1. TOP
  2. トピックス
  3. 高耐久&高効率! 新たな金属材料開発が広げる衝撃発電の可能性
トピックス

高耐久&高効率! 新たな金属材料開発が広げる衝撃発電の可能性

鉄コバルト系磁歪(じわい)ワイヤーとアルミニウム合金が衝撃エネルギーの発電効果を劇的に向上させる

さまざまなモノがインターネットとつながるIoT(Internet of Things)化が加速度的に進む現在。IoTセンサーの数は爆発的に増え続け、2030年には1兆個に達すると言われている。その莫大なセンサーの動力源の一つに期待されているのが、熱や振動など身近にある未利用の運動エネルギーだ。そうした中、衝撃を電気エネルギーに変換する金属複合材料に、従来のものより高耐久で、出力電圧の向上も実現した新たな素材が開発されたという。今後のエネルギー事情を左右する衝撃発電の最新研究成果を紹介する。

業界内でも期待が高い磁歪材料とは?

年々注目度が高まりつつあるエネルギーハーベスティング。

これは、身の回りにある微小なエネルギーを集めて電力に変換する技術のこと。

光や熱、振動、電磁波などの形態で身の回りに存在するエネルギーが対象となることから別名「環境発電技術」と称され、屋内外問わずにエネルギーを回収できるのが特徴だ。

ただし、現状では発電効率や発電量に課題を残しており、より普及させるにはさらなる技術革新が待たれている。

そうした中でも期待されているのが、磁性体を使った環境発電技術だ。

磁性体とは、磁性を帯びる鉄やニッケルなどの物質の総称。これらの物質は、磁界を加えるとひずみが生じる「磁歪(じわい)効果」、力を加えると磁場が発生する「逆磁歪効果」を持つことでも知られ、磁歪材料とも称されている。

発電に用いられるのは逆磁歪効果で、磁性体に振動や衝撃などが加えられることで物質内に磁界の変化が発生。電磁誘導が生じ、電力が得られる仕組みだ。

磁性体の発電原理を表した図。振動や衝撃が加わることにより磁界の変化が生じて発電する

磁性体を使った発電技術の実用化も進められており、2019年7月に掲載済みの車の振動がエネルギー!事故防止に役立つ最新発電ユニット登場は、自動車から発電ユニットに伝わる振動を電力変換してLED照明を点灯させるというもの。

この技術への評価は非常に高く、一般財団法人 新エネルギー財団が主催する「新エネ大賞」では、2019年度の審査委員長特別賞を受賞している。

高評価の理由は、逆磁歪効果を利用した振動発電機の製作が国内初であり、磁性体を使った発電技術の未来を切り開いたため。

今後ますますの実用化が期待される逆磁歪効果を使った環境発電技術だが、東北大学 成田史生教授と山形大学 村澤 剛教授の研究グループによって、同効果を持つ新たな磁性体が開発されたという。

昨年11月に研究グループが発表したのは、衝撃によって逆磁歪効果を引き起こし発電する軽金属複合材料。これまで用いられてきた複合材料と比べ、耐久性に優れているのが特徴だ。

樹脂から金属への転換

これまでの衝撃発電で研究対象とされてきたのは、磁性を持たせたエポキシ(樹脂)系の複合材料。製造や加工が安易にできるというメリットがあるものの、強い振動や衝撃、高温下での利用には適していなかったという。

そこで、強度を持たせるべく研究グループが開発したのは、鉄コバルト系の磁歪ワイヤー(以下、Fe-Coワイヤー)をアルミニウム合金に埋め込んだ軽金属複合材料だ。

今回使用されたFe-Coワイヤーは、特殊鋼の製造や販売ほか、新たな合金の開発なども手掛ける東北特殊鋼株式会社が製作したもの。

ワイヤーは2本をねじり合わせて1本にする撚(よ)り構造型で、直径は約1mmとなる。

新しく開発された衝撃発電用の軽金属複合材料。アルミニウム合金に埋め込むFe-Coワイヤーの本数によって出力が変わる

ワイヤーをアルミニウム合金に埋め込む際には、金属を溶かして鋳型に流し込む鋳造技術を採用。

鋳型と治具(取り付け具)の材料や形状を試行錯誤した結果、数本のワイヤーを直線状に立てたまま製作することに成功したという。

軽金属複合材料の作製手順。鋳造の技術を活用している

また、作製時の温度や時間などについて研究を重ねることで、ワイヤーとアルミニウム合金の界面(材料同士の接地面で局部的に起こる性質の低下)の制御を可能にした。これにより、強度が最大限にまで高められている。

各種材料の引張や圧縮、曲げ特性など、機械的性質を調べる精密万能試験機を用いて衝撃荷重(F)を加えることで出力を確認した

実証実験では、1回の衝撃荷重(変位速度2mm/秒)で1cm3あたり約0.2Vの出力を確認。

これは、撚り構造型ではない衝撃発電複合材料に比べて4倍も高い出力電圧で、電力にすると10倍以上の発電が期待できるという。

開発された軽金属複合材料の発電実験結果。500Ωの抵抗で5.5mW発電している

この数値はIoTセンサーの動力源として十分な電力となるが、さらに研究グループではあらかじめ磁歪材料に外部磁場を与えておく「バイアス磁場」の方向を工夫すれば出力をさらに増大させることも可能だとしている。

また、今回開発された軽金属複合材料を、強度が必要とされるアルミニウム合金製の自動車部材や輸送機器のエンジン駆動部などへ応用することで、これまで困難だった大きな衝撃荷重下や比較的高温環境下でのエネルギー回収が可能になるという。

仮に実現すれば、エネルギーハーベスティングを活用した社会形成が飛躍的に進むことは間違いないだろう。

今後もより多くのエネルギー回収を目指して、さらなる研究・開発の進展に期待したい。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. トピックス
  3. 高耐久&高効率! 新たな金属材料開発が広げる衝撃発電の可能性