特集
食品ロスからの脱出

「食品廃棄量600万t」はビジネス的に最適解?「食品ロス」の裏にある日本が抱える本当の課題

コンビニや外食産業だけが問題ではない・・・世界、そして日本が取り組む食品ロスの現状とは?

2019年5月に公布された「食品ロスの削減の推進に関する法律(略称「食品ロス削減推進法」)」が、同年10月1日から施行された。これによって、各都道府県は食品ロス削減推進計画を定めるよう努めなければならないものとされ、また、各市町村は、本基本方針及び都道府県食品ロス削減推進計画を踏まえ、市町村食品ロス削減推進計画を定めるよう努めなければならないものとされた。近年では、クリスマスケーキや恵方巻きといった大量生産される季節もの商品などの廃棄問題を耳にすることが多くなっている。この問題を長年にわたり研究してきた愛知工業大学 経営学部の小林富雄教授の話を基に、まずはその現状を追う。

世界が気付き始めた10年前…日本で食品ロスが問題視されるまで

「日本のメディアが『食品ロス』問題に注目するようになったのは、流通しなかった食品を再配布するフードバンク(過剰在庫、流通不可商品などを寄付してもらい、施設や団体に提供する仕組み・団体)が取り上げられるようになった2010年前後からでしょう。私がこの問題に取り組み始めた20年前は、外食産業や食品メーカーに『食品をどれくらい廃棄していますか?』と質問しても、答えてくれるところはほとんどありませんでした。彼らからすれば、食品廃棄の問題は、隠しておきたい“スキャンダル”だったんです」

包装の破損や印字ミスなどで流通させられない食品を企業から集め、施設や困窮する世帯に無償提供するフードバンクの仕組み。世界各国に運営団体がある

出展)一般社団法人全国フードバンク推進協議会HP「フードバンクとは」より引用

「ところが、“新たな福祉の取り組み”というポジティブなイメージを持ったフードバンクを支援する企業が増えたことで、データが得られるようになった。フードバンクに食品を提供することは、その企業が抱えていた廃棄予定の食品を公表することと同じ。結果、次第に『そもそもそんなに食品を捨てていたんですか?』と、問題が切り替わっていったというわけです」

長年、食品ロス問題を研究してきた愛知工業大学 経営学部の小林富雄教授は、日本における食品ロス問題の最初のターニングポイントをこう分析している。それから10年近くがたち、2019年10月に「食品ロスの削減の推進に関する法律(略称「食品ロス削減推進法」)」が施行された。

「そもそも世界がこの問題に気付き始めたのは、2009年。英国人作家、トリストラム・スチュアートが『WASTE(邦訳「世界の食料ムダ捨て事情」/NHK出版)』という、一種の“暴露本”を出版したことがきっかけでした。確かに、サブタイトルも『Uncovering the Global Food Scandal』(世界的な食品不祥事の解明)と過激な表現ですが、世界中のデータと取材による裏付けのある画期的な書籍だったのです。 また同書には、大量に廃棄されるバナナをはじめとした衝撃的な写真が多数掲載され、食品ロスを視覚的に捉えさせたことで、問題意識を芽生えさせたのです。その影響を受けたムーブメントの一つに、国際連合の『SDGs』(持続可能な開発目標)に食品ロスが盛り込まれたことがあります」

小林教授は、「日本でもスキャンダルとして取り上げられることが多いですが、それだけでは問題解決にはつながりにくい」と指摘する

2019年4月12日に公表された農林水産省及び環境省の「食品廃棄物等及び食品ロスの発生量の推計値(平成28年度推計)」によれば、日本では、年間約2759万tの食品廃棄物等(※)が出されているという。

(※)食品リサイクル法では「食品が食用に供された後に、または食用に供されずに廃棄されたもの」「食品の製造、加工又は調理の過程において副次的に得られた物品 (副産物)のうち食用に供することができないもの」と定義

このうち、まだ食べられるのに廃棄される食品、いわゆる「食品ロス」は約643万t。これは、世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食糧援助量(国際連合世界食糧計画2017年実績で年間約380万t)の1.7倍に相当する。

日本の食品ロス量を国民1人当たりに換算すると、お茶碗約1杯分(約139g)の食べ物、しかも“まだ食べられる物”が毎日捨てられていることになる。年間にすれば1人当たりの食品ロス量は約51kg。これは1人当たりの米の年間消費量(約54kg)とほぼ同量だ。そしてこの量は毎年ほとんど変化していない。

食品廃棄物等の発生量と「食品ロス」に当たる食品の考え方

出展)農林水産省「食品廃棄物等の発生量(平成28年度推計)」(2019年4月12日発表)より引用

世界との違い。日本では食品ロス問題=ゴミ問題ではない

「日本では2001年に事業系に限定された『食品リサイクル法』が施行されましたが、 世界で最初に包括的な法整備を行ったのは、フランスです。2016年2月に、賞味期限切れ食品の廃棄を禁止するための食品廃棄禁止法が成立しました。同年9月には、イタリアでも同様の法案が成立しています。

英国では、先述のトリストラム氏の運動もあり、2010年に『食料供給規範規範法』という大手小売業の発注のキャンセルを規制をしました。キャンセルされた方が他に売り先を探せないことを原因に食品ロスが多発していたからです。その後、フードバンクへの寄与をはじめとした食品ロス問題の解決に取り組むさまざまなビジネスが生まれています。

では、ようやく今年になって法整備に乗り出した日本は意識が低いのかというと、そうとは思いません。食品ロス問題の捉え方が日本と欧州諸国とで異なるだけ。むしろ日本の食品ロス問題を解決するためには、日本人ならではの感覚が今後も必要だと考えています」

小林教授によれば、フランスや英国が食品ロス問題の解決を急速に進めている理由は、この問題がそのままゴミの廃棄問題に直結していることが大きく影響しているという。

実は欧州諸国は、日本のように焼却処理をすることはまれ。ゴミ処理能力が低く、生ゴミを埋めていることから、埋立地で大量のメタン(温暖化効果はCO2の20倍以上とも言われている)が排出されていることが問題視されている。また、一つの埋立地が飽和状態となれば、次の埋立地が必要となるが、既存の埋立地の近くには造れないため、都市部からどんどん離れてしまう。となれば、今度はゴミの運送費用が高くなるといった課題も出ている。

「日本の場合はゴミの処理能力が高いため、食品ロス問題=ゴミ問題という欧米のような単純な話では終わりません。そもそも経済・経営学的視点から見ると、食品を“廃棄するためのコスト”と食品の流通業・外食産業におけるいわゆる“品切れによって発生するコスト”を比較したとき、今の状態、つまり『年間600万t程度の食品を廃棄している状態が、ある種の最適化された結果』ではないかというのが多くの研究者の意見です。私も、現状ではある種の消費者と生産者の均衡を保つ最適値だろうと捉えています。

ただ、少子高齢化がさらに進み、人口が減って経済的に量的な拡大が望めない時代になることが分かっている今、これまでの流通の仕組みはもう成り立ちません。インターネット販売も、確実にさらに拡大するでしょう。同時に、大量に食品ロスを出しているにもかかわらず、日本の食料自給率(カロリーベース)は37%。つまり、その多くを輸入に頼っているわけです。食べきれないものを輸入して、国内で作ったものも余らせる。一部の輸入商品の価格が上昇基調にある中、その状況をいつまで続けるのか。私たちは、今議論しなければ出口がなくなるぞ、という状況に立っているのです」

日本の食品廃棄物等・食品ロスの推移。食品ロスの量は600万t弱でほぼ横ばい

資料協力:小林富雄(※農林水産省・環境省 年次資料より作成)

日本の食品ロス問題は「ビジネス」で解を見つけるべき

そうした中、近年ではビジネスで解決策を探ろうと、食品ロス関連のスタートアップ企業が世界中で誕生している。小林教授もまた、外食の際に食べ残した食品を持ち帰るための容器「ドギーバッグ」の開発・普及を2009年から手掛けてきた。

小林教授が民間企業と組んで開発したドギーバッグ。胃がんを患って量が食べられなくなってしまった女性から、「このバッグのおかげで、また心置きなく外食を楽しめるようになった」という声も届いたという

「例えば、私が面白いと思っているのは、フィンランド発の『Froodly』というアプリ。食品を少しでも安く購入したい消費者と、小売店に置いてある消費期限が近い食品を結びつけるアプリですが、ある瞬間に『今ここが安い』という情報を利用者側が書き込んで他の利用者に提供しているという点がいいですよね。SNSも含めて、消費者の参加というのはとても重要です。

昔は、田舎から野菜がたくさん送られてきたからご近所におすそ分けする、といったコミュニケーションによって無駄を減らすことが可能でした。その文脈で、余った食品の情報をシェアする。過度な安売りは避けるべきですが、現代ならではの、地域コミュニケーションのあり方だなと感じます」

他にも、フランスの『PHENIX』というベンチャー企業にも注目しているという。フードバンク運営に横たわっていた物流や人材不足の問題を解決しようと、税制をうまく活用した中間流通サービスを提供している。

「フードバンクは無償の食品だけがあればいいというわけではなく、運営するためには当然、事務作業や物流を担う人たちが必要です。もともと慈善事業としてスタートした仕組みなので、その部分を誰がやるのか、となると話に詰まってしまう。そこで、PHENIXが手を挙げた。

フランスでは、企業が食品を寄付すると、その商品の販売価格分だけ税控除が受けられるんです。その一部を手数料として受け取るかたちで、物流サービスを提供したりマッチングさせたりといった中間流通事業を立ち上げたわけです。現在、韓国では広告代理店が積極的にフードバンクをサポートする動きもあります。日本のフードバンクも同じ問題を抱えているので、食品ロスに直接働きかけるビジネスだけでなく、そこをサポートするビジネスも活発化してほしいですね」

大学院生のころから食品ロスの研究に取り組んできた小林教授。今年で食品ロス研究20周年になるそう

小林教授は、食品ロス問題の解決は、いい食文化を再構築していくための手段と捉えることが重要だと話す。

「日本の食がこれだけ充実しているのは、戦後に食品業界や外食産業の人たちが多大な努力をしてきた結果です。彼らはこれまで、食品ロスについても十分努力している。実は、年間600万tの食品ロスのうち、80万tは外食産業の食べ残し、112万tは家庭で廃棄された食べ残し。つまり合計200万t近くが“食べ残し”です。

まずは消費者である私たち一人一人が、どうすべきか考えていくことが重要だと思います。購買行動が変われば、業態も変わります。ただ空腹を満たすためだけにあれもこれもと買って、余ったりおいしくなかったりしたら捨てればいい、というのではなく、一回一回の食事を大事にしてほしいですね」

世界の国々、日本の社会が今、考えなければならないことは、とてもシンプルなものだ

近年では、“インスタ映え”目的で、写真撮影のためだけに注文をする若者も目にするようになった。2019年夏には、高校球児のために山盛りのカツ丼を提供していた店の店主が、その流れにやるせなさを感じ、メニューの提供を止めざるを得なくなってしまったことがニュースにもなっている。

「食は、作ってくれた人たちの愛です。雑に扱うと社会や家庭が良くない方向へと進むような気がします」

きっと、今日口にする、今晩スーパーで買う、その食べ物について見つめ直すことから、私たちの未来は大きく変わるのだろう。

本特集「食品ロスからの脱出」第2回は、「コンビニ」を取り巻く問題にフォーカス。専門家は、「コンビニ業界の食品ロスは、企業努力による結果」と言う。私たちが最も助けられているのに、一番にやり玉に挙げてしまうコンビニが抱える食品ロス問題と、業界大手が取り組む解決策に迫る。

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