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世界が注目する大気からのCO2回収技術。都立大の最先端研究が実用化とコンパクト化を可能に

東京都立大学 大学院理学研究科 化学専攻 教授 山添誠司【後編】

大気から直接CO2を回収するDAC(Direct Air Capture)の分野において、既存技術を大きく凌駕(りょうが)するシステムの開発に成功した東京都立大学 大学院理学研究科 山添誠司教授らの研究グルーブ。イソホロンジアミンという化合物を用いることで、世界最速級のCO2吸収速度が達成された。ただ、実用化にはまだ残された課題もある。前編に続き、山添教授に実用化に向けた課題やDACの将来性を尋ねた。

世界トップクラスの効率を実現

大気中にあるCO2の濃度はわずか400ppm程度(大気全体の0.04%)だ。工場からの排出ガスなどに比べると著しく低いが、年々増加している事実がある。

温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)の解析によると、2021年の大気中CO2の世界平均濃度は前年に比べて2.5ppm増加。工業化(1750年)以前の平均値は約278ppmだったとされ、実に40%以上も増加しているという。

脱炭素化が急務であることは誰の目から見ても明らかだろう。排出量そのものを減らす取り組みに加えて、大気からCO2を除去する技術が求められるようになった。それが山添誠司教授らの研究グルーブが取り組むDACだ。地球規模の課題解決に挑む壮大なチャレンジと言えよう。

まだ始まったばかりの研究開発領域だが、2020年1月には米国のマイクロソフト社が大気からのCO2削減・回収・除去技術のために10億ドル規模の基金を設立。同じく米国の非営利団体X PRIZE Foundation(Xプライズ財団)も大気中や海中などからCO2を回収する技術をテーマにしたコンテストに総額1億ドルの賞金を出すなど、世界は早くも実用化に向けて動き始めている。

今回、山添教授が達成した研究成果はDAC実用化に一つの光明を与えるものだ。
※【前編の記事】世界最速級を実現! 大気から直接CO2を高速回収するDAC(Direct Air Capture)はCNの切り札か?

触媒化学、クラスター化学、化合物太陽電池材料など幅広い領域の研究に携わってきた山添教授

「私は元々、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の『未踏チャレンジ2050』というプロジェクトで大気中のCO2をリサイクルし、資源として有効利用できるよう新たな触媒を開発するという研究を行っていました。相分離をキーワードにDACに有効な触媒開発研究を進めた結果、触媒なしで希薄な大気の中からCO2をうまく回収できたのはある意味、予想外の成果でした」

まずは今回開発されたDACシステムの特徴を改めて振り返っておきたい。以下がこのDACシステムにおける要点だ。

【1】
CO2吸収材にイソホロンジアミンを使うことで、大気中からCO2を99%の高効率、かつ高速で回収できる。
【2】
CO2を吸収した液体のイソホロンジアミンは固体のカルバミン酸へと「相分離」するため、溶液中から容易に除去できる。
※単一の均一混合物から2つの区別できる相に分離すること
【3】
ガスを流しながら溶液に懸濁した固体のカルバミン酸を60℃に熱すると、CO2を放出して元のイソホロンジアミンへと戻る。
※液体中に固体の微粒子が分散した状態
【4】
高効率を保ったまま100時間以上吸収し続ける耐久性があり、かつCO2の吸収・放出を5回繰り返しても性能の劣化が認められない。

このように山添教授らの研究は、イソホロンジアミンがDACにとって理想的な物質であることを明らかにした。

CO2を高速で回収する点が長所となるのだが、例えば筒に入れた溶液の中に大気を通し、CO2を回収するような方式の装置では、筒のストロークをより短くすることができる。

つまりDACをコンパクト化できる可能性にもつながるのだ。

イソホロンジアミンにCO2が反応し、固体のカルバミン酸になる「相分離」が本研究成果のポイントとなった

資料提供:山添誠司

「アミンを使った既存の方式ですと、水溶液で満たされた高さ20mほどの塔の中に大気を流してCO2を回収する大規模な装置が必要になります。吸収速度が遅いため、原理的にどうしても大きくなってしまうんですね。しかし今回のイソホロンジアミンを使った方式なら、高さが約2mの業務用エアコンの室外機程度の大きさでも十分に機能します」

また固体のカルバミン酸がCO2を放出する60℃という温度は既存のDACに比べて低いため、太陽熱や太陽光発電、地熱といったエネルギーで十分に賄える。高価な材料(イソホロンジアミン)を無駄にすることなく、循環させながら繰り返し使えるのも大きな長所だろう。

さらにイソホロンジアミン溶液は揮発しにくい特性も持ち合わせており、連続して使用してもつぎ足す量が少なくて済む。

もちろん必要に応じて大型化することも可能だ。さらに数ppmの低濃度CO2だけでなく、30%程度の高濃度でも機能する。DACとしてだけでなく、工場などの排気ガスからのCO2回収にも応用できる汎用性の高いシステムだ。

実用化に向けて越えるべきハードル

DACの材料として優れた特性をいくつも備えているイソホロンジアミンだが、実用化に向けては残された課題もある。

その一つが水溶液の粘性だ。

CO2を取り込んだ固体のカルバミン酸は水溶液の中にどんどんたまっていってしまう。60℃まで加熱することでCO2を放出し、再び液体のイソホロンジアミンへと戻るが、そのプロセスをどうするかが問題となる。

イソホロンジアミンは揮発しにくく、連続使用できるため低コストのDACシステムを作ることが可能。右の試験管内にあるのがイソホロンジアミン溶液で、左がCO2を吸収したカルバミン酸が沈殿した状態だ

「試験管の中で行う実験では大きな問題になりませんが、実用の装置として作動させるとなると空気の流量が増えること、つまりCO2吸収量が増えることで粘性の問題が生じてきます。例えば、吸収塔と脱離塔に分けたシステムとする場合、2つの塔の間で溶液を行き来させることになりますが、粘性があるとそれが抵抗となり、循環させるのに別のエネルギーが必要になってしまいます。最悪の場合は泥のようになって配管に詰まってしまうことも考えられる。フィルターのようなもので固体のカルバミン酸をキャッチして分けるような仕組みが必要になるかもしれません」

もう一つ、回収されるCO2濃度の問題もある。

今回の実験では固体化したカルバミン酸が懸濁した溶液中に窒素ガスを流通させることでCO2を放出。回収した気体に含まれるCO2濃度は大気中の0.04%に対して数%程度にまで上昇する。

その後、CO2をどう処理するかにもよるが、例えば地中に埋めるCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)という方法を取る場合、100%CO2であることが望ましいという中で、CO2濃度を引き上げられる可能性を見いだしたことは大きな前進だ。

もちろん単に課題を解決すればいいわけではなく、いかに低エネルギー、低コストな方法で解決するかがDAC実用化の鍵となる。学内だけでなく、他の研究機関、企業との連携も必要だろう。

DACがもたらす明るい未来

上記のような課題を全て解決するにはおそらく時間がかかる。だが、その先には意外な可能性が開けるかもしれない。

CO2を無用の長物として処理するのでなく、資源として役立てようというアイデアだ。

これはCCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)と呼ばれ、その方法が世界中で今盛んに研究されている。一例を挙げると、水素とCO2を反応させて都市ガス原料の主成分であるメタンなどを合成する、という方法もその一つ。

水素や合成に要するエネルギーをどこから調達してくるか、という課題があるものの、もしもCO2をカーボンニュートラル(ガス燃焼時に出るCO2は回収した分で相殺される)な燃料として使えるようになれば利用価値は高いだろう。

「2030年までには試験機を作りたい」と今後の展望を語る山添教授

ただ、山添教授は別の道にも可能性を見いだしているようだ。

「CO2から別の物を作る方法はいくつかあり、燃料となる物質に変える方法も、今期待されている方法の一つです。もう一方では、化合物と反応させて別な物に変えるという方法もあるんですよ。例えば、スチレンオキシドのようなオキシド物質にCO2を反応させると、カーボネートという熱可塑性プラスチックの一種であるポリカーボネートの原料を合成することができます。そうした付加価値のある物にCO2を変えるのも可能性の一つだと思います。ただ、市場規模でいうとやはり燃料は大きいので、両面からのアプローチが必要になるでしょう」

DACシステムから高濃度のCO2を脱離することが、CO2再利用化の最初のハードルとなる

資料提供:山添誠司

前述の言葉からも分かるように、山添教授が元々専門にしてきたのは新たな触媒によるCO2の有効利用だった。

DACシステムとCO2変換反応をうまく組み合わせることができれば、「空気からプラスチックや化成品を作り出す」という夢のような話が現実になるかもしれない。

山添教授の話は「CO2が資源となる」新たな未来を想像させてくれた。

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