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空想未来研究所2.0

2回のファイアーアップで27倍の破壊力! ボンバーマンの爆弾のエネルギー/ボンバーマン

『ボンバーマン』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「爆発力」。ファミコン時代から人気を博すゲーム「ボンバーマン」シリーズで、ゲームの核となるのは爆弾の使い方。壁を壊すほどの爆弾のエネルギーがどれほどのものなのか、エネルギーの観点から考察してみました。

爆弾で壁を破壊するボンバーマン

筆者はゲームが苦手である。頑張ってやってもすぐゲームオーバーになるし、「やられる、やられる」と思っていると、やっぱりやられる。そうなった理由は、ハッキリしている。

ファミコンが発売された1983年、筆者は駆け出しの学習塾講師だった。

ゲームセンターに行かなくてもゲームができるという歴史の大転換に驚き、「これは生徒たちがハマる。そして、全く勉強しなくなる!」と直感し、厳禁していたのである。

そんな自分がゲームをすることは許されない……などと煩悶しているうちに、ゲームの進歩についていけなくなり、筋金入りのゲーム弱者となってしまったのだ。

あれから幾星霜、今回は「ボンバーマンを取り上げてください」と依頼が来た。

ボンバーマン! 名前は知っているが、筆者にとっては「見てはいけないもの」であり、どんなゲームなのか全く知らなかった。

そこで、サンプル画面を送ってもらったら、これはオモシロイ! 爆弾で壁を砕く。科学の対象そのものであり、エネルギーの観点から森羅万象に迫る本稿にも、ピッタリだ!

叱ってしまった生徒たちを申し訳なく思い出しつつ、今回は『ボンバーマン』(1985年)で放たれるエネルギーを考えてみよう。

ボンバーマンの爆弾はデカイ!

資料として送られてきたのは、「ファミコン版」「スーパーファミコン版」「最新版」の3種。新しいものほど複雑化しているようだが、爆弾でブロックを破壊したり、敵を倒したりする点は変わっていない。そこで、測定しやすいファミコン版を題材に考えた。

フィールドは、縦5列、横14列のハードブロック(爆弾で壊れない)によって、縦6列、横15列の通路に分けられている。通路の縦の幅は主人公・ボンバーマンの身長とぴったり同じ。

それほど背が高そうに見えないボンバーマンの身長を160cmとすると、縦の幅は1.6mである。横の幅はボンバーマンの身長の1.2倍で、すると1.92m。ハードブロックの縦と横は通路のそれらに等しい。

ここから、フィールドの縦は1.6×(5+6)=17.6m、横は1.92×(14+15)=55.68m。縦はバスケットコート(15×28m)より2割弱広く、横は2倍にやや足りない。標準的な学校の体育館は、バスケットコートが2面取れるから、面積は体育館より少し狭いぐらいだ。この決して広いとは言えない空間で、爆弾を炸裂させる!?

その爆弾がまた巨大だ。導火線の付いた球形で、直径がボンバーマンの身長に等しい! 外皮の厚さが5cmだとしても、爆薬だけで直径1.5m! よく使われるTNT(トリニトロトルエン)爆薬だとすると、2.92t! 爆撃機から落とされる2000ポンド爆弾(炸薬量907.2kg)の3倍以上!

ボンバーマンは、1ステージでこれを何十発も爆発させる。なんという怪力! というか、一体どこに持っているの!?

爆弾の爆発の威力はどれくらい?

こんな爆弾が爆発したら、一体何が起こるのだろう。

TNT爆薬は1kg当たり950kcalのエネルギーを放つ。2.92tもあるボンバーマンの爆弾なら277万kcalだ。1kcal=4184Jだから、116億J。

『化学物質の爆発安全情報データベース』によれば、爆風の圧力が1.03kPa(キロパスカル※)を超えると、ガラスが割れるというのだが。

※1Paとは1m2当たり1N(ニュートン)≒0.1kg重の圧力。1気圧(海面での大気圧)は10万1325Pa。

爆弾が爆発したとき、爆風の圧力がある値になる距離は、次の式で求められる。

距離[m]=0.659×(エネルギー[J]÷圧力[Pa])1/3

エネルギーに116億J、圧力に1030Pa(0.01気圧)を代入すると、距離は148m。半径148m以内の窓ガラスが、一斉に吹き飛ぶ! 『ボンバーマン』のフィールドが、ガラス窓に囲まれていたら、ひとたまりもないということだ。

爆音もすごいだろう。人間は130dB(デシベル)の音を聞くと失神するといわれる。これを圧力に換算すると63.4Paで、そうなる距離は半径374mだ。『ボンバーマン』の試合が国立競技場(350×260m)で行われたら、屋根がなくても観客は全員失神!

この爆音を超至近距離で受けて、なぜボンバーマンは立っていられるのか? 耳に厳重な遮音装置を装着しているのかもしれないし、その正体は、ロボット生命体ともサイボーグともいわれているから、平気なのか。

ファイアーアップでエネルギーが倍増

だが、ボンバーマンの主要な任務は、ソフトブロック(爆弾で壊れる)を破壊することだ。それは、可能なのだろうか。

ソフトブロックは、外見からレンガ製とみられ、前掲の『データベース』には、17.2kPa(0.17気圧)で「レンガ造家屋の50%が破壊される」とある。

ただし、必要な圧力は、レンガの厚さの2乗に比例するはずで、通常のレンガの幅は10cm。これに対して、ソフトブロックの長い方の厚さは、ハードブロック横と同じで1.92m。厚さが19.2倍なら、必要な圧力は369倍の634万Pa。

しかも、これで破壊されるのはレンガ造家屋の50%であり、ソフトブロックは跡形もなく吹き飛ぶ。破壊の状況と圧力が比例するとは限らないが、ここでは単純に2倍が必要と仮定すると、1268万Pa(125気圧)! これを上の式に代入すると、6.4m以内のソフトブロックが破壊できるはずである。

しかし、不思議なことがある。ブロックや通路の縦横に等しい1.6×1.92mの長方形を「コマ」と呼ぶことにすると、「ファイアーアップ」(火力がアップし、爆弾の爆発力が1マス分増える)で威力を増強しない限り、爆弾で壊せるのは隣のコマのソフトブロックだけなのだ。

爆弾の中心と、ソフトブロックの中心間の距離は1.92mで、前述の破壊限界のジャスト3分の1。これは、どういうことか?

ここまでの筆者の計算は「爆弾には直径1.5mのTNT爆薬が装てんされている」という前提に立っている。実際には、それほどの爆薬は仕込まれていないのではないか?

上の式にあるように、破壊できる距離(一定の圧力が発生する距離)は、エネルギーの3乗根に比例する。3分の1の距離までしか破壊できないということは、エネルギーは27分の1しかないということだ。

すると、爆薬の体積も27分の1。体積は直径の3乗に比例するから、直径も3分の1。つまり、直径が1.6mもある爆弾に、直径50cmの爆薬しか入っていないことになる。

なんだかショボイ感じになってきた……と思ったあなたは、ファイアーアップを思い出そう。

1回ファイアーアップすると、2つ目のコマのソフトブロックも壊せるようになる。距離は2倍だから、エネルギーは8倍。そして、このときは爆薬の直径も2倍の1mになっているはずである。

そして2回ファイアーアップすると、3つ目のコマも破壊可能。エネルギーは27倍で、爆薬の直径も1.5m。これでついに、見た目通りの破壊力となる。

3回目以降は、TNT爆薬だとすると、爆薬の直径が爆弾を超えてしまうので、爆薬の性能(重さ当たりのエネルギー)が上がっているとしか考えられない。

計算結果は省くが、3回目でTNT爆薬の2.6倍、4回目で4.6倍、5回目で8.0倍……。左端のコマから数えて、右端のコマは28コマ目になるから、ここまで爆風を到達させることができるとしたら、27回のファイアーアップが必要と考えられ、すると爆薬の性能は813倍! 夢の技術である。

巨大な爆弾で、周囲を手当たり次第に破壊する。塾講師でなくても、子どもがやっていたら、止めたくなる遊びだろう。だが、科学の目で見ると、驚くべき事実が浮かび上がる。現実世界では経験できない現象にも出合う。ボンバーマンシリーズを通じて、新しい感性を磨いた子どもたちが、これまでにない何かを生み出す日が来るのだろう。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

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