1. TOP
  2. 特集
  3. 「復興」から生まれるイノベーション
  4. 実物大×VRで廃炉技術開発をアシスト! 最先端実験施設が福島復興を加速させる
特集
「復興」から生まれるイノベーション

実物大×VRで廃炉技術開発をアシスト! 最先端実験施設が福島復興を加速させる

廃炉作業を達成する技術の確立を目指して

今回の特集ラストは、福島第一原子力発電所廃炉作業に必要不可欠なロボット遠隔操作技術の実証実験を行う楢葉遠隔技術開発センター(福島県双葉郡楢葉町)にフォーカス。どのような技術が試され、廃炉の現場に投入されていくのか。また、人材育成など廃炉技術の最先端を切り開いていくための取り組みとは? センター長を務める石原正博氏に話を聞いた。

廃炉作業に不可欠な遠隔技術を確立するために

東日本大震災から2年後の2013年3月、政府は遠隔技術の試験施設建設を決定した。これは放射線量が高い福島第一原子力発電所(以下、1F)の廃炉作業を進めるためには、遠隔技術が不可欠であることが大きい。

1Fから南に約20kmほど離れた楢葉町の工業団地内に施設の一部が完成したのは2015年10月。当時行われた開所式には安倍晋三前首相も出席するなど、「ここから復興を加速させるという政府の姿勢が垣間見えました」と石原正博センター長は振り返る。

翌2016年4月には全ての施設が完成。そこから試験施設としてのフル稼働が始まった。

「改めて設置目的をお伝えすると、“廃炉推進のための遠隔操作機器を開発、実証実験する場所”ということです。メーカーから大学などの研究機関まで、幅広く活用いただいています。一方、われわれ自身もロボット関係では試験方法の開発やコンピューター上で稼働させるシミュレーターの開発といった技術開発を行っています。ただし、それらの蓄積データなどは利用者に還元し、なるべく早く廃炉を進めるために活用されるべきと考えています」
※2017年当時の記事→「遠隔操作ロボットの巨大試験場を見学」

つまり楢葉遠隔技術開発センター(以下、NARREC)とは、廃炉技術を進化させるための「開発拠点」だ。実証実験を行うのはメーカーや研究機関であり、NARRECは彼らの精度を高めるために必要な世界最先端の技術を提供する立場である。

楢葉遠隔技術開発センターの石原正博センター長

NARRECを運営するのは国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構。国内唯一の原子力総合研究機関として、全国11カ所に研究拠点を持つ。

その一拠点である福島研究開発拠点には、NARRECのほかに廃炉環境国際共同研究センター(双葉郡富岡町)と大熊分析・研究センター(双葉郡大熊町)がある。

「事故のあった原子炉を解体するための基礎的な知見を高めるためには、国際協力や実験などを重ねながら各種データを蓄積する必要があります。廃炉環境国際共同研究センターは、燃料デブリや廃棄物処分についての基礎研究を行ったり、環境回復のために放射線モニタリングをしたりしています。大熊分析・研究センターは事故があった原子炉のフェンスのすぐ隣にあり、実際の廃棄物の分析を行う予定。こちらはまだ建設中です」

NARREC内の要素試験エリア全景。左からモーションキャプチャ、モックアップ階段、ロボット試験用水槽と並ぶ

そして設立当時、1Fに最も近づける場所に建設されたというNARRECには、幅60×奥行80×高さ40(各m)という広大なスペースを持つ試験棟がそびえる。

1Fの原子炉施設という巨大な構造物を想定したさまざまな試験を行うためだ。その中はロボット性能評価のための要素試験エリアと、廃炉作業を実証するための実規模試験エリアに分かれる。

「実規模試験エリアは、ロボットが現場で正常に動くかどうかを実証するエリアです。現場でトラブルが発生すると、それはそのまま解体作業の遅延につながります。そのような事態を防ぐためにここで十分に知見を得ることが重要です」

実物とバーチャルを組み合わせて実験する

がらんとした巨大な空間の中にある要素試験エリア。

そこにはロボット性能評価のための3つの試験設備がある。

水中ロボットの実証試験用の円筒型水槽。水質を変えることもでき、水深5mまでの試験に対応する

1つ目のロボット試験用水槽は直径4.5×水深5(各m)の円形型プール。壁面には観察用の窓が12カ所設置されている。

「水中ロボットの動きを目視できるほか、計測器を投入し、作業状況のデータを数値として可視化することもできます。水の浄水はもちろん、塩水、濁水などへの変更も可能です。事故のあった原子炉は海水で冷やしているため、塩水中でのロボットの動きを確認する必要もありますからね」

原子炉建屋内にある階段のさまざまな仕様を再現するモックアップ階段

2つ目がモックアップ階段。

事故直後、現場調査を行うためにロボットが原子炉建屋の中に入ったが、そのとき大きな障壁の一つとなったのが階段をはじめとした段差の昇降だった。そのためモックアップ階段は作業環境を精密に再現できるよう、傾斜角や手すりの幅、踏み板の種類、蹴り上げ高などまで変更できるよう工夫されているという。

幅15×奥行15×高さ7(各m)のトラスに、16台のカメラが設置されるモーションキャプチャ用設備

3つ目がモーションキャプチャ。

これはドローンやロボットなどの動作を定量的に計測する設備だ。幅15×奥行15×高さ7(各m)のスペースに16台のカメラが設置される。

「ロボットを撮影することで動きを数値化し、最適化するための検証を行う施設です。1秒間に動作2000回分という、非常に小さな単位まで動きを分析できます」

これら要素試験エリアの隣にあるのが、実規模試験エリア。ここでは主に国際廃炉研究開発機構(以下、IRID)が実証実験を行っている。

IRIDは電力会社やプラントメーカー、研究機関が主たるメンバー。廃炉に必要な実証実験について議論され、数々の候補から選ばれたものが実規模試験エリアで試されている。

現在は燃料デブリを調査するための試験が行われているとのことで、その実例を教えてくれた。

原子炉には格納容器という外側の容器と、圧力容器という内側の容器がある。燃料デブリは圧力容器を突き破り、格納容器内側にある圧力容器を支える円筒上のコンクリート部分に到達している。この格納容器内の燃料デブリを冷やすため水を注入しているが、どこかに穴が開いていると考えられ、今後、燃料デブリの取り出しを行うには、穴の場所を見つけ出して対策を講じ水位を確保しなければならない。

「その準備として格納容器の下部に当たる圧力抑制室を実寸大で造り、補修・止水技術の試験を実施しています。これはNARRECでは2016~19年まで続けられました」

IRIDが行う「原子炉格納容器漏えい箇所の補修技術の実規模試験」。画像に写るスタッフとの比較で、この設備の巨大さが分かる

一方、このように実際にロボットなどを動かして実証実験を行う試験棟に隣接する研究管理棟では、バーチャルリアリティ(VR)システムによるシミュレーションなどを行う。

正面、左、右、床面の4面スクリーンに各種3Dデータの投影が可能。ロボットシミュレーターと連携し、シミュレーションの様子をスクリーンに投影することもできる

「VRシステム構築にあたり、1F建屋にロボットを入れ、360度にわた(亘)ってレーザーを飛ばして周囲の構造物との距離を計測し、定点データを収集しています。1カ所10分程度かけて周囲をスキャンし、およそ1億点のデータを収集。それをさまざまな場所で繰り返して収集したデータを基に3Dモデルを作成。VR空間で1F建屋内の様子を再現するわけです」

このデータにより研究者は1F内を疑似体験することで、対応策を検討、検証することができるようになっている。

実物を使った実証実験とコンピューター上のバーチャルな試験を組み合わせ、多様な実験ができること。それがNARRECの最も大きな特徴といえる。

東日本大震災前の暮らしとにぎわいを呼び戻すために

遠隔技術研究開発の中核として、廃炉と復興に貢献するという使命を持って作られたNARREC。

ここを活用することは、1Fの廃炉作業を将来にわたって安全に、かつ効率的に進めることにつながる。

その意味では、人材育成への貢献も大きな役割だ。

「その取り組みとして行っているのが、高等専門学校生による『廃炉創造ロボコン』です。2020年度はコロナ禍のためにリモート開催となりましたが、それまでは当センターの実規模試験エリアを舞台に実施していました」

設立初年度から開催している「廃炉創造ロボコン」。全国の高専生が、日頃培ってきた技術を競う大会だ

ロボットによるデブリ模擬体の回収など競技内容は本格的で、例年、熱戦が繰り広げられている。2019年12月に行われた第4回大会ではマレーシア工科大学を含む、17校18チームが参加した。

「人材育成の成果の一つとして、『廃炉創造ロボコン』に参加した高専生が、その後、われわれの機構に就職したケースもあります。このような競技や施設の見学を通して、私たちの取り組みに興味を持ってもらえるとうれしいですね」

また、コロナ禍だった2020年は福島県内の高校生が多く施設を訪れることになった。修学旅行や課外活動などで県外へ出かけることが難しい状況の中、体験学習プログラムを実施。大勢の高校生がVRシステムやロボット操作などを体験したという。

福島県内の工業高等専門学生や高校生らが多数見学に訪れている(上下画像)

課題を解決するために開発される遠隔技術やVRシステムを体験している様子

NARRECの利用件数は、初年度(2016年)は38件だったが、2~4年目は各年いずれも64件を記録。

廃炉の実現に向けて、メーカーや研究者の実験が加速している。

「まだ廃炉の全体的な工程の中では調査が本格化した段階です。今後、燃料デブリの取り出しが本格化していくと思いますが、それにも相当な時間がかかると予想されます。そして、取り出した後は解体作業が始まっていくわけですが、そこでも遠隔技術は必須となるでしょう。その作業を効率的に行うための実験場として、ますます活用していただければと思っています」

廃炉を推し進める遠隔技術を支えるために生まれた楢葉遠隔技術開発センター。

ここで開発される技術は福島の復興に欠かせないものだ。

同時に福島の高等専門学校生や高校生をはじめとした若い世代が、自分ごととして多くの技術を体験していることに、未来への希望を感じずにはいられない。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. 特集
  3. 「復興」から生まれるイノベーション
  4. 実物大×VRで廃炉技術開発をアシスト! 最先端実験施設が福島復興を加速させる