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エネルギーの革新者

未来のリーダーを育てたい。「カーボンニュートラル×エネルギー」の背景にある願い

EMIRAビジコン2023テーマ「カーボンニュートラル×エネルギー」について審査員が語る

「EMIRA」と「早稲田大学パワー・エネルギー・プロフェッショナル育成プログラム(PEP)」がタッグを組んで実施する学生コンテスト「EMIRAビジコン2023 エネルギー・インカレ」の開催が決まり、ビジネスアイデアを募集している。第4回となる今回のテーマは「カーボンニュートラル×エネルギー」。そこに込められた願いとは何か。テーマ設定に関わったPEPのプログラムコーディネータ―林泰弘教授に聞いた。

壮大で広範囲におよぶテーマにした意味

2015年にフランス・パリで行われたCOP21(第21回国連気候変動枠組条約締約国会議)でパリ協定が採択されて以降、世界的にカーボンニュートラル実現に向けての動きが進んでいる。日本でも菅義偉首相(当時)が2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言してから、はや2年がたつ。

「この数年でカーボンニュートラルへと向かう動きが、一気に加速しました。これは日本だけではなく世界的な動きで、昨年のCOP26が終了した時点で世界144の国と地域が2050年にカーボンニュートラルを実現させることを表明しています。いよいよ二酸化炭素(以下、CO2)排出削減を皆が私事として取り組まなければならない時代になってきました。そこで一度、原点回帰する時だと思ったのです」

林泰弘教授は今回のテーマ設定について、このように語る。

これまでのテーマは「SDGs×エネルギー」「食×エネルギー」「住まい方×エネルギー」。これらと比べると、今回の「カーボンニュートラル×エネルギー」というテーマは、イノベーション(変革)を「エネルギー」という視点で読み解くことで未来を考える「EMIRA」のビジネスコンテストとしては、確かに「原点回帰」だと言える。

「2050年に社会を引っ張る立場になる若い世代にバトンをつないでいくのが、我々の使命だと思っています」と語る林教授

しかし、「原点回帰」であるが故の難しさも存在する。林教授は次のように話す。

「カーボンニュートラルの何が難しいかというと、国も自治体も企業も取り組まなければならないのは分かっているし努力もしようとしているのですが、『どうすればいいんだ』となっている。Howがまだないんですよね。だからこそ、カーボンニュートラルを実現していくためにはしっかりとリーダーを育てていく必要がある。未来のリーダーを育てると言えば少し言い過ぎかもしれませんが、今回のビジネスコンテストがそのきっかけになれば、と思っています」

林教授はこのように力を込める。未来を担う学生たちが少しでもカーボンニュートラルに真剣に取り組む契機になれば。そしてその中から未来のリーダーが生まれれば。そんな思いで設定したテーマなのだ。

ただ、カーボンニュートラルを実現していくためには解決しなければならない問題はまだ山積みだ。CO2排出を削減する技術も、抑制する制度もそうだ。

「技術と制度の問題は同時に解決していく必要がありますが、まだ誰も達成できていない難問です。加えて、地球の温暖化を食い止めつつ新たな産業も創出していかなければなりません。それこそ人類の社会規範を変えるくらいの話にしなければ、CO2排出を削減しても、今度はマネタイズできずに生活が成り立たなくなるという問題も発生します。「技術」「制度」「産業創出」「社会規範」の4つが相互作用して一緒に前に進んでいかなければ実現できないのが、カーボンニュートラルなのです」

専門知識がなくてもCO2排出削減に結びつけられる考え方とは?

これまでにない壮大なテーマとなる今回のビジネスコンテスト。林教授が挙げた4つのポイントのうち、学生たちは何に着目しどのようにアイデアを考えていけばいいのだろうか。

「相互作用するわけですから、何か1つが前進すると他の3つもそれに引っ張られて前に進みます。例えば技術革新が起きると、それによって法制度も変えなければなりませんし、合わせて社会規範も変わっていくことになるのです。いずれか一つから考えてアイデアを広げていけば、おのずと他のポイントにも考えが及んでいくでしょう」

とはいえ、専門的に研究をしている一部の大学院生以外は、CO2排出削減の新しい技術を軸にビジネスアイデアを考えるのは困難だ。

「もちろんエネルギー分野の研究を行っている理工系の学生は、自分の専門分野を軸にビジネスアイデアを考えてもらえればいいと思います。でも、そうではない学生は、まずは身近な社会課題を考えてみて、それを解決することで結果的にCO2排出削減にも結び付く、というボトムアップ型の発想をしてみてはどうでしょうか」

林教授が例として挙げるのが、首都圏の駅などではしばしば見かける傘のシェアリングサービスだ。

「曇り空の日に出掛けるとき、傘を持って歩くのはストレスになりますよね。傘のシェアリングサービスは、月に定額を支払えば駅前で傘をレンタルできるサブスクリプションサービス。傘を持ち歩くストレスから解放されますし、『傘を持ち歩く』という課題を解決するサービスは、結果的に捨てられて焼却処分される傘も減らしている。実はCO2排出削減にもつながっているんですよね」

特別に「CO2排出を減らす」ことを意識しなくても結果的に結び付いている、という点が大事だという。

CO2排出削減にもつながる傘のシェアリングサービス

「親や祖父母、子どもたちがみんなで『それ面白そうだね』と興味を示してもらえるようなアイデアだといいですよね。カーボンニュートラルは非常に幅広いテーマですし、ともすれば『世界を救う』ような話になってしまいがちですが、身近なことを学生らしい視点で捉えたアイデアを聞きたいと思っています。もちろん技術や制度を専門的に学んでいるなら、自分の専門分野でのアイデアも歓迎します」

「2050年カーボンニュートラル」実現は今の学生の手に掛かっている

これまでに3回行われたビジネスコンテストについて、「例年アイデアの質が非常に高く、楽しく審査しています」と振り返る林教授。

「今回は広範なテーマなので、例年以上に、より自由かつ大胆に、そして応募する学生の皆さん自身もワクワクするようなアイデアが届くとうれしいですね」

学生ならではの視点が入ったアイデアに期待を寄せているが、オーダーもある。それは、単に「アイデア」で終わってはならないことだ。どのようにマネタイズできるものなのかは、根拠となるデータをある程度は示さないと説得力に欠ける。

「そこでキーワードになるのが『拡大推計』です」

拡大推計とは、「ある市場が2050年には倍になるという既存のエビデンスを基に、関連する他の市場もきっと同じように2050年には規模が倍になっているだろう」といったように推察していく手法だ。

「マネタイズを考えていく際に市場規模などのデータがなければ、このように考えて仮説を立てていけばいいと思います。ビジネスアイデアのコンテストである以上、アイデアだけでは評価はされにくい。そこは注意してもらいたいですね」

そしてもう一つ気を付けてほしいのが、CO2=コストだということだ。

「カーボンプライシングによって、削減したCO2はお金に換えられる。CO2排出量取引を参考にすれば、1tあたりの取引金額も分かります。自分たちのアイデアでどれだけの経済効果やコスト削減が期待できるかを提示してもらえるといいですね」

CO2排出量の削減はコストとなる

出典:環境省「国内排出量取引制度の法的課題について (第一次~第四次中間報告)」

今回のビジネスコンテストに応募する学生たちは、カーボンニュートラルの実現を目指す2050年には40~50代になっている。

「2050年に社会の中核を担っているのが、今の大学生・大学院生です。つまりカーボンニュートラル実現、そのためのエネルギー分野での革新は、彼ら彼女らの手にかかっているといっても過言ではありません。若者ならではの柔軟な思考に基づく新しいアイデアを募集することで、学生の皆さんには未来の『カーボンニュートラルリーダー』としての素地を身に付けてほしいと願っています」

「2050年にはカーボンニュートラルは実現していて、社会はこうなっているだろう。そんな未来の姿からさかのぼって考えてみても面白いかもしれませんね」と、林教授

全国の学生たちから、林教授の想像を超えるようなビジネスアイデアがどれだけ届くか、今から楽しみだ。

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