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未来志向で復興の道を歩む、福島

地域・人・産業のさらなる活性化を目指して6年! 福島イノベーション・コースト構想の今、そして未来

地元企業や研究機関・大学と連携した教育プログラム、ワークショップ開催など"これからの福島"の土台作りに奔走

2020年3月で東日本大震災から9年が経過。国は“福島の復興なくして、東北の復興なし。東北の復興なくして、日本の再生なし”として積極的な支援策を展開している。その一つが2014年に立ち上がった「福島イノベーション・コースト構想」。福島県の沿岸部である浜通り地域などに産業基盤を構築し、新たな街づくりを目指す国家プロジェクトだ。
TOP画像:福島水素エネルギー研究フィールド 提供:東芝エネルギーシステムズ株式会社

世界の被災地の中でも前例のない取り組みへ

福島イノベーション・コースト構想の内容を検討するために研究会が設置されたのが2014年1月。そこから具体的な内容を取り決めていく研究会や勉強会が行われるようになる。

一昨年から福島イノベーション・コースト構想推進機構に加わった安栖(やすずみ)宏隆事務局次長は、当時のことを次のように伝え聞いた。

「さまざまな検討を行う中で、海外の事例を視察したとも聞きました。例えば、アメリカのハンフォード・サイト(米国ワシントン州にある核施設群。マンハッタン計画においてプルトニウムの精製が行われた)を検証すると、サイト内の土壌は汚染していましたが、そこに元々人が住んでおらず、尚且つ周辺地域の住民は避難していません。また、例えばロシアのチェルノブイリの場合は、事故後に120の村を捨ててしまいました。復興を諦めたわけですよね。だから福島県の浜通りとは全く状況が異なります。われわれは避難をして誰もいなくなった街だけに、避難指示が解除となった後には、できるだけ多くの人に戻っていただきたい。そのためには人が戻ってくる理由が必要です。つまり産業であり、豊かに暮らしていける未来。それを追い求めるチャレンジを始めようということ。その一つが、福島イノベーション・コースト構想なんです」

そう語る安栖次長だが、赴任当初はどこから手をつければよいか、悩んだこともあった。

福島イノベーション・コースト構想推進機構の安栖宏隆事務局次長。本気になっている子供たちに未来への可能性を感じているという

「福島イノベーション・コースト構想が重点分野として掲げているのは、『廃炉』『ロボット』『エネルギー』『農林水産』の4つのプロジェクト。これらを核として産業集積、人材育成、生活環境整備、交流人口拡大を行おうというものですが、分野ごとに時間軸が異なるため、その実現性がうまくイメージできませんでした」

加えて、地元の人たちをどのように取り込んでいくのかという課題もあった。県内すべての地域の企業の協力が必要なのに、「浜通りのプロジェクト」に対して、中通り、会津(福島県を3つに分けた地域の総称)からの目は、当初は冷たかった。

他方で県内の人口は減少の一途をたどり、風評被害もあって、農業も観光も苦難を味わっていた。それは浜通りも中通りも会津も同じだ。

「そういった一致している思いもありました。避難している県民を含め、県外から人を呼び込みたいということです。では、そのためにはどうすればよいか? 人の心を動かすためには本気でやっている人がここにいることを示さなければなりません。そうして未来を示していくことが大事だと思ったのです」

構想開始から4年が経過した2018年4月。福島復興再生特別措置法に基づく重点推進計画が認定され、福島イノベーション・コースト構想推進機構は福島市に事務所を設置。事業の本格展開をスタートさせる。そして次の5本柱を中心に取り組んでいくことを表明する。

1:産業集積・ビジネスマッチング
┗浜通り地域などへの企業誘致
┗進出企業と地元企業のマッチング
┗スタートアップの支援など

2:交流人口の拡大
┗各プロジェクト拠点への来訪者呼び込み
┗交通環境の改善

3:拠点施設の管理運営
┗福島ロボットテストフィールドの運営受託
┗東日本大震災・原子力災害伝承館の運営受託を目指す活動
┗拠点利活用の県内外へのPR

4:教育・人材育成
┗高等学校などでの産業界・研究機関と連携した教育実施
┗市町村と連携した大学などの教育・研究活動支援

5:情報発信
┗福島イノベーション・コースト構想の活動に関する情報発信

高校生など若い世代に未来を提示するために

赴任して1年半を経る中で安栖次長のモチベーションもどんどん高まっていった。

それは福島イノベーション・コースト構想に集まってきている人が“本気”だからだ。最も“本気”を感じたのは、高校生たち、若い世代だったという。

2月15日に行われた福島イノベーション・コースト構想のシンポジウムでは、東京農工大や相馬農業高校の学生による活動報告が行われた

現在、福島イノベーション・コースト構想では9つの高校に対して地元企業や研究機関・大学と連携した実践的教育プログラムを行っている。

その数は実に1年間に約120プログラムにも及ぶ。

1:トップリーダーの人材育成……38プログラム
2:工業分野の人材育成……53プログラム
3:農業・水産分野の人材育成……35プログラム(※2018年度実績)
 
なぜ、高校生の教育に力を入れるのか?

「それは彼らに未来の福島の担い手になってほしいからです。現在、県内の高校生は1学年約1万7000人。卒業後、大学進学などで県外に出ていく子供たちの中で、約1万人が帰ってこないというのが現状です。つまり、毎年1万人ずつ貴重な人材が失われていくわけです。その理由は、やはり帰ってくる場所=仕事がないということ。福島で将来の夢を描くことができないのです。それを変えなければなりません」

そのための施策として、福島で事業を展開する企業や研究機関と連携した教育プログラムを展開。それを体験してもらうことで、高校生の段階から地元で自分の将来を思い描いてもらおうというわけだ。

「効果は出てきていると思います。中には“自分は将来、廃炉に関わりたい。だから高校卒業後は大学でしっかりと原子力について学び、福島に帰ってくる”と夢を語ってくれる高校生もいて、とても頼もしく感じています」

そんな高校生と言葉を交わすと、安栖次長は「大人もさらに気を引き締めて取り組まなければ」と思うのだと言う。

福島イノベーション・コースト構想にとって「教育・人材育成」は5つの柱の一つだが、福島のこれからの街づくりに欠かすことのできない、とても大きな存在となっている。

再エネを利用した世界最大級の水素エネルギーシステム

EMIRAでは昨年、福島イノベーション・コースト構想のプロジェクト拠点の一つ、「福島ロボットテストフィールド」を取材した。
※該当記事はこちら

「簡単に言うと、ドローンを好きに離着陸させたり衝突させてもよい場所です。そうやって開発を進めて、安全を確認した上で事業に活用してほしい。加えて言えば、テストフィールドのすぐ隣の工業団地には関連企業が集まってきています。地元の南相馬市も“本気”になって独自の支援メニューや施設の整備を行っています。そうすることで福島がロボット産業の一大拠点に成長していく可能性があると思います」

福島ロボットテストフィールドを視察する、「ワールドロボットサミット2020」アンバサダーのディーン・フジオカさんと同応援サポーターの杉本雛乃さん

そんな福島ロボットテストフィールドに加えて、新たにオープンするのが「福島水素エネルギー研究フィールド」だ。

水素は再生可能エネルギーから製造することができ、使用時にもCO2を排出しないことから大幅な脱炭素化を実現するテクノロジーであると期待されている。

福島県浪江町に今春完成する、福島水素エネルギー研究フィールド。水素をためるタンクと施設を膨大な数の太陽光発電パネルが取り囲む

画像提供:東芝エネルギーシステムズ株式会社

写真中央右側に見える8本のタンクに、ここで作られた水素が貯蔵される

画像提供:東芝エネルギーシステムズ株式会社

福島水素エネルギー研究フィールドでは、大量の太陽光発電パネルを敷いて、そこからエネルギーを得て不安定な電源から安定的に水素を作り出す実証実験を行っていく。

稼働開始は2020年3月。ここで作られた水素は、五輪・パラ五輪2020東京大会で選手たちの移動に利用されるFCバスやトーチ、聖火台に使用されるという。

「ここも福島ロボットテストフィールド同様、実験の場です。CO2フリーの社会を目指したとき、何をすればよいか。それを考える上で水素を活用したいと思う人がいれば、ここで実験をしていただければよいと思っています」

実験の場であるということは、その利用者同士が切磋琢磨(せっさたくま)する場所であるということだ。そして新しいことを生み出そうとチャレンジする人に、話を聞きたいという企業が集まり、さらに新たな動きが生まれる。そうやって次第に輪が広がっていくことで、関連企業が集約されていく。

「そうなることが最終目標。だからロボットや水素などのフィールドは、そのきっかけを作るための実験場なんです」

“世界のFUKUSHIMA”にしていくために

去る2月15日、福島県南相馬市にある小高生涯学習センター「浮舟文化会館」で、福島イノベーション・コースト構想のシンポジウム(第4回)が開催された。

このシンポジウムは毎年開催されているもので、学生による活動報告やトークセッションなどが行われる。

シンポジウムでは講演のほかにも、ことし8月に福島ロボットテストフィールドなどで開催される「ワールドロボットサミット2020」におけるディーン・フジオカさんのアンバサダー就任なども発表された。ディーン・フジオカさんは福島県須賀川市出身だ

ことしのトークセッションのテーマは「未来の生活を支える新技術~ロボット×農業~」。

ステージには、福島大学農学群食農学類の窪田陽介准教授と相馬農業高校の中野幹夫校長、そして福島でロボットを使った農業に取り組む白ハトグループの瀧澤芽衣副本部長、銀座農園株式会社の飯村一樹社長が登壇。実際に2つの企業が福島で行っているロボットを活用した農業についての発表があった。

「今回のシンポジウムも、会場に座り切れないほどの地元の人たちに集まっていただきました。それだけ注目度は高まってきていると感じます。では、そうやってお集まりいただいた方に、どんな情報を発信すればよいか? 今回は農業とロボットという掛け合わせでした。こういう話をすると、興味を持つ人が出てくると思うのです。同業者同士の会話からは出てこない、異業種間の化学反応によって生み出される新たな可能性。そういった話を本気で大人たちがすることは、高校生たち若い世代にも刺激になると思います」と、トークセッションでモデレーターを務めた安栖次長は語る。

地元住民など多くの福島県民、関係者が見守る中、ステージ上では農業の新たな可能性についてさまざまな意見が取り交わされた

では現在、安栖次長が考える課題とは何か?

「一つは福島ロボットテストフィールドや福島水素エネルギー研究フィールドといった拠点を中核として、福島にいかにして人や企業を呼び込むかということです。今は補助金などもあるので県外からも集まりやすい状況と言えます。その状況があるうちに地元企業とのマッチングを進め、福島に根付いた産業としていきたいですね。そのために今春、「イノベ倶楽部」という新たな異業種交流会組織を設置しました。異業種の人と積極的に関わりを持ってビジネスを創出したいと考える人のための企画です」

さらに安栖次長は「その上で新しいビジネスを生み出すフレームを作っていきたい」と言う。

「こちらも春から新たに事業化します。“イノベーション創出プラットフォーム”と言うのですが、ワークショップやマッチングを行うなどして、そのビジネスの種を伴走支援して育成するための新しい事業を仕掛けていきたいですね。人を呼び込むことはもちろんですが、補助金に頼らず、ここ福島から新たなビジネスを生み出すための取り組みを行わなければならないと思っています」

数年後以降には福島イノベーション・コースト構想を体験してきた子どもたちが中心となって、この地に新たな産業が生まれているだろう。

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