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2020.11.26
強くて映える野菜は⼯場産︕ 世界最⼤の完全⼈⼯光型植物⼯場が担う日本農業の未来
天候に左右されず安定した野菜が育てられる⼯場栽培の仕組み
農業が抱える課題をテクノロジーで解決する。⽣産農家の作業量軽減などが分かりやすい例だが、課題は⼈⼿不⾜だけではない。野菜の供給量は天候などにも⼤きく左右される。結果、年によって価格が⾼騰したり、供給量が不⾜したりする野菜が出てくることも多い。そんな課題を解決すべく⽴ち上げられたのが、彩菜⽣活合同会社。同社が操業する世界最⼤の完全⼈⼯光型植物⼯場の柳⽥淳⼦⼯場⻑に、今後⽬指す野菜栽培の未来について話を聞いた。
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天候に左右されない野菜の⽣産・供給を
東海道五⼗三次の藤枝宿に由来する静岡県藤枝市は、東海道のほぼ中間に位置し、現在も東海道新幹線、東名⾼速道路、新東名⾼速道路が東⻄を横断する重要な拠点だ。農業が盛んでお茶の産地としても有名なこの場所に、世界最⼤の完全⼈⼯光型植物⼯場が誕⽣した。
同⼯場は東京電⼒エナジーパートナー株式会社とリース事業を⼿掛ける芙蓉総合リース株式会社、先端農業開発事業を先導する株式会社ファームシップが合弁会社として設⽴した「彩菜⽣活合同会社」(以下、彩菜⽣活)が運営しており、2020年7⽉から操業開始、8⽉にはリーフレタスの初出荷を果たした。
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使われなくなっていた倉庫を改装して、植物⼯場として再利⽤。現在は1⽇当たり約1tのリーフレタスを出荷しており、2021年夏までに1⽇に最⼤5tの生産を⽬指している
彩菜⽣活の柳⽥淳⼦⼯場⻑は、「地の利を⽣かして、リーフレタスを関東や関⻄、中部の⾷品加⼯⼯場を中心に出荷しています」と操業したばかりの現状を教えてくれた。
「現在、⼯場で栽培するリーフレタスは、スーパーやコンビニエンスストアで提供されるサラダなどの材料として加工されていますので、実は知らないうちに⼝にしているかもしれません。⼯場では求められる⼤きさ・品質に育て、捨てるところが少ない⻑持ちする野菜作りを⽬指しています」
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インタビューに答えてくれた柳⽥⼯場⻑。地域の雇⽤創出にも貢献したいと話す
彩菜⽣活が初出荷にこぎ着けたころ、巷では⻑⾬と⽇照不⾜による夏野菜の価格⾼騰がニュースとなり、SNSには嘆きの声も投稿されていた。その点、完全⼈⼯光型植物⼯場は屋内で⼈⼯の光を使って野菜を栽培するため、天候などの影響に左右されない強みがある。
完全⼈⼯光型植物⼯場が実現する“映える野菜”作り
「⼯場の特徴を端的に表せば、“最適化と効率化”になるでしょう。⼯場では栽培に必要な光や⽔などのパラメーターを最適化して、成⻑速度を速めつつ、おいしくて⻭応えがあり、⾒た⽬も美しい“映える野菜”を作ります。LEDライトの照度や養液の⽐率、温度や湿度などのデータを集めながら、私たちのお客さまとなる⾷品加⼯業者さんが必要とする野菜を作るにはどうすればよいのかを⽇々考えています」
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成⻑の段階や⻭応え、味などを確認しながら、LEDライトの照度も調整されている
「加えて、野菜は成⻑に伴って、種⼦から収穫時までの間に、栽培に必要とする⾯積が次第に⼤きくなります。露地栽培(野外の畑で栽培すること)では、いずれの段階でも畑の面積に一定の間隔でしか育てることができません。しかし工場なら成長の段階に応じて、一定の面積のパレットに株を移植し植え付ける数を変えることで、工場内の空間を効率的に利用することができるのです」
彩菜⽣活があえて「農場」という⾔葉を使わずに、無機質な印象を受ける「⼯場」という⾔葉を使う背景には、最適化と効率化を追求するというマインドがあるようだ。実際、植物⼯場での栽培システムを知ると、やはり農場ではなく⼯場だと納得する。
「これまで⼯場を訪れた⽅々は、皆さん『SFのようだ』と驚かれます。しかし、コンピューターと機械が⾃動的に野菜を育てているわけではありません。照明や養液、温度や湿度などは⼈でも管理しています。⼟に植えられた状態ではなく、限られた空間で⼈の視点に近い位置で取り扱うので、むしろ露地栽培よりも⼀つ⼀つの野菜をしっかりと観察する機会は⼯場の⽅が多いかもしれません」
野菜は出荷されるまで4つの部屋を移動する。種から発芽させ苗床で苗を育てる「育苗室」、苗を収穫できる⼤きさに育てる「栽培室」、収穫した野菜を計量・梱包する「梱包室」、段ボールに詰めた野菜を出荷まで保管する「冷蔵庫」だ。その中で、育苗室と栽培室が“畑”の役割を担う。
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苗を栽培している育苗室の様⼦
育苗室では、直径数mmの種⼦が数cm四⽅に区切られたウレタン製の苗床に植え付けられる。ここで露地栽培のような昼と夜をつくるためにLEDライトを点灯・消灯し、一定の間隔で散⽔すると数⽇ほどで発芽する。苗が⼀定の⼤きさに育つと⼗数cm四⽅のパレットに移植して栽培室に送り、出荷に適したサイズに育てられるという。
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⼤きく育てるため、栽培室では途中で別のパレットに植え替える「定植」という作業がある
栽培室でも同様にLEDライトによって昼夜が切り替わるが、効率的に光合成をさせるため光を照射する角度まで考えられている。栽培棚が整然と並んでいる光景は、まさに⼯場の名がふさわしい。
「⼯場には窓もなく、従業員が⼊室する際にも衛生管理を徹底していますので、細菌や害⾍などの被害を受けにくい点も特徴の一つです。このような管理によって、野菜の形や味、含まれる栄養素も⼀定の品質に保つことができるのです。最初にお話しした“⻑持ちする野菜”も、細菌単位での混⼊防⽌を⾏い、野菜を腐敗させる常在菌を取り除くことで実現できました」
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奥に天井にと広がるレーンの各段にパレットが敷き詰められている栽培室
収穫された野菜は、現場のスタッフが実際に⼝にして味や⾊、⻭応え等を確認する。これまで収穫されたリーフレタスはどれも鮮やかでみずみずしく、取引先のお客さまからは味も食感も評価されているという。
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収穫したリーフレタスは梱包室で段ボールの中に
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段ボールに梱包されたリーフレタスは、出荷までの間、冷蔵庫で保管される
省エネ稼働で⼯場産野菜の⽣産量を増やす
東京電力でカスタマーセンターなどの所長の職を⻑年務めてきた柳⽥⼯場⻑は、その実績が評価され、新たな事業の推進者に抜てきされた。3社による合弁事業の始まりについて、「実は東京電⼒と農業との関係は古く、50年も前から、農業の電化技術の開発・普及に努めてきました」と⽬を細める。
近年では、ヒートポンプ技術(空気中の熱を、⼩さなエネルギーで⼤きな熱に変換する技術)を使ってハウス栽培農家に温度管理の省エネを提案するなど、農業分野に深い関わりを持っていた。そのような中で、植物⼯場事業に参⼊するきっかけとなったのは、エネルギーサービス事業(電気やガスをお客さまの施設内で必要とされるエネルギーに変換し提供するサービス)を展開する中で、食品関係の事業者から、「天候不良や虫混入などのリスクがない、安定調達できる野菜を求めている」という強いニーズを感じていたことが原点にある。
「完全⼈⼯光型植物⼯場事業は、東京電力エナジーパートナーの省エネ技術をはじめとしたエネルギーコスト削減のノウハウ、芙蓉総合リースのファイナンスのノウハウ、ファームシップの⼯場野菜栽培のノウハウが、お互いに補完し合っていることが特⾊です。この3社が異常気象や天候不順、農業従事者の減少や⾼齢化、⾷料⾃給率の低下など⽇本の農業が抱える課題を解決していきたいという思いから⼿を取り合い、強靭な農業の実践や雇⽤創出による地域活性化、SDGs(持続可能な開発⽬標)の理念の実現などを⽬的として、彩菜⽣活を⽴ち上げました」
世界的な⾷料危機を解決する一助として期待される植物⼯場事業だが、実際には露地栽培に⽐べて設備投資にかかるコストは⾼く、照明や⽔の循環、温度管理などで多⼤なエネルギーを消費する。これまでにも植物⼯場事業は数多く⽴ち上がったものの、⼩規模な⼯場ではコストに⾒合う採算性を⾼めることができず失敗しているものも少なくない。
「東京電力エナジーパートナーが完全⼈⼯光型植物⼯場事業に取り組む強みは、⼤規模で⽣産することで採算性を⾼めた⼯場を、省エネ技術でローコスト化していくことにあると思います。⽬的を実現するため、まずは安定した生産と運営をすすめていかなければなりませんが、現時点ですでに80名程度の地元の方々に勤務いただき、日々の各種作業を支えていただいています。地元の方々のご協力・ご理解があるからこそ成り立っている点も特徴の一つです。現在は、リーフレタスを栽培していきますが、ニーズがあれば他の野菜の栽培も検討していきたいと考えています。まずは2021年夏のフル稼動に向けて、頑張っていきます」
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彩菜⽣活の⼯場で作られたリーフレタスは、加⼯⽤のためスーパーなどで⾒かけるものよりも⼤ぶり
柳⽥⼯場⻑のほほ笑みからは、⽇本の農業のみならず、世界を⾒据えた⾃信と責任感がうかがえた。始動したばかりの植物⼯場がどのように育つのか、⼤きな期待を寄せたい。
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