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食品ロス解決に導く!フードテック

食品ロス削減へ。消費期限を延ばし、ワンウェイ容器を減らす「真空率99.5%」の技術

ロジスティクス領域にも応用できる真空技術

食品・食材の保存を考えたときに浮かぶ手段としては、「冷凍」が一般的ではないだろうか。技術の進化で風味や味わいをあまり変えずに解凍できるものも増えているが、解凍手段によっては損なわれてしまうことも多い。そんな中、鮮度を維持したまま消費期限を延ばせるとして再注目されているのが「真空」処理だ。今回は「真空率99.5%が維持できる技術」を持ち、社会実装へと歩みを進めている株式会社インターホールディングス代表取締役社長CEOの成井五久実氏に、その技術が可能にする未来について話を聞いた。

真空率99.5%のボトルが、食品の長期保存を実現

米、野菜、果物などの食材や、飲料および調味料は、時間の経過とともに酸化や腐食が生じ、最終的には廃棄される運命にある。ここに可能性を感じたインターホールディングスは、同社が持つ真空技術によって食品の消費期限を延長し、食品ロス解決に挑戦しようとしている。きっかけは技術開発者・萩原忠氏(同社名誉会長)との出会いだった。

「2022年に萩原忠先生独自の真空技術を知り、非常に感動しました。萩原先生の特許技術は、超高水準の真空率99.5%。それにもかかわらず認知度が低く、社会実装にもつながっていない状況。日本にはこんな素晴らしい技術やアイデアがあるのに、なぜ社会に生かせないのか。私はここにジレンマを感じ、自ら社会実装を実現しようと考えました」

萩原氏の真空技術の肝は、シリコン製の「逆止弁」。構造は至ってシンプルだ。逆止弁の先端に入った切り込みは、力を加えたときの陰圧(外よりも気圧が低い状態)によって開閉する。この逆止弁に個体用・液体用といったさまざまな用途に合わせた容器を取り付ければ、99.5%という高い真空率で食品を保存することができる。この逆止弁の特許が同社に譲渡されたことで、具体的なビジネス展開が進められている。

特許技術となっているシリコン製の逆止弁

現状でも真空技術は一部流通において導入されており、例えば大手スーパーでは精肉売り場などで熱圧着式の「真空包装」の商品が置かれている。しかしその真空率は一般的に70〜80%、導入のためには設備投資も必要になる。資金が潤沢な大手でないと、導入は困難だ。

一方インターホールディングスの真空容器は、液体用であれば利用者の手で、個体用であれば付属のポンプで真空状態にできる。設備投資などの導入コストはほぼ不要、容器代の数百円〜数千円程度/個から導入できる。また、中に入れられる食品も幅広く、つぶれてしまうケーキなどのやわらかな食品や、炭酸が抜けてしまう炭酸飲料などを除いた多くの食品・食材・飲料に対応可能。

例えば、オリーブオイルは10カ月酸化せずに味を保つことができ、ワインは1カ月間、開けたての風味と味が保てることが科学的にも証明されている。新米は半年間、含有水分量が微減程度にとどめられるために、消費期限の延長だけでなく古米の値下げを食い止め、生産者に経済的なメリットをもたらすことができるのだ。

このプロダクトの強みを持って同社としてはサプライチェーン全体への普及を目指す。

「まずは食品ロスの大本である、農家やメーカーなどの現場に普及させ、食品ロスをなくしたいと考えています。次点として、小売店と消費者に『量り売り』の文化を根付かせたい。弊社の真空ボトルを用いた量り売りは、既に2023年7月より野菜の量り売り専門店『HACARI 中目黒店』(※実店舗は年内クローズ)で実装していただいています。ただ“清潔な国・日本”の中では、消費者にとってリユース文化はまだハードルが高いという懸念もあります。そのため、まずは一次産業の現場への提案が先決だと考えているのです」

酒造メーカーで社会実装を進行

日本酒の酒造メーカーにも導入が決定している。コロナ禍を起因とした一升瓶不足が続く中、経営悪化、後継ぎ不足などで業界全体が危機にある。そんな状況においてはたとえ良質なプロダクトだとしても、新たな容器の導入は「原価増」「設備コスト増」「味覚の変化」などの課題があり、ハードルは高い。しかしながら同社の真空保存容器は全てのチェック項目をクリアし、受け入れられた。

個体・液体などさまざまなものに使用可能。ポンプ(右上)か手で簡単に真空状態にできる

他にも、真空技術で近年特に問題視されている廃棄牛乳の解決に寄与できる可能性もある。牛乳を真空パックに入れれば、消費期限が延長する。さらには、牛乳やジュースで使われている「紙パック」に逆止弁のキャップのみを付けた場合でも、パック同様の真空率は維持されるという自社研究結果もある。こうした汎用性の大きさをもって、まずは真空技術を「知ってもらうこと」から、社会実装に拍車をかけたいという。

「今の社会では、『冷凍食品』という言葉はあっても『真空食品』という言葉はありません。メーカー、販売店、消費者、全てにおいてまだなじみが薄いのです。弊社はその状況を鑑み、真空のメリットを啓蒙(けいもう)するところからスタートしたいと考えています」

将来的にはボトルの“リユースセンター”設置を目指す

真空保存容器は、食品以外の用途でも可能性を持つ。例えば個体用パックに細かな発泡ビーズを詰めることで、「緩衝材」を作ることができる。発泡ビーズ入りのパックで保護すべき物を挟み・圧縮すると、パックは物を挟んだ状態で隙間なく固まる。さらに空気を入れれば再利用可能となるため、使い捨て緩衝材を減らし、カーボンニュートラルにも貢献する。

こうした応用力の高さもあり、食品利用においては海外展開も視野に入れている。輸出入の際にも手軽に使用できるため、東南アジア諸国やアフリカなどコールドチェーン(冷蔵・冷凍に保ったまま流通させる手法)のない国々の食品ロスも、この容器を媒介にして解決できるかもしれない。真空技術の広がりについて成井氏は次のように語る。

「真空技術の普及により、量り売りが一般的な小売り形態になることでサステナブルな社会が実現できるはず」と話す、成井氏

「ゆくゆくは、国内でパックや容器のリユースの設備も検討したいと考えています。殺菌・消毒・修理などに対応可能なリユースセンターを造ることができれば、衛生面の気になる肉や魚などの生鮮食品にも用途が広がります。それを世界に展開することで、世界規模での食品ロスを解決できるかもしれません。

このように『たった一つの容器が人々の意思決定を変え、循環型社会が発展するかもしれない』という可能性にロマンを感じています。将来的には、人々が持つエコバッグの中に常にいくつかの真空容器が入っていて、必要な分の食品や飲料だけを買うという世界が来ることを願っています」

工場や産地にある“隠れフードロス”を削減する、飲食店の在庫廃棄による食品ロスを減らす、食品自体の消費期限を延ばす――。今回の特集で取り上げてきたこうしたフードテックが広がっていけば、食品ロスは少しずつ減っていくことだろう。そして、食品に関わる課題だけでなく、そこにひもづく複数の社会課題をも解決へ導く可能性を秘めている。食品ロスを見つめることは、社会全体の持続可能性を高める一歩となるはずだ。

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