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農業の未来を変える“農機のEV化”

電動建設機械を農業でも活用! コマツが挑むICTソリューション改革

着脱式可搬バッテリーを採用し、電動化における給電ネックを解消

2008年に建設機械で世界初となるハイブリッド油圧ショベルを市場導入するなど、低燃費化を目的とした商品開発に取り組んできた株式会社 小松製作所(以下、コマツ)。2050年までの「カーボンニュートラル実現」を見据え、さらに環境負荷を低減すべく、近年、電動化にも力を入れている。そんな同社が本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)と共に電動マイクロショベル「PC01E-1」を共同開発した。建設機械の電動化においてネックとされる問題をいかに解消していくのか。CTO(最高技術責任者)兼開発本部長の渕田誠一氏に話を聞いた。

実証実験で農作業の効率化・省力化を確認

1921(大正10)年の創立後、1931年には国産トラクター第1号を完成させ、その後建設機械メーカーとして、100年以上にわたってブルドーザーや油圧ショベルを中心とする建設機械を開発・販売してきたコマツ。

長年にわたり蓄積された建設機械や土木に関するノウハウを生かして、建設機械の農業分野への転用も進めており、昨今では新しい試みにも挑戦している。

茨城大学農学部との共同研究では、コマツが開発した農業用ブルドーザーを用いた「乾田直播(じきまき)水稲栽培」における有効性の検証を目的とした栽培試験が2020年度より実施されている。

コマツの農業用ブルドーザー(アタッチメント装着)

画像提供:コマツ

「乾田直播水稲栽培」とは、水田にイネの苗を植えるのではなく、イネの種子を直接土に蒔き、苗が出そろった頃に水を入れる栽培法を指す。

この実証実験で使用された農業用ブルドーザーは、通常のブルドーザーの機能に加え、ブレードの高さを自動コントロールする機能(レーザーマシンコントロール)を有し、車体の前部(上画像右奥側)には整地効果のあるブレードを、後部(上画像手前側)には耕起作業や種まき作業のための農業用アタッチメントを取り付けることができる。

同農業ブルドーザーならではの最新のデジタル技術を駆使した高精度な均平作業による優れた整地機能と、専用の農業用アタッチメントにより耕起作業や種まきが行えることで乾田直播水稲栽培が可能となり、農作業が大きく効率化・省力化されるのだ。

「農業に従事する人々の減少や高齢化が社会課題となっている中、農作業の自動化と効率化は必要不可欠となっています。建設業界で培ってきたわれわれの技術や知識を生かし、農業界に貢献したいという考えの下、コマツは農業用ブルドーザーなどの開発に当たっています」と、渕田氏は建設機械の農業転用への思いを語る。

建設機械開発の陣頭指揮を執る渕田氏

実証実験で農業用ブルドーザーを使って整地した場所では、水田の均平精度が上がり、給水箇所が削減。

これにより、給水を目的としたポンプにかかる電力削減にも成功した。

現場のEV化を後押しする電動マイクロショベル

今年3月には、ホンダと共同開発した電動マイクロショベル「PC01E-1」を国内市場へレンタル機として導入を開始した。

注目したいのは、そのコンパクトさと利便性だ。

全長2370mm、車幅580mmと、サイズは中型バイクとほぼ変わらない。また、重量は340kgに抑えられており、軽トラックに搭載して運ぶこともできる。

さらに動力としてホンダの着脱式可搬バッテリー「Honda Mobile Power Pack e:」を採用したことで、簡単に取り外しと持ち運びができる上、家庭のコンセントにつないで充電が可能。
※ホンダが開発した着脱式可搬バッテリーに関する記事:「ホンダが示す電動バイク普及への確かな道筋! バッテリーは“充電”から“交換”する時代へ」

つまり、これまで建設機械や農業仕様の建設機械の電動化において大きな課題となっていた給電問題を解決に導く画期的な製品なのだ。

渕田氏は「PC01E-1」のさらなる魅力をこう語る。

「本機は電気で動く機械なので、排気ガスを出しません。日常的にビニールハウス内で農作業を行っている農家さんからも“これなら周囲の農作物に影響もなく安心だ”といった感想を頂いています。また、夜間の道路工事などにおいても動作音が小さく作業しやすいほか、作業中のオペレーター同士のコミュニケーションもとりやすく作業現場の安全性の向上も期待できると聞いています」

動作音が小さいという特徴は、農業においても大きなメリットになる。

住宅地に近い場所にある農地では、いかに騒音を出さずに農作業を行えるかが重視される。その点においても理想的な製品といえる。

現在、「PC01E-1」は販売されておらず、レンタル商品として扱われている。なぜレンタルという提供方法を選んだのか。

「電動の建設機械や農業仕様の建設機械のマーケットは、日本にはまだありません。これからマーケットをつくっていく必要があり、そのための第一歩としてレンタル機として市場導入を開始しました。まずは、ユーザーの方々に電動の建設機械を気軽に使っていただき、魅力を知っていただく必要があると考えています」

コマツ本社(東京都港区)に展示される「PC01E-1」

また、コマツは電動の建設機械のラインアップを増やしている。2020年3月にバッテリー駆動式ミニショベル「PC30E-5」を国内市場に導入し、2021年からは、中小型クラスの油圧ショベルの電動化実現に向け米国のプロテラ社と実証実験を進めている。

他にも、油圧を使わない電動シリンダーを搭載した「フル電動・オペレーター非搭乗式ミニショベル」を、2021年5月にコンセプトマシンとして発表した。

本機は、無線LANを使って車体と操作デバイスをつなぐことができるコンセプトマシンで、オペレーターは車体から離れた場所で操作できる。オペレーターの身体面の負担軽減のほか、危険を伴う場所における安全な作業をも可能にする。

さらに、ディーゼルエレクトリックや電動、トロリー(有線)、燃料電池、水素など、いかなる動力源でも稼働可能な鉱山向けのパワーアグノスティック超大型ダンプトラックの開発も進めているという。

10月24日(月)からドイツ・ミュンヘンで開催される国際的な建設機械見本市「bauma 2022」では、2020年3月に国内市場導入した「PC30E-5」をモデルチェンジした3トンクラスの電動ミニショベルや同社初となるフル電動のコンパクトホイールローダーのコンセプトマシンなど、新たな電動建設機械も展示する予定だ。

これらが市場に登場すれば、電動の建設機械が賄う作業の範疇(はんちゅう)が格段に広がり、農業の現場においても電動の建設機械が活躍するシーンが増えるだろう。

ライフサイクルコストが読めない状況も

使い勝手のいい「PC01E-1」が消費者に認知されれば現場で電動化が一気に進むことも期待されるが、やはり価格がネックになる可能性があるという。

「PC01E-1」の販売価格はまだ決定されていないが、「現行のエンジン車と比べて決して安くはならないだろう」と語る渕田氏

「現在、世界各地でバッテリーが製造されており、その原料であるニッケルやコバルトの争奪戦が起きている状況です。加えて、エンジンを動力とする機械よりも電気を動力とする機械の方が、ユニットが高価になる傾向があります。こうした理由から、『PC01E-1』の原価も高くなってしまうため、販売価格も相応の価格となります」

建設機械や農業仕様の建設機械は10~20年にわたって使用されるケースが多い。

機械本体の代金だけでなく、維持にかかるメンテナンス代、燃料代あるいは電気代なども含めたコスト「ライフサイクルコスト(LCC)」を算出する必要がある。

その上でエンジンを動力とするよりも電気を動力とする方がLCCが低いという結果が出れば、「PC01E-1」をはじめとする電動建設機械や農業仕様の建設機械が普及するきっかけになるかもしれない。

一方で「PC01E-1」には、他の機械にはない側面もある。

車体が小ぶりな上、スコップのように気軽に使えることから、農作業やガーデニングをはじめ、さまざまなシーンでの利用が期待できる。その活用方法は、それぞれのユーザーの発想に合わせて縦横無尽に広がるといっても過言ではない。例えば、農家同士、あるいは農家と土木建設業など地域住民でシェアすることも可能だ。

同機は軽トラックで運べるため、地域を越えて気軽にシェアできる点も見逃せない。

「一つの現場における建設機械や農業仕様の建設機械の使用頻度は、決して高くありません。コストパフォーマンスを考慮し、個人で建設機械や農業仕様の建設機械を購入することに対してためらいを感じる人は多くいるでしょう。しかし、利便性の高い『PC01E-1』であれば、使用頻度を上げやすいはずです」

ユニークで親しみやすく、なおかつ使いやすい。

その多様性からも電動建設機械や農業仕様の建設機械の普及を推し進める起爆剤になり得るのではないだろうか。

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