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共創から生まれるイノベーション

犯罪抑止&経費精算効率化のサービス誕生を支えた「FINOLAB」に学ぶイノベーション

時代に求められるデジタル金融スタートアップの成長曲線

複数の企業や団体、個人が共創し、新たな事業や仕組みが構築されるオープンイノベーションの場。金融業界にも、そうした拠点が存在する。日本のフィンテック(FinTech。金融×技術)の黎明期から業界を盛り上げてきた「FINOLAB(フィノラボ)」は、人々の思いと情熱が交差するフィンテックコミュニティーだ。これまで、スタートアップと大企業によるさまざまな共創が行われてきた。本特集第2回では、FINOLABとコミュニティーに参加するスタートアップ2社の成長ストーリーから、イノベーションを生み出すヒントを探る。

日本のフィンテックをけん引するコミュニティー

フィンテックという言葉がまだ日本に浸透していなかった2012年。「金融イノベーション」を掲げ、株式会社電通国際情報サービス(以下、ISID)はピッチコンテストやセミナーを行うイベント「Financial Innovation Business Conference(FIBC)」を立ち上げた。以降、毎年開催される中で、ISIDと株式会社電通、三菱地所株式会社によって2016年に開設されたのが「FINOLAB」だ。FIBCは、2020年から「4F(Future Frontier Fes by FINOLAB)」に名を改め、継承されている。

世界有数の国際金融センター、東京・大手町エリアにある会員制コミュニティー&スペース「FINOLAB」。コロナ禍以前には、交流会「ミートアップ」が毎週開催され、会員同士の情報交換の場所となっていた

FINOLABはシェアオフィスとしての側面もあるが、スタートアップと大手企業の協業をサポートするフィンテックコミュニティーである。2019年に法人化し、株式会社FINOLABとして独立した。現在はスタートアップ46社、事業法人22社、業界団体2団体、スタートアップや法人企業に所属する個人約600名が参加している(2021年12月時点)。

FINOLABでは資金調達、ノンコア業務(企業の直接利益につながらない業務)のアウトソーシング、市場リサーチなどの支援を行っている。またコロナ禍前には毎週交流会を開き、メンバー同士が飲食を共にしながら情報交換が繰り広げられていた。「そこではローンチされるプロジェクトなども発表され、新しいアイデアが生まれたり協業につながったりしたケースもある」と、Head of FINOLAB兼CCO(Chief Community Officer)の柴田誠氏は話す。

このようにFINOLABは、スタートアップや大企業の出会いの場であり、それによって多くのスタートアップが成長を遂げた。株式会社カウリスとクラウドキャスト株式会社もそこに数えられる。

Head of FINOLAB兼CCOの柴田誠氏(中央)と、株式会社カウリス 代表取締役 島津敦好氏(左)、クラウドキャスト株式会社 代表取締役 星川高志氏(右)

犯罪の温床となる銀行口座の不正開設を防止

金融業界向けにセキュリティーサービスを提供する株式会社カウリスは、2015年に創業し、FINOLAB開設当時から入居している企業の一つ。事業を軌道に乗せる上で「FINOLABの存在は欠かせなかった」と、代表取締役の島津氏は振り返る。

「売り上げや資金調達はスタートアップにとって生命線です。当時の課題は顧客獲得でしたが、FINOLABには大企業の会員もおり、銀行などの潜在顧客や株主とのリレーションを構築できたことは非常に大きかったです」

島津氏が率いるカウリスはFINOLAB開設当初から同施設内にオフィスを構える

現在の同社にはISIDやソニーなど多くの大手企業が出資しており、そのほとんどがFINOLABを通じて関係を深めた。2016年10月に提供を開始したクラウド型不正アクセス検知サービス「FraudAlert(フロードアラート)」も、FINOLABのネットワークを通じて多数の顧客を獲得したという。

同サービスは、金融機関や通信キャリア企業などに採用され、月間約1億5000万件にもなるログインや申込・口座開設をモニタリングしている。ユーザーアクセスの全ログを保存し、独自のパラメータで疑わしい取引を検知してきた。

ログインや申し込み、口座開設をモニタリングする不正アクセス検知サービス「FraudAlert(フロードアラート)」

画像提供:株式会社カウリス

不正アクセス検知の技術を発展させ、電力設備情報を活用した不正口座開設などを防止する事業を開始したのは2019年のこと。近年、空き家を利用した成り済ましによる不正口座の開設で、インターネット銀行が犯罪や資金洗浄に用いられるケースが多発している。同事業は、そうした社会課題を解決する取り組みだ。電力送配電会社の設備情報と同社の不正アクセス検知技術を活用することで、成り済ましの可能性に関する確度の高いリスク情報を金融機関に提供する。

これまで電力会社と共に実証実験を実施し、2021年に複数社とデータベースの連携を開始している。そのうちの一社はかつてFINOLABの会員企業であり、その縁でデータ連携が実現した。FINOLABにはさまざまなレイヤーのビジネスパーソンが参加しているが、組織の規模やステージを超え、同じ目線に立てることが魅力だという。

「FINOLABの仕掛けとして面白いのはスタートアップだけが集まるのではなく、なかなか出会えない大企業や金融当局も参加していることです。この場でお酒を片手に会話をすると、カジュアルにコミュニケーションが取れるようになります」(島津氏)

順調に事業規模を拡大させているカウリスは、これからもFINOLABを拠点に、金融インフラのセキュリティー対策に貢献していく考えだ。

「セキュリティーやAML(マネー・ローンダリング防止対策)に対する意識は相当高まっています。当社では顧客やパートナーとデータベースを共創し、銀行口座の不正利用を社会全体で減らしていきたいです」(島津氏)

キャッシュレスと経費精算の効率化で働き方を変える

一方で、サービスをブラッシュアップするためにFINOLABを活用してきたのが、経費精算サービス「Staple (ステイプル) 」を運営するクラウドキャスト株式会社だ。2011年創業の同社は、FINOLAB設立時から入居している。2019年に、経費精算サービス一体型法人プリペイドカード「Stapleカード」の発行を開始したが、このサービスの構築にFINOLABが寄与した。

FINOLAB入居当初は「2〜3席のフリーアドレスからスタートした」と、クラウドキャストの星川氏。事業の拡大につれて徐々に広い個室へと移動したが、現在はリモートワーク中心で、週2回社員が顔を合わせる場所として利用している

クラウドキャスト代表取締役の星川氏は2016年ごろ、中小・スタートアップ企業をターゲットにしたプリペイドカードサービスのコンセプトを検討していた。小規模事業者は、クレジットカードを持ちたくても与信審査が通らず所有できないケースが多い。プリペイドカードだとその与信審査が必要ないからだ。

ところがFINOLAB内のセミナーでプレゼンしてみると、意外にも中堅・大企業のニーズがあることが分かった。大手企業には与信の問題はないものの、ガバナンスの問題があった。社員による不正防止のために使いたいという声があったと、星川氏は説明する。

「クレジットカードは明細を見るまで利用履歴が分からないため、不正利用されるリスクがあります。当社のシステムは利用した瞬間にデータが入ってくるので、万一他の人が利用してもすぐに分かりますし、API(アプリケーション・プログラム・インターフェース)経由でカードをロックしたり残高をゼロにしたりすることもでき、不正を防ぎやすいのです」

2018年にはFINOLABの協力の下、実証実験を行った。FINOLABメンバーであるマネーツリー株式会社などが参加し、実現の可能性を確認できたことで、製品化に大きく前進したという。

経費精算サービス「Staple」とプリペイドカードが経費精算の煩わしさを解消する

画像提供:クラウドキャスト株式会社

同社がFINOLABの中で行っている実証実験は、製品に関してだけではない。2021年10月には「曜日単位のシェアオフィスを利用した新しい働き方」について、実証実験を開始した。コロナ禍をきっかけにオフィスの存在価値を見直し、曜日を固定した週2日のみFINOLABの共有スペースや個室専有スペースを使う。オフィスとテレワークの“ハイブリッド”の働き方へと同社が移行するためだ。こうした取り組みは、一見すると事業とは無関係のようだが、星川氏にとって両者は同軸上にあるという。

「私たちの製品自体、そもそも働き方を変えることを目的にしています。従来、経費は立て替えるのが当たり前で、レシートなどのエビデンスを提出しても不備があれば却下されるのが常識でした。従業員が会社に個人のお金を貸している状態なのにです。われわれはそうした課題をテクノロジーの力で解決してきました。自分たちのワークスタイルを変えていくのもその一環であり、当社にとっては重要なことなのです」

オフィススペースの利用頻度は少なくなるが、だからこそ直接対面の意義が大きくなる。それは社内だけでなく、他社との交流も同じだ。星川氏は、FINOLABにコロナ禍以前の活気が戻ることを切望する。

「人が集まることは難しくなってしまいましたが、フィンテック業界をけん引するパイオニアとして、FINOLABには場所の力、個人の力、ネットワークの力を存分に発揮してほしいです」

オープンスペースでは、さまざまなセミナーなどのイベントが開催される

新たな変異株の出現により先の見通しは不透明なものの、新型コロナウイルス感染症の第5波が落ち着いたことにより、FINOLABはオフラインイベントを再開する予定だ。Head of FINOLAB兼CCOの柴田氏は、コロナ前以上にFINOLABがダイナミックにスタートアップを支援する未来を思い描く。

「FINOLABはこれまで、東京が国際金融都市としてのプレゼンスを高めていくため、政府に協力し、日本に進出する海外のフィンテック企業の支援も行ってきました。海外企業にはもっと日本に進出してきてほしいですし、逆に日本のスタートアップには積極的に海外へと打って出てほしいです」

コロナ禍以前よりも、さらにフィンテック業界を盛り上げていきたいと話す柴田氏(中央)と島津氏(左)と星川氏(右)

金融は規制産業であり、海外展開には越えなければならない多くのハードルがある。それでも、FINOLABというフィンテック業界におけるエコシステムの後押しで、グローバルで活躍するスタートアップが続々と誕生することを期待したい。

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