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これからのエネルギーとの関わり方

デマンドレスポンスや断熱。消費者ができる電力の需給ひっ迫対策

不確かな時代のエネルギーとの関わり方

電力の需給ひっ迫が叫ばれる中、電気を利用する私たちはどのような行動を取るべきなのか。需要側の視点からエネルギーシステムの研究をしている東京大学生産技術研究所特任教授の岩船由美子氏に、その取り組みの一つとして挙げられる「デマンドレスポンス」や、私たちが今できることについて話を聞いた。

需要側から電力の需給バランスを調整する「デマンドレスポンス」

猛暑や寒波など急激な気候変動による電力需要の増加や、ロシアのウクライナ侵攻などが影響するエネルギー資源価格の高騰など、日本における電力の需給ひっ迫は深刻な問題だ。

>>なぜ電力の需給ひっ迫が起こっているのか?

電気は大量貯蔵が難しい。計画停電や予期せぬ大規模停電を防ぐために、電力の需要と供給のバランスを常に調整する必要がある。昨年3月に電力供給の予備率が最低限必要な3%を下回ったことを受け、資源エネルギー庁が初の「電力需給ひっ迫警報」を発令し、節電協力を呼びかけたことは記憶に新しい。

「専門家によって意見は分かれますが、私は、エネルギー需給の問題は供給側だけでなんとかなる時代は終わったのではないかと思っています」

東京大学生産技術研究所特任教授の岩船由美子氏は、電力の供給体制についてそう話す。

エネルギーの基本は「S+3E」。すなわち「安全性(Safety)」を前提に、「自給率(Energy Security)」「経済効率性(Economic Efficiency)」「環境適合(Environment)」を同時に実現しなければならないが、いずれも難しい状況になっていると岩船氏は指摘する。

「政府が2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言して以来、それがエネルギー政策においてやるべきことのリストのトップになりました。ところが電力システム改革の影響で電源や燃料の確保が困難になったり、さらにはロシアがウクライナを侵攻。エネルギーの安定供給を脅かす事態となりました。燃料価格が上昇し、電気料金もガス料金も値上がりし、経済的に厳しい上にカーボンニュートラルを推進しなければならないという、八方ふさがりの状況です」

エネルギーシステムの研究をする東京大学生産技術研究所特任教授 岩船由美子氏

それでも日本は、電力の安定供給を維持している。政府が節電を呼びかけてはいるものの、昨年のようなひっ迫する事態にはなっていない。電力広域的運営推進機関が発表した資料(2022年9月15日発表)によると、2022年度厳寒期の電力供給の予備率予想は、東北・東京エリアで3%以上、中部・西日本6エリアで4%以上を確保できる見通しで、安定供給に最低限必要な予備率3%を上回っている。それは政府が対応を強化しているからだ。岩船氏が続ける。

「電気は安定供給という観点から、燃料の確保と発電設備の維持が重要です。その部分に対して政府は、かなり厚めの対応を取っています。それは停電が『絶対に許されないマター』になっているからです。昨年の夏は需要側に働きかけ、暑い日に少し我慢をしてもらうという対応を取りましたが、国民に過度な我慢を強いる政策は、国としては取りたくない。だから安定供給のために余分に船を出して燃料の確保に奔走していますし、効率が低くてコストに見合わないような発電設備の維持も要請しているのです」

2021年の寒波や2022年の猛暑による全国的な電力の需給ひっ迫を受け、資源エネルギー庁は、燃料タンクの運用やLNG(液化天然ガス)在庫のモニタリング、電力需給の見通しを踏まえた配船計画と計画の見直しを随時行い、燃料確保への対応強化を進めてきた。

一方で、電気料金は高止まりした状況が続いている。電気料金高騰の一因にもなっているのが、LNGの世界的な価格の上昇だ。日本の電源構成は、2021年時点でLNGが34.4%を占め(2021年度資源エネルギー庁発表より)、世界最大のLNG輸入国となっている。そのため、世界規模でのLNG価格急騰が影響し、電気料金が跳ね上がっている。

日本国内の電源構成(2021年度の年間発電量)の割合

出典:2021年度 資源エネルギー庁『集計結果又は推計結果(総合エネルギー統計)「時系列表」』より(2022年11月22日公表)

また、老朽化した火力発電所の再稼働と維持には、莫大なコストがかかる。この必要なコストを補うため、家庭や企業の電気料金から広く集める必要があるのだ。

電力の自給自足が必要であり、再生可能エネルギー(再エネ)が発電量に占める割合も徐々に増えてはいる。しかし、再エネは天候などに左右されるため、発電量が安定しないことが課題だ。そこで注目されているのが「デマンドレスポンス(DR)」の取り組みだ。DRとは、電力の需要と供給のバランスを取るために、需要側が電力使用量を制御し供給量に需要量を合わせる仕組みのことだ。

「需要側が電力の需給バランスを調整するDRにはいろいろな方法がありますが、夏や冬の電力需要の最も大きい時間帯に節電をしてもらい、使用量を減らした分の対価を支払うのが一般的な仕組みです。産業用であれば製造プロセスを変えることなどで、以前からDRへ取り組んできました。ですが、これからは電力の需給バランスを維持するために社会全体でより幅広い貢献が必要になるため、産業用だけではなく家庭用でもDRへの取り組みを考える必要があります」

省エネ設備の活用で電力使用量を調整

ただし家庭については、効果がまだ限定的だと岩船氏は言う。

「家庭で今行われているのは“我慢”のDRです。確かにエアコンを夕方に使わなければ電力の供給に余裕が生まれますが、我慢は長続きしません。ただDRが注目されるようになってよかったのは、対価を払う仕組みが構築されたことです。全国5583万世帯(2020年10月1日現在)のリソースをつなぐことは容易ではありませんが、それを推進するための足掛かりができたのです」

よりDRの効果を高めるためにカギとなるのは、電気自動車(EV)や、大気中の熱にヒートポンプ技術を利用することで少ない電力で湯を沸かすことができるエコキュートなど、電気を貯められる機能のある設備の活用だ。

「例えばEVの電池の充放電を活用することで、家庭内で必要な電力を賄ったり、エコキュートであらかじめお湯をためておいたりすることで、電力需要の調整が可能になります。EVの電池の容量は大きく、60kWhの電池なら一般家庭で3〜4日はもつでしょう。車に乗りたいときに電池が十分に充電されていて、お湯を使いたいときにはタンクにきちんとたまってさえいれば、それ以外の時間は自由にエネルギーとして使えるわけです。需要側の効用をきちんと維持しながら、機器を上手に調整していくことが重要です」

家庭1軒のリソースは小さいが、それらを集約して制御できれば、より大きな効果を生む。それを担う存在として期待されるのが、需要側の電力需要バランスをとりまとめ効果的にエネルギーマネジメントサービスを提供する中間事業者、「アグリゲーター」の存在だ。

「太陽光発電の導入が増えていますが、急に天気が悪くなったら、発電量は減少し、予測に誤差が生じます。そうしたときにEVの充電やエコキュートの電源を切ることによって、予測の誤差を埋められるようになります。しかしそうしたリアルタイムな制御は、外部からの働きかけがなければできません。それを担うのがアグリゲーターなのです」

日本ではまだまだ少ないが、海外では既にアグリゲーターが活躍している地域もある。例えば、米国カリフォルニア州では熱波の影響で毎年、停電のリスクにさらされており、アグリゲーターがそれを解消する役割を担っている。

「カリフォルニアには太陽光発電所がたくさんありますが、それでも発電量が足りなくなります。ただし蓄電池を所有している家庭が少なくないので、アグリゲーターがその蓄電池を集約し、系統(送電網・配電網)運用者から電力が足りないという信号が発せられたときに、放電します。アグリゲーターが各家庭の電池を制御できる権利を取得し、それに対して対価を払うという仕組みが構築されているため、いざというときに系統を補うことができるのです。日本でもこういうことはできるはずです」

住環境の改善でエネルギー使用量の削減を

DR以外に、需要側が電力の需給ひっ迫の解消に貢献できることはないのか。まずは電気の使用状況を把握することが重要だと、岩船氏は言う。

「我々の研究室ではスマートメーターを使い、家庭向けに電力の使用状況の診断を行っています。こうした取り組みをもっと普及させるべきです。普通の家庭では消費電力がそれほど多くありませんが、まれに平均に比べて非常に多い電気を使用している家庭があります。そうした家庭を見つけ、電力の使用状況を分析し、自覚していただくことに価値があります」

住環境を改善することで、使用するエネルギーの量そのものを減らすこともできる。しかし、国土交通省が2018年に実施した一般家屋約5,000万戸の断熱性能の調査によると、1980(昭和55)年の古い基準に基づいた住宅が37%、その基準にも満たない無断熱の住宅が30%を占め、現行基準を満たすものは11%程度に過ぎない。

一般家屋約5000万戸の断熱性能の割合

出典:国土交通省『第1回 脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会 説明資料』より(2021年4月発表)

「日本の家屋は概して寒い。断熱改修をしてこの部分を改善し、エネルギーをあまり使わなくても済むような暮らしを志向するべきです。電気料金を下げるために補助金を出すくらいなら、こうしたことにもっと使うべきだと思います」

2025年4月より東京都は、大手ハウスメーカーなどが供給する新築住宅に太陽光発電(太陽電池)の設置を義務化するなど、太陽光発電設備の一般家庭への導入の機運は高まっている。それが進めば電気代の削減や脱炭素社会へ貢献することがさらに可能となるだろう。その上で岩船氏は、家庭内を「電化」することが理想だと続ける。

「電気は再エネを使えばクリーンエネルギーを実現できますが、ガスや灯油はどうしてもCO2の排出が残ります。カーボンニュートラルを本気で目指すのであれば、家庭内も電化していかなければなりません」

キッチンや暖房、給湯など家庭の電化によってCO2の削減効果が見込まれる(写真はイメージ)

実効性のある省エネは一朝一夕でできるものではなく、対策には長期的な視点が重要であることが分かったが、世界情勢は不透明であり、電力の需給ひっ迫は予断を許さない。私たちは、目下の危機をどう乗り越えていけばいいのだろうか。岩船氏は、需要側がもう少し協力をしてもいいのではないかと提言する。

「節電は、基本は無理のない範囲で協力できればいいと思います。ただ、夏と冬とでは状況が異なります。夏は電気を使う時間をずらせば問題を解消できますが、冬は太陽光などの発電量が減るので、電力量自体が足りなくなります。そうなるとDRも難しいですし、追加調達のように供給側だけで解決しようとすると、コストが上がる一方です。もちろん、電力の需給ひっ迫の問題は長期的には根本的な解決を目指す必要があります。ですが、現状ではもう少し需要側が協力してもいいのではないかと思っています。頻繁には無理なものの、本当に困ったときは、需要側にいつもより負荷の高い節電の協力をしてもらう。そうすれば電力の需給ひっ迫への対応の幅が広がります。停電や電気が使用できない状況に対する考え方など、エネルギー問題を一人一人が自分事として考えてほしいですね」

電気をいつでも使えることは、当たり前ではない。私たちは、まずは電気そのものの理解を醸成し、当事者意識を持って電力の問題に取り組む必要があるのだ。

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