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反応速度は従来の10倍! 早大の研究グループがCO2を効率的に資源化する新材料発見

CO2とH2を片側ずつから供給することで平衡制約の課題をクリア

地球上の代表的な炭素の酸化物であり、地球温暖化の原因にも挙げられる二酸化炭素(CO2)。自動車をはじめとする電動化が多分野で進み、CO2排出の抑制に努める一方で、エネルギー源の多くを化石燃料に頼っている現状では急激に排出量を削減することは難しい。また、既に大気中に排出されてしまったCO2をどうするかという問題も生じている。これらの解決策として、現在盛んに取り組まれているのがCO2を資源化して利用する研究だ。今回は、CO2の資源化を大きく前進させる、早稲田大学の研究グループが発見した新材料の詳細を紹介する。

CO2を用途の広いCOに還元して炭素資源化

国として2050年までにCO2を含む温室効果ガスの実質排出ゼロの実現を目標に掲げる中、経済産業省が推進している施策がカーボンリサイクルだ。

これはCO2を炭素資源と捉えて回収し、再利用しようというもの。

現在さまざまな研究機関や企業がCO2を資源化する手法を模索しているが、その中の一つに、CO2を一酸化炭素(CO)に還元して利用しようとする動きがある。

なぜCO2をCOに還元するかといえば、利用用途が広いことに他ならない。COといえば一酸化炭素中毒を引き起こす毒性の強いガスのイメージがあるかもしれないが、産業界に目を向ければ化学品などの重要な原料として使われている。

仮に、工業利用が難しいCO2を効率的にCOへと還元できれば、豊富な炭素資源となるばかりか、CO2排出量や大気中のCO2削減にも期待が持てる。まさに一石二鳥というわけだ。

研究グループが発見した新材料と再生可能エネルギーを用いて実現し得るCO2資源化までのプロセス図

そうした中、早稲田大学先進理工学研究科修士1年・牧浦淳一郎氏、早稲田大学理工学術院・比護拓馬講師および関根泰教授らの研究グループは2020年12月24日、従来よりも低温下でCO2をCOに資源化する新材料を発見したことを発表した。

数百種類の候補材料の中から見いだした最適解

CO2を資源化する方法の一つに逆水性ガスシフトというものがある。これはCO2に水素(H2)を加えることでCOと水を生成させる手法で、従来は触媒となる固形の酸化物に白金やルテニウムなどの貴金属、あるいはマンガンや銅などが使用されていた。

ところが、これらを用いてCO2を資源化する場合、反応温度が高く、平衡制約(C+O2→CO2、CO2→C+O2のようにどちらの方向にでも起こりうる可逆反応では、正反応と逆反応の反応速度が同じになること)により低温では低い反応率しか得られず非効率という課題があった。

酸化と還元の化学反応を示した図。酸素と水素では考え方が異なり、酸素の場合は、酸素と化合する反応を酸化、酸素を失う反応が還元となる、それに対し、水素の場合は、水素を失う反応を酸化、水素と化合する反応が還元となる

そこで、研究グループは固形の酸化物の酸化と還元の組み合わせに着目し、数百以上に及ぶ候補材料を検討。その結果、液晶ディスプレイや薄膜太陽光発電などの電子デバイスに用いられるインジウムと銅を組み合わせた合金酸化物「Cu-In2O3」が低温でも高い反応率に期待できることを見いだした。

逆水性ガスシフトを用いた実験では、「Cu-In2O3」が持つ性能を生かすためにケミカルルーピング法と呼ばれる酸化還元反応を活用し、平衡が制約とならないようCO2とH2を交互に供給した。すると、従来よりも低い500℃において、従来の10倍となる10mmol/g/h(ミリモル・パー・グラム・パー・アワー)の反応速度でCO2のCO化ができたという。

10mmol/g/hという単位・数値について、研究グループの一人である関根泰教授は「CO2はガスですが、仮に工場で山積みにされた20mmolの原料を反応速度1mmol/g/hの触媒1gで反応させようとした場合、作業を終えるまでにおよそ20時間が必要です。もし10gの触媒を用意すれば2時間に短縮することができますが、それには単純計算でお金も工場の敷地も10倍多く必要になります。しかし、私たちの開発した『Cu-In2O3』の反応速度は10mmol/g/h以上なので、同じ1gの触媒でも効率的に2時間で反応を終えることができます」と解説する。

A+B→Cという反応において、AとBを同時に流すと平衡の制約を受けるため、ある程度までしか反応しない。ところが、研究グループが行ったケミカルルーピング法は、Aを先に流した後にBを流すことで、平衡の制約を受けないのがすごいところ。そのため、「Cu-In2O3」(左の青い部分)は、既知の材料(右の赤枠)を大幅に凌駕する数値を記録している

さらに研究グループは、その後に行ったさまざまな解析により
(1)「Cu-In2O3」上での反応は、「Cu-In2O3」と「Cu-In合金」との間の酸化還元に由来すること
(2)合金中の酸化物イオンの高速移動が高いCO2反応率の鍵となること
をそれぞれ突き止めた。

図中央の状態(酸化と還元)をループすることで、CO2をCOとして資源化させる

関根教授は「従来あまり考えられたことのない、銅とインジウムという組み合わせの酸化物が、酸化還元によって二酸化炭素を資源化する高い性能を示すことが分かりました。今後、太陽熱と電解水素などを組み合わせることで、CO2の選択的かつ効率的な資源化が期待できます」とコメント。

CO2排出ゼロに向けて、大きな一歩となる今回のイノベーション。

地球温暖化ストップのためにも、早期の社会実装を目指して研究が前進することに期待したい。

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