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新フェーズ突入、洋上風力発電

洋上風車建設の課題解消! 世界最大級の「自航式SEP船」がもたらす可能性

清水建設の自航式SEP船「BLUE WIND」完成

日本でも普及が期待されている洋上風力発電。その大きな課題となっているのが、風車建設におけるコストと作業船の確保だ。その2つの解決策として注目されているのが、清水建設株式会社が造船した世界最大級の自航式SEP船「BLUE WIND」。2022年10月に完成したばかりのSEP船は、日本の洋上風力発電にどのようなインパクトを与えるのか。同社エンジニアリング事業本部企画部長の由良佳之氏に話を聞いた。

陸上風力発電の建設課題

清水建設は、創業210年以上の歴史を持つ総合建設会社(ゼネコン)だ。大手5社の一角を担い、多数の建築や道路・トンネルなどのインフラ施工を担ってきた。その清水建設がなぜ風力発電の建設事業に参入することとなったのか。

「再生可能エネルギー(以下、再エネ)で発電した電気の価格を国が定める『固定価格買取制度(FIT制度)』において、太陽光以外の全ての再エネの買い取りが可能となったのが2012年。そこから再エネの商用化が盛り上がっていますが、そのはるか前から、日本が電力を安定的に確保するには再エネが不可欠だとの議論は始まっていました。弊社には2000年前後に電気事業者から陸上風力発電設備の建設の相談があり、そこから実績を積み上げています」

そう話すのは、同社で、工場建設における製造ラインやネットワーク設備、風力発電などを担当していた、エンジニアリング事業本部企画部長の由良佳之氏。近年は風力発電の重心が陸上から洋上に移るにつれ、清水建設も洋上風力発電における複数のプロジェクトを担うことになる。2022年現在、国内風力発電設備(陸上・洋上合わせて)の内、同社が施工した割合は約20%にも上っており、技術と実績を兼ね備えたトッププレーヤーだ。

自国でのインフラ整備の必要性を訴える、由良佳之氏

当特集の第1回でも取り上げたように、現在、日本の風力発電は陸上から洋上へとシフトしてきている。発電設備の建設候補地には限界が見えており、また発電効率の高い大型風車の適地となるとさらに少ないからだ。

風車の部材を建設現場まで運ぶこと自体、難易度が高く、時には道路を新設することも。またトンネルや道路を使った運搬には交通規制をかけるため、国や警察へ許可を取るなどの工数も増える。

そうした中で脚光を浴びているのが、比較的建設の自由度が高い洋上風力発電だ。ただし、洋上での風車建設には、風車の羽(タービン)や柱(タワー)などの部材を港から搬入し、洋上で建設作業をするSEP船(Self-Elevating Platform:自己昇降式作業船)が必要となってくる。

国内初の「自航式」SEP船

現在、日本のゼネコンでSEP船を保有しているのが、鹿島建設、五洋建設、大林組。それらの船と大きく特徴が異なるのが、清水建設が造船した「BLUE WIND」だ。

まずその特徴の一つが、大きさだ。全幅50m・全長142mで、現在欧州の洋上風力発電の主流である8MW(メガワット)の風車であれば7基、さらに大型となる12MWの風車でも3基分の全部材を一度に積み込み、建設できる。

発電効率を上げるために、今後ますます風車が大型化することを見越し、クレーンの最大揚重能力は2500t。巨大な風車の部材を、難なく引き上げられる。一度に多くの部材を積み込むことができれば、工期の短縮にもつながる。

もう一つ、大きな特徴が、自ら航行できる「自航式」であること。これまでの国内ゼネコンが所有するSEP船が自航不可なタイプだったため、SEP船を引くためのタグボードの手配やコストが必要だった。しかし、「BLUE WIND」にはそれが不要となる。

また、「自己昇降式作業船」の名の通り、4本の脚を海底に付け、船体を海面から離すことで波の影響を受けずに施工できる。これまで海象条件によっては作業を延期することも多かったというが、「BLUE WIND」の場合、工期を従来の半分にまで短縮できるとの試算もある。

風車の大型化を見込んだスペックを持つSEP船「BLUE WIND」

提供:清水建設

「BLUE WIND」の造船には約500億円もの巨額が投じられたのだが、なぜ建設会社がSEP船を保有する必要があるのだろうか。

その大きな要因となる1つ目が、SEP船の確保の難しさ。清水建設は当初、洋上風力発電で世界をリードしている欧州からの賃借を想定していた。ところが世界的なニーズが高く、仮に確保できたとしても、日本で稼働させるには日本の船籍への変更手続きが必須だ。欧州から日本への移動に1カ月、船籍変更手続きでさらに1カ月を要する。加えて、穏やかな海に囲まれている欧州の船のスペックで、日本の厳しい海象条件に耐えられるかも未知数だ。

2つ目がコスト。移動や手続きなどで作業できない期間を含めた海外の作業船の高額な賃借料以外にも、タグボートの手配や海象条件で稼働できない期間の船や作業員の拘束など、コストは重なる。

「当社の洋上風力発電における使命は、建設コストを下げること。そのためには、海上での作業日数の短縮が必要。作業効率のために一度に多くの部材を積載し、作業する。ある程度の海象条件に耐えて、作業に影響を及ぼさない。そういった船が必要でした」

本格稼働が待たれる「BLUE WIND」

提供:清水建設

課題が山積する中、2027年からは、国に選ばれた事業者が指定海域を30年間占用できる再エネ海域利用法(海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律)に基づく洋上風力発電の建設が始まる。

これらの背景から、国内の事業者が造船して、確実に風力発電設備を建設できる状況にしなければならないと、清水建設はSEP船の造船にこぎ出したのだ。

日本の海象条件にも耐える国産SEP船

清水建設のSEP船は今後、2023年2月をめどに船体の最終チェックや船員訓練を経て、3月には富山県入善町沖で、それ以降は北海道・室蘭港を母港として石狩湾で洋上風力発電設備を施工する予定だ。国の動きとしても、再エネ海域利用法ができ、洋上風力発電事業は5兆円超の規模にまで拡大しようとしており、SEP船が活躍する舞台はさらに増えていくだろう。

一方、SEP船活用のためのインフラの整備は遅れている。前述の通り、風車の大型化は年々進み、当然ながら部材も巨大になる。SEP船への積み込み前には部材を港湾に並べてクレーン車で運び込むが、その重量や長さに耐えられる場所は限られている。拠点港湾の整備やサプライチェーンなど、インフラの足並みがそろわないことには本格稼働は難しい。由良氏はあくまで自国で体制を整える重要性を訴える。

清水建設本社に飾られる「BLUE WIND」の模型

「2050年のカーボンニュートラル宣言に向け、島国である日本がエネルギーを安定的に確保しようとすると、再生可能エネルギーの主電力化が必須。中でも風力発電は、太陽光と異なり昼夜問わず発電できるメリットがあります。その際、インフラの一部を外国に頼っていては、安定的にエネルギーが供給できないリスクがいつまでも残ります。自国のエネルギーを安定的に自国で作れる体制が不可欠であり、その思いを乗せたのがSEP船なのです。建設会社が船を持つのは大きなチャレンジで、判断までに社内で相当な議論があったことは確かです。だからこそ、BLUE WINDを日本のエネルギー確保に役立てたいと思っています」

インフラからサプライチェーン形成の大きな枠組みができたとき、SEP船の真の実力が発揮できる。それにより、日本の洋上風力発電が活性化されることになれば、再生可能エネルギーの構成バランスは大きく変わってきそうだ。

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