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SAFの可能性

SAFの認知向上に向けて。官民一体の施策で国産SAFの商業化を後押し

気候変動に関する課題解決のために業界を一致団結させたANAの挑戦

世界の航空会社がSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)の導入にまい進する中、2021年10月にSAFを利用したCO2(二酸化炭素)削減プログラム「SAF Flight Initiative:For the Next Generation」を立ち上げるなど、アジア圏におけるSAF普及促進のリーディングカンパニーとなっているのが全日本空輸株式会社(ANA)だ。同社がけん引する日本におけるSAF普及のロードマップとは? 国産SAFの早期商業化に向けた道筋を考える。

2030年に目指す、消費燃料10%以上のSAF置き換え

持続可能な航空燃料=SAF(Sustainable Aviation Fuel)に注目が集まる中、アジア圏におけるSAF実用化のリーディングカンパニーとして旗を振るANAは、2022年4月より脱炭素を専門とした社内チーム「GX(グリーン・トランスフォーメーション)チーム」を発足した。各部署と連携を取る形で、国際航空の環境規制におけるルールメーキングや脱炭素トランジション戦略をはじめ、航空機への新技術導入や運航改善、SAFやネガティブエミッション技術の利活用研究、航空利用顧客向けの脱炭素プログラム「SAF Flight Initiative」といった取り組みを行っている。

元客室乗務員の経験を生かし、社内におけるSAFの重要性の認知度向上を目指す同チームの緒方明日香氏も、「ANAでは、2021年6月にESG経営推進を掲げたスローガン『ANA Future Promise』を発表させていただきました。そこでは、SAFの活用だけでなく、機内食のフードロスや使用資材のリユース、環境配慮型素材の活用など、サステナブルな事業運営に取り組むことを掲げています。環境問題に対して、SAF以外の領域でも今後も試験的にさまざまな形で取り組んでいきます」と意気込む。

緒方氏は、客室乗務員の業務を通じて感じていた課題をGXチームの取り組みにも生かしていきたいと話す

経営戦略室エアライン事業部GXチームの吉川浩平マネージャーによれば、世界におけるSAFの流通量は2020年時点で航空燃料全体の0.03%に過ぎず、2021年度の全世界生産量は約12万5000kLにとどまっている。持続可能な開発を目指す航空業界の連合体ATAG (Air Transport Action Group)が発行する報告書「Waypoint2050」においても、2030年のグローバルなSAF供給量は高位推計でも全需要の6.5%と予測されており、SAFの量産化が難しい課題だということが分かる。

一方、ANAは世界経済フォーラム「Clean Skies for Tomorrow Coalition」に参画し、世界の航空業界で使用される燃料に占めるSAFの割合を2030年までに10%に増加させることを目指す「2030 Ambition Statement」宣言に共同で署名するなど、世界的にも野心的とされるターゲットの実現に向けた取り組みを着々と進めている。

現在、研究開発ベースではなくSAFを量産できるエネルギー会社はフィンランドのNESTE社と米国のワールド・エナジー社の2社のみ。「2社の生産能力」=「グローバルSAF製造量」になっているのだという。ANAもまた供給量を安定的に確保するべく、2020年8月にNESTE社とSAFの調達に関するパートナーシップを締結。2020年10月からは、アジアの空港からの出発便として初となるSAFを使用した定期便の運航を開始した。

廃食油などから再生ディーゼルを生産しているNESTE社(オランダ・ロッテルダムの再生燃料工場)へ訪問した際の写真

提供:ANA

SAFの需要に対して供給は非常に限られている現状だが、吉川氏は最大のボトルネックとして原料調達を挙げる。この点は、前回の記事で伝えた話(※1本目の記事リンク)と同様だ。

こうした中で、2021年6月にANAは国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が供給する微細藻類を原料とするSAFを利用し、国内線定期便での商業フライトを実施。国産SAFを利用した初めての事例として注目を集めた。一方で国産SAFの商業生産はまだ開始されていないため、この取り組みは現時点で1回のみの実施にとどまっている。

JALとも連携して普及に努める

吉川氏はSAF普及に向けた今後の課題として、「日本における官民のセクターを超えた連携が重要」だと指摘する。米国では、2021年9月にバイデン政権が「2050年までに航空部門(軍事・非軍事双方を含む)で使用される燃料を全てSAFに置き換える」と発表し、各省庁や米軍を含めて燃料転換に向けたブランドビジョンを策定するなど、国全体でSAF実用化に向けてまい進している。

一方の日本では、国土交通省と経済産業省がハブとなって官民協議会を組織し、農林水産省や環境省、SAFを製造する会社、使用する航空会社が参加。官民のセクターを超えたより良い連携が始まっている。ここで課題が解決されれば国産SAFの商業化も近づき、さまざまな脱炭素への取り組みがより加速するだろうと、吉川氏は希望を見いだす。

民間では企業間でも連携を強めており、2022年3月にはANAをはじめ、日揮ホールディングス株式会社、株式会社レボインターナショナル、日本航空株式会社(JAL)が幹事企業となり、国産SAFの商用化や普及・拡大に取り組む有志団体「ACT FOR SKY」を設立した。

現ANAホールディングス副会長・平子裕志氏(左。撮影時はANA代表取締役社長)とJALの代表取締役社長・赤坂祐二氏(右)が手を取り合い、国産SAFの商業化、普及に向けて取り組んでいくとした

この背景には、SAFの重要性を航空業界の内外に発信する目的もあったという。

「我々がSAFを導入する動機の入り口は、確かに環境規制対応だったのですが、今はお客さまの期待に応えるために環境対策に取り組む必要性を強く感じています。近年、欧米では”飛び恥”と言われるように、気候変動対策に取り組まなければ、今SDGsなどを当たり前に学んでいる子供たちが大人になったとき、『飛行機に乗ることは環境に悪いから良くないこと』というイメージを持たれてしまうかもしれない。でも飛行機が悪いのではなく、温室効果ガスを大量放出することが悪いのです。そして航空業界は温暖化対策の解決策を持ち、実際にアクションを起こしている。環境との調和に正面から向き合いながら、航空輸送の使命である『人と人を繋ぐ、物流を繋げる』という社会的使命を諦めずに全うしていきたいです。また、欧米を中心としたグローバル企業や物流事業者様からの『カーボンフットプリントを抑えたい』という需要も、確実に顕在化し始めています」(吉川氏)

「飛行機によって世界中を見て回ることができる機会を、次の世代にも気持ちよく引き継いでいきたい」と語る吉川氏

カーボンフットプリントとは、商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算し、提示するものだ。その数値をできるだけ抑えることが、環境配慮企業であることの前提条件となりつつある。

企業の協力を後押しするプログラムもスタート

企業や個人のカーボンニュートラル社会への意識は年々強まっている。今後気候変動にただ手をこまねいているだけの企業は広く支持を失っていくだろう。冒頭で伝えた『SAF Flight Initiative』プログラムも、こうした取り組みの一環となる。

同プログラムを利用すると、SAFによるCO2排出量の削減効果を証明する証書が発行される。現在、SAFの価格は通常のジェット燃料の2〜10倍となっているが、この追加コストを顧客が負担することによって、CO2排出削減効果が顧客に帰属し、ESG投資を重視する投資家や事業家にとってのメリットになるのだという。

吉川氏は、「SAF料金は『それを支払えば運ぶ』という”運賃”ではなく、トレーサビリティを担保した上でのプラスアルファの価値となり得ます。『SAF Flight Initiative』は、SAFを推進する我々とお客さまにとってwin-winとなるプログラムなのです」と話す。

実際、2022年4月には出張利用などを見越した「SAF Flight Initiative」のコーポレート・プログラムが始動し、伊藤忠商事株式会社、野村ホールディングス株式会社、一般財団法人運輸総合研究所の4社が参画を発表。その他の企業からの問い合わせも日に日に増えてきている状況だという。

SAFを利用する価値を広めるために、企業にとってのメリットを提供していく

提供:ANA

ますます必要性や需要が高まっていくSAF普及に向けて、吉川氏は今後の取り組みについて次のように語る。

「航空業界では現在、水素航空機の実現や電動化も検討が進められています。こちらも非常に重要な研究ではあるのですが、同時に大型航空機の長距離運航には液体燃料が必須というのが全世界的な共通認識です。我々もJALさんとタッグを組んで航空業界としてメッセージを発することで、さまざまな業界の日本企業がSAF製造計画を発表するなど、ようやくSAFにスポットライトが当たる状況になったかと思います。

SAFを使わなければ、航空機によるCO2排出量は削減されませんので、我々としてはまずしっかりと使っていく。社内外にSAFの需要シグナルを送ることで、お客さまや燃料の製造者様にSAFの認知のみならず、必要性や良さを理解していただけるような環境づくりが必要だと思います。

また、国の制度面でも政策のフレームワークをきっちりと策定することが重要だと考えています。米国が国全体でSAFをプロモーションする一方、欧州議会では2050年時点でSAFの使用率を85%にまで引き上げる義務化の提案も出されています。国策として打ち出すか、法整備による義務化とするか、日本の選択にも注目が集まっています。我々としては海外動向などをしっかりと国にフィードバックしながら、国産SAFの製造を含めた環境づくりを支えていくつもりです。そのために、今後もSAFの認知度向上に向けた取り組みを行ってまいります」(吉川氏)

人々の移動や物流・運輸を支える航空業界が、持続可能な社会に向けてどのようにアプローチしていくのか。技術の発展だけでなく、国や各企業の取り組みにも期待がかかる。

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