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2020.08.17
シェアオフィス業界が考える“郊外型”テレワークのこれから
コロナ禍を経て、働き方はよりハイブリッドになる?
4月の緊急事態宣言を機に全国的にテレワーク導入が加速して約4カ月。在宅勤務が推奨され、それを定着させた企業やワーカーもいれば、オフィスへの出勤体制に戻りつつある企業など方針はさまざま。そんな中、その“中間”に位置する第三の選択肢、「シェアオフィス」が提案する新たな働き方とは。今回は7月に業界初となる本格的な提携を行ったシェアオフィス「H1T(エイチワンティー)」と「SoloTime(ソロタイム)」それぞれの責任者に、提携の意義とコロナ禍を経て“シェアオフィスでのテレワークのこれから”について伺った。
利用者目線のシェアオフィス“相互乗り入れ”
都心を中心に23拠点を展開するサテライトオフィス「H1T」と、都心部の中でも郊外に特化し12拠点を展開するシェアオフィスサービス「SoloTime」──。法人契約会員向けである双方は7月上旬より、各々の会員が合計35拠点を相互利用することを可能とした。
この提携についてH1Tの運営元、野村不動産株式会社 都市開発事業本部の藤澤菜穂子氏が説明する。
「昨年末、SoloTimeのご担当者さまとお会いして、強いシンパシーを感じ『双方の拠点開発力と法人営業力をそのまま生かした提携を』とその場で提案させていただきました。今回の提携で、各々の会員が予約システム、(各拠点の)開錠システムなど、これまで通りのUI(境界面・接点)・UX(体験・経験)で双方の施設が利用できるようになりました。鉄道会社の『相互乗り入れ』のような感覚で、シェアオフィス業界にとって新たな提携の形になったのではないかと考えています」
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SoloTimeにはスタッフが常駐せず、入室は独自のシステムによる開錠が必要。提携によりH1Tの会員も予約の上、同様に開錠して利用可能となった
藤澤氏と提携を進めたSoloTimeの運営元、東京電力ホールディングス株式会社 ビジネスソリューション・カンパニー ソリューション推進室事業推進グループの佐藤和之氏と藪内香代子氏も背景を語る。
「私たちは通勤時間を減らし、郊外で働ける場を提供することを前提に“山手線より内側の街には出店しない”方針でした。近い将来、シェアオフィス飽和状態になるという予測もあり、都心に拠点を求められる方々には、他のシェアオフィスと組むことで応えたいと考えておりました」(佐藤氏)
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「提携について、利用者からは『(拠点の)選択肢が広がった』『そのままのシステムでH1Tも利用できるので便利』など反響をいただいています」とSoloTimeの佐藤氏。H1Tについては「都心に多く出店されていて、広い会議室が充実しているのも魅力ですね」と話す
「H1Tの会員の方々が私たちの拠点を利用してくださるケースも日に日に増えています。契約企業の中には、提携後に初めてシェアオフィスを利用された方もいらっしゃるようで、提携がある意味起爆剤になった気がします」(藪内氏)
H1Tの藤澤氏も「H1Tの弱い部分であった千葉や多摩エリアをカバーできたことで『社員の利用意向が高まった』と契約企業から多数お声をいただきました」とのことで、提携は既に双方の企業、利用者へいい結果をもたらしているようだ。
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周囲への程よい目隠しを兼ねた緑ある環境と、落ち着いた雰囲気の照明、そして駅から徒歩3分以内という利便性にこだわったSoloTime。取材時に訪れた津田沼店(上下画像)は「実はH1Tのレイアウトを参考に、オープンエリアと個室を完全に分けてゾーニングしました。空間を程よく使い分けてリラックスして働ける環境になったと思います」(藪内氏)とのこと
コロナ禍を経て、ハイブリッドな働き方へ
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が発令され、在宅でのテレワークの波が押し寄せた4月。シェアオフィスはどのような状況に置かれていたのだろうか?
「SoloTimeは4月11日より休業していたのですが、宣言直前まで利用者数は増加していたのです。都心まで出ることなく(感染リスクを抑えて)働くことができたことや、自宅にテレワーク環境が整っていないという方が多かったことが要因ではないかと推測しています」(佐藤氏)
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働き方の多様化と効率化に応えるサテライト型シェアオフィスとして展開するH1T(上下画像は二子玉川)。将来的には300拠点規模の展開を目指す。「近日出店予定の蒲田の物件から、SoloTimeさんのセミクローズ席のロールカーテンをまねさせていただきました。女性的でこまやかな気配りが大いに参考になります」(藤澤氏)
「H1Tも政府指針に従って休業し、再開へ向けてさまざまな対策を検討、準備していました。合わせて、コロナ以前はモバイル型PCの非導入、ルールの未整備を理由にシェアオフィスを利用できなかった企業が、テレワークの半ば強制的な導入をきっかけに、テレワークの合理性を再考されるだろうとも予想していました。実際、社会状況は『在宅と通勤を組み合わせた感染拡大防止』のフェーズに入りつつあると認識しており、感染リスクを抑制しながら経済活動を高める機能として、サテライト型シェアオフィスの社会的な役割が高まったと考えています。
現状、テレワークの増加でオンライン会議に用いる個室のニーズが加速度的に高まり、コスト増となっても個室空間を積極的に作るべく設計を進めています」(藤澤氏)
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「H1Tでは、カフェとの違いを明確にするためオープンスペースにもオフィスチェアを配置しています。長時間作業における体の負担を抑えるためですが、利用者から『商品名を教えてほしい』などの問い合わせも増えており、企業が自宅やサテライトオフィスでのより有効な働き方を模索していることがうかがえます」(藤澤氏)
H1Tの藤澤氏が語るシェアオフィスの社会的役割を、SoloTimeでは“ハイブリッドな働き方”と形容し、法人営業の際にプレゼンしているという。
「都心のオフィスと自宅、それに郊外型のサテライトオフィス。この3つの拠点をそのときどき、その人によって使い分けて働いていくというご提案です。サテライトオフィスは、都心のオフィスへ出向く必要のないときに、本当に一人で集中して仕事と向き合う場合などに、3つの拠点の中で最大のポテンシャルを発揮すると考えています」(藪内氏)
7月中旬の時点でSoloTimeの利用状況は少しずつコロナ以前の水準に戻りつつあるという。
ただ「まだ完全在宅のテレワークで様子見をされている契約企業もあります」(佐藤氏)とのことで、ハイブリッドな働き方の定着はこれからが正念場となりそうだ。
更なるテレワークの進化を…シェアオフィスの挑戦
提携で利便性を向上させハイブリッドな働き方を提案するなど、テレワークの未来を見据えるシェアオフィスの取り組みはこれにとどまらない。SoloTimeにおいては、8月よりある実験を行う。
「電力会社ならではの取り組みということで、例えば、個室で作業する際に適切な温度であるとか、オープンスペースで利用者が好んで座る席、オフィス内における利用者の動線などを分析し、テレワークに心地よい環境を調査・研究する実験を行う予定です。まずは東戸塚店で室内や座席にセンサー類を設置するべく準備を進めています」(佐藤氏)
「また、東京電力グループで送電・配電事業を担う東京電力パワーグリッド株式会社も、所有する不動産の活用や、関東外辺地域をはじめとしたシェアオフィスサービスのエリア拡充を検討しており、シェアオフィス事業には東京電力グループ全体で取り組む機運が出てきました」(藪内氏)
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「コロナ禍で『会社が法人契約していないけど、自宅近くのSoloTimeを個人的に使えないか?』という要望もいただきました。そういった方々に利用いただける仕組みも、テレワークを広める上で必要な課題だと思っています」(藪内氏)
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SoloTimeでは営業再開時、全拠点でデルフィーノ抗菌コーティングを施した。「MERS、SARSなどへの抗菌効果は検証済みで、医療機関や空港などでも対処しています。貸出備品にもすべて施し、1カ月ごとにコーティングの摩耗を確認、補塡(ほてん)する予定です」(佐藤氏)
藤澤氏も「H1TでもセンサーとAIを組み合わせた空調システムや、電気系統の自動化などについて社内外と連携して勉強会を立ち上げました。シェアオフィスのエネルギー効率化に関する取り組みでも、今後SoloTimeさんと協力し合うことは願うところです」と話す。
こうした更なる利用者視点の追求は、在宅でのテレワークではなかなか難しい課題であり、シェアオフィスならではのチャレンジと言えるだろう。
「今後、利用者の満足度の高い、私たちのサービスの名前の由来でもある“ヒューマンファーストな時間”を感じていただけるよう、よりテレワーク向けの拠点開発、サービスの拡充を行いたいと考えています」(藤澤氏)
「私たち(東京電力ホールディングス)の『暮らしに寄り添う』イメージから、『人の暮らしを豊かにしたい』と考えられている野村不動産さんに今回お声がけいただけたのかなと思っています。これから育まれる相乗効果をより一層広げていきたいですね」(藪内氏)
その上で、佐藤氏が興味深いシェアオフィスの展望を明かす。
「こういった郊外型のシェアオフィスがハブとなって、地域のいろいろな業種とコラボレーションができるのではと考えています。最終的にはそこで働く方、住む方たちの街づくりのお手伝いができたら…というのが願いですね」
コロナ渦における新たな仕事の拠点から、街の活性化の拠点へ──。
シェアオフィスはテレワーク時代のさらにその先を見据えている。
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