特集
自然災害の”予測・対策”新事情

SNS投稿と災害データを掛け合わせて解析! AI災害予測が秘める可能性

【AI予測】AIリアルタイム危機管理情報サービス「Spectee Pro」が取り組むAIによる災害予測の未来とは

NTTドコモモバイル社会研究所の調査によると、携帯電話所有者におけるスマートフォン所有率は88.9%に達する(2020年1月時点)。この動きに比例して、TwitterをはじめとしたSNSの使用や普及も急速に伸びてきた。電車の遅延や渋滞情報、事件・事故、自然災害の被害情報なども、一般ユーザーからの投稿が広く拡散され、多くの人の目に触れることになる。しかし、その中には誤った情報やデマも入り交じっており、価値あるものや真実を見極めるのも年々難しくなってきた。そんな氾濫する情報の中から、AI技術を用いて重要性や真偽を見抜き、災害の発生場所を特定、瞬時に情報提供を行っているのが株式会社Spectee(以下、スペクティ)が手掛けるサービス「Spectee Pro」だ。代表取締役の村上建治郎氏にAI技術による防災の可能性を「Zoom」によるリモート取材にて伺った。

自身の経験がシステム開発のきっかけに

2011年、東北地方を中心に甚大な被害を及ぼした東日本大震災──。

その当時、世界最大手のネットワーク機器開発会社に勤めながら、MBA(経営学修士号)取得を目指して早稲田大学の大学院夜間コースに通っていたスペクティ代表の村上氏。震災後間もない4月に会社に休暇届を提出し、東北へ出向きボランティア活動に尽力した。5月半ばごろまでのおよそ1月半、現地でテント生活をしながら活動を行ったという。

そのときの経験や思いが、現在の同社の経営の軸ともいうべき“最新AIを用いた防災・危機管理情報のいち早い提供”を行うきっかけになった。

「会社の成り立ちは、私が震災後のボランティアで東北の各地域を回ったことに端を発します。当時痛感したのが、テレビなどのメディアが伝える情報と、現地で実際に目の当たりにしたり、地元の方から伺う話に大変な乖離(かいり)があるということです。『石巻市のボランティアは手が足りています』とニュースが伝えていても、近隣の地域のことまでは報道されず、実際に訪れてみると人手が全く足りていなかったり…。やはりメディアというのは、どうしても実情を伝え切れないのだなと強く感じたのです」

ボランティア経験が長い村上氏は「個人の思いとしては、避難所の設備強化など、もっと国の予算をかけて整備をしてほしい」と語る

「一方で、Twitterをのぞくと『このエリアのボランティアが不足している』『ここにはこの物資が足りていない』といった、細かな情報がたくさんUPされていました。マスメディアが取り上げない、現地の方のつぶやきが、より迅速でリアルなのだというのがよく分かりましたね。そこから、東北地方の地域ごとにTwitterのつぶやきをベースとした情報をまとめていく作業を始めました。それが当社スペクティの原点です。

その(2011)年に勤めていた会社を退職し、1人で起業をする道を選びました。退職金で食いつなぎながら、協力してくれた2人のエンジニアと共に、ローカルのSNS情報を集め、コミュニティーを作れる無料のアプリ版『Spectee』の開発を進め、2014年にリリースしたのです。翌年には、起業家を支援する『オープンネットワークラボ』に選ばれたことで、メディアへの露出は高くなりましたが、資金繰りは常に難航していましたね」

2015年末には個人向けのアプリを廃止。同年から法人向けサービスにシフトし、NHKからトライアルで受注することとなる。そして、時を同じくして4月14日に熊本地震が発生。テレビ局が「Spectee」で熊本の現地情報を収集したことが話題となり、これを機に全国紙や民放キー局をはじめとした報道機関がこぞって導入。現在は官公庁・地方自治体、事業会社にも広がり、国内400社以上、海外でも40カ国で選ばれるサービスに成長した。この実績からも、現代の情報化社会において、いかにSNSというものが重要視されているのかが分かる。そして、より正確な情報をわれわれ一般市民の元に届けるために、多大なる働きを見せているのがやはりAI技術だ。

「現在、スペクティが行っているのはTwitterやFacebookなどのSNSに投稿された情報を、AIによって収集、解析して『ここで火災が発生している』『ここで土砂崩れが起きている』という情報をリアルタイムで提供し、地図などを使って被害状況を可視化していくという取り組みです。もちろん、SNSに上がっている玉石混交な情報の中から“正しいもの”というのを取捨選択しないといけません。この、いかにデマや誤った情報を省くかというのが最も難しい課題となります。

また、冠水の情報は、投稿されたときと比べて今現在はどうなっているのか、というところまで含めて発信しないと意味をなしません。それを行っているのはAI技術ではあるのですが、現時点でAIが100%の正解を出すことは難しいと思っています。『こういった書き方はデマの可能性が高い』『このような写真の使い方をしている投稿はデマだ』といったパターンをAIが分析して、情報の精度を上げることは可能です。例えば、現在渋谷区で冠水が発生しているとAIが判断したとします。それをよく調べると、実は隣接する新宿区だったりするのです。区が異なると、対応する自治体の管轄が違うので、現場は大混乱となってしまいます。そういった正確性というものは、AI判定のみをうのみにして全てを判断するのは現時点では困難です。したがって、弊社はAIだけではなく、専門チームが24時間体制で監視し、AIから上がってきた情報が正確なものなのかどうかを分析しています。最終的には人間がジャッジすることで、より正確な情報を届けられるのです」

法人向けの危機管理情報サービス「Spectee」はことし3月に機能強化版「Spectee Pro」へアップデート。全国の自治体や官公庁をはじめ、一般企業や全国のテレビ局や新聞社も積極的に導入。SNSで一般人がUPした情報から災害情報などが瞬時に分かるサービスとして重宝されている

では、実際に「Spectee」を導入している自治体は、どのように情報を取り入れ、利用しているのか。2018年から導入を開始した福井県を例に見てみよう。

導入のきっかけとなったのは、2018年2月の豪雪だった。県庁として今後の対策を検討すべく、被害の把握に動いたものの、職員が現場に行って写真や映像を撮影し、それをメールで対策チームに送信する……結果、現場の被害状況を入手するだけでおよそ5時間かかり、相当なエネルギーを費やしたそうだ。

一般人が投稿したSNSの情報が最も速報性があることを痛感した県職員は、AIの解析によって数ある投稿から無駄を排除して情報を得られる同サービスの利用に乗り出したのだという。

現在は、防災担当部署と土木部署で「Spectee Pro」のホーム画面をモニターに常時表示。隣県で起きた事象も影響を及ぼす可能性があるため、石川県、富山県、滋賀県などの近隣情報も同時に入手できるようにスタンバイしている。

また、一つのモニター上で、複数の関係者が同時に情報を確認することは難しいため、「Spectee Pro」によるメール配信を合わせて利用しているとのこと。メールで受信した情報は、自動的にチャットツールに展開され、誰がどのような対応を行ったかまでを含めて関係者全員が確認できるようになっている。実際に、2019年6月に発生した永平寺町での工場火災の際は、同サービスに多数の火災現場の写真が配信され、幹部職員への報告や職員間での情報共有がスムーズに行われたという。

幸い、導入後に大きな自然災害は起こってはいないが、自分たちでいち早く被害状況が察知でき、また、現場の状況を把握して対策に移れるという「Spectee Pro」ならではの効果に、大きな期待を寄せているそうだ。

「令和2年7月豪雨」の際もAI解析が功を奏した

ことし7月3~31日にかけて、熊本県を中心に九州や中部地方など日本各地で発生した集中豪雨「令和2年7月豪雨」。熊本県で60名を超える死者を出し、多くの家屋が全壊となるなど甚大な被害を及ぼしたことは記憶に新しい。

この災害時、スペクティはどのような取り組みを行ったのか、村上氏に具体的な話を聞いた。

「国土地理院との協業は報道などでも大きく取り上げられました。われわれがSNSの解析を行い、抽出した浸水・冠水地域の緯度・経度の数値を基に、国土地理院が地理データや標高データと組み合わせ、浸水想定区域をリアルタイムで発信しました。われわれが提供した情報を基に、3時間後にはここのエリアはこのくらい浸水しているという浸水推定図を出していたのです。研究段階ではありますが、このスピードで浸水推定図が出せれば、この情報を基に地方自治体などが迅速に災害対応にあたることが可能となるはずです。より速い災害対応や救助活動が行えるようになるので、画期的なことではないかと思っています。

今までは、現場の航空写真を撮ったり、実際に現地調査を行ったりしないと状況把握はできませんでした。それが、現地に行かずとも一般の方のSNSの投稿をソースに浸水想定の情報をこのスピードで出せるというのは、今の時代ならではと言えるのではないでしょうか。もちろん、命の危険がある場所へ出向いてSNSで投稿することは良くないことですが」

「SNSの書き込みの中から正確な情報を抜粋するというのは、いわば太平洋の中に一つだけある宝石を見つけ出すような作業のため、システム開発にはとても苦労しました」とリモート取材にて話す村上氏

今回の豪雨被災地、例えば熊本県球磨川(くまがわ)流域の市町村も、近年で過疎化が進んでいる地域だ。高齢者の多いエリアなどでは、SNSの投稿数などの問題はないのだろうか?

「皆さんよく言われるのですが、おっしゃるとおり球磨川流域、例えば人吉市などは過疎化が進んでいる地域です。しかし、そういったエリアであっても、災害が発生するとSNSに写真や動画が500~600件くらいは投稿されているのです。何もない平和な日常の投稿はとても少ないのですが、災害時に一気に投稿が増える傾向にあります。それは、高齢者にもスマートフォンの普及が既に進んでいることに加えて、災害が発生したときに情報を発信する、または受信するメディアはテレビや新聞ではなくSNSだという認識が広がっているということでもあると思います」

AIによって防災対策も無人化できる可能性

50年や100年に一度の大雨…などの言葉を頻繁に耳にする昨今。ゲリラ豪雨など、近年の自然災害は非常に予測や対策が難しく、テレビの天気予報では状況把握が追いつかないのも実情。インターネットやSNS、アプリなどの情報で、より早く雨雲の動きをキャッチするのが主流となってきている。

スペクティもそんな近年の傾向を踏まえ、日本気象協会と協力体制をとっている。

「日本気象協会とは2018年あたりからいろいろとお話しさせていただいています。これまでは、衛星写真や雨雲レーダーを基に気象予報しているものの、昨今の不安定な気象状況は、それだけでは詳細な情報が出せないようです。そこで、われわれの持つAI技術を用いて、道路や河川などに設置されているカメラの映像などを使って、降雨・積雪情報や、冠水状況などを取得することで、将来的にそのデータを何らかの形で気象情報に役立てられないかと模索しています。より激甚化している自然災害というものに対しては、既存の情報ソースだけでなく、もっと多様な情報を解析していかなければ、正確な予測や対策は難しい時代に来ているのです」

24時間対応の専門チームによる情報の分析・精査も行われている

最後に、SNSとAIを連携させた自然災害の予測や対策に関して、村上氏のビジョンや展望を聞いた。

「弊社のシステムに関して、現時点でAIの精度は相当上がってきています。もちろんAIに任せきりではなく、情報を表に出すという行為の最後の最後は人間が責任を持つというのは大前提としても、われわれの作業の手間という部分は随分と省かれているのが現状です。AIはそれまで人がやっていた部分を置き換え、人による作業負担を減らすことが可能になってきます。現在、自治体などの災害対応をしている現場では多くの作業が人手で行われています。

たとえば防災無線や避難誘導などは、AIによる自動音声やドローン、ロボットなどを使い無人で行うことも可能になりつつあります。そういったAIの進歩やスマートフォンの普及、さまざまなデバイスなど、現代のテクノロジーをもっと集結させて、可能な限り省力化し、煩雑な部分をなくし、危険な場所は無人に近い形で災害対応に当たるというのが、今後、重要になってくると思います。そうすることで、人的リソースを人命救助などより重要な部分に集中させることもできますし、さらにAIを用いることで、より効率的で人による判断の間違いなどを減らすことなどもできると言えます。危険な場所に行かなくても済むようになれば、現地で対応や救助に当たっていた人の命も守れるかもしれません。

現在、弊社では蓄積している過去のデータや、国・自治体が公開しているデータ、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の衛星データ、そしてSNSの情報などを駆使して、よりリアルタイムに災害予測を発信できないかと模索中です。気象状況が不安定で予測しにくく、事前に危険エリアを示したハザードマップだけでは十分ではなくなってきている昨今、『今から1時間後にここが危険エリアになります』といった予測が出せればと思っています。こういった“リアルタイムなハザードマップ”を提供したいですね」

リアルタイムでさまざまな情報を得ることができるSNS。

しかし、得た情報の使い方によっては間違った判断をしてしまう可能性も大いにある。特に迅速さを求められる災害時には、死活問題だ。

AIによってより正確なものへと精査された情報の発信は、災害対応において重要なことであると言えるだろう。

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