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今始まる、海洋発電時代

黒潮で日本の離島を救う海流発電が実用化に前進!

世界初となる実証実験が成功——海流発電がもたらす未来の電気

日本を取り囲む“海”は、再生可能エネルギーの側面からも注目されている。島国ならではの特性を生かした海洋での発電事情はどうなっているのだろうか。特集第1回では、今研究が進む「海流発電」の現状と今後の見通しについて、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の新エネルギー部風力・海洋グループ主任研究員・田窪祐子氏に話を聞いた。

世界で初めての実験に成功!

NEDOと株式会社IHIは今年8月、鹿児島県口之島沖で、定格出力100kW規模の海流発電としては世界初となる水中浮遊式海流発電システム「かいりゅう」の実証実験を行った。今回の実証試験で得られた発電出力は最大30kW。「想定通りの結果が出せた」と、田窪氏は話す。

「実証実験に使った『かいりゅう』は、最大流速2~2.5m/secの黒潮に設置することまで想定した発電機を搭載していますが、定格流速1.5m/secで、100kW発電できるように設計した装置です。今年7月に行った『かいりゅう』を船で曳航(えいこう)し、人工的に定格流速1.5m/secを模擬した試験では、100kWの出力が確認されています。

今回実験を行った鹿児島県口之島沖は、流速0.8~1.2m/secの黒潮海域です。最大出力30kWという結果は、想定通りのものでした。そもそも今回の実証試験は、発電出力を確認することだけを目的としていたわけではなく、水中姿勢を安定させるための自律制御システムの性能確認や、発電機の設置および撤去の施工方法の確認など、今後の実用化に向けたデータを取得することを目的としていました」

今回お話を聞かせてくれたNEDOの田窪祐子氏。海洋発電だけでなく、風力発電にも取り組んでいる

実験に使われた「かいりゅう」は、全長と幅がそれぞれ20m、重量330tの本体に、直径11mのブレードが2基付いた巨大な設備。これが海底に設置されたシンカー(重り)と特殊なケーブルで接続され、海面から30~50mの水中に浮遊するように設置される。

そして、海流を受けて回転したブレードがタービンを回して発電し、地上の受電施設に送電する仕組みだ。一部報道では、「かいりゅう」の定格発電出力である100kWは、40~50世帯分の電力使用量に相当するとの見解もあった。

NEDOとIHIが共同で開発を進めてきた水中浮遊式海流発電システム「かいりゅう」

画像協力:NEDO

日本が取り組むべき「海流発電」

日本の領土面積は世界61位にすぎないが、排他的経済水域(EEZ)と延長大陸棚を含めた日本の海洋領域の面積は領土の約12倍で世界6位となる。これは、宇宙と同じぐらい開発が難しいといわれる深海域を含めて、日本には利用することができる膨大な海洋資源があるということだ。

この海洋資源を再生可能エネルギーとして活用するため、NEDOは2011年度から国際エネルギー機関(IEA)が規定する海洋エネルギー資源のうち、波力と潮流(潮の満ち干によって周期的に起こる海の流れを利用した発電方式)、海流、海洋温度差について研究を行い、実験を行ってきた。そして、それらの実験結果から、日本が今後取り組むべき海洋エネルギー発電方式の一つとして、海流が有望ではないかと考えているのだという。

「日本の周囲には、世界有数の海流である黒潮をはじめとして、親潮、対馬海流などの海流が流れています。これは海流発電を行うにあたり、地理的に優位な条件となるんです。また、海流は一定方向にほぼ一定の速度で流れるため、比較的変動が少ないということも、利点として挙げられます。変動することが当たり前といわれる再生可能エネルギーの分野において、これは大きなメリットとなるはずです。

例えば海外では、黒潮と同じく世界有数の海流であるメキシコ湾流が流れるアメリカでは海流発電の基礎研究が進んでいますし、波力と潮流のエネルギー密度が高いイギリスを中心に、ヨーロッパは波力、潮流、潮汐力(潮の満ち干を利用して、ダムなどに貯水、それを開放することでタービンを回す発電方式)を利用した発電が進んでいます。海洋エネルギー資源を利用した発電は、それぞれの国にとってポテンシャルが高い分野から取り組まれているのです」

世界の主な海流/①黒潮、②親潮、③北太平洋海流、④北赤道海流、⑤赤道反流、⑥南赤道海流、⑦南インド海流、⑧南大西洋海流、⑨北大西洋海流、⑩南極海流、⑪カリフォルニア海流

出展:「NEDO再生可能エネルギー技術白書(第2版)」より引用

「海洋エネルギー発電の分野は、波力発電ですと、世界で複数機での実証試験が実施されるなど、日本は大きく後れをとっています。対して海流発電は、海洋エネルギー発電の中で、日本が有利な地理的条件を持っていることから、世界的に日本の研究開発レベルが進んでいる発電方式といえます。

また、黒潮は東南アジアにも流れているため、コマーシャルベースまで開発が進めばASEAN(東南アジア諸国連合)諸国への輸出も視野に入ってきます」

「かいりゅう」は、海中に発電機を浮遊させてモーターを回転させる仕組みになっている

画像協力:NEDO

再生可能エネルギーの年間設備利用率(稼働率)は、意外なほどに低い。風がないと止まってしまう風力発電は地上で20%、日照がないと発電できない太陽光に至っては10~15%といわれる。

これに比べて海流発電は、試算上40~70%と桁違いの高さを誇る。実証実験が成功し、今後実用化ベースに至った場合、その水中浮遊式海流発電システムを世界の2大海流である黒潮の流域に設置すれば、電力の安定供給にも寄与するだろう。

実証実験後、IHI技術開発本部の長屋茂樹部長は、「将来的には、発電機一つで2000kWの発電能力を持つ装置を多数、黒潮の中に設置する」という構想を発表した。

この発電装置を10km四方のスペースに100基設置したエネルギーファームを20カ所程度造れば、原子力発電所数基分になる試算もあるという。だが、実際にはその前に解決しなければならない現実的な問題が横たわっているようだ。

将来的にはこのように、発電機が海中に多数浮遊する世界が訪れるかもしれない

画像協力:NEDO

離島の救世主になるか?

「海流発電にもデメリットは当然あります。第一は、コストの問題です。海流は流速が遅い(=エネルギー密度が小さい)ため、発電装置が大きくなってしまうんです。そうなれば、巨大な発電装置の建造費と沖合に設置するための施工費も高くなってしまいます。

そもそも海流発電を含む再生可能エネルギーの開発はFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)が前提のビジネスなので、施工コストが高すぎて採算が取れなくなってしまうようでは、実現が難しくなってしまうんですよ。

次に、送電ロスの問題もあります。これは海流発電に限った問題ではありませんが、黒潮が流れる場所は沿岸から数十キロから数百キロ離れた沖合ですので、送電ロスは他の発電方式に比べて大きくなります。

まだ実証実験の段階ですので、海流発電を実用化するためには、まずは1年以上の長期実証試験によりメンテナンスや装置の消耗の状態などを把握してから、これらの問題を解決していかなければならないのです」

実験段階だけに、上るべきステップに加え、課題も多いとする一方で、田窪氏は「日本は海流発電のトップランナー」と自信もにじませる。そして、日本の技術を集結した「かいりゅう」の実用化についても、“ある場面”において絶対的な需要があるのではないかと見ている。

「海流発電についてはまず、本土から電力が供給されてない独立系統離島などへの電力供給に活用できたらと考えています。離島のように系統容量(電力需要の総量)の小さい場所では、発電量が変動する電源は導入するのが難しいですが、その点、変動が少ない海流発電は適しているんです。

現在ディーゼル発電に頼る離島は電気料金が平均して40円(1kWh当たり)と本土に比べて高額なので、参入できる余地も十分。加えて、海流発電を導入することは離島に新たな産業を呼び込むことにもつながるのではないかという期待もあります」

8月に実証実験を終えた「かいりゅう」は、実験で得られたデータを回収するべく、これからIHIの横浜造船所へと移送される。そこでまた、発電性能等のさまざまなデータ解析が行われる予定だ。

まだ緒に就いたばかりの海流発電だが、日本の四方を取り囲む海がエネルギー問題解決の糸口になり得ることが分かった。海洋国の民として、エネルギー分野においても、海をあらためて見詰め直す時期に来ているのかもしれない。

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