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2021.09.14
進化する“モーダルシフトの結節点”! JR貨物が見据える長期ビジョンとは
モーダルシフトを支える“鉄道”の現在・未来
貨物輸送の手段を自動車から鉄道や船舶へ転換し、環境負荷軽減を目指す取り組み「モーダルシフト」。その中枢を担う鉄道業界は、モーダルシフトへの期待の高まりをどう捉え、どんな動きを取っているのだろうか。今回は日本貨物鉄道株式会社(JR貨物) 経営統括本部 経営企画部の林 幸治担当部長および鉄道ロジスティクス本部 営業部の佐藤壮一担当部長、総合物流部の五島洋次郎部長に、鉄道モーダルシフトの最新事情について話を伺った。
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10tトラック65台分を一度に輸送
ある地点へ届ける荷物の中間輸送を鉄道や船舶が担い、効率良く運ぶモーダルシフト──。
この取り組みにおいて、北海道から九州まで海底トンネルや連絡橋を通じて一本の鉄路でつながる日本では、鉄道網が大きな役割を担う。
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総合物流事業を推進するJR貨物グループが推し進めるソリューションの概念イメージ
「鉄道コンテナによる輸送時間は、東京⇔九州間であれば約18時間です。貨物鉄道は中長距離の輸送を得意としており、輸送距離が伸びれば伸びるほど鉄道の特性が発揮されます。また、貨物鉄道による輸送は営業用トラックと比較してCO2排出量が約13分の1と輸送モードをシフトすることでCO2の排出量を削減して環境負荷を低減することができ、トラックドライバーの長時間労働の軽減など労働生産性の向上にもつながります」と、日本貨物鉄道株式会社(JR貨物) 経営統括本部 経営企画部の林 幸治担当部長は話す。
現在、需要が大きい貨物路線の東京⇔九州間では1編成最大26両の貨物列車が走り、最大650t(10tトラック65台分)の輸送が一度に可能である。
「2016~2020年の各年度で定時運行率は91.7~93.1%という水準となっています。自動車と比べて道路渋滞が発生しない点も大きなメリットです。昨今の豪雨のような自然災害の影響を受けることはありますが、その場合には迅速な対応ができるよう体制を整えており、別の線区を経由して輸送する迂回輸送、トラックや船舶への代行輸送の手配などが速やかに行えるよう常にシミュレーションを行っています」
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「全国の貨物列車の機関車にはGPSアンテナが備え付けられ、その位置情報は常にモニタリングし、列車遅延時の迅速な対応やお客さまへのご案内に役立てています」と林氏
鉄道コンテナ輸送へのモーダルシフトについて、流通業界からの注目は日ごとに高まっており、林氏はその背景についてこう語る。
「トラックドライバー不足、環境問題の深刻化、さらにeコマース市場の拡大などにより、近年の物流業界を取り巻く環境は著しく変化しています。一方、政府はDX(デジタルトランスフォーメーション)や2050年のカーボンニュートラル実現に向けて脱炭素社会の構築を推進し、企業にはSDGsやESG経営(環境、社会、管理体制を意識した経営)に基づく活動が求められ、環境特性と労働生産性に優れた日本唯一の全国に貨物鉄道輸送ネットワークを持つ私たちの役割はますます高まるものと考えています」
実際、各企業からのモーダルシフトに関する問い合わせは増えており、YouTubeでのモーダルシフト解説、ホームページでのネット「モーダルシフト説明会」などフレキシブルな動きを見せている。
鉄道ロジスティクス本部で営業部門を統括する佐藤壮一担当部長は「やはり新型コロナウイルス感染症拡大は輸送量に大きく影響し、お客さまへの営業や弊社業務の在り方にも大きな変化をもたらしました」と、次のように近況を語る。
「この変化に対して、私たちもオンラインでのお客さまとの打合わせ・商談や、ホームページ上にバーチャルモーダルシフト説明会(ネット「モーダルシフト説明会」)を設けるなど新たな試みも実施しています。また、新座・越谷(いずれも埼玉県)の両貨物ターミナル駅では、ドライブスルー駅見学会を実施しました。お客さまには、自動車で当社貨物駅までお越しいただき、タブレットをお渡しして自動車に乗ったまま駅を見学していただくといった内容です」
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「バーチャルモーダルシフト説明会、ドライブスルー駅見学会などは、お客さまとの直接の接触を避けながら、貨物鉄道輸送を感じていただく取り組みです」(佐藤氏)
こうしたモーダルシフトへの注目が高まる状況の中、JR貨物はことし1月、「将来にわたって持続可能な社会の形成に、私たちがどのような価値を提供し、役割を果たせるか」を示すべく、10年を見据えた「JR貨物グループ 長期ビジョン2030」を策定した。
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長期ビジョンには、全国をつなぐ幹線物流鉄道ネットワークの強靭化と貨物駅の物流結節点機能の向上を図り総合物流事業を推進すること、不動産事業を更に発展させて総合物流事業にそのノウハウを生かすことなどが基本方針として掲げられている
「この長期ビジョンの基本方針実現を目指してモーダルシフトを推進することで、『物流生産性の向上』『安全・安心な物流サービス』『グリーン社会の実現』『地域の活性化』という4つの価値を社会に提供することができると考えています」(林氏)
流通業界も期待を寄せる“駅ナカ・駅チカ倉庫”
長期ビジョンの中で特筆される点を掲げたことで、総合物流部の五島部長は「これまでの私たちの事業は“鉄道輸送サービスを売る”ことが中心でした。これを今後は、私たちが持つさまざまな物流機能を組み合わせて付加価値を高めて、お客さまに最適なソリューションをワンストップで提供することを事業の中心軸においていくことになります」と語る。
この中でも特にモーダルシフトの推進と大きく関わる方針が「貨物駅の物流結節点機能の向上」である。
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貨物ターミナル(画像は隅田川駅)では到着したコンテナ列車から荷受スペースでトラックなどに移し替えられ、各運送会社などと連携するが、そのトラックの発着や一時保管など、ケース・バイ・ケースによっての対応を担う「駅ナカ・駅チカ倉庫」のさらなる充実を図り、モーダルシフトの増強に備え始めた
「貨物駅は元々、鉄道とトラック・船舶などとの輸送モードの結節点という役割を持っています。その結節点のポテンシャルを高めることでお客さまの物流生産性の向上を図ることができると考えています。私たちは、その結節点に『駅ナカ・駅チカ倉庫』と呼べる施設の拡充を展開しており、中でも大きなプロジェクトとして、2020年2月に東京・大井地区にある全国最大の貨物駅、東京貨物ターミナル駅構内に大型物流施設『東京レールゲートWEST』が竣工しました」
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「東京レールゲートWEST」全景(上画像)。2022年には東京レールゲートEAST(下画像左部分)が、また、札幌貨物ターミナル駅構内にはDPL(ディープロジェクト・ロジスティクス/大和ハウス工業株式会社の物流施設の新ブランド)札幌レールゲートも竣工。駅ナカ・駅チカ倉庫を新たに設置することで結節点の利便性向上を推し進めている
地上7階建ての東京レールゲートWESTは延床面積7万2000m2の、JR貨物にとって初のマルチテナント型物流施設。2022年8月に隣接地で開業予定の同EASTは17万4000m2とさらに拡充される。
首都高湾岸線大井南ICや羽田線平和島ICから約2km、東京港国際コンテナターミナルまで約2km、羽田空港の国際貨物地区まで約4kmと物流インフラへのアクセスが強く、かつ東京と神奈川の都市部の半径20km圏をカバーする立地は、テナントとして入る荷主・物流業界にとって、東京湾岸で羽田空港にも近接するこの施設が鉄道、船舶、航空とトラック輸送をフレキシブルに組み合わせることが可能なモーダルシフトの推進拠点となる。この他にJR貨物グループでは各地で「積替ステーション」を展開し始めている。
「積替ステーションは一般トラックとコンテナの間での荷物の積み替えの利便性を高め、貨物駅の結節性を向上させる設備です。2020年3月に松山貨物駅(愛媛県)、4月に水沢駅(岩手県)、7月に新座貨物ターミナル駅(埼玉県)で開業しました」(五島氏)
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新座貨物ターミナル駅からの各地への距離イメージ。同駅は関越自動車道、東京外環自動車道のICへ3~6kmの好立地で、利用運送事業者10社と契約し、宅配貨物や引っ越し貨物、飲料・生活雑貨などの品目でニーズが高い
また、荷物を載せるコンテナ・車両の拡充についても余念がない。
「1編成あるいは編成の一部を特定のお客さまに貸切で運用する専用ブロックトレイン・混載ブロックトレイン、冷蔵物流に特化した定温貨物列車の新設などを通じて、お客さまの物流生産性の向上を図るとともに、環境特性、労働生産性に優れた貨物鉄道輸送をさらにご利用いただくことで、物流におけるCO2の削減、トラックドライバー不足への貢献ができると考えております」(佐藤氏)
ブロックトレインは2013年ごろより導入する運送会社が増え、現在は佐川急便(東京貨物ターミナル⇔安治川口<大阪>間)、福山通運(東京貨物ターミナル⇔東福山<広島>間ほか)、西濃運輸(吹田貨物ターミナル⇔仙台港<宮城>間ほか)が定期運行。
運送会社と鉄道の連携によるモーダルシフトへの動きが加速し、CO2削減にも大きく貢献している。
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導入が相次ぐブロックトレイン(画像は西濃運輸)
未来志向の貨物ターミナルの実現へ
さらにJR貨物グループでは、AIやIoTといった最新技術を導入した新しい貨物駅「スマート貨物ターミナル」の実現に向けて動きだしている。
「新技術を取り入れ、これまでの貨物駅を新しい時代の貨物駅にふさわしいものにすることで、トラックなどとの結節点機能をより強化するほか、貨物駅のオペレーションの効率化・省力化の推進、安全性の向上も図っていきます。また、既存鉄道インフラの有効活用の観点から、新幹線を利用した新たな物流サービスの提供も検討していきます。このような物流イノベーションも図ることによって貨物鉄道へのモーダルシフトをさらに進め、長期ビジョンに掲げた4つの価値を社会に提供していきたいと考えております」(林氏)
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スマート貨物ターミナルのイメージ。この実現により近い将来、よりスマートかつスムーズなモーダルシフトが可能となる
JR貨物グループではこうした貨物ターミナルの新たな構想の推進と共に、大型台風や集中豪雨など近年激甚化している自然災害による貨物鉄道網の相次ぐ寸断の対策、在来線ネットワークの強靭(きょうじん)化が大きな課題となっている。
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貨物ターミナル駅でのコンテナの確認作業。よりモーダルシフトが普及する未来を見据え、JR貨物では安全をすべての基盤として鉄道ネットワークの強靭化を進めている
その課題にも計画的な設備投資のほかに、徹底したトラブルシューティングを行っている。
こうした鉄道の取り組みに対し、鉄道を利用、鉄道と連携する運送会社はモーダルシフトをどう捉え、未来を見据えているのか。
本特集のラスト第3回は、東京レールゲートを実際に活用する企業に話を聞く。
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