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「復興」から生まれるイノベーション

街づくりの基盤、インフラ整備が完了! 「復興スマートコミュニティ構想」が浪江町にもたらしたもの

全町避難からの復興を進め、より暮らしやすい町にするために

福島県双葉郡浪江町では、2017年3月31日に一部地域で避難指示が解除されて以来、住民が安心・安全に暮らすためのさまざまな取り組みをスタート。その中の一つ、2018年から3カ年計画で取り組んできた「浪江町復興スマートコミュニティ構想」について、浪江町まちづくり整備課の木村正信副主査に話を聞いた。

自分たちで使うエネルギーは自分たちで管理する

浪江町の人口は東日本大震災前年の2010年は2万905人だった。

それに対して現在(2021年2月末時点)の浪江町民数は1万6650人。しかし今も町の⾯積の約8割が帰宅困難区域となっており、実際に町内で居住する⼈は1600⼈程度にとどまる。

「浪江町の被害は甚大で、震災後は全町避難をすることになりました。この経験から、町を再生するにあたり安定的な電力確保のためにも、地産地消のエネルギー活用を踏まえた街づくりをしなければならないと施策でも挙げています。その考え方が『浪江町復興スマートコミュニティ構想』に取り組む上でもベースとなっています」

そう語るのは、浪江町まちづくり整備課計画係副主査の木村正信氏だ。

浪江町まちづくり整備課計画係の木村氏

そもそもスマートコミュニティとは、家庭や会社、工場や交通システムなどをITネットワークでつなげ、地域でエネルギーを有効活用する社会システムのこと。再生可能エネルギーなどを導入し、自分たちで使うエネルギーを自分たちで作り出すシステムは、その代表例だ。

ただし、状況によってはこれらのエネルギーを適切に使うことができない場合がある。それを防ぐためにCEMS(コミュニティ・エナジー・マネジメント・システム)、つまり地域全体のエネルギーを管理するシステムによってエネルギーを管理し、最大限の有効活用を目指していく。

実現すれば環境負荷低減はもちろん、地域内での資金循環が生まれることで雇用創出などにもつながり、ひいては地方創生への貢献も期待されるのだ。

浪江町が「復興スマートコミュニティ構想」に取り掛かったのが2018年。当時の浪江町は避難指示が解除されて1年ほどが経過したものの、依然として課題が山積していた。

特に課題だったのは次の5つだ。
1.高齢者が多い
2.買い物環境が整っていない
3.公共交通がない(デマンドタクシーのみ)
4.医療環境が整っていない(町営診療所、個人歯科医院…各1)
5.イチから始める「まちづくり」

「こういった課題を踏まえて『復興スマートコミュニティ構想』で取り組むべきものとしたのが大きく3つあります。1つ目は『防災に生かせる施策であること』。2つ目に『地産地消のエネルギー確保につながること』。3つ目が『震災前にはなかった産業を誘致し、新たな雇用を生み出すこと』でした」

浪江町ではこれらの課題を踏まえて「復興スマートコミュニティ構想」を打ち出し、2020年12月までの間に、3つの事業を展開することにした。

それが「公共施設安全・安心エネルギーマネジメント事業」「地産地消型災害公営住宅事業」「交流・情報発信拠点エネルギーマネジメント事業」だ。

エネルギーを有効に活用するための準備期間

「『浪江町復興スマートコミュニティ構想』は、マスタープラン上で計画工程が設定され、それに基づきながら関係する各種事業と連携し、進めていきました。最初に考えたのは3つの事業に必要な設備の導入や工事を進め、事業基盤を整理することでした」と木村氏は言う。

まず、公共施設安全・安心エネルギーマネジメント事業が目指したのは、防災に生かす施設の整備だ。

「町として、非常時に再生可能エネルギーを利用したエネルギーを確保できる公共施設を整備したいと考えました。具体的には町役場はもちろん、道の駅や地域スポーツセンターといった公共施設に計13台のEV(電気自動車)を導入。各施設に受給電気設備を設置することで、普段は公用車として運用しながら、非常時には避難所となる公共施設に電気を送り込むことができるEVを整備することで、安全・安心の構築を狙ったのです」

次に地産地消型災害公営住宅事業は、災害公営住宅の整備と合わせて実施された。

その結果、幾世橋(きよはし)と請戸(うけど)の両地区内に、それぞれ異なるエネルギー設備が備わった。

幾世橋地区に建設された災害公営住宅。屋根に太陽光パネルが備わる

幾世橋地区の災害公営住宅室内では設置されたHEMSによって発電量、使用量が把握できる

「85戸を整備した幾世橋地区の全戸に太陽光発電設備と蓄電器の他、HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)を導入し、電気の『見える化』を行いました。帰還した住民の皆さまに安心・安全に暮らしていただくとともに、節電などエネルギー利用に対する意識を高めていただきたいと思っています。

一方、請戸地区の26戸には家庭用燃料電池エネファームを導入。停電時の電力確保手段としての利用はもちろん、⼊居いただく町⺠の方々には、上手く活用してお得に暮らしていただければと思っています」

最後の交流・情報発信拠点エネルギーマネジメント事業は、新たな産業を生み出す元手として再生エネルギーを利用した“にぎわい”を作っていこうというものだ。

「福島第一原子力発電所の事故による被害を受けた中で、避難された方が町に戻ることを促進するための施策が必要です。そのためには新たな雇用を生み出さなければなりません。そこで町として打ち出した施策の一つがEVを活用した生活利便性を向上させること。そうした取り組みをする中で蓄電池関連産業などを呼び込み、新たな雇用を生み出すことにつなげていくことです」

具体策としては、道の駅にEV5台を配備。同所には再生可能エネルギー関連設備も集約して導入した。

「太陽光発電設備はもちろん、水素発電設備や風力発電、太陽熱で温水を作る設備などを設置した他、CEMS、BEMS(ビル・エネルギー・マネジメント・システム)を設置。再生可能エネルギーが町内でどのくらい作られ、どのように使われているかの『見える化』を図っています。それによってすでに帰還された皆さんの節電意識を醸成するとともに、このような取り組み自体をいまだ避難されている町民の皆さんや関連産業の方々にアピールしていきたいのです」

「道の駅なみえ」の屋根にも大量の太陽光パネルが備わる

同敷地内に設置された小型風力発電設備

同敷地内において表示されるデジタルサイネージ。太陽光、水素燃料電池、太陽熱集熱器、風力による発電量と施設の消費電力を表示することで、訪れた住民の節電意識を醸成していく

木村氏は「最初の3年間ですべきは事業基盤を整理すること」と言ったが、それは裏返せば、さらにその先を見据えているということだ。

「この3年間で、浪江町復興スマートコミュニティ構想を事業としてさらに発展させるための基盤はできたと思っています」

東日本大震災前の暮らしとにぎわいを呼び戻すために

2018~20年までの3年間が基盤作りとなったわけだが、道の駅へのEV配備などインフラ整備以外にも、その間に住民とともに行った取り組みもある。

その一つがコミュニティカーシェアだ。

実際に住民の帰還が始まり、町に深い愛着を持つ高齢者が多く戻ってきた半面、浪江町には前述のとおり「買い物環境が整っていない」「公共交通機関がない」「医療環境が整っていない」など、一筋縄では解決できない課題も多い。

「そのような実情を解決するアイデアの一つとして、災害公営住宅に暮らす皆さんにEVを乗合で使っていただこうとプランニングしました」

コミュニティカーシェアは、特に移動手段のない女性から歓迎された。また、利用者が集まって出かけることで交流が生まれるなど、帰還者が触れ合うきっかけにもなっているという。

コミュニティカーシェアに利用しているEV「日産リーフ」

幾世橋地区に用意された、コミュニティカーシェアを活用するための集会所

一方、基盤を整える中で浮き彫りになった課題もある。

例えば、エネルギーの可視化はそれをピークカットに生かさなければ有効活用はできない。

「各施設のエネルギー利用のピークがどこにあるかを観測し、各施設の節電に生かしていくことは当然やるべきです。今後は使用状況を見ながら検討を進めていきたいですね」

そして何よりも木村氏が今後の課題として挙げたのが、新しい産業の創出とそれによる雇用の拡大だ。

働く場所ができてこそ、より多くの町民の帰還につながることだろう。

「スマートコミュニティ構想によって暮らしの基盤はできましたが、新産業の創出はまだまだ道半ばです。とはいえ、実際に浪江町の産業団地に進出いただいた企業も増えつつあります。例えば、フォーアールエナジー株式会社はEV向けバッテリーの再利用に取り組まれている会社で、当町のエネルギー関係の取り組みに共感して進出いただけました。

スマートコミュニティ構想で今回できたことを基盤とし、他の再生可能エネルギー関連事業と連携しながら取り組みを継続する中で、新産業と雇用を創出していく。これは、今後やっていかなければならない課題だと認識しています」

労働、教育、医療といった場所を創出し、ここに住む人たちが安心・安全を感じるためにできること。

そのための基盤となる「浪江町復興スマートコミュニティ構想」を足掛かりに、浪江町の取り組みは続いていく。

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