特集
夏のお出かけスポットエネルギー事情

海のエネルギーがフル活用された“シーパラ”のバックヤードに潜入!

“海育”から広がった横浜・八景島シーパラダイスのエネルギー施策

間もなく梅雨も明け、蒸し暑い日が続く本格的な夏の到来となる。そんな季節に涼を感じるスポットの筆頭といえば、水族館ではないだろうか。1993年に改行した「横浜・八景島シーパラダイス」は、ピラミッドを思わせる巨大な外観の日本最大級の水族館「アクアミュージアム」など、テーマの異なる4つの水族館「アクアリゾーツ」をはじめ、さまざまなアトラクションやショッピングストア、レストラン、などが併設された複合型海洋レジャー施設。海洋生物とのふれあいを通して、環境やエネルギーに関する「学びの場」としても注目の同水族館の取り組みについて、経営企画部マネージャー・蓑内真吾さんに話を伺った。

「アクアミュージアム」に隣接する水族館「ドルフィンファンタジー」。イルカが自由気ままに泳ぐ“より自然の海に近い状態”を再現した「アーチ状水槽」がとても涼しげで幻想的だ

八景島だからできた「海水」を活用した省エネ施策

海洋生物がストレスなく過ごせる、持続可能な環境づくり──。それは水族館における重要事項の一つ。

横浜・八景島シーパラダイス(以下、シーパラ)でも、24時間水質・水温の管理を徹底、さまざまなポンプが館内外に張り巡らされフル稼働している。「館内でのエネルギー消費の大半は、水質・水温管理を担うポンプやヒーターの稼働に割かれています」と同園の経営企画部マネージャー・蓑内さんは説明する。

「水族館という生業上、環境問題やエネルギー問題は常に意識します。ただ、問題に取り組むことで(館内の)海の生きものの環境維持に支障を及ぼすわけにもいきません。そのためエネルギー削減はなかなか難しいのが正直なところですが、シーパラでは「アクアミュージアム」全体の水温管理に“高効率ヒートポンプ”を導入し、CO2排出量の削減に努めています」

「アクアミュージアム」全体の水温調整を担う高効率ヒートポンプは、年間のCO2排出量を従来の設備よりも1460tほど削減させることを可能にした

「他に取り組めることといえば…やはり“人間の環境”を見直すことになりますよね(笑)」

そう話しながら案内されたのは、「アクアミュージアム」内の中央管理室。ここの空調は“海水熱源ヒートポンプ技術”と連携させることで、消費電力が通常よりも約20%抑えられている。

「アクアミュージアム」の外に設置された海水熱源ヒートポンプ。“現地海水”と書かれた配水管が流れを示している

海水熱源ヒートポンプを介してくみ上げられた水温10~15℃ほどの海水は、中央管理室の空調の温度調整効率化に役立てられている

「外気(気体)は季節により温度差が激しいのに対し、海水(液体)は年間を通して温度変化がそれほどありません。この性質を空調に生かすことで消費電力が抑えられています。海水を容易にくみ上げることができる海に近い水族館という立地に適したエネルギー施策といえます」

きっかけは“海の環境教育”への取り組み

そもそもシーパラがエネルギー施策を推し進めるようになったきっかけも、「実は横浜市という立地にも起因します」と蓑内さんは解説する。

「『海育』=“海と共に成長していくこと”をコンセプトに据えた施設『自然の海の水族館 うみファーム』が2013年に園内にオープンしたのですが、その際、横浜市さんから『一緒に“ブルーカーボンの取り組み”をやりましょう』という提案をいただいたのです。そちらと私たちの考える“海育”というコンセプトと非常に合致するものでした」

「アクアミュージアム」や「ドルフィンファンタジー」エリアの奥、「ベイマーケット」近くにある「うみファーム」

“ブルーカーボン”とは、海藻など海の生物や海そのものが吸収するCO2を示す言葉。森の木々が吸収する“グリーンカーボン”に対しての表現である。

「うみファーム」で催されるワカメの植え付け・収穫体験では、海での海藻の役割を学ぶと同時に、地産地消がワカメの輸送で生じるCO2の削減に繋がり、カーボンオフセットすることを教えている。

「“ブルーカーボン”は2009年にUNEP(国連環境計画)が提唱した概念で、世界中でも研究が始まっている分野です。海がCO2を吸収するのは周知の事実だったのですが、どれくらい吸収するのか?どれくらい環境に寄与しているか?というのは研究途上です。これが、“環境未来都市”を宣言していた横浜市の目にとまり、協働して“海の環境教育”を推し進めることになりました」

シーパラは、この“海の環境教育”の取り組みを通じ、“横浜ブルーカーボン事業”の環境啓発拠点として位置付けられ、冬季には横浜市と共同でワカメの植え付け・収穫を通してブルーカーボンについて学ぶ機会を設けるなど、教育事業を推進している。

「事業は、“ブルーカーボン”“ブルーリソース”“親しみやすい海づくり”という大きく3つの柱で構成されています。ブルーリソースは“海のエネルギーを省エネに利用しよう”という取り組みの総称で、海水熱源ヒートポンプはこの取り組みの一環なんですよ」

「うみファーム」の企画・運営でも中心的役割を担ってきた蓑内さん。横浜市主催の市民フォーラムなどでも講演を行うなど、水族館内外で横浜ブルーカーボン事業に携わる

海水熱源ヒートポンプの導入は、シーパラがこのブルーリソースへ取り組む際、横浜市を介して紹介された東京海洋大学の刑部(おさかべ)真弘教授の提案によるものだという。刑部教授は、災害等の停電時、船舶で発電した電気を陸へ供給するシステムを研究するなど、海洋電子機械工学を専門とし、エネルギー活用に精通している人物だ。

「海水エネルギーの活用事例としては微々たるものかもしれません。それでも実際に取り組むことで、事業を通じたエネルギー教育や、刑部教授の講義・事例紹介などにも役立ててもらえたら意義深いと考えています。実際、海外の機械・エネルギー工学関係者も視察にお越しいただいたことがあります。実は、刑部教授にはもう一つ、“電力の見える化”についてもご提案いただいています」

「電力見える化プロジェクト」では、電力消費量を折れ線グラフで表示し、スタッフが情報を共有。電力消費の傾向を分析し、電力のピークカット、節電への意識を高めている

シーパラでは東京海洋大学の協力を得て、全施設の電力消費量がリアルタイムで配信される「電力見える化プロジェクト」を2012年夏に導入。施設スタッフがパソコンやスマートフォンで常に情報確認できる環境を整え、冷房などで電力を多く消費する夏場の電力のピークカットに役立てられている。

育てて、取って、食べて学べる“海育(うみいく)”の意義

「横浜ブルーカーボン事業」のもう一つの柱“親しみやすい海づくり”に関しては、毎年8月に横浜市と共同で環境啓発イベントをうみファームで実施している。

「うみファーム内の“オーシャンラボ”で生きものを観察し、東京湾の環境について学ぼうという小・中学生向けの催しです。参加者には、飼育員のレクチャーを通じて食物連鎖や生物多様性、海藻の役割を理解してもらいます。他にも月イチで“シーパラこども海育塾”(シーパラ内外で実施)を企画し、ブルーカーボンについてレクチャーを行うこともあります」

東京湾を仕切って区画された「うみファーム」の“食育ゾーン”では、アジやマダイの釣りが楽しめる。ただし、釣った魚は買い取りと食べることが必須。キャッチ&リリースは“海育”のコンセプトとしてNGなのだ

こうしたイベントの他にも、うみファームでは年間を通じて、家族で魚を取って食べて“いのちの尊さ”を学ぶ食育体験ができる。

「家族で釣った魚が、目の前のオープンキッチンでさばかれて、それを食べる…という体験はお子さまにとっても有意義でしょうし、釣った魚はすぐに揚げたてホクホクのフライにしてお出しします。そのおいしさに『今まで魚を食べられなかった子どもが、ここで食べられるようになった』などという声をいただくと、われわれもうれしくなりますね」

釣った魚は魚釣りエリア隣の「からっとキッチン」にて、目の前でさばいて揚げたてのフライに。海を見ながら食べる、自分で釣った魚の味は格別にして感慨深いはず

「今の時代は、『切り身じゃない魚を初めて見た』『生きている魚に初めて触った』というお子さまも多いですよね。中には、ご両親でも『(初めて釣って)アジとサバの違いを知った』という感想をいただくこともあります(笑)」

まさに大人も子どもも“目からウロコ”な体験が楽しめるシーパラ。蓑内さんが「来館者の7割はリピーター」と言うように、他にも何度も訪れたくなる魅力や工夫があふれている。

「アクアミュージアム」見学、「うみファーム」での釣り体験のほか、サマーシーズンのシーパラでは夜になると、シーボートゾーン周辺で花火が打ち上げられる

「海の生きものと触れられて、釣って食べられて、カピバラやレッサーパンダもいる。ふれあいラグーンではびしょ濡れになって遊ぶこともでき、夏は花火も打ち上がりますし、その人その人に合った楽しみ方で、一日中楽しんでいただけると思います」

この夏も電力消費にも注視しつつ「屋外で特にひさしが強い、気温が高くなる場所には、ひさしやミストなどの用意も怠りません」とのこと。

エネルギーのことを頭の片隅で思いつつ、夏のシーパラを訪れてみてはいかがだろうか。

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