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センサーを着る。身体データを取り込める衣服「スマートアパレル」が示す未来

動きや体温、脈拍などを計測するセンサー付きの衣服が、無意識のうちに健康を守る

スマートフォンやウエアラブルデバイスには、「センサー」が欠かせない。機器の小型軽量化に伴い、センサーもより小さく薄く、軽くて高性能なものをと開発が進められ、それが進化の大きな方向性の一つとなってきた。そして今、小型軽量化されたセンサーは衣服にも組み込まれるように。センサーを内蔵した衣服「スマートアパレル」が普及すると、どのような未来が待っているのだろうか。開発を進める代表的な企業の一つ、株式会社Xenoma(ゼノマ)に最新事情を聞いた。

衣服にセンサーを組み込んだスマートアパレル

スマートフォンに加え、スマートウォッチやスマートグラスといったウエアラブルデバイスも、今や日常の一部と化している。

スマートフォンのロックを解除するのに指紋認証を使ったり、あるいはジョギング時に心拍数を計測するためにスマートウォッチを着けていたり、という人も多いだろう。

指紋認証や心拍数の計測を可能とするのは、デバイス内に組み込まれたセンサーだ。

これまで電話や時計、メガネに過ぎなかった道具が、センサーと組み合わされることで新たなデジタルデバイスとして生まれ変わっている。そのため、センサーもあらゆる道具に組み込めるようにと、小型化、薄型化、軽量化が進んできた。既に髪の毛よりも薄い、ラップのようなセンサーも開発されている。

そのような進化を遂げたセンサーを服の中に組み込み、ウエアラブルデバイスではなく“ウエア”をデバイスにしてしまった企業がある。それが、Xenoma(ゼノマ)だ。

Xenomaが2015年の設立当初より、センサーを衣服に組み込んだスマートアパレル「e-skin(イースキン)」シリーズを開発、販売してきたことは以前トピックスでも紹介した。

※前回の記事はこちら「“着るデバイス”で誰でもゴルフの達人になれる時代が到来!?

代表取締役CEOの網盛一郎(あみもり・いちろう)氏は、スマートアパレルについてこう語る。

「会社を設立した2015年当時は、ちょうどApple Watch(アップルウォッチ)やGoogle Glass(グーグルグラス)といったウエアラブルデバイスが世に出始めた頃だったんですが、体のどこかに装着し、家に帰ると外して充電するという仕組みが、日常で使うにはいちいち面倒だなと感じていました。服に組み込んでしまった方が使い勝手も楽になるなと考え、これはいけると思い始めたんです」

Xenomaを設立した、網盛一郎氏。以前ディスプレイ業界で勤務していた際に、ひらひらとはためくディスプレイを見たのがスマートアパレルを着想する一因になったという

「e-skin」シリーズはいずれも、センサーによって読み取られたデータが、回路を通って「ハブ」と呼ばれるデバイスに集約される。ハブはデータを取りまとめ一括して、別のPCやスマートフォンに送信、抽出された体のデータを活用できるという仕組みになっている。

これらセンサー、回路、ハブは全て衣服に組み込まれており、ハブは取り外して充電できる。衣服であれば必須となる“洗濯”も、このハブを取り外せば可能だ。

「e-skin」シリーズ全てに備え付けられた重要なデバイス「ハブ」。大きさはシリーズによって異なるが、大きくてもスマホ程度のサイズと重量で、身に着けていても違和感はない。スマホをポケットに入れているくらいの感覚だ

「e-skin」シリーズは開発当初、服に組み込んだセンサーによってスポーツ時のフォームなど“動き”をキャプチャして類推することが目的だった。

「いろいろな選択肢があったのですが、最初は動きを見せられる商品にした方が面白いし、注目されるだろうという狙いでした」

その狙いは的中し、話題になった。今ではさまざまな企業から共同研究の依頼が舞い込み、それに伴って“動き以外”を読み取る製品を次々と生み出している。

研究、睡眠、運動を変える3つのスマートアパレル

Xenomaが開発した最新の製品を、網盛氏が用途別に3つ紹介してくれた。

1つ目は、「e-skin MEVA(ミーバ)」。e-skinシリーズの原点を発展させたもの。リアルタイムで動きを計測できるセンサーが組み込まれている。

一見タイツのような「e-skin MEVA」。足の外側に見える銀色の帯に回路、その帯の節目で太くなっている箇所にセンサーがそれぞれ組み込まれている

一見、タイツやスパッツのようだが、両足の外側にいくつものセンサーが組み込まれ、そこで読み取られたデータが同様に服に組み込まれた薄型回路を通して腰に装着されたハブに集約され、自動的にPCに送信されていく。

リアルタイムで動作をデータ化できるため、3DCG映画で使われるモーションキャプチャのような動きをPCのモニター上ですぐに再現できる。画面上で再現されるモーションは、驚くほど精巧。ただ、これには非常にハイスペックなPCと専用のソフトが必要となる上、販売価格もそれなりに高い。現状では、法人や研究者をターゲットとしている。

「e-skin MEVA」で計測された動きのデータは、PCの画面上で精密に再現される

「e-skin MEVAは、今は病院や介護施設からのオーダーが多いですね。リハビリ中のケガ人や高齢者の歩き方をデータとして残すことができるので、どこの筋力が弱っているか、どこを痛めているかを正確に把握することができます」

2つ目は、セレクトショップのURBAN RESEARCH(アーバンリサーチ)と協力して作った「スマートパジャマ」(e-skin Sleep & Lounge)だ。

「若い女性が、自分の睡眠の質に関心があると聞いて作ったパジャマです。その世代でも現実的に買うことができる価格にまで抑えるため、必要な機能に絞って製品をダウングレードしているのが特徴です」

URBAN RESEARCHがデザインを担当。「デジタルヘルスケアパジャマ」(3万1900円)として、現在アーバンリサーチオンラインストアや一部店舗で販売されている

こちらは、左ポケットの中にハブが装着できるようになっており、組み込まれるセンサーも数cmサイズのものが第3、第4ボタンの間付近に1つだけ。人の動きを緻密に計測する「e-skin MEVA」と比べると、かなり簡略化された作りになっている。

ポケットの中に入れる小さなハブ。必要最小限に機能を絞ることで、手の届く価格帯を実現した

「それでも、これだけで睡眠時の体動、心拍、呼吸、寝床内温度(ベッド、布団の中の温度)を計測することができます。それらのデータから、レム睡眠やディープスリープといった睡眠の状態を割り出すことができるのです」

このパジャマを軸に、睡眠をより良くするための仕組みも開発されている。

若年女性層をターゲットにしているだけあって、データの送付先はPCではなくスマホ。データを管理、閲覧するための専用アプリも配信している。さらに、スマートリモコン(別売)を組み合わせると、センサーが読み取った睡眠状態に合わせてエアコンが調整され、最適な室温をキープすることもできる。

センサーの存在によって、“パジャマ”が快適な睡眠環境を作る装置にもなるということだ。

専用アプリ「e-skin Sleep」の画面。センサーが抽出したデータを基に、週に一度睡眠改善のためのアドバイスが通知される

画像協力:Xenoma

最後となる3つ目は、最も多彩な機能が盛り込まれた「e-skin EMStyle(エムスタイル)」。こちらも衣服に組み込まれたセンサーで体の動きを計測することができるのだが、一番の目的はそこではない。

今、筋電気刺激(EMS:Electrical Muscle Stimulation)を活用したトレーニング法に流行の兆しがある。筋肉に電気刺激を与えて強制的に収縮させ、その上でトレーニングを行うと、短時間で効果が得られるというものだ。

電気刺激を与えることができる専用スーツを着用することになるのだが、「e-skin EMStyle」もその一つである。

「e-skin EMStyle」は、既に国内のフィットネスジムでも採用され、トレーニングに用いられている

「センシングだけでなく、データを送るための薄い電子回路を衣服に組み込めることも技術的な強み。電気刺激を発せられるように応用しました」

着ているだけでビッグデータが生まれる

これら3つの製品に共通する点は、人の「健康改善」を目的としていることだ。

近年、超高齢社会へと進む中「フレイル」(虚弱)という概念が注目を集めている。分かりやすく言えば、「加齢により体が弱ってきた状態」のことで、健康な状態と要介護状態の中間に位置する。

網盛氏は次のように語る。

「スマートアパレルというのはセンサーによって全身をモニタリングできるものなので、最終的にはヘルスケアに利用できるという構想は最初から頭にありました。医療行為というと、病気と診断された上で初めて行われるものなのですが、私たちがやろうとしていることは、病気や寝たきりになる前の、このフレイルの状態をどうやって発見して改善するかなのです」

例えば「e-skin MEVA」であれば、足腰が弱っていき、寝たきりになるまでの間に共通して発現する特徴的な動きを検知することができるかもしれない。それを発見できれば、事前に的確な医療的指導ができ、瀬戸際で歩行不能状態になることを防げる可能性がある。

「e-skin MEVA」に組み込まれたセンサーと、そこからつながる回路。よく見ると電子回路の雰囲気もある

「スマートパジャマ」も、脳卒中や心筋梗塞などを引き起こす要因となる睡眠時無呼吸症候群の早期発見などに役立てることができる。

使用者個人のデータのみを精査していってもこれらの兆候を見つけることはできるが、それが集約されたビッグデータとなれば、精度は増す。

「今は、使用者の生活の質を向上させることに注力しています。ただ、この後もっと『e-skin』が広まってビッグデータにできれば、より早く健康悪化の兆候を検知できるようになるはず。センサーで集めたデータを、まずは個人向けに還元し、その後より多くの人に役立てていく。この2段構えで考えています」

「健康に活動できる寿命を少しでも延ばしたい。そう思って取り組んでいます」

衣服に組み込んでしまうことで、センサーの存在を人の意識の外へ。その手段は、腕時計やメガネよりも、はるかに自然なデータの読み取りを可能とするだろう。より小さく、薄く、そして軽くなったセンサーは、「身に着ける」のではなく「着る」時代になっていくのかもしれない。

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