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CO2を海中に取り込むブルーカーボンの可能性

“海の森”でCO2を取り込め! 温暖化対策と多様性を両立させるブルーカーボンの可能性

北海道・釧路港で藻場再生プロジェクトの実証実験がスタート

大気中の二酸化炭素(CO2)が海中に取り込まれるメカニズムは、海に生息する海草や海藻によって構成される「藻場」の働きによるものだ。しかし今、その重要な役割を果たす日本各地の藻場が危機的状況を迎えているという。今回は、ブルーカーボン事業として藻場の再生に取り組む「株式会社ジャパンブルーカーボンプロジェクト」の吉川(きっかわ)京二代表取締役社長に、藻場の現状や再生に向けた実証実験の詳細を伺った。

CO2の吸収源としての海の実力

海で暮らす生き物は多種多様である。

種子植物と呼ばれ、根・茎・葉の部分の区別ができるアマモなどの海草類の他に、胞子によって繁殖し、根・茎・葉の区別ができないコンブやアカモクといった海藻類のようにCO2を積極的に吸収するものも生存する。

海草は、光合成をすることでCO2を吸収しながら成長し、内部に炭素を蓄える。同時に、海草の藻場の海底には有機物が堆積していき、巨大な「炭素貯留庫」が形成されていく。

一方の海藻も、光合成を通してCO2を吸収するが、特にホンダワラ類の働きは特殊だ。ちぎれて沖合まで漂流した後、内部に炭素を蓄えたまま深海に沈むという性質を持っている。

こうした海洋生物の働きの下、海に吸収されるCO2は「ブルーカーボン」と呼ばれており、世界中で注目を集めている。

ブルーカーボンが注目を集める理由は、地球温暖化の緩和に貢献する性質にある。株式会社ジャパンブルーカーボンプロジェクトの代表を務める吉川京二氏は詳細を次のように語る。

※ブルーカーボンに関連する記事:EMIRAビジコン最優秀賞! ブルーカーボンで多角的に広げる「養殖藻場」ビジネスとは?

地方活性化やマーケティング、経営戦略構築などのコンサルティングを行ってきた、株式会社ジャパンブルーカーボンプロジェクトの吉川京二代表取締役社長

「CO2には水に溶けやすい性質もあり、1年間でおよそ25億トンものCO2が海洋全体に溶け込みます。なお、森林で吸収されるCO2は、年間19億トン。陸で吸収されるCO2よりも、海で吸収されるCO2の方が多いことが分かっています。長らく、温室効果ガスを主な起因とする地球温暖化が問題視されていますが、これを緩和するための有力な方法の一つがCO2の削減です。海が吸収するCO2である『ブルーカーボン』は、地球温暖化を緩和する上で重要な存在とされています」

海草や海藻類が茂る海では豊かな生態系が形成されている。また、ブルーカーボンの量も多い

(C)COKIA / PIXTA(ピクスタ)

吉川氏によれば、ブルーカーボンが有力視される理由は、現在のエネルギーの供給構成も一因だという。

「世界における主要な発電方法は火力発電で、石油や石炭をはじめとする化石燃料に依存する形でエネルギー供給が行われています。また、化石燃料由来の火力発電を通して、毎年莫大なCO2が大気中に排出されています。CO2削減を目指すのであれば、火力発電を止め、代わりに太陽光発電や風力発電に力を注げばいいわけですが、資金面、技術面を考慮すると今すぐこれらの再生可能エネルギーへの転換は困難です。しかし、地球上のCO2削減が喫緊の課題であることに変わりはなく、だからこそ海で吸収されるCO2への期待が世界中で集まったのです」

その中でも海に囲まれた島国であり、2050年までのカーボンニュートラルを目標としている日本では、ブルーカーボンへの注目度が一層高い。

磯焼けをもたらすウニの深刻な影響

一方で、「海ではブルーカーボンの推進を阻む現象が起きているのです」と吉川氏が警鐘を鳴らす。

それが、海草や海藻類が茂る藻場が失われ、代わりに石灰藻類が繁茂する“磯焼け”と呼ばれる現象だ。磯焼けにまつわる現状は深刻で、九州地方や四国地方を中心とする日本各地の海で、広範囲にわたり発生しているという。

磯焼けが起きる原因は複数あり、「沿岸域における海水温の上昇」「海岸の環境汚染」「魚やウニによる海草・海藻類の食害」などが挙げられる。

吉川氏が率いる株式会社ジャパンブルーカーボンプロジェクトでは、主要な原因の一つである「魚やウニによる海草・海藻類の食害」に着目。食害の解消と藻場の再生に取り組む中、藻場の再生とブルーカーボンの増大を図る事業の展開を見据え、今年3月より北海道・釧路港で、ある実証実験をスタートさせた。

ウニが繁殖すると、深刻な「磯焼け」が起きる

「ウニは食欲旺盛な生き物で、どんどん個体数を増やしながら海草や海藻を食べ尽くします。ウニの駆除は藻場を守ることに直結するため、道東地区では特殊なバキュームを用いてウニの駆除を行っています。同時に、雑海藻駆除工法の特許を持つ企業の協力を得て、チェーンが付いた『SKフープ工法』という機械を使って海底や岩盤の清掃を行っています」

吉川氏は、ウニと雑海藻の両方を駆除することで、海草・海藻類の中でもトップクラスのCO2吸収量を誇るコンブが育ちやすい環境が整うと見込んでいる。

そのため、実証実験ではウニや雑海藻を除去したエリアとそうでないエリアでのコンブの生育度を観察。加えて、コンブにもさまざまな種類があるため、どのコンブが育つか、コンブを密集させながら育てたエリアではCO2の吸収量がどれほど増加するかも検証する予定だ。

また、海草の一種であるスガモも植え付けており、スガモがどれほどブルーカーボンの増大に貢献するかを調べているという。

海草・海藻類が秘めるさらなる効果

株式会社ジャパンブルーカーボンプロジェクトが掲げる現在の目標は、実証実験を通してコンブの生育に適した環境やコンブが十分に生育するまでの期間、コンブが吸収するCO2の量を明確にすること。

「検証結果の分析後は藻場の再生事業を各地で展開していき、最終的には“海の森”を日本中の海に、さらには世界の海にまで広げるのが夢」と語る。

さらに、藻場の再生事業と並行して、藻場が吸収するCO2枠をクレジットとして販売する事業も構想している。藻場の再生が各地の海で行われるようになれば、ブルーカーボンの量も伸張し、地球温暖化の緩和につながることが期待される。しかも藻場の再生に取り組むことで得られるメリットは、この限りではないという。

「海で駆除されたウニや再生された藻場で採れたコンブは、育て直しや一定の加工が必要になりますが、食用として販売することができます。また、海底や岩盤を清掃すると大量に集まるスジメやアイヌワカメ、ウガノモクなどの雑海藻も、有用な資源になり得るという見方があります」

釧路港で行われている実証実験の様子。画像は、清掃が行われた後の海底の状況

清掃完了後、まずはコンブが芽吹き、成長していくケースが多いそうだ

例えば、北海道の標茶町にある牧草地では、乾燥させて細かく砕いた雑海藻を牧草の肥料として活用する試みが行われた。その結果、牧草地の土壌の酸性化が緩和され、牧草が育ちやすい環境が整ったという。

また、粉砕した雑海藻を牛のエサに混ぜたところ、牛がゲップをする頻度が下がったという報告も。牛のゲップには、地球温暖化の一因であるメタンガスが含まれており、今後、雑海藻を資源として活用する体制が整えば、雑海藻を処分する際に発生するCO2と合わせ、CO2排出量を大幅に抑えられる可能性があるのだ。

2025年5月まで実施予定の釧路港における実証実験は、資源を無駄なく循環させるアイデアを副産物として生み出しながら進んでいる。

この実験によって得られたエビデンスは、CO2の少ない世界を実現する足掛かりになるとともに、さらなる副産物を生み出すに違いない。

「海と陸はつながっています。陸の環境を整えると、陸から海へと流れ込む水の栄養分が豊富になり、海で暮らすプランクトンの数が増えたり海草・海藻類が元気になったりします。すると、おのずとブルーカーボンの量も増えていくはずです。一方、古くなった海草・海藻類を肥料として陸に還元すると、再び土壌が豊かになります。海と陸、両方の豊かさを守ることで、やがてCO2の少ない世界が実現されるでしょう」

76歳で起業し、ブルーカーボンの認知拡大と藻場再生を目指す吉川氏。

その瞳は、日本国内全域のみならず、将来的なグローバル展開も視界に捉えている。

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