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高い安全性を実現! 燃えないリチウムイオンバッテリーで挑むカーボンニュートラルへの道

まさかの「水」を用いたバッテリー? 大幅に耐久性を向上させた秘密はセパレータにあり

パソコンやスマートフォンに使われるなど、必要不可欠な存在となったリチウムイオンバッテリー(以下、LIB)。近年では、電力供給を支える大型蓄電池としての需要も高まっている。しかし、2017~19年にかけ、韓国のエネルギー貯蔵施設でLIBによる火災事故が多発したこともあり、改めてその安全対策の必要性が浮き彫りとなったのも事実だ。そうした中、電解液に水を用いることで、安全性を高めたLIBが開発されたという。耐久性が低いという定説を覆した、新たな水系LIBを紹介する。

これまで以上に注目されるLIBの存在

ことし10月に行われた菅総理大臣による所信表明演説。「新型コロナウイルス対策と経済の両立」や「活力ある地方を創る」など、8つのテーマに沿った指針が示されたが、中でも注目したいのが「グリーン社会の実現」だ。

その方針を要約すると、「2050年までに温室効果ガス排出ゼロ(カーボンニュートラル)を目指し、省エネルギーの徹底と再生可能エネルギー(以下、再エネ)の最大限の活用を目指す」というもの。

日本の歴代総理大臣でカーボンニュートラルの具体的な目標を表明したのは菅総理が初となり、海外メディアも大きく報道。すでに動きを見せ始めている諸外国を追随する形となった。

しかし、再エネの活用には改善すべき問題がある。

時間帯や気候条件による出力変動が大きい点だ。

一面に敷き詰められたソーラーパネル。曇りや雨の日では発電効率が悪く、安定した電力供給は難しい

その不安要素を補う一つの形として期待されているのが、定置型の大型蓄電池を併用すること。出力を調整し、安定した電力供給が可能になるためだ。

再エネ先進国では、電力系統の安定化を目的に大型蓄電池がすでに広く使われており、高エネルギーかつ3.7V以上という高電圧が魅力のリチウムイオンバッテリー(LIB)を採用しているケースが多い。

しかし、LIBにも課題がある。電解液や負極に可燃性の物質を使用しているため、安全性に不安が残るのだ。

そのため日本の消防法では、大量のLIBを貯蔵、または取り扱う施設の場合は危険物施設として一定の対策が求められる。結果、周囲に空き地をつくる設置制限が発生し、土地が狭い都心での運用は物理的な面から難しいとされてきた。

また設置できても、火災への安全対策として多額のコストがかかってしまう側面もあり、普及への課題となっている。

そうした安全面の課題を解決するべく研究されているのが、電解液に水を用いた水系LIBだ。

ことし11月、第61回 電池討論会の場で同技術を発表したのは、大手電機メーカーの株式会社 東芝。

東芝が開発したSCiBTM。高い安全性や長寿命、低温性能などLTO(下記参照)を使用したことによるメリットは大きい

同社では、LIBの負極に使われることが多い可燃性の黒鉛に代わり、不燃性のリチウムチタン酸化物(以下、LTO)を採用した二次電池「SCiBTM」を製品化。

さらに安全性を高めるために開発したのが、今回紹介する水系LIBだ。

水系LIBの実用化を阻む2つの課題

すでに300万台以上のマイルドハイブリッド車(ハイブリッド車の一種)や、ことし7月に営業運転を開始した東海道新幹線「のぞみ」N700Sにも採用されているSCiBTM。その高い安全性や急速充電性は広く知られるところにある。

しかし、従来のLIBに比べれば発火の可能性が低いSCiBTMだが、電解液には可燃性の有機溶媒を使用しているため、かねてから電解液を不燃性の物質にする研究が進められていた。

そこで挑戦したのが、電解液を水にした水系LIBを開発すること。水と言っても、塩化リチウムや硫酸化リチウムなどを水に溶解させ、電解質(イオン)を帯びた状態のものを指す。

従来のLIBと水系LIBの違い。溶媒を可燃性の有機溶媒から水に変更しているため、水系LIBと呼ばれる

電解液を水にした場合の課題は2つ。

低温下で凍ってしまい動作しなくなることと、水の電気分解で発生した水素イオンが原因で、電池の劣化が早まってしまうというものだった。

まず1つ目の課題は、電解質物質を高濃度で溶解させることで解決。-30℃の環境下でも凍らない水溶液を作り上げた。

次に水素イオン対策として行ったのが、正極側と負極側の活物質を隔離しつつ、イオンの行き来を可能にするセパレータの変更だ。

通例ではポリエチレンやポリプロピレンなどから作られた多孔質の薄いフィルムが用いられることが多かったものの、正極側で発生した水素イオンが負極側へ移動してしまうという問題があった。

移動した水素イオンは負極側で還元反応を起こし、連続的に水素が発生。水の電気分解によって、電池の動作が困難となっていた。

従来の水系LIBで発生していた課題(左)と今回開発したバッテリーの概念図

そこで、リチウム金属酸化物からなる固体電解質のセパレータに変更することで、リチウムイオンのみを移動させることに成功。

従来の水系LIBでは水素イオンが原因で200回前後の充放電サイクルで容量劣化が起きていたのに対し、2000回以上の耐久性を実現した。

今回開発した水系LIBの耐久テストを表した図。2000回の充放電を繰り返しても放電容量に変化がないのが分かる

なお、固体電解質とは、イオンを移動させることができる固体のこと。

今回開発したセパレータの厚さは、試作した4cmの小型試験セルで150μm(マイクロメートル)と従来のものよりかなり厚みがあるため、同サイズのLIBと比べるとエネルギー密度や出力密度では低くなるという。

試作品として製作された水系LIBの4cm小型試験セル

しかし、従来の水系LIBでは困難だった2.4Vという高い電圧を実現。前述のとおり可燃物を使用していないため、組み合わせて大容量にした場合でも消防法上で危険物に該当されることはない。

そのため、場所を選ばない高い安全性や設置コストの安さなどから、ビルや商業施設での導入が期待されているという。

今後はさらなる研究・開発を進め、2020年代中に水系LIB実用化を目指す方針の同社。

カーボンニュートラル実現に向け、安全性の高いLIBの需要が高まることは確実なため、一刻も早い実用化が待たれるところだ。

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