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EVシフトを読み解くカギ 「テスラ・中国・電池」

エネルキーワード 第32回「EVシフト」

「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載の第32回は「EVシフト」。世界的にEV(Electric Vehicle : 電気自動車)シフトが進行している中、今後の動向を見るときに、押さえるべき3つのポイントについて考えてみましょう。

TOP写真)メルセデスベンツ社のEVコンセプトカー「Vision Mercedes-Maybach 6.」

出典:Mercedes-Benz

テスラに見る量産技術の難しさ

EVの雄といえばやはり米テスラモーターズ(以下、テスラ)でしょう。天才経営者の名をほしいままにするイーロン・マスク率いるこの会社は、2017年4月に一時、米ゼネラル・モーターズ(GM)を超え、時価総額が米自動車企業で首位に立ったこともあります。株価を押し上げたのは何といっても、テスラの普及版モデル3の登場です。

テスラ モデル3 第1号車

出典:Twitter Elon Musk

この400万円台で買えそうなEVは世界中の注目を集めました。このモデル3は当初年産50万台を目指すとしましたが、EVの心臓部であるバッテリー組み立て工程の不具合などによる生産遅れで目標達成が厳しくなっています。筆者は元自動車メーカーにいましたが、自動車産業は装置産業であり、品質を保ちながら年産数十万台以上の車を作るのは容易ではないことを重々承知しています。

よく、EVは部品の点数がガソリンエンジン車と比べて格段に少ないので、組み立ても簡単であり、自動車メーカーでなくても新規参入が容易である、とまことしやかに解説する人がいますが、そういう人は自動車の生産ラインを見たことがないのではないでしょうか?

クルマがEVであれ、何であれ、量産技術では既存自動車メーカーに一日の長があるのは間違いありません。今後もダイソンなど、さまざまな企業がEV市場に新規参入してくるでしょうが、その点を見誤るとEVシフトの未来を見通せなくなるでしょう。

拡大する中国EV市場

次に注目しなければならないのは中国市場の動向です。世界のEVシフトをけん引しているのは中国です。国際エネルギー機関(IEA)の「世界の電気自動車の見通し(2017)」によりますと、2016年の全世界でEV販売台数は75万台以上、世界のEVの累積台数は2016年に200万台を超えました。2016年時点で、世界で販売されるEVの実に40%以上が中国で販売されました。中国は2016年世界最大の電気自動車所有国になり、世界全体の電気自動車のうち約3分の1が中国にあります

電気自動車の導入台数の実績と2030年までの様々な見通し

出典:経済産業省「世界の電気自動車の見通し(2017)」(IEA発行)レポートの概要

IEAの見通しによると、EVの累積台数は2020年までに900万~2000万台、そして2025年までには4000~7000万台に達する見通しです。その趨勢(すうせい)はその後も急速に進むとしています。EV最大の市場・中国は、2022年までに外資への出資規制を撤廃し、テスラなどEVメーカーの誘致を加速する戦略です。

また、2019年には自動車メーカーに新エネルギー車(NEV : New Energy Vehicle)の一定比率の販売製造を義務付ける規制を導入予定です。こうした動きは中国メーカーに有利に働くとの分析が大勢を占めていますが、見方を変えれば、日本の自動車メーカーと部品メーカーにとってチャンスでもあります。

中国では、多くの企業がEV製造に乗り出していますが、自動車の製造は携帯電話を作るのとはわけが違います。乱立したメーカーの淘汰が進むのは間違いありません。また、消費者は遠からず「安かろう悪かろう」から「高くても品質のよいもの」を求めて行動するようになるでしょう。そうしたとき、日系メーカーと合弁企業との協力による、高性能で高品質の「魅力的なEV」の開発・生産のニーズが高まると予想されます。

さらに部品メーカーでは、日本電産が300億円を投じ、EVの中核部品である駆動用モーターの新工場を上海近郊の平湖(へいこ、浙江省)に建設、2019年5月に量産に乗り出すと報じられています。高性能な部品を安定供給できる日本の自動車部品メーカーには、追い風となるでしょう。

さて、次は各日本車メーカーのEV戦略を見ていきます。

トヨタは、中国では初となるPHV(Plug-In Hybrid Vehicle)のセダン「カローラ」と小型車「レビン」の2車種を2019年から中国市場に投入する計画です。

トヨタPHV「レビン」

出典:トヨタ

日産は新型「リーフ」と、「リーフ」をベースにした新型EV「シルフィ ゼロ・エミッション」を中国専用車両として2018年後半に市場投入予定です。

日産EV「シルフィ ゼロ・エミッション」

出典:日産

そしてホンダはSUVセグメントで2018年度中にEVを投入予定です。このようにトヨタはまずはPHV、日産とホンダは最初からEV、と戦略が異なります。どちらが有利か、注目が集まります。

ホンダ 理念EVコンセプト

出典:ホンダ

無論、先述した日本電産のように、部品メーカーも中国市場を虎視眈々(たんたん)と狙っています。このように自動車メーカーのみならずあらゆる関連メーカーが中国市場に熱視線を送っていますが、今後の中国の自動車政策によっては路線変更を余儀なくされるケースが起こり得るので、その動向を注意深く見守る必要があります。

次世代電池のインパクト

そして最後に来るのが「電池」です。どういうことかというと、EVの技術の中枢は「電池」であり、そのコストと性能により競争力が決まるからです。

まずコストですが、当然のことながら各電池メーカーは量産によりコストダウンをもくろみます。巨大中国市場を制覇すべく、日本勢と中国勢の戦いは厳しさを増しています。

次世代環境自動車向け二次電池の世界市場

出典:富士総研

富士総研は、次世代環境自動車向け二次電池(リチウムイオン電池など)の市場が2025年に2016年比4.6倍の6兆6,138億円になると予測しています。特にEV向けは同年比7.0倍の3兆9317億円、全体の50%以上を占める勢いです。

こうした中、中国電池最大手の寧徳時代新能源科技CATL:Contemporary Amperex Technology)は2020年に50GWh(ギガワット時:1時間当たりの電力量、kW時の100万倍)まで増産する計画を発表。テスラがパナソニックと運営する世界最大の車載電池工場、ギガファクトリー(同35GWh)をしのぐ規模ですから驚きです。迎え撃つ、自動車向けリチウムイオン電池世界首位のパナソニックは、今年から中国で車載用リチウムイオン電池の量産出荷を始めました。厳しい戦いが繰り広げられそうです。

テスラ ギガファクトリー

出典:テスラ

電池のもう一つの重要なファクターは、技術開発です。現在EVのバッテリーの主力はリチウムイオン電池です。携帯電話などにも使われているのでおなじみですね。そのリチウムイオン電池も充電時間が長いなどの弱点があります。それを解消すると期待されているのが「全固体電池」です。トヨタも2020年代前半にリチウムイオン電池に代わって全固体電池を搭載したEVの実用化を目指しています。

独Bosch社 全固体電池の試作品

出典:Bosch

全固体電池は、リチウムイオン電池に使用していた電解液が固体電解質に代わったものです。なんだ、液体が固体になっただけなのか、と思うかもしれませんが、数多くのメリットがあります。例えば、充電時間が短縮できるエネルギー密度が大幅に向上する安全性が向上する、などです。

現在EVに搭載されているリチウムイオン電池の重量は約250~500kgもあります。全固体電池が実用化されれば、重量を一気に軽くすることができると言われており、当然EVの弱点である走行距離も延びることになります。次世代電池の量産化に成功すれば一気に市場の覇者となる可能性を秘めているのです。

もう後戻りできないEVシフトの潮流。今後もしばらくは先の見通せない展開が続きそうです。

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