特集
異常気象と温暖化の相関性

西日本豪雨、その原因とメカニズムを探る

大雨をもたらした線状降水帯はどのように形成され、降り続くことになったのか?

2018年7月上旬、西日本を中心に記録的な豪雨が降り続き、広範囲にわたって甚大な被害をもたらした。この未曾有の災害に対し、茨城県つくば市に本拠地を構える国立研究開発法人 防災科学研究所はすぐに事象を分析、大雨をもたらした雨雲を解析した三次元動画を公表した。作業を担った同研究所の下瀬健一特別研究員に、西日本豪雨のメカニズムについてあらためて話を聞いた。

複数の原因が重なって起こった西日本豪雨

例年に比べて早かった梅雨明けに始まり、豪雨、猛暑、台風とさまざまな天災に見舞われた2018年の夏。

その中でも特に印象的だったものの一つが、6月後半から7月8日にかけて西日本を中心に広範囲で記録された集中豪雨だ。

当時の模様をおさらいしておこう。6月29日、日本の南の海上で台風7号が発生すると、太平洋高気圧を回り込むように東シナ海にかけて北上。7月4日ごろ日本海上に抜けたのだが、太平洋高気圧とオホーツク海高気圧の影響で、梅雨前線が7月2~5日ごろまで北海道に停滞。北海道に多くの雨を降らせた。その後、オホーツク海高気圧が発達したことを受け、梅雨前線も南下する。

また7月3日ごろ以降、九州地方では台風の影響による雨が降り続いていたが、5日から停滞していた梅雨前線に向かって、台風7号がもたらした暖かく湿った空気が流れ込むことで梅雨前線が活発化。この梅雨前線は9日に北上して活動を弱めるまで日本上空に停滞。結果的に西日本から東日本にかけて記録的な大雨を降らすことになった。

上は7月5日深夜0時から6時間の積算降雨量、下は7月6日18時から6時間の積算降雨量。黄色の部分が60~100mmもの雨が降ったエリアだ

「7月6日の水蒸気の量と風の分布を見ると、梅雨前線に向かって南風によって運ばれた水蒸気が継続して吹き込んでいます。この状況が長く続いたことが、大気にとって重要な出来事でした」

降り続いた雨を下瀬研究員はこう分析する。

「気象庁の発表によれば、原因は3つあったと考えられます。まず、そのうちの2つを説明しましょう。

1つは、多量の水蒸気を含む気流が西日本で持続的に合流したこと。2つ目に、梅雨前線が停滞し持続的に雲が発生し続けたことです」

その原因は地球規模の大きな空気の流れ・エネルギーにあるという。

「テレビの天気予報などで“太平洋高気圧が張り出しています”という話をよく耳にすることがあると思います。今回は、その太平洋高気圧が日本の南東側に大きく張り出していたことが原因で、それを回る風が西日本に入り続けてきていたんです。

この高気圧の大きな張り出しの原因の一つとして、シルクロードテレコネクションという、アジア上空に吹く亜熱帯ジェット気流の大きな蛇行が持続したことが挙げられています。また、シベリア上空を吹く寒帯前線ジェット気流が大きく蛇行し続けたことが原因で、オホーツク海高気圧が発達し、日本付近に梅雨前線が停滞し続けました」

普段の天気であれば、2~3日で移り変わる。しかし、今回は地球規模の気象条件と、日本周辺の気象条件が組み合わさったことで、同じ所に雨が降り続けることになってしまったのだ。

太平洋高気圧が大きく張り出したことやシルクロードテレコネクションなど、地球規模の空気の流れが今回の豪雨に影響した

問題はバックビルディングという雲のでき方

今回の豪雨には、この2つに加えて、もうひとつ決定的な現象が重なったという。

「梅雨前線が停滞することは“雨が降りやすい状況が続く”ということであって、“梅雨前線近傍の全ての場所で激しく降る”ということではありません。

3つ目の原因として、今回はそこに線状降水帯という現象が起きたことで、豪雨につながったと言えます」

線状降水帯とは、激しい雨を降らせる積乱雲が数珠つなぎに発生したもの。

暖かい空気が積乱雲を成長させて雨を降らせる。それが繰り返されることで集中豪雨がもたらされる

「線状降水帯が発生する要因はいくつかあります。

例えば、大気が不安定であること。今回はこの状態が比較的広い範囲で広がっていました。でも、それだけでは何も起きないんです。暖かく湿った空気が下にあって、上空に寒気があるという状態のことを示しているだけですから。

つまり、その下にある湿った空気を持ち上げるきっかけが必要になります。それが今回の場合は、停滞していた梅雨前線なんですね。それと、場所によっては湿った空気が山にぶつかって持ち上がるという、地形的な要因もありました」

梅雨前線や地形的な要因によって持ち上げられた積乱雲は、発達した後に雨を降らせる。雨は蒸発しながら降るので、それによって冷たくなった空気が積乱雲の中から外に向かって出ていく。すると上空は風が強いので、雨を降らせた積乱雲は流されていくわけだ。

ところが今回はそれだけで終わらなかった。積乱雲の中から外に出ていった冷たい空気に、再び南からの暖かい空気が流入し、新たな積乱雲を発生させた。つまり、一つの積乱雲が雨を降らせて移動しても、同じ所にエネルギーが生じ、また新たな積乱雲が発生し続けたのだ。

これをバックビルディング現象という。

「そうやって同じ所で発生して、同じ所で雨を降らせることが続きました。しかも移動した積乱雲もすぐに雨がやむわけではありません。降らせることができなくなるまで、積乱雲が線状に並ぶことになります。

これこそが“線状降水帯”という状態なのです」

7月6日18時の雨雲の状態を3D画像で描画したもの。中国地方全域と四国の高知県で大きな積乱雲が発生し、激しい雨が降っていることが分かる

ただ、線状降水帯自体は決して特別なことではないという。

「通常であれば前線自体が動くので、それに合わせて線状降水帯も動きます。降り始めのポイント自体が移動すれば、線状の形のまま動くので、同じ所に降り続けるということはありません。

今回は前線が停滞したことで、線状降水帯が移動しませんでした。大きな被害につながった要因がそこにあります」

なぜ今回は前線が動かなかったのだろうか?

「分かりやすいのは地形です。山の同じ所で発生し続けたということは言えます。だから地形を由来とする線状降水帯はよく研究されているのです。例えば、九州だと『あの山からよく出るよ』といった具合に。

しかし、そもそも積乱雲の動き方のメカニズムについては、まだよく分かっていないことがあります。例えば、今回のように急に動いたり止まったりする要因というのは解明されてはいません。それが分かれば、ある程度予測もできるようになるのですが…」

大気中の水蒸気が教えてくれること

今回の豪雨についても事前の注意喚起はなされていた。テレビで「かつて経験したことのない豪雨になる」という言葉が繰り返されていたことを覚えている人も少なくないだろう。

「残念ながら、その豪雨が“どの地点でいつ降り始めるのか”ということまでは、正直まだ分かりません。それを知るためには一つずつ事例を解析し、メカニズムの詳細を理解していく必要があります」

ポイントの一つとなるのが、大気中の水蒸気を計測することだ。

「先ほど『水蒸気と風の流れが大切である』とお話ししました。しかし、大気中の水蒸気を測ることはとても難しいのです。三次元的な計測が特に。“ラジオゾンデ”という風船に計測器を付けて飛ばす調査を日本全国数カ所で行っていますが、計測する場所が限られているので、大気を大きな面として知ることは容易ではないのです」

自動放球装置のある観測地点でのラジオゾンデによる高層気象観測、飛揚風景の様子

出典:気象庁HPより

大気中の水蒸気の量がいかに雨に影響するか──。

例えば、2017年7月九州北部豪雨の際、海上の水蒸気の量が5%変わっただけで、雨の降り方の激しさが変わったという分析がある。絶対量から見れば大きな割合ではないが、水蒸気の量というのは、時にそれほど大きなインパクトをもたらす。

7月6日9時の地表面の水蒸気量。太平洋上から湿った南風が入ってきていることも示している

さらに、水蒸気の絶対量は気温の高さの影響を受けると下瀬研究員は言う。

「気温が高くなると大気が含むことのできる水蒸気の絶対量は増えます。すると、それが雨になるわけですから必然的に降雨量が増えることになります。温暖化が叫ばれて久しいですが、このまま暖かくなれば、全体的に雨の量は増える可能性があると思います」

逆説的に言えば、計測した水蒸気の量が増えていれば地球温暖化を示唆することができるかもしれない。

「とはいえ、今夏の西日本豪雨が地球温暖化の影響を受けたものかどうかは分かりません。例えば、江戸時代に何度か大きな飢饉(ききん)がありましたが、それはこういう天候が原因だったのかもしれません。実際、過去の降水量の統計解析を行うと、高知では今回のような大雨の再現頻度は数年に1回でしたが、倉敷(岡山県)での再現頻度は100年に1回でした。

つまり、歴史の中でこれまでも繰り返されてきた“大気の現象”だったかもしれないのです。再現期間が100年に1回ということはあり得ることですから」

では、これからの私たちにできる備えはあるのだろうか。

「重要なことは、今年の天候を覚えておくことです。“あれくらいの勢力の台風が上陸すると、あれほどの被害が出るんだな”という具合に。だから今後、“これまでに経験したことのない豪雨”と言われれば、少なくとも今年以上の雨だということは想像できますよね。そういう知見を蓄積していくことが、災害対策には必要なことだと思います」

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