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熱帯びる東南アジアテック市場

評価額100億ドル超企業が続々か!? 今注目すべき東南アジア発のテック系スタートアップ

EC、AI、ロボティクスまで! これからの世界を動かすのは東南アジアかもしれない

本特集第2回では、カンボジアなどでビジネスを展開する日本人起業家の視点から、東南アジアで今まさに発展の過程にある国の実状を聞いた。東南アジア諸国以外の外資による新興企業の活動に呼応するように、自国発の成長著しい企業も次々と登場してきてる。特集第3回では、これからの動向を注視すべき東南アジア発のスタートアップを探っていく。

注目すべきはマイクログリッド関連スタートアップ

いまやユニコーン(企業評価額が10億ドル以上の未上場企業)を越え、「デカコーン」(企業評価額が100億ドル以上の未上場企業)となった配車サービスの「Grab」(シンガポール)や「GO-JEK」(インドネシア)などは世界的に知名度が高いが、他にもEC(電子商取引、いわゆるネットショッピング)関連企業の成長が著しいのが、東南アジアの大きな特徴だ。インドネシア最大手のECを運営する「Tokopedia」、東南アジア各国をまたぐシンガポールの大型ECモールである「Shopee」と「Lazada」、タイ発のオークションサイトで人気を誇る「Chilindo」などがその代表格と言える。

一方、クレジットカード不要で分割購入ができるオンラインショッピングアプリ「Akulaku」(インドネシア)や、従来の配送プロセスを最適化するアルゴリズムで物流業界のイノベーションを図る「Ninja Van」(シンガポール)など、既存産業をソフトウェアの力でアップグレードすることで、成長を勝ち取っている企業も増えている印象だ。

成長著しい東南アジアの新興企業を挙げていけば枚挙にいとまがないが、そこには一つの共通点があるように見える。いずれも、本社がある国の中だけではなく、東南アジア各地域にサービス拠点を次々と増やしている点だ。例えば、Grabはシンガポール、インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、ミャンマー、カンボジアなど8カ国で、GO-JEKはインドネシア、シンガポール、ベトナム、タイの4カ国でサービスを展開。他の注目企業も、同じような傾向にある。

「東南アジア新興企業の場合、どこか一つの国でサービスを成功させて、他の国に横展開していくというケースが多いと感じます。つまり、東南アジアという地域全体を市場として意識している企業やプレイヤーが多い。もちろん、シンガポールのような先進国から各国に波及するパターンもありますし、逆に新興国に拠点を構えた企業が他の地域に進出しようとする流れも生まれつつあります」

そう話すのは、2018年にカンボジアで初めて開催されたアクセラレータプログラム「トヨタインパクトチャレンジ」の仕掛け人の一人で、現地テック系新興企業や東南アジアに進出する欧米系コミュニティ事情に精通する宮武俊介氏だ。

東南アジアテック市場に詳しい宮武俊介氏。カンボジアなど東南アジアの生活のワンシーンを切り取った写真で、フォロワー3万人以上の人気インスタグラマーとしても知られる

写真協力:宮武俊介

東南アジアで注目されている新興企業の情報は日本でも少しずつ報じられているが、さらにディープでマニアックな情報はないだろうか。宮武氏に実情を聞いてみた。

「個人的には『Okra Solar』という企業に注目しています。彼らはマイクログリッド関連機器やサービスを提供している企業です」

マイクログリッドとは、電力を消費する人々の近くに分散型電源(複数の小規模な発電施設)を設けることで、安定的に電力を供給する仕組みを指す。大規模な発電所によってつくられた電力が遠方から供給されるのに比べ、電力ロスなどの無駄が削減でき、二酸化炭素の排出量も少ないといった特徴がある。

Okra Solarは、太陽光パネルや、電力供給をスマートに管理できる「プラグ&プレイ」というマイクログリッド関連システムを開発・提供しており、送電線などインフラが未整備な地域において、電力の安定供給や消費効率の向上に取り組んでいる。その期待値は事業化以前から高く、ビジネスモデルを事業化する起業準備段階であるシードステージよりもさらに前の、“プレシード”ステージというアイデア段階で投資額20万ドルを調達した。

現在、カンボジアを中心にビジネスを展開しているが、既にフィリピンやインドネシアなど、東南アジア各国でも認知度が高まっているという。また、東南アジアだけでなく、ケニア、タンザニア、ウガンダ、ナイジェリアなどアフリカ地域のクライアントからも引き合いがあるとされている。


出典:Okra Solar公式サイトより引用

「Okra Solarはカンボジアに拠点を構えていますが、共同設立者はオーストラリア出身のインド系と白人系の若者たち。他にも香港、英国などの大学や企業を卒業した多様なバックグラウンドを持ったスタッフたちが集結しています。IT技術やソフトウェアもさることながら、ハードウェアの開発にも注力しており、グローバル展開が期待されるユニークなベンチャー企業ですね」

日本人起業家による不動産VRにも期待

続いて宮武氏は、同じくカンボジアに拠点を構える「ラストマイルワークス」(現在は東京にも営業拠点あり)を注目企業の一つとして挙げてくれた。こちらは、日本人起業家・小林 雄氏が代表を務める「不動産系VR」に特化したベンチャー企業だ。経済成長を本格的に迎えた東南アジア諸国では建設ラッシュが続いているが、その状況下でブラッシュアップしてきた「住宅関連業界向けのデジタルサービス」を強みに据える。

「ラストマイルワークスは、不動産業界向けにVR映像を制作するサービスなどを提供していますが、東南アジアのみならず日本からも引き合いが増えていると聞いています」

日本では昨今、AI(人工知能)を使った「価格算出」「仲介マッチング」など“不動産テック”という新たな言葉が注目を浴び始めているものの、業界関係者らによれば「不動産業界はまだまだテクノロジーの導入が遅れている旧態依然とした業界」との評が多い。ラストマイルワークスの小林氏も自社サイト上で、日本の不動産業界のVR活用は遅れている感が否めないと指摘しており、同社のような東南アジアに拠点を構えるテックベンチャーから、技術やトレンドが日本に“逆輸入”されるというシナリオも今後十分あり得そうだ。

さらに東南アジアでは、近年、世界各国でトレンドになっているロボティクスやAI関連の新興企業も増えている。例えば、2018年11月に開催された、ベトナムのオンラインメディア「VnExpress」主催の国内スタートアップを評価・表彰するイベントでは、AIベースのチャットボット機能を提供する「BOT BAN HANG」が2018年のベスト5に選出された。

東南アジアではウェブマーケティングツールとして、「Facebookの利用率や認知度が高く非常に重宝されている」(宮武氏)といい、それはベトナムも例外ではない。BOT BAN HANGはその状況下で、Facebookメッセンジャー上で稼働するAIチャットボット(仮想アシスタント)システムを提供しており、仮想アシスタントとして、マーケティング、オンライン販売、予約、支払い、顧客とのコミュニケーションなどの業務を、24時間365日フル稼働で対応。企業のマーケティングやカスタマーサポートにかかるコストの削減や、コンバージョン率アップをサポートしてくれるのだ。

ベトナムで注目されているAIベンダー「BOT BAN HANG」。東南アジアが「遅れているだろう」といったイメージは、もはや過去のものと言える

出典:BOT BAN HANG公式サイトより引用

AIチャットボットシステムは、日本でもここ2~3年の間に取り入れる、もしくは内製する企業が増えてきている。精度や質はじっくり検討されてしかるべきだが、問題意識やそれに対応するサービスの出現時期という意味では、日本と東南アジアにタイムラグはあまりない。

なお、アジア全域に拠点を持つAIテクノロジー企業「Appier」(本社は台北)が2018年9月に発表した調査レポートによると、日本を含む調査国8カ国のうち、最もAI導入が進むアジア太平洋地域の国はインドネシア(導入率65%)とされている。こちらは、AI産業の発展がめざましい中国(導入率63%)をしのぐ数字だ。過去には、EC向け画像認識ソリューションを開発するシンガポールのベンチャー企業「ViSenze」に、楽天ベンチャーズが投資を行った例などもあるが、今後、東南アジア発のAI企業の成長も大いに期待できそうだ。

APAC(アジア太平洋)における企業のAI導入率。シンガポールやインドネシアといった8つの市場で、ビジネスリーダーなど260人を対象に調査。グラフは左からAI導入済み、12カ月以内に導入予定、当面予定はない、という回答を示す

出典:Appier「アジア太平洋地域でのデジタル変革の促進における人工知能の重要性:フォレスター調査」(2018年9月5日)より引用

ロボティクスで熱いのはタイ

ロボティクス関連で言えば、タイの動きが興味深い。現在、産業用ロボットの需要地という意味合いで「ロボット大国」とされているのは中国だが、数年後にはタイなど東南アジア諸国の需要が徐々に増えていくとの、国際ロボット連盟(IFR)の予測がある。

タイでは国を挙げた産業育成が本格的に進んでおり、政府と大学・研究機関が協力してロボット研究機関を長らく養成してきた。マヒドン大学にある「BART LAB」、モンクット王工科大学トンブリー校にある「FIBO」、政府主導で設立された国家遺伝子工学・生命工学センター傘下の「先進医療ロボットセンター」などが有名どころだ。

一方で、将来的には、産業用ロボットよりもサービスロボットの需要が世界中で高まるとされている。現在は産業用ロボットや自動化システムの多くを輸入に頼っているタイだが、その分野では国内新興企業の大きな成長も見込まれているという。例えば、介護用ロボットや接客用ロボットを開発する「CT Asia Robotics」などが国内で期待を集めている。


出典:CT Asia Robotics公式サイトより引用

東南アジアは今、世界中から集まったテクノロジーに敏感な若者であふれている。また、規制が少なく、既存のサービス・インフラがまだまだ足りないため、社会的に新しいものを取り入れる環境やモチベーションも充実している。

AIやロボティクスなど最先端技術における基礎研究の成果、いわゆる“ディープテック”がこれからの世界のあり方を大きく変えようとしている現状で、今後、東南アジアからはどんなディープテックが生まれてくるのだろうか。ユニークかつ、世界をあっと驚かすような新しいアイデアとイノベーションの登場に期待したい。

参考:大韓貿易投資振興公社(KOTRA)『タイを牽引する未来産業その1:ロボット工学』(2018年7月20日)他

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