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2020.05.15
どう乗り越える? 近未来「テレワーク」全盛時代の働き方
「テレワーク」がもたらす新しい発想、エネルギー消費へのシフト
新型コロナウイルス感染拡大を受けて、各企業が積極的に導入し始めた「テレワーク」。日本全国に広がった緊急事態宣言を受けて、人々の濃厚接触回避を後押ししているのは周知の通りだ。しかし、就業スタイルや自宅のインターネット環境、セキュリティー面における懸念など課題はたくさんある。特集1回目の今回は、長年企業のディスカッション能力の開発をしているKANDO株式会社の代表取締役 高橋輝行氏に、企業のテレワーク導入の実情や課題、新しい潮流について聞いた。
※取材は4月16日、オンラインアプリ「Zoom」を介し実施
今の時代、本当に「テレワーク」は必要不可欠なのか?
「テレワーク」という言葉を調べてみると、“情報通信技術(ICT = Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のこと”と記されている(出典:一般社団法人 日本テレワーク協会 公式サイト)。いわゆる造語で、「tele=離れた所」と「work=働く」を合わせたものとのこと。
コロナ禍以降、急速に世の中に知れ渡ることになったこの言葉だが、実は40年ほど前から進められている、働き方見直しの一環でもある。
「テレワークは働き方の多様化文脈で話題になることは多いですが、今の時代においては何ら特別なことではなく、皆さんが日常当たり前にしていることなのです」と高橋氏は語る。
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高橋氏は現在、テレワークでのディスカッション能力向上に意欲的な企業などへアドバイス、コンサルティングを行う「KANDO株式会社」の代表取締役を務めている
画像提供:KANDO
高橋氏の言う「日常当たり前にしている」についてもう少し解説をお願いすると、SNSの話題が出てきた。
「例えば、Aさんが友達のBさん、Cさんと飲みに行こうと思ったとします。そこでFacebookMessengerやLINEで呼びかけると、Bさんがお店を提案し、Cさんが集合時間を調整するといったシチュエーションは誰しも経験したことがあると思います。それこそまさにテレワークです。『飲み会をする』というテーマに対して、全員が離れた場所、異なる時間にそれぞれの役割に応じて仕事(=お店のリサーチや集合時間調整など)をする。その結果、飲み会が実現するわけです。まあ、今の時期は我慢ですけれど…。
ビジネスでも、これと同様のことを従業員や取引先とすればいい“だけ”なのですが、難しいと感じる人が意外に多いのも事実。そこで私たちは、テレワークをうまく進める方法論について、企業へアドバイス等を行っています」
確かに、スマホを使い仲間内で飲み会の設定をするのと同じことをビジネスでもすればいいだけなのだろうが、なぜそれが難しいのだろうか。
「仲間内の飲み会のように、慣れていることを気心の知れた人となら造作もないこと。しかしビジネスの現場では、不測の事態や新たな課題に対して対処しなくてはなりません。関係者の増減や入れ替わることは日常茶飯事。テーマも時々刻々と変化します。そのような変動性の高い問題を解くことは、相当問題慣れしていないとできません」
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「4月に実施したテレワークに関するオンラインセミナーの参加者は、皆さん学習意欲が高く、“前提”が覆ったことへの危機感の表れだと理解しています」と高橋氏。日本全体を見ると危機感を持っている人がまだまだ少ないとも感じているそう
ここで一つ疑問が湧く。
これまで私たちは“会議”で問題解決をしていたはずではなかったのか。
その質問をぶつけてみると、「本当に問題解決をしていたのでしょうか?」と意外な答えが返ってきた。
「私はこれまでさまざまな経営会議に出てきましたが、会社を左右するような難しいテーマに対し、自由闊達(かったつ)に活発な意見が積み上げられ、それまで誰もが思いもつかなかった方向性をひらめき、全員が納得する結論にまとまる、そのようなことはほとんどありませんでした。その多くは、アイデア探しや、責任の押し付け合い、声の大きな人の独り善がりな演説といったもので、最終的にはその場の雰囲気を忖度(そんたく)し何となく終わる。根本的な要因はスルーされ、表面的に取り繕うようなアクションで流れていく。これまで多くの企業で行われてきた会議の不都合な真実ではないでしょうか。コロナショックは、テレワークへの移行を急速に推し進めていますが、同時に私たちの会議の中身、ディスカッションの在り方を根底から変えることになると思います」
ウィズコロナで変わるディスカッションの「質」
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、物理的に人と人が会えなくなったことで、テレワークが急速に進んではいるが、なぜ会議の中身が変わるのか。
「今回の一件で世界の経済状況は一変しました。日本ではインバウンド需要が蒸発し、街から人が消えました。五輪・パラ五輪2020東京大会は開催が延期となり、来年の実施も危ぶまれています。このような状況に、今までと同じように考え、同じようなことをしていては生き残ることはできません。頭の使い方を変え、議論の在り方を変革し、自ら非連続な答えを出していくことが求められます。私たちは、慣れていない問題を、慣れていない人と、慣れていないテレワークで解かなければならない三体問題(3つの物体<天体>が互いに及ぼし合う重力に関する物理学の問題。一般的には解くことが困難とされている)に直面しているのです」
企業でテレワークを行うには、企業の情報管理や通信セキュリティー、導入コストといった制約は大なり小なり、いまだ根強く残り続けている。しかし、通信環境の改善やアプリの進歩などによって、徐々に“議論を変えて、非連続な答えを出す”という課題に集中しやすい環境になったのは間違いない。
「今こうして取材で用いている『Zoom』ですが、3年半ほど前に使ったときには『ホワイトボード機能』はまるで使い物になりませんでした。今は書き味滑らかでリアルタイムに反映されるため、複雑な議論では重宝しています。より高度な議論をテレワークで行えるように、テクノロジーは日々進化していると実感します。しかも、それが無料で使える時代、使わない手はありません。
一方、テクノロジーが進めば進むほど、組織の課題解決力の格差は広がります。テレワークに慣れている企業は高い能力を保持する人の頭脳を借りやすくなりますし、ディスカッション能力の高い企業は高次の課題を解決できるようになります。ウィズコロナでは、テレワークは働き方の多様性といった話に閉じるものではなく、企業の生死や働く人のキャリアに大きく関わるテーマになると思います」
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ホワイトボードをカメラで映し、図解を起こしながら丁寧に解説してもらった。これを目の当たりにすれば、確かに遠隔でのディスカッションも容易に行えるのではと実感できた
厚生労働省とLINE社の調査によると、テレワーク実施率は全国で26.83%(4月12~13日、約630万人が回答。東京都51.88%、大阪府26.28%、福岡20.22%)だったと報じられている。
テレワーク導入について高橋氏は「不可逆な事象」と断言する。
「ビジネスにおけるコミュニケーションの認識が180度変わりました。新型コロナウイルス感染拡大以前は、初めて会う相手は訪問前提だったのが、今やオンラインでのあいさつは当たり前になりました。これまでの前提が急速に覆る中で、どうビジネスを捕捉し適応していくか。その変革への挑戦が、企業の今後の命運を左右するのではないでしょうか。『100%テレワーク実現』。そのくらいの旗印を掲げる経営者が出てきてもおかしくない時代です」
都市部の高層ビル群は機能を失っていく?
日本の都市部の象徴とも呼べる高層ビル群。毎朝、多くのビジネスパーソンが吸い込まれていく。もし皆がそれぞれ離れて作業し、一定のクオリティー、モチベーションで仕事ができるのであればオフィス機能はどうなっていくのか?
「……少々きつい言い方ですが、正直不要でしょう。今後、ソーシャルディスタンスがより根付くと、今までのオフィスで人数を減らすか、より広いオフィスへ移ることになります。いずれにせよ、従業員をすし詰めにするオフィスとは真逆の発想です。お金に余裕のある企業なら可能かもしれませんが、大半の企業はオフィスの概念を大きく変えることになるでしょう。極論を言うと、最小限の書類と備品はトランクルームに預け、データは全てクラウド管理、登記とメールボックス用に安価なレンタルオフィスを借りるという企業が出てもおかしくありません。既に弊社ではそういう運用をしています(笑)。
企業の賃料だけではなく、例えば電力消費の軽減にもつながりますし、インフラ面でも人の移動に費やすエネルギーの緩和、紙資料などの出力も減り物理的なゴミも減少することでしょう」
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この日、取材に立ち会った「KANDO」スタッフ・又吉沙季氏は、東京の高橋氏とは別に沖縄からZoomへ接続。現地採用・在住とのことだが「ディスカッションがうまくできていれば何の問題も感じません」と語る
ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)の進歩により勤務地さえ問わない時代が目の前まで来ている。
「ワーケーション」といえば、リゾート地などで休暇を兼ねてバカンスを楽しみながら仕事をする「ワーク+バケーション」の意味だったが、これからは地元で仕事をする「ワーク+ロケーション」へと変質する可能性がありそうだ。
テレワーク成功のカギは“自己革新”
最後に改めてテレワークの問題点と解決策、そして今後を総括してもらった。
「新型コロナウイルス感染拡大の影響で、企業がソーシャルディスタンスを前提とした働き方へとシフトし、ネットベースで仕事は動いていくでしょう。経済的な観点や働き手の視点からも、テレワークの流れは不可逆なものになるでしょう。そこで問われるのが、時間空間的な距離を超えて非連続な答えを出せる能力です。ディスカッションを駆使して衆知から新たな知を創造する能力が求められる時代になりました。
これはある意味、人類の変革の時代。
これまでの考えにとらわれず、新しい考えにたどり着くことを楽しめるかどうか。そういった“自己革新”を思い切ってできる人、踏み出せる人がこれからの時代を担うでしょう」
仕事のやり方や進め方の見直し、組織や個人の発展につながる分岐点がまさに今、訪れているのかもしれない。
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