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国内メーカーとして唯一参戦! 日産自動車が考える「フォーミュラE」参戦の価値

日産フォーミュラEチーム チーフパワートレインエンジニアが語るレースの醍醐味

2018-2019年シーズンより日本の自動車メーカーとして唯一、「フォーミュラE」に参戦を続ける日産自動車株式会社(以下、日産)。EVにおける世界最高峰のフィールドで戦い続ける理由とは? 日産フォーミュラEチーム チーフパワートレインエンジニアの西川直志氏に尋ねた。

「フォーミュラE」に参戦する日産のビジョン

2024年1月27日に行われた、「ABB FIAフォーミュラE世界選手権」(以下、フォーミュラE)第3戦・ディルイーヤE-Prix(サウジアラビア。フォーミュラEのレースをこう呼ぶ)でのこと。日産フォーミュラEチームは、予選で決勝レースのスタート位置の先頭につくことができるポールポジションを獲得、決勝でも3位表彰台という素晴らしい結果を残した。

世界各国から名だたる自動車メーカーが参戦ししのぎを削るフォーミュラEは、100%電気で動くEVが都市部の公道を舞台に走り、世界10都市を転戦していくレースイベントだ。2024年からは、ゼロエミッション都市(CO2実質排出量ゼロ)に向けての取り組みに力を入れる、日本・東京での初開催も決定。3月30日のレースデーに向けて注目が高まっている。

このフォーミュラEに2018-2019シーズンから参戦している唯一の日本のメーカーである日産は、2050年までにカーボンニュートラルを実現するため、車両の電動化を推進。電池だけで走る電気自動車(EV)はもちろん、ガソリンエンジンで発電した電力を使いモーターの力で走る、日産独自の電動パワートレインであるe-POWERを搭載した車両を続々と投入。電動車のラインアップを拡充している。

共にモーターで走るEV、そしてe-POWERを電動化の軸に据える日産がフォーミュラEに参戦する理由は自明のことのようにも思えるが、日産フォーミュラEチーム チーフパワートレインエンジニアの西川直志氏に、参戦の理由を尋ねた。

日産フォーミュラEチーム チーフパワートレインエンジニアの西川氏

「FIA(国際自動車連盟)はフォーミュラEを“Pinnacle of EV motorsports(EVモータースポーツの最高峰)”と言っており、日産が電動化を進める上で、EV技術の世界最高峰の舞台に身を置くことで得られるものがあると期待しています。さらにフォーミュラEは、カーボンニュートラル社会の実現という観点から、大会の開催に当たってのエネルギーは再生可能エネルギーだけを使うという試みを行っており、環境に配慮したモータースポーツであるという点も日産のビジョンとマッチしています」

フォーミュラEと日産がそれぞれ掲げるビジョンの親和性の高さを、フォーミュラE参戦の理由として西川氏は挙げる。さらに、フォーミュラEは世界各国を転戦するため、グローバルに展開するメーカーとしては開催国での販売におけるメリットがあるという。

例えば、コンパクトセダンの「Versa」や「Sentra」などが人気を博し、日産車がトップシェアである17%を占めるメキシコでは(2023年度11月現在)、メキシコシティで開催されるE-Prixに多くの日産ファンが来訪。日産フォーミュラEチームへの熱い声援など、ファンとの結び付きを実感する大会となった。

EVモータースポーツの最高峰の舞台で磨かれる技術

フォーミュラEでは、全チームが同じ車体を使用し、バッテリーも共通。そしてレースの周回数は、100%の出力で走り続けた場合、電力が不足してゴールできないよう設定される。その中でのチーム間競争のポイントはどこにあるのか。

「フォーミュラEは速さだけを求める競技ではなく、速さとエコランのバランスで戦うレースだと理解しています。レース戦略上は、限られたエネルギーをどうマネジメントしながら、いかにして他のクルマよりも速く走るかということがポイントになります。そして技術的には、エネルギーを効率よく使うための設計上の工夫や開発を行うことです」

フォーミュラEに参戦する日産

写真提供:日産

チームが独自に開発できるのは、モーターやインバーター、ギヤボックス、油圧ブレーキと回生ブレーキを配分するシステム、およびそれらを制御するソフトウエアなど。市販車にも搭載されている機構であり、いずれもエネルギーの効率的な活用に大きく関わる。西川氏をはじめとする日産フォーミュラEチームは、これらをどのように進化させてきたのだろうか。

「もちろんさまざまな部分が進化し、それらの技術は市販車にも転用できる部分がたくさんあります。メーカーとしてもチームとしても競争相手に情報を与えることになってしまうので具体的には話しにくいのですが、特にソフトウエア、制御の部分はレースカーと市販車で技術の共有がしやすいです。逆に明確にお話しできることとしては、技術的な理論値近辺のデータを蓄積できたことです。これはEVモータースポーツに参加しないと得られないものでした」

量販車開発であれば基礎研究を繰り返して地道に積み上げていくデータが、モータースポーツの短いサイクルの中でのPDCAにより、短期間で積み重ねることができた。ここまでは技術的に到達できるとレースの中で証明されたスペックを目指して、量販車をアップデートしていくための確実なロードマップを描くことができる。これは日産としても大きなアドバンテージになるだろうと西川氏は語る。

フォーミュラEは戦略と駆け引きが見どころ

レースの現場を肌で知る西川氏に、フォーミュラEになじみのない人に向けてレースの見どころを尋ねると、予選と決勝レースの大きな違いに注目すると面白いという。

「決勝レースはエネルギーマネジメントが大事なので、全車が全開で走り続けるわけではありません。他車を抜くことができる状態でも、あえて後ろについて空気抵抗を減らし、エネルギー消費を抑えるという戦略もあります。では、そのクルマがいつエネルギーを多く使ってでも前に出て勝負をかけるのか。この駆け引きもまた見どころです。そして決勝とは異なり、予選では皆100%のパワーを出し切って1周の最速ラップを狙います。エネルギーマネジメントを度外視した走りの迫力にもぜひ注目していただきたいですね」

予選と決勝レースの走行の違いが見どころの一つ

写真提供:日産

EV独特の回生ブレーキもまたレース戦略に関わる。回生量と回頭性を天秤に掛けながらラップ/コーナーごとに前後ブレーキバランスのセッティングを変えることもあるので、特定のコーナーでは深く侵入できるクルマがあれば、もっと手前でブレーキングをするクルマもあり、進入速度に差が出る。つまり、レースにおけるエキサイティングなシーンの一つであるオーバーテイクという見どころが増える。

また、EVは静かであるという印象を覆す迫力あるサウンドを響かせながらコースを駆け抜けるマシンは、実際に見るとエンジン車とは異なる魅力があるので、現地で観戦する人はぜひ楽しみにしてほしいと西川氏は強調する。

「日産としても、母国でのE-Prix開催は悲願でもありました。国内でも注目度が上がっている中で日本のメーカーとして結果を出すことの重要性はひしひしと感じています。良い成果を上げて、日産フォーミュラEチーム、そしてフォーミュラEに対して皆さんが目を向けてくださるよう、頑張ります」

日産自動車は2023年10月に、日産フォーミュラEチームがCO2排出量の相殺を専門とするソフトウェア会社であるコーラル社とパートナーシップを締結したと発表。 日産フォーミュラEチームとコーラル社は、温室効果ガスプロトコルと科学的根拠に基づいてチームのCO2排出量を正確に評価し、強固なクレジット制度を導入することでチームのカーボンオフセットを推進していく。日産が進める電動化、そしてカーボンニュートラル社会の実現は、EV技術の世界最高峰の舞台があと押しすることになるだろう。

続く本特集第3週では、E-Prixの開催地となる東京都に、日本初開催に向けた狙いを聞く。

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