを行い、それを消費国が輸入することでCO2を世界で循環させるという考えです。当時、弊社では海水の電気分解技術の研究で社員が橋本先生の下で学び、先生の考えに共鳴する形でメタネーションの研究を共同でスタートさせました」

「メタネーション研究に取り組む経緯として、弊社が電気分解で水素を発生させる装置の研究を進めていたことで、再エネ由来の水素の確保が可能だったことも功を奏しました」(安田氏)

電気分解によって水素を発生させるための電気も、再生可能エネルギー由来でなければCO2の削減にはつながらない。

日立造船には、こうしたクリーンな水素を発生させる技術の研究・開発が先行していたことで、メタネーション研究をいち早くスタートできたと言える。

触媒と反応器の開発・改良を重ね、コストダウンへ

サバティエ反応によるメタン生成過程で重要なのは、反応を促進する触媒の存在だ。

「サバティエ反応は、反応条件が300~400℃、かつ30気圧という特殊な環境下。反応効率もそれほど十分なものではなく、そのまま実用化したとしても、設置にコストを要し、普及が困難と目されていました」

実用化に向けた研究で、貴金属を使わず安価な材料を用いて製造でき、より常温、通常気圧に近い環境で反応が進められる触媒を作ることを目標に掲げた。かなりの難題であったが触媒と反応器(リアクター)を改良することで、1995年には0.1Nm3/h(0℃、1気圧の状態で1時間あたりに排出される気体の量)だったメタン生成が、2012年には18Nm3/hになるまでとなった。

日立造船のメタネーション研究の歴史。改良と研さんを重ねながら生成するメタン量を増やし、現在では、実験初期段階の1200倍以上の生成が可能になった

画像提供:日立造船株式会社

2017年からは、新潟県のガス田で発生・同時に採取される随伴CO2を原料としたメタネーション実証を行い(NEDO<国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構>委託事業)、2021年夏に完了した。

「この実験では、より効率よく反応を起こせる“第二世代”の反応器を用いて、4500時間、およそ半年間に及ぶ連続反応試験を終えました。第二世代の反応器は今後、海外にも展開予定があります」

NEDO事業では今後「メタネーションの国際適用」をテーマに、インドやアメリカと同じくCO2の一大排出国である中国へ日本のカーボンリサイクル技術を持ち込み、排出削減に向けてアプローチしていく。施設規模は500Nm3/hクラスを予定し、世界最大規模となる。

さらに、2018年から続く環境省の委託事業では125Nm3/hまで生成が可能な段階に至ったと安田氏は話す。

「この実験は実際に清掃工場から回収したCO2を資源化する炭素循環モデルの構築実証という側面もあります。一般的に清掃工場の排ガスにはCO2が10%前後含まれ、ハード・トゥ・アベイト(Hard to Abate)の一つとされています」

※ハード・トゥ・アベイト:CO2の排出削減をゼロにし難い産業。鉄鋼、セメント、プラスチックなど製造過程で化石燃料を使用しており、電化が難しい産業など。COP26では2030年までをカーボンニュートラル推進における「決定的な10年間」と位置付けているが、どうしても化石燃料に頼らざるを得ない産業には、メタネーション装置は非常にポテンシャルの高い技術と言える

日立造船が独自の高性能触媒を用いて開発した試験用小型メタネーション装置。0.1Nm3/hのメタン生成が可能で、試験・研究用として社外へ販売されている

画像提供:日立造船株式会社

「こうしたハード・トゥ・アベイト産業で排出されるCO2を回収してメタネーションに利用することで、社会実装の可能性を検証していきます。既に排ガス中のCO2からのメタネーションが可能であることは確認できており、本格的な実証実験は2022年度からスタートする計画です」

PtG SQUAREから始まるメタネーションの新たな歴史

社内でのPtG(Power to Gas:余剰電力を気体燃料に変換<気体変換>して貯蔵・利用する方法)事業を加速させるため、日立造船は2021年4月から新たに「PtG事業推進室」を設置。

事業開発と技術開発の2つのグループが連携しながら業務にあたり、同社の持つ技術を生かした事業化計画を進めていく。

2021年11月、本社が位置する大阪に水素とメタンの2つの技術が集う「PtG SQUARE」を設立。メタネーション実験や、導入を検討している団体ごとに導入検証を行っていく

画像提供:日立造船株式会社

「メタネーション装置の導入を検討されているのは、生成したメタンを販売するエネルギー企業、またはハード・トゥ・アベイト産業が主になります。前者は『カーボンフリーのメタンを扱いたい』という要望、後者は『CO2排出量を少しでも減らしたい』という思いから合成メタンに関心を持たれている企業さまが多いです」

「メタネーションによるカーボンリサイクルのモデルは“回収”が前提」と安田氏は言う。

つまり、メタネーションによって生まれたメタンを燃やして発生したCO2は、当然ながら大気中へ放つのではなく再び回収して利用することが必須となる。

資源化されたメタンには、運送に関わるCO2を「ゼロ」にする燃料としての側面のほか、エネルギーの長距離輸送における送電ロスの削減、発電所における負荷の調整に活用することで、エネルギーの効率化にも貢献が期待される

画像提供:日立造船株式会社

「グリーン水素やグリーンアンモニアといったエネルギーにも期待はできますが、“作る技術”だけでなく“使う技術”がより発展する必要があります。例えば、EV(電気自動車)には充電ステーションが必要ですが、ガソリンスタンドと比べると設置数はまだまだ少ないですよね。ですからインフラが整うまでは今ある設備で使えるエネルギーが必要になります。その点でも合成メタンは化石燃料と同等の質を持ち、かつCO2の排出削減に貢献できる燃料として期待できると思います」

「メタネーションを浸透させるためにも、反応器の大規模化やさらなるコストダウンが私たちの課題。さまざまなプロジェクトを通して、引き続き、改良を重ねていく必要があります」(安田氏)

2030年、2050年に向けて、あらゆる産業がCO2の排出削減を迫られている。

特にCO2削減が難しい業界にとっては厳しい10年間になるのかもしれない。

しかし、直接的な排出削減には限界があっても、再生可能エネルギー由来の燃料を使うことでカーボンリサイクルに貢献できるとすれば、そこに目標達成の可能性を見いだせそうだ。

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