2020.03.06
海のウインドファーム開発中! TEPCOの洋上風力発電で「日本の電源」はどう変わるのか
試験段階から商用化、規模拡大へ。日本のウインドファームの現状とこれから歩む道
本特集ではここまで、洋上風力発電における世界と日本の動向を追ってきた。日本も、これから本格的に“再生可能エネルギーの主力電源化”へと動き出そうという中、東京電力ホールディングスは6年におよぶ実証試験を経て、2019年1月から、洋上風力発電設備1機の商用運転を開始した。同社が推進するプロジェクトと日本の洋上風力発電のこれからについて、東京電力ホールディングス風力事業推進室副室長の橋本淳氏に話を聞いた。
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日本最大の電力会社が洋上風力発電に挑む理由
東京電力ホールディングス(以下、TEPCO)は2019年1月18日、世界の洋上風力発電をけん引するデンマークの国営企業・オーステッド社(Ørsted)と協働の覚書を交わした。その背景には、再生可能エネルギー開発で、国内のみならず海外進出までを視野に入れたTEPCOの成長戦略がある。
TEPCOは2013年から千葉県銚子市の南沖合約3km、水深約12mの地点に出力2400kWの着床式洋上風力発電設備を設置し、2018年12月まで実証試験を重ねてきた。
この実証試験設備は、直径92mのローターを有する発電設備の風車1基と風速・風向計や鳥類レーダーなどを装備した観測タワー1基で構成される。
厳しい自然条件下での運転・保守ノウハウの蓄積および導入・普及に必要な技術確立という目的と共に、海洋生物や鳥類への影響を継続的に調査したことで、6年もの歳月を要したという。
TEPCOは試験に引き続き、同設備を利用した商用運転を2019年1月1日から開始。沖合での着床式洋上風力発電の商用運転は、この銚子沖の施設が日本初となる。
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銚子沖にあるTEPCOの実証試験設備。現在は商用運転されている
資料協力:TEPCO
「正直に申し上げて、TEPCOの再生可能エネルギー事業への取り組みが遅かったのは事実です。しかし、私たちにはさまざまな電源(発電方法)についてのノウハウがありますので、それらを活用して洋上風力発電に取り組んでいきたいと考えています」
そう語るのは、TEPCO風力事業推進室副室長の橋本淳氏。利用者のニーズや志向が変化し、事業環境が変化する中で、これから重要となるテーマは、「稼ぐ力」と「企業価値」を高めることだと続ける。
「まずは国内で200~300万kW規模を開発してバリューチェーンを確立し、コストや技術、人材において競争力を向上させつつ、アジアや欧州など海外にも進出したいと考えています。国内外の再生可能エネルギー事業全体で600~700万kWの規模、1000億円程度の利益水準を目指しています」
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TEPCO風力事業推進室副室長の橋本氏。火力発電所や事業計画部門を経て、2019年から現職
TEPCOが持つ発電所の比率(電力供給設備の構成比)を見ると、1951年の同社設立時に水力発電は80%の割合を占めていた。以降、さまざまな発電所を増やしてきた中でもなお、40年以上にわたって全体の15%程度の割合を維持し続けている。
古くからある水力発電が現在に至るまで再生可能エネルギーの筆頭格であり、太陽光発電や風力発電など近年の新しい電源は“比率”で見るとほぼ「0%」と、まだ小さいのが現実だ。
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TEPCOの電力供給設備の電源構成比(2018年度末)
橋本氏の発言は、この割合を洋上風力発電によって大きく引き上げることを意味している。
「TEPCOが洋上風力発電事業に本格的に参入する最大の理由は、『福島への責任の貫徹』です。福島第一原子力発電所の事故を起こしてしまった私たちは、電気事業者としてこの責任をまっとうしなければなりません。
そのためには、まず“稼ぐ力”を高めること。その手段の一つとして、低廉で安定した電力を生み出し、脱炭素化につながる再生可能エネルギーの“主力電源化”を目指したい。そして、再生可能エネルギー事業を、化石燃料を用いる従前の火力発電事業と並ぶ“柱”として国内外で推進していきたいと考えているのです」
“福島への責任”とは除染や復興のみならず、電気事業者として、環境にも配慮した電力を安定供給し続けることなのだと、橋本氏は言葉を噛みしめる。
限られた洋上ウインドファームを開拓するには
TEPCOが洋上風力発電の適地と有望視する海域が、前述の千葉県銚子沖だ。現在、同社は商用運転を開始した設備一帯で「洋上ウインドファーム」開発に向けた取り組みを進めている。同社が進める着床式の洋上風力発電は、遠浅の水深と一定以上の風力が必須となるため、日本全国を見ても開発できる海域は限られている。
「銚子沖エリアは、高い開発ポテンシャルがあると推定しています。この海域は、『海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律』(以下、再エネ海域利用法)で『有望な区域』と整理されました。その中で、私たちは最大37万kWの開発規模を目指しているのです」
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全国の洋上風況を示したマップ。年間の平均風速など洋上風力発電の発電量を左右するさまざまな要素が分かる。着床式が設置できる水深で、風のいいところは限られている
2019年4月に施行された「再エネ海域利用法」は、指定エリアの開発事業者を公募で選定し、最大30年間にわたって洋上風力発電事業が行えることを認めた法律だ。
国は同年7月、事業者を公募する段階となる「促進区域」の指定に向けて、ある程度まで準備が進んだとする全国11区域を選出。その中でも、地元との合意に向けた環境整備が進んでいる銚子沖を含む4つのエリアを有望な区域に指定し、協議会の開催や必要な調査など促進区域指定に向けた手続きを進めている。(※2019年12月に長崎県五島市沖は促進区域に指定)
つまり、TEPCOが洋上ウインドファーム開発に取り組む銚子沖エリアは、協議会で漁業操業や船舶運航など海域の先行利用者に支障を及ぼさないと見込まれれば、次のステージとなる「促進区域」に指定され、事業者の公募が行われることになる。
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促進区域(青)と有望区域(緑)、その指定に向けて準備が進んでいる全国7区域。風況、海域の条件から日本海側に多い
資料協力:TEPCO
「銚子沖の洋上ウインドファームの事業者公募は2020年度中に行われる見込みですが、公募ですので、実証試験などで準備を進めてきたものの、TEPCOが必ずしも選ばれるとは限りません」
この公募制と海洋というのが、陸上の風力や火力など、これまでの発電事業と大きく異なる点だという。
「洋上風力発電の開発は、漁業との共生が大前提となります。まだ事業者として選定されたわけではありませんが、銚子沖エリアで実証試験を行う際にも、地元漁業組合と相談してエリアを決めてきました。また、漁業との共生にも、さまざまな要素があります。例えば、英国は洋上ウインドファームがある海域では漁業禁止ですが、日本は操業できると国によって制度も異なりますし、着床式風車の基礎部分は魚礁の役割を果たして、漁場を良くするという可能性も考えられているのです」
その可能性についても、TEPCOは新たな試みを始めるところだ。着床式洋上風力発電設備の基礎周辺などに設置するコンクリート製のブロックを、イセエビの増殖礁として活用できないか、新しい漁業との共生方法を模索していく。
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ブロックの側面に設置された白の四角い部分がイセエビ保育用特殊プレート。プレートには無数の孔が開けられており、稚エビの保育に最適な環境をつくることが期待されている
写真協力:TEPCO
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イセエビ増殖礁は、着床式洋上風力発電設備の基礎周辺などに設置したい考えだという
資料協力:TEPCO
「銚子沖エリアでは、これまで協議会が2回行われ、近く3回目が開催されます。今後は、その結果を受けて、銚子沖エリアが国に促進区域として指定されれば、事業者を公募する流れとなります。事業者に選定された場合は、2026年ごろからの運転開始を見込んでいるので、5年間で環境アセスメントや着床式洋上風力発電設備の建設を行うことになります」
洋上風力発電が普及した未来とは?
このように洋上風力発電は、未来の主力電源の柱の一つとして期待される一方で、日本全体で見ても普及はまだまだこれからというのが実態だ。日本最大の電気事業者であるTEPCOの取り組みは、日本全体の電源のあり方にも大きな影響を与えることだろう。
資源エネルギー庁の調べ(2017年度)では、日本の電源構成に占める再生可能エネルギーは16%程度(水力含む)であり、ドイツの33.6%や英国の29.7%に比べて低い水準にある。国が掲げる目標は、2030年までに再生可能エネルギー22~24%を達成するとしている。
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各国のエネルギーミックスの現況
「洋上風力発電事業について協働の覚書を交わしたオーステッド社と相互補完しながら、コスト削減や国内でのサプライチェーンを確立していきたいと考えています。このためTEPCOでは洋上風力発電部門を含む、再生可能エネルギー発電事業を2020年4月から分社化して、取り組みをさらに強めていきます。
次のステップでは、浮体式の実証実験に取り組みたいと考えています。先にお話しした通り、着床式は海域が極めて限られていますが、浮体式は概ね水深200mまで設置できるので、利用できる海域が広く、伸び代があります。
このように着床式、浮体式ともに高いポテンシャルを有する洋上風力発電は、これからの電力のあり方を変えていく力があると考えています」
最後に洋上風力発電が普及した未来像について、橋本氏に聞いてみた。
「電力は今、『脱炭素化』と『分散化』が世界的潮流です。再生可能エネルギーはどちらにも適する電源の一つと言えるでしょう。そして、世の中の価値観は “炭素を出さない電気”にシフトしています。火力発電は国内の電力を支える調整力として一定程度残す必要がありますが、将来的には洋上風力発電をはじめとした再生可能エネルギーによる分散電源化が進み、まるで電気を“地産地消”するような時代に進んでいくでしょう」
橋本氏は続けて、「病院や被災地に洋上ウインドファームからダイレクトに電気を送れる専用線を引けたら」と個人的に温めている考えも教えてくれた。コストや運用といった多くの課題はあるものの、防災面では非常に有益なオプションになりそうだ。
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「専用線は災害に対して大きな保険になる。コンセプトはとてもいいのですが、実現するのはなかなか難しいですね」と橋本氏
「これからの時代、私たちTEPCOも、『電気を売る』から『サービスを売る』企業に脱皮していかなければならないと考えていています」
「福島への責任」を貫徹すると共に、低廉かつ安定した電気を届けるため、TEPCOは日本の四方に広がる海へと舵を切った。洋上風力発電がTEPCOのみならず日本のエネルギーの未来を明るくする追い風となることを期待したい。
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