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バトルマンガの名シーンを考察! 武器の衝突、実は互角ではない/終末のワルキューレ

『終末のワルキューレ』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「武器の衝突」。バトルものの作品の中でよく見る武器同士をぶつけ合い、力の拮抗(きっこう)を表したシーンだが、発されたエネルギーも互角なのか考察してみました。

科学的考察は無理!? 神VS人類の頂上対決

『終末のワルキューレ』(2017年~)は、人類と神が、1対1の戦いを紡いでいくマンガだ。

人類と神が!?

未読の方には、にわかに把握できない世界観だろうが、既刊11巻までの対戦表をご覧いただければ、少しは伝わるかもしれない。

第1試合:北欧の最強神 雷神トール VS 中華最強の英雄 呂布奉先!
第2試合:全宇宙の父 ゼウス VS 全人類の父 アダム!
第3試合:大海の暴君 ポセイドン VS 最強の敗者 佐々木小次郎!
第4試合:不屈の闘神 ヘラクレス VS 霧の殺人鬼 ジャック・ザ・リッパー!
第5試合:印度神話最強神 シヴァ VS 大相撲史上最強力士 雷電為右衛門!
第6試合:天上天下唯我最強 釈迦? VS ???

わははははは! なにこのぶっ飛んだカード! 爆笑のあまり、しばらく立てなくなってしまったが、腹筋を押さえてうずくまっている場合ではない。なぜこんな戦いが勃発してしまったのか?

最高神ゼウスの館・ヴァルハラでは、1000年に一度、全世界の神々が一堂に会し、人類の存亡を決定する会議が開催される。この1000年、海を汚し、森林を消滅させ、生物を絶滅させてきた人類に、神々が次々と「終末」の意思を示す中、制止の声が掛かる。

半神半人の戦乙女(ワルキューレ)13姉妹の長姉ブリュンヒルデが、「神VS人類最終闘争」(ラグナロク)を提案したのだ。すなわち、神と人類が13人ずつの代表を出して戦い、人類が勝利すれば1000年の生存が許可される。

ラグナロクは神々の戯れとして存在する制度だったために「やるだけ無駄だ」と相手にしない神々を、ブリュンヒルデは挑発する。「ビビってるんですかァ?」。これに神々がキレた! こうして神VS人類最終闘争勃発が決定したのである。

その戦いたるや、壮絶の一語。神々が人知をはるかに超えた猛威を振るうのは当然としても、人類も人類とは思えない異能で対抗する。

例えば、雷電為右衛門は全身の筋肉を望む場所に移動させることができる。シヴァが4本の腕で猛攻を浴びせると、筋肉を両腕に集中させて鉄壁のガード! 筋肉というものは、両端が骨に固定されているのに、そんなのアリ!?

もはや科学の取りつく島もなくボーゼンとするばかりだが、それでもエネルギーの観点から興味深いシーンがある。戦いの実態と勝敗の行方はマンガで堪能していただくことにして、ここでは神VS人類の戦いで放たれたエネルギーに注目しよう。

トールVS呂布! 巨漢同士の真っ向勝負

第1試合のトールVS呂布戦は、壮絶な力のぶつかり合いとなった。

トールは体も大きく武器もデカい。身長が女性であるブリュンヒルデの3倍を軽く超え、推定身長5m! 筋骨も隆々で、人間なら身長180cm、体重100kgぐらいの体格だ。これで身長が5mあったら、体重は2.1t!

武器は巨大な槌(つち)「ミョルニル」。トールの身長と比較すると、打撃部は断面が一辺1.2mの正方形で、前後の長さが4.6mもある。柄は長さ2.2m、前後の幅70cm、左右30cm。いかなトールでも握れる太さではないからか、柄の後方に握るための棒が付いている。

質感から木製と思われ、頑丈なカシ(密度850g/L)だとすれば、重量は本体だけで4.3t。柄の底面と打撃部の両端が金属で補強されていて、それも合わせると4.5tにはなるだろう。乗用車4台分もあり、自分の体重の2倍を超える。この重量物を片手でブンブン振り回す! さすが神様と畏怖するしかない。

呂布も巨漢で、体格はトールに劣らない。すなわち、身長5m、体重2.1t。それでも人類ですかーっ!?

武器は、先端に鋭い穂先と三日月型の刃がついた矛「方天戟」(ほうてんげき)。全長は自らの身長にほぼ等しい5m、柄の太さは5.8cm。先端の金属部は長さ1.6m。柄がカシ、金属部が鉄なら、重量は推定110kgになる。これを両手で、あるいは片手で振り回す!

戦いが白熱すると、ミョルニルが「覚醒」したり、ワルキューレの四女が「神器錬成」(ヴェルンド)でより強力な方天戟に変身したりして、科学の手が届かない世界に行ってしまうのだが、序盤の攻防は科学でなんとか対抗できる。

トールがミョルニルを、呂布が方天戟を真っ向から打ち合わせると、2つの武器はどちらが押されるでもなく、両雄の間で静止する!

これはスゴイ。衝突した2つの物体が静止するのは、両者の運動量が等しい場合。運動量とは運動の勢いのことで、「運動量=質量×速度」で定義される。質量はミョルニルの方が41倍も大きいのだから、速度は方天戟の方が41倍も速かったハズ!

具体的に、どれほどの速度だったのだろう。

トールが、プロ野球選手のフルスイングと同じ時間でミョルニルを振ったとしよう。ミョルニルの柄の最下部から打撃部の上端までの長さは、2.2m(柄の長さ)+1.2m(打撃部の断面の一辺)=3.4mで、バット(標準サイズで85cm)の4倍。これを同じ時間で振るには、4倍の速度が必要だ。

プロ選手のフルスイングは時速150km前後だから、ミョルニルはその4倍で時速600km。呂布の方天戟はそのまた41倍の時速2万4600km。マッハ20である! 人類にも頼もしい漢(おとこ)がいたものだ。

武器衝突のエネルギーは互角に見えて互角じゃない!

このとき両雄は、どれほどのエネルギーを発揮したのか。

運動量が等しいからといって、エネルギーも等しいとは限らない。「運動量=質量×速度」に対して「エネルギー=1/2×質量×速度2」だからだ。

エネルギーの計算では、質量の単位に[kg]、速度の単位に[m/秒]を用いる。ミョルニルの時速600km=167[m/秒]、方天戟の時速2万4600km=6833[m/秒]だ。すると、こうなる。

ミョルニル=1/2×4500[kg]×167[m/秒]2=6250万[J]
方天戟=1/2×110[kg]×6833[m/秒]2=25億7000万[J]

なんと、方天戟の方がはるかに大きい! その違いは41倍。これは上記のエネルギーの式からも明らか。速度に「2乗」が付いているため、質量が41倍(ミョルニル)より、速度が41倍(方天戟)の方が、エネルギーは41倍も大きくなるのだ。

岩石1kgを破壊するには、100J(ジュール)のエネルギーが必要と言われる。すると、ミョルニルが破壊できる岩石は62万5000kg=625t。標準的な岩石の密度(2.7kg/L)から計算すると、球形なら直径7.6m!

これでも十分に驚くが、方天戟が破壊できる岩石は、重量2万5700t、直径26.3m!

また、「エネルギー=力×距離」なので、両雄が武器を持つ手を同じ距離だけ動かしたとすると、力も呂布の方が41倍も強いことになる。手を2m動かしたなら、トール3200t、呂布13万tだ。

なんだ~、トール弱いじゃん~。そう思ったあなたは、頭がすっかりワルキューレ化しているので、しっかりしてください。

ガキッと打ち合わせた武器が動かないというシーンは、両雄相譲らず、力がバチバチ拮抗しているように見える。確かに、打ち合わせた後の押し合いではその通りだが、その前の武器を振るう段階では、力もエネルギーも軽い武器を持った方が上なのだ。

科学を超越しながら、科学の神髄を見せてくれる神VS人間の戦いである。

ゼウスVSアダム! 加速する神のパンチの速さ

せっかくなので、もう1試合見てみよう。第2試合のゼウスVSアダム戦では、互いのスピードがさく裂した。

アダムは身長170cmほどに見える美青年。対するゼウスはヨボヨボのおじいさんだったが、戦いに臨んで全身に力を込めると、筋肉が「ムキャキャ!!」と増量して、身長260cm、体重470kgぐらいの巨漢になった! 作中でもゼウスは「無から有を生む」と言われていたが、なるほど質量保存の法則を軽々と超越している。

先に仕掛けたゼウスは、アダムの顔面に左ジャブを見舞う。マンガでは所要時間が示されていて、なんと0.01秒! しかし、アダムは表情一つ変えずこれをかわす。実況アナウンサーは叫ぶ。

「ゼ…ゼウス様の凄まじい亜光速ジャブ!」

亜高速は少々大げさではないだろうか。ゼウスは拳を肩の位置から伸ばした。腕の長さを90cmとすると、0.01秒なら拳の平均速度は秒速90m。パンチのように静止した状態からの運動では、最高速度は平均速度の2倍となって秒速180m。

プロボクサーのパンチは秒速10m台の前半だから、確かにすごいパンチだが、光速(秒速3億m=秒速30万km)には遠く及ばない。

などと考えた筆者は、ゼウスの実力を全く分かっていなかった。

次のパンチの所要時間は0.001秒。速度は秒速1800mで、ライフル弾(秒速1000m)を超えた!

その次は0.0001秒。秒速18kmで、国際宇宙ステーション(秒速7.7km)を超えた!

そのまた次は0.00001秒。秒速180kmで、適切な比較の対象がありません!

これぞゼウスの神業「黄昏流星群」(メテオジャブ)。アダムがことごとくかわすと、所要時間はついに0.00000001秒に。速度は秒速18万km=光速の60%で、文句なしの亜光速!

しかしアダムはこれをもかわし、反撃に出る。パンチの所要時間は0.01秒、0.001秒、0.0001秒、0.00001秒。そして黄昏流星群!

これぞ、神のおごり高ぶりをそのまま返す「神虚視」(かみうつし)。アダムにこれができるのは、「“神は自らのかたちに模し人を創造された”旧約聖書創世記第1章27節」からだという!

しかも、アダムのパンチはことごとくクリーンヒット。ここに至って、ゼウスは取っておきのパンチを出す。所要時間は「0.00000000000000000000」以下コマの外。その次が「1」で単位が「秒」だとしても、速度は秒速180京km=光速の6兆倍!

この宇宙では、いかなるものも光速を超えないが、そんな人間の常識など屁(へ)のカッパ!

神は自らの体重に倍する槌を振り回し、人類は超音速で矛を振るう。最高神のパンチは光速をはるかに超える。しかも、これらはまだまだ序盤の戦いであり、神VS人類の最終闘争は、果てしなくエスカレートしていく。それでいて戦う者たちの魂が、見守るわれわれを共感に引きずり込むのだから、人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります。

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